最大限かつ最大級 作:萩の月
翌朝の告別式も定刻に開始され、滞りなく行われたようだ。
喪主はまず妻だろうが、おそらく自分の両親と義母とが、色々代わって執り行ってくれたのだろう。正直務められるとは思えない。
洋二は前日と同じように、上空から式場を眺めていた。霊柩車が横付けされ、参列者用に小型のバスも縦列に停車している。
自分の「空っぽ」の身体を入れた桐の棺が霊柩車に載せられ、先に火葬場へ向かう。続いて、参列者らが小型のバスに乗り込む。
ふとその先頭に、喪主たる妻の姿を見てしまった洋二は、あまりの彼女の変貌に、全身が冷たく総毛立った。
たった二日で、遠目にも頬はげっそりとこけている。顔色も土気色なのが、わかる。
身重なうえに足取りがあまりに覚束ないからか、遺影を抱える実父と、妻の母にそれぞれ肩を支えられながら、胸元に位牌を抱えている。
――なんてことだ・・・・!
自分よりよほど、死人のような顔の妻。
顎がガクガクする。手足の先が氷のようだ。耳鳴りとめまいが酷い。
「しっかり!!」
いつの間にか、ぼたんが目の前で両肩を支えてくれていた。ゆっくりとその姿勢のまま、丘の上に降下すると、洋二はその場に崩れ落ちた。
「・・・僕は、最低最悪の、夫だ。
一番大切な人を、あんな・・・」
言葉が続かなかった。涙が止まらない。ぼたんは何も言わず、隣に座る。
火葬場に向かう気力など、とても洋二にあるはずもなく、そのまま二人は彼女らの戻りを待つことになった。
しばし経ち、ショック状態から落ち着きを取り戻したものの、あまりの罪悪感と哀しみに、彼は完全に打ちひしがれていた。
「大事な人に、死なれるって、本当に恐ろしいことなんだな・・・」
ぽつりと漏らす。
「こんな可哀そうな目に合わせてしまって・・・僕なんかが、伴侶だった、ばっかりに」
自分でも、本末転倒なことを口にしているのは分かっている。それでも、溢れて止まらない感情を、吐き出さずにいられなかった。
「ぼたんさん。君は、僕にそれを、きちんと自覚させるために、こうして僕を、ここに留め置いていたんだね」
「いいえ」
間髪入れずに否定した、ぼたんの声色に胸を突かれ、洋二は我に返った。
初めて聞く真剣な声のまま、ぼたんは続ける。
「あたしは、洋二さんに、最期のお仕事をしていただきたいんです」
「・・・どういうこと?」
ぼたんが答える前に、先ほど皆が乗った小型バスが戻ってきた。
しかし、誰も降車せずただ停まっている。
――おかしい。
次の瞬間目に飛び込んできたのは、バスの運転手と思しき男性と実父が、共に妻の両肩と両足を抱えて横の状態で抱え、式場内に入っていく様子だった。
「・・・倒れたのか!? ぼたんさん頼む!」
矢も楯もたまらず、洋二は妻のもとへ向かっていった。
式場入口の長椅子に寝かされた妻は、横向きで大きな腹を抑える格好で身をかがめ、冷や汗をかき、肩で荒く息をしている。
――救急車、もう来るそうですよ!! と入口外側から誰かが声をかけてくれている。
「――始まってたんですか、ねぇ」
隣のぼたんが、静かに言った。
「えっ・・・え?」
「あ、陣痛ですよ。
もしかしたら、昨日の夜あたりからかも。
あまりのショックで、初期の痛みに気づかないうちに進んじまってたんじゃあ、ないですかね」
更に洋二は、顔が冷たくなる。
「そんな・・・!! こんなとこで!!」
「大丈夫、落ち着いて! ホラ、救急車きましたから!」
救急隊員らは、息の合った動作で妻をストレッチャーに乗せ、運んでいく。慌てた様子の義母が同乗すると、救急車はあっという間にサイレンを鳴らしながら去っていった。
「追ってくれ!!」
「もっちろん!」