「ただいまー、っと」
普段なら
廊下を抜けてリビングへ。吹き抜けに取りつけられたシーリングファンの音だけが微かに響いている。
この広さにはいまだに慣れない。一人で住む場所じゃないよ、こんなの。
出資が集まって研究費用には困らなくなってきたとはいえ研究用は研究用。
所長なんて偉そうな肩書でも元を正せば私一人で立ち上げた零細研究所である。
それなりのお給料が出ているとはいえ、3LDKのタワーマンションなんて正直分不相応という感じだ。
引っ越せばいいんだけどね。
本当はそうするべきだとわかっている。
お金のことはさておいても、研究所に近い所に住めばもっと時間が使える。
ゴールに辿り着くのだって少しでも早くなるかもしれない。
けれど。
――いや、こんなの何年も前に自分の中で結論を出したことだ。
変える気もない結論について今更悩むふりをする方が時間の無駄というものだろう。
テレビの横に鎮座する狸の置物を撫でながら思う。
ま、こういうの置けるくらい広い部屋もなかなかないしね。
我が家にはやたらと場所を食う癖に捨てられもしないガラクタが多いのだ。
おっと、感傷に浸っている場合じゃないな。そろそろヤチヨのライブが始まってしまう。
先に夕飯を食べる時間はない、かな。
取り急ぎスマートコンタクトをつけてソファに沈み込み、瞼を閉じる。一人きりのリビングが消える。
暗転。
最初に光が見える。
スマートコンタクトの放つ光が、瞼の裏で網膜を照らす。
私は水の中にいる。光の方に向かって沈んでいくかのごとき錯覚。
トンネルめいた水の道を進む中いつのまにか上下は反転し、光に向かって飛んでいくような浮遊感が付いてくる。
そうして飛び出した水面の向こう、月夜見の文字が鳥居に掲げられているのを見る。
ログインしてすぐ、ヤチヨに貰っているライブチケットをストレージから取り出した。
今日のライブエリアは沿岸部だ。ここからならワープポータルも使えばすぐかな。
ライブチケットには握手権付きの記載。このチケットはヤチヨ本人から貰っているのもあり毎回握手券がついているのだけど、握手権付チケットの倍率はかなり高かったりする。
ヤチヨは分身体を作ることが出来るけれどそれも無制限ではないし、時間の都合もあって枚数は限られている。
チケット自体は誰に割り振ったかヤチヨ、ひいてはツクヨミというシステム自体がきっちり管理しているため譲渡も転売も勿論できない。そんなわけでとにかく運が全てのSSRレアアイテムとされている。
……が、実のところ私はこの握手券、ヤチヨと知り合う以前から何回も当たっていた。さすがに毎回というわけではなかったけれど、握手をしたのも二度や三度ではない。
ヤチヨのライブには殆ど必ず参加していたのでそのあたりを加味して当選率が上がってるのかな? なんて当時は思っていたけど、今にして思えばそれにしても、という気はする。
なんとなく気恥ずかしくてそのあたりは聞けてないけど。
チケット上に表示されたカウントダウンが一瞬赤く明滅する。余計なことを考えていたら残り10分を切っていたらしい。
「やば、急がないと」
おもわず声に出して走りだそうとした時、ふとメッセージが届いた。
かぐやに頼み込まれて配信に出た後「配信はもうこりごりだよ」なんて思っていたけれど結局、インフルエンサーとして活躍する芦花や真実、そしてトップライバーであるヤチヨとも絡んで「いろP」として時折配信に参加している。
ブラックオニキス……というか兄とのコラボは断固拒否しているが。
そのせいかツクヨミ上で知らない人からメッセージが送られてくることも増えてしまった。
これは困るということで、今はごく僅かな友人からのメッセージしか受け付けていない。
といっても芦花や真実、兄あたりはスマホの方に連絡してくることが殆どだし、ブラックオニキスの二人から直接メッセージが来ることは滅多にない。
――オタ公さんあたりかな。
でもあの人、ヤチヨのライブ配信にも最近は関わっていて、このタイミングでメッセージなんて送ってる暇なさそうだけどな。
何かトラブルとかじゃないといいけど、と思いながらメッセージを開くと
「……何これ」
差出人は知らない名前、というか正常に表示されていなかった。
念のためタップしてみたが「そのアカウントは存在しません」というエラー表示。
差出人も謎ならメッセージも謎。
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、ウ、ホサ?エヨ、ォ、鬢タ、ネツソ、ッ、ホハクサ??マチ??ハ、、、ォ、魘ハキ鬢ヒ。」
チートスミヘ隍?ホ、マー?ル、ュ、遙」
、ア、?ノ、ス、ホサ?、マカイ、?コ。「ソョ、ク、ニ。」サ荀ソ、チ、ハ、鬢、、ト、ォノャ、コ、ヌ、ュ、?テ、ニ。」
テゥ、?螟ッ、ネキ隍皃ソサ?ナタ、ヌ。「・エ。シ・?マフワ、ホチー、ヒ、「、
---------------------------------------------------------------------------
文字化けてんぞ。
読めるのは……チート?
チートなんてしたことないんだが。
いや、兄はいつぞやのKASSENで使用していたけれど。
幸い兄の、ブラックオニキスのチートはライブ演出として観客には受け止められたし、システムのチート検出とそれに伴うペナルティの方もヤチヨの方で解決してくれた。最悪アカウントBANだってあり得たのに無茶するんだから。
あの後、雷さんや乃依さんには無理をさせたことに謝罪と感謝を伝えられたけれど、兄にだけは未だにきちんと言えていない。
私もいい加減大人にならないとだな。これはお兄ちゃんに対する甘えだろうから。
社会人になったからって自動的に大人になれるってものでもないね。
ともあれ変なメッセージだ。
メッセージが弾かれることなく届いたのも謎だけど、何が言いたいんだこれ。
兄の身内ということでチートに対する文句……いや、それも変だな。
さすがに今更文句つけてくるような人もいないでしょ。しかもわざわざ私の方に。
うーん、なんかのバグかな。
そんなことを思っていたら再びチケット上のカウントダウンが明滅。
こんなの読んでる場合じゃなかった。
知り合いのメッセージが文字化けしちゃってたとかならそのうち追加で連絡来るでしょ。
メッセージアプリを落として駆けだす。
ヤチヨが毎回一生懸命考えて作りあげてるライブ、一秒だって余すことなく受け止めたいから。
◇◇◇◇◇◇
「それじゃあ今日はこの辺で! さらバーイ!!」
ライブを終えたヤチヨが無数に分かれ四方に散る。
今日は久々の握手会だ。
沢山のヤチヨの中の一人、普段よりあどけなさが際立つ小さなヤチヨが近づいてくる。
「今日も来てくれてありがとねー! 彩葉!」
手を握って上下に振られる。
研究成果であるところの「ツクヨミにおける触感再現」はまだ一般には提供されていない。
けれど役得、もとい実証実験として私やヤチヨには触感が先行して実装されている。
つまり、こんなのニヤつかないの無理。
手触りだって完璧に再現というのがアピールポイントだけど、こうして握られた手は絹でも触っているようだ。
いや、さっきまで一緒にいたくらいだしいい加減慣れろよとは自分でも思う。
でも無理。こういうのはまた別と言うか――っ!?
見れば、ヤチヨがこちらの手を優しく撫でている。
これはファンサービス神すぎないですかヤチヨさん。
「……ほんと。彩葉は凄いねえ。こうしてまた触れられるなんて思わなかった」
ぎゅっと両の手で包み込まれる。身悶えする様な状況だが、それよりも。
「ヤチヨ……?」
「私がこんなに幸せでいいのかなって、ちょっと思うんだ」
目の前にいるヤチヨはいつもより小さく、つむじのあたりを見下ろせてしまう。
伏せられた目は手のあたりを真っすぐに見ていて、その表情は見えない。
「――ネムッテ」
FUSHIの声。
ふと眼を離した隙にヤチヨのつむじはFUSHIに隠されていた。
布が滑り落ちるような手触りだけを残して、パッと手が離される。
「ってなーんかしんみりした感じになっちゃったね! 今日はもうおねむの時間みたいなのです。今日はもう寝まーす」
おやすー、なんて間の抜けた挨拶と共に、笑顔を浮かべたヤチヨがかき消えていく。
私もログアウトしよう。でもその前に。
FUSHIと視線を交わす。何も口にせずともお互い用事は分かっていた。
再度の暗転。
ログイン時とは真逆に、一度浮かび上がった後で遥か下方にある肉体に引き寄せられ落ちていくような感覚。ツクヨミからのログアウトだ。
ツクヨミの喧騒が消え、現実世界に戻ってきたことがわかる。
「ARモードに変更」
瞼を閉じたままボイスコマンドを実行する。音声なしでも切り替えは可能だが、急がない時は誤操作がないボイスコマンドを使っている。
「久しぶり……ってのもなんか変かな」
キッチンの上、しばらく使われていないパスタマシンの前あたりにFUSHIが丸まっていた。
ヤチヨの魂を内包した宇宙船『もと光る竹』は今、私の家に運び込まれている。
私の部屋でもいいかなと思ったんだけど
「結構夜中とか煩いと思うよー? めっちゃ重いゲームやってる時のパソコンくらいには音するし」と遠慮されてしまった。
いやいや、枕もとでワーギャーと配信してたヤツを思えばパソコンの音くらい、とは思ったものの、
そんなわけで3LDKの3部屋目、今はあまり使っていない配信部屋がヤチヨの部屋になっている。そしてFUSHIの。
FUSHIはあまりこちらに出てこない。出てくる必要がないというのもあるが、実体化はかなりの
そんなわけでたまに出てくる時も基本的にはARモードでの非実体として姿を見せる。
そして、問題はまさにその
「また長くなってる?」
「……なってる。月にだいたい0.05%ずつ」
ヤチヨの睡眠時間の話だ。
今頃はもう部屋の中、宇宙船の中心で眠っているだろう。
「先月から大きく伸びてるわけじゃない……。けど右肩上がりなのは変わらずか」
ヤチヨを構成している宇宙船は8000年前から止まったことがない。再起動もシャットダウンもしないままずっと動かし続けているパソコンのようなものだ。
本来であれば地上に到着した時に肉体が構成され、宇宙船が動いていなくても活動をすることが出来たはずだった。かつて私の所に墜ちてきたかぐやのように。
けれど事故によって肉体を構成出来なかったヤチヨは宇宙船なしでは活動できない。
それだけではなく、破損した宇宙船の復旧はヤチヨであっても手が出せない。今は何とか動いているものの、一度停止させたら二度と動かない可能性さえある。
ヤチヨは、ガタが来たパソコンの上で起動しているアプリケーションのようなものだ。FUSHIはかつてそう言っていた。
最低限のメンテナンスのためにアプリケーション再起動、つまりは睡眠をとっている。けれどそれは、8000年一度も熟睡できていないような苦しさに近いのだとも。
そして彼女の睡眠時間は緩やかだが確実に伸びている。
8000年の昔、彼女に眠る必要はなく、睡眠は孤独をやり過ごすための手段だった。
しかし長い月日の中で睡眠を否応なく必要とするようになり、今、その眠りは私と変わらない程度になっている。
今はいい。
100年後だってきっと大丈夫。
けれど200年後には、ヤチヨが起きていられる時間は限りなく0に近くなるというのがFUSHIと、ヤチヨ自身の見立てだった。
私にとっての目指すべきエンディングを見つけたあの時、自分の中にあったのは単純な想いだけだった。
触れ合いたい。暖かさを伝えたい。もう一度パンケーキを食べさせてあげたい。
幸せそうに笑ってほしい。
その想いが「仮想空間に五感を再現する」「その手段としてアバターボディを作る」という自分のゴールになった。
しかし現在、そのゴールはそれ以上に大きな意味を伴っている。
壊れかけの『もと光る竹』の代わりとなる、魂の在処を作る。
なのだけど。
「ごめん、正直行き詰ってる。今の段階で無理やり体に入れようとするのは危なすぎる」
「謝るな。彩葉が頑張ってるのは知ってる」
呆れと心配が7:3みたいな表情をするFUSHI。そんな顔出来たんかお前。
ヤチヨの記憶を体に入れるだけなら現時点でも出来なくはない。
いきなりアバターボディを動かそうとはせず、あくまで宇宙船の代わりとして、
ただ、それにしても記憶の検索が問題になるというのが結論だ。最悪、ツクヨミでの活動にすら支障が出る危険性がある。
そもそも宇宙船なしにはツクヨミの維持が難しいという問題もある。
「本当はあと何人か議論できるような人がいれば、いい案も出るかもなんだけどね」
だがそれは二つの理由で難しい。
一つはこれが秘密のプロジェクトであること。
ヤチヨが本当の意味で電子の魂であること、それをアバターボディに入れて人間にしようとすること、これが公になれば大変な騒ぎになるのは間違いない。
それこそ私やヤチヨの安全が危ぶまれるほどに。
もう一つは単純に、今抱えている問題に付いてこれる人材にアテがない。
絶対信用出来て、この問題に立ち向かえるような専門家は私とヤチヨくらいなものだ。
ヤチヨの分身体も考えたけれど、二人のヤチヨを動かすというのは100ある力をわざわざ50ずつに分けるようなものであまり意味がない。
「あーあ、私が2,3人居たらなー」
私よりずっと上手く何でもこなす身内に2人ほど心当たりはあるが、ちょっと巻き込みたくない。というか片方には止められそうだ。
「そんなに焦るな。また体調崩す方がヤチヨにも良くない」
それに、まだ時間はある。
そう残してFUSHIの姿も溶けていく。ヤチヨに代わってツクヨミのメンテナンスに繰り出したのだろう。
時間はある、か。
「……私が、そこまで待てないかもなあ」
誰が聞くでもない呟きを零す。
階段を上るのも億劫で、近くの毛布を抱き寄せてそのままソファに横になる。
一人じゃ持て余すくらい大きなソファもこういう時には便利だ。
誰もいない2階で眠るには、今日は静かすぎるから。
シーリングファンの風切り音に混ざって、忙しく動くパソコンのような低音を耳に意識を手放す。
光が消え。音も去り。思考も溶けて消える、その狭間。
――夢を見る。
夢だなとすぐに解かるのはもう何度も見た光景だからだ。
ツクヨミへの行き来とは違う、強烈に叩きつけられるような重力。
身を掠めるように無数の竹柱が流れていく。
竹と共に流れていく風景の終点にはいつも同じ風景がある。
かぐや。
たった一人、座り込む彼女を見る。
それは確かにあった光景で、私には触れられない過去だ。
声は届かない。そもそも喉が動かせない。
手は届かない。腕は上がりすらしない。
夢であり、過去であり、二重の意味で絶対に届かない。
これを悪夢とは言いたくない。
たとえ幻のようなものでも、これほど鮮明に彼女がそこにいる。
けれどこの夢を見るたびに苦しくなる。
これから八千年の寂しさを、一秒でも早く埋めたくて。
必ずもう一度。
強く念じて瞼を閉じる。
再度の意識消失の直前、アレを見て何十年も待てるほど私は強くないなと、そんなことを思った。
◇◇◇◇◇◇
明くる日の事。
今日は休みだけれど、私がいるのは研究所だ。
所長だからね。休日出勤にも制限はないんだ、バンザーイ。ハハハ。
というのは冗談として、実のところ周りに他の人がいない休日だからこそ進めやすいものもある。周りには内緒の研究とか。
ついでに今日は真実と芦花が来てくれている。
二人には最近まで研究の手伝いをしてもらっていた。
とりわけ味覚や嗅覚、触覚といった感覚再現の被験者としてだ。
自分たちで作っているせいかどうしても数値だけで判断しがちな研究員と違って、率直に自分の感じたものを言語化してくれるあたり、すごく助かっている。
とはいえそちらの研究はある程度形になったのもあり、今日は単純に顔を見に来たというわけだ。
いやほんと申し訳ない。
遊んだりごはんしたり、そういうのは二人に引っ張ってもらいがちだ。向こうから手を伸ばしてくれる友達は、そこにいるのが当たり前なんかじゃない、得難い存在だ。
「彩葉、ちゃんと食べてるー?なんかまたホッソリしてない?」
「ホッソリならいいじゃん。……けど、また倒れるまでやってないでしょーね」
二人からの言葉に空笑いで返す。
昨日は夕飯を抜いたし、どころか布団にも入らずソファで寝ていた。正直に言うとお叱りを受けそうなのでここは誤魔化すに限る。
二人が本気で怒ると怖いんだよ。こっちは前科一犯だし。
着替えもせず、メイクも落とさずに寝ていたことは今朝の時点でばっちりヤチヨにバレており、出勤前にちょっとしたお説教タイムがあったのだ。
なんだか人に怒られることが多いな私。前はむしろ私が怒る側だったのだが。いや、あれはかぐやに対してくらいか。
かぐや。かぐや、か。
かぐやに対してお説教する自分の姿は簡単に思い浮かぶけれど、逆はあんまり。
これがヤチヨに対しては真逆になる。
ヤチヨはキッチンも散らかさないし、変なものを買っても来ないし、むしろ私が心配をかける側だ。
推しだから、とか救われたから、とか。
そういうのは抜きにしても、私はヤチヨとかぐやを――。
「ん、これ見ていいやつ?」
真実の声に振り向くと、雑多な荷物の下、僅かにはみ出した書類を指さしていた。
「あー、それね。大丈夫だよ。これ、実は芦花にも手伝って貰ったんだよね」
紙の書類を使う事はいまどき殆どないけれど、二人で直接ペンを入れながら直していくような時にはタブレットよりも手になじむ。
先月、芦花と顔を突き合わせながら直した時の書類が残っていたらしい。
「へー、芦花が。……これ、かぐや?」
頷いて、紙を引っ張り出す。
芦花が覗き込む先には、かぐやのアバターボディ、その3Dモデルが描かれている。
大枠としては、いつか撮ったかぐやの写真や配信動画をもとにしている。プライバシー垂れ流しの顔出し配信にはヒヤヒヤしたりムカムカさせられたりしたものだが、何がどう転ぶか分からないねほんと。
とはいえつま先からてっぺんまで360度の映像が残っているわけでもなし、細部は人力でモデルの調整をする必要がある。
芦花は3Dデザイナーというわけではないのだけれど、仕事柄どういう形が綺麗に見えるか立体的に配置するセンスに秀でている。そういうわけでかぐやのアバターボディ、その設計図となる3Dモデルの改善に協力して貰ったというわけ。
3Dモデルに映る姿は、記憶にあるかぐやそのものと言ってもいい出来だ。
開発という観点では、最初からここまで完璧なものを作るのは正直効率が悪い。最低限の骨格やセンサーだけを持たせたものから初めて、徐々に本物に近づけていく方が手戻りも少ないだろう。
けれど、私がこの体に込めようとしているものはただのデータではなく大事な人の魂なんだ。
仮想世界におけるアバターと自分の姿がずれているだけでも、それが高度に再現されたものであればあるほど人は違和感を持つ。まして現実世界における体そのものであるなら、肉体の形は魂の形に合わせなければいけない。
そう。魂の形に合わない体は、うまく動かないのが当たり前なのだ。
顔だけ振りむいて
この研究室内において、ヤチヨが私に運ばれずとも自由に移動できる、正しくは視点を変えられるように沢山のWebカメラが設置されている。
けれどいま、ヤチヨがこちらから視線を逸らしているように見えるのは気のせいだろうか。
私達の間には話すべきことがある。
もっと早く、おそらくはこの夢の一番最初に話しておくべきだったことが。
どう実現するか形になっていなかったからとか、ただの言い訳だというのは自分自身が一番よくわかっている。
私はヤチヨとかぐやを、同じだけれど違う
始まりは一人だった、二人。
だから私は、ヤチヨに告白しなくてはいけない。
恥ずかしくて、我儘で、身勝手で。
けれど私の心からの気持ちを。
本当に欲しいもののために、私は。