最大限かつ最大級   作:萩の月

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急変


第四章

 翌朝の告別式も定刻に開始され、滞りなく行われたようだ。

 喪主はまず妻だろうが、おそらく自分の両親と義母とが、色々代わって執り行ってくれたのだろう。正直務められるとは思えない。

 

 洋二は前日と同じように、上空から式場を眺めていた。霊柩車が横付けされ、参列者用に小型のバスも縦列に停車している。

自分の「空っぽ」の身体を入れた桐の棺が霊柩車に載せられ、先に火葬場へ向かう。続いて、参列者らが小型のバスに乗り込む。

 

 ふとその先頭に、喪主たる妻の姿を見てしまった洋二は、あまりの彼女の変貌に、全身が冷たく総毛立った。

 

 たった二日で、遠目にも頬はげっそりとこけている。顔色も土気色なのが、わかる。

 身重なうえに足取りがあまりに覚束ないからか、遺影を抱える実父と、妻の母にそれぞれ肩を支えられながら、胸元に位牌を抱えている。

 

 

――なんてことだ・・・・!

 

 

 自分よりよほど、死人のような顔の妻。

 

 顎がガクガクする。手足の先が氷のようだ。耳鳴りとめまいが酷い。

 

「しっかり!!」

 いつの間にか、ぼたんが目の前で両肩を支えてくれていた。ゆっくりとその姿勢のまま、丘の上に降下すると、洋二はその場に崩れ落ちた。

 

「・・・僕は、最低最悪の、夫だ。

 一番大切な人を、あんな・・・」

言葉が続かなかった。涙が止まらない。ぼたんは何も言わず、隣に座る。

 

 

 火葬場に向かう気力など、とても洋二にあるはずもなく、そのまま二人は彼女らの戻りを待つことになった。

 しばし経ち、ショック状態から落ち着きを取り戻したものの、あまりの罪悪感と哀しみに、彼は完全に打ちひしがれていた。

 

「大事な人に、死なれるって、本当に恐ろしいことなんだな・・・」

ぽつりと漏らす。

「こんな可哀そうな目に合わせてしまって・・・僕なんかが、伴侶だった、ばっかりに」

 

 自分でも、本末転倒なことを口にしているのは分かっている。それでも、溢れて止まらない感情を、吐き出さずにいられなかった。

 

「ぼたんさん。君は、僕にそれを、きちんと自覚させるために、こうして僕を、ここに留め置いていたんだね」

「いいえ」

間髪入れずに否定した、ぼたんの声色に胸を突かれ、洋二は我に返った。

 

 初めて聞く真剣な声のまま、ぼたんは続ける。

「あたしは、洋二さんに、最期のお仕事をしていただきたいんです」

「・・・どういうこと?」

 

 ぼたんが答える前に、先ほど皆が乗った小型バスが戻ってきた。

 

しかし、誰も降車せずただ停まっている。

――おかしい。

 

 次の瞬間目に飛び込んできたのは、バスの運転手と思しき男性と実父が、共に妻の両肩と両足を抱えて横の状態で抱え、式場内に入っていく様子だった。

 

「・・・倒れたのか!? ぼたんさん頼む!」

矢も楯もたまらず、洋二は妻のもとへ向かっていった。

 

 

 式場入口の長椅子に寝かされた妻は、横向きで大きな腹を抑える格好で身をかがめ、冷や汗をかき、肩で荒く息をしている。

――救急車、もう来るそうですよ!! と入口外側から誰かが声をかけてくれている。

 

「――始まってたんですか、ねぇ」

隣のぼたんが、静かに言った。

「えっ・・・え?」

「あ、陣痛ですよ。

もしかしたら、昨日の夜あたりからかも。

あまりのショックで、初期の痛みに気づかないうちに進んじまってたんじゃあ、ないですかね」

更に洋二は、顔が冷たくなる。

「そんな・・・!! こんなとこで!!」

「大丈夫、落ち着いて! ホラ、救急車きましたから!」

 

 救急隊員らは、息の合った動作で妻をストレッチャーに乗せ、運んでいく。慌てた様子の義母が同乗すると、救急車はあっという間にサイレンを鳴らしながら去っていった。

「追ってくれ!!」

「もっちろん!」

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