我ら桃の園〜正義と愛と遺された命〜   作:黒影時空

1 / 26
第1話『ヒーローピンク・ナンバーワン!』

 弱きを助け強きを挫く。

 かつて世界には『戦隊』という救世主がいた。

 しかし……彼らの歴史は突如として闇に葬り去られ、跡形もなく存在しなくなった。

 だが時は経ち、新たなる5人の英雄達が表舞台に立つ事となる。

 合計59番目の戦隊、その名も復活戦隊ゴクレンジャー!! 

 そして表である所に裏があり、連動するように未知なる怪人生命体『エレボス』が出現、ゴクレンジャーとエレボスの世界を掛けた戦い……それはいつしか、人々の象徴となり、憧れ……戦隊はテレビという箱の境界線を越え、現実に存在するヒーローとなった! 

 

 常に人々の憧れであり続ける、それがゴクレンジャー! 

 しかしそんな栄光の時代と裏腹に、限られたものだけが知っている事実……。

 

「ブルー様、やはりこのままでは」

 

「そうか……やはり我々、いや人類は……このままでは絶滅してしまう……」

 

 人類という種に大して大きな試練が降り掛かっている中で、この時代に生きる、英雄に憧れたこの時代ではどこにでもいる少女へと視点を移す。

 努力を重ね力で困難を挫く、まさに理想の主人公像……それが、ゴクレンジャーのレッド。

 誰もが皆『赤』になりたかった、見上げるように市民はレッドの姿に手を伸ばした、もちろん()()()

 幼い頃から自分は遠い未来の赤い自分に恋焦がれるが、それはこの時代では決して叶わない夢である。

 

 

 

 何故なら、女性は『ピンク』になることしか出来ないからだ。

 

 ──

 

「いや〜凄いね人気コンテンツ! ヒーローってこんなにお金になるんだ!」

 

 街の交差点で荷物を大量に抱える男はご機嫌に歩く、両肩にバッグを引っ掛けてシャツはその場で着て、グッズは器用にお手玉でもしているかのように大きな荷物を飛ばしては掴みの大道芸仕草。

 これは全部ゴクレンジャー関連のグッズであり、この街では大半が彼らの専用ブランドで商品が作られている、

 男は特別ゴクレンジャーファンというわけではないが、こういう流行りものは敏感に好きなタイプだった。

 

「んで……えっと、地図、地図出せないな……ちょっと買いすぎたかな……」

 

 男がバタバタしているとスピード違反はなんのその、猛スピードで走り抜ける車と女性の悲鳴。

 男が目で追うだけでそれがひったくりであることが分かるが、ちょっと助けるには荷物が多い。

 

「仕方ない……いや、ちょうどいいか、久々にチヤホヤされてみますか!」

 

 男は手に持ってたグッズを空へと投げ飛ばして、車を追いかけようとするがそれより先に一手早かった人影が。

 

「こら、ひったくりは犯罪ですよ」

 

 逃げようとする車に飛び乗り目の前のを遮ることで運転が不規則になっていくが、おかげで男は隙だらけになった車の前に立つことができた。

 

「しゅっ」

 

 軽く言いながら手を軽く振るだけで……車があっという間に横に両断されてしまった。

 その上で乗っている人は無事に残ったまま綺麗に吹っ飛ぶのだから不思議な力……なんにしてもひったくり犯は完全に無力化され警察に捕縛されることになる。

 そのタイミングで男は空に投げ捨てた荷物を全て回収して、SNSでバズったことを期待しながら去っていった。

 その姿を……ひったくりを捕まえようとした人影の正体、ピンク色が目立つゴクレンジャーに類似したスーツを着た少女と、さらにビル陰から偵察する謎の男が見ていた。

 

「ターゲット……接触、花岡さくらと『シャドウ』だ……レンジャアク複製を承認しろ」

 

『了解、承認シーケンス終了まで23分お待ちください』

 

 男は携帯のようなものをいじりながら、花岡さくら……あのスーツの女性を追いかける。

 彼女の衣装からして目的は分かっている、『桃の園』だ。

 

 ゴクレンジャーという存在が世界に浸透してすぐのこと、百年以上先を見越してゴクレンジャーが永遠に繁栄するために必要なこと……それは世代交代の為の後継者を育成することだった。

 しかし一人ひとり弟子を取っていては効率が悪い、そこで日本の保安部隊は戦隊の後継者を作り出す以外の養成学校を作り出すことにした……ただし、レッドのみは特別であるとして例外的に国家保安部隊と呼ばれる特別な者たちから独断で選ばれる特殊体制。

 

 その中で……女性のみが入ることが出来るピンクの後継者を育てる養成校がある。

 この物語は、そんな桃の園に入学する、花岡さくら達ピンク候補生達の視点から始まる……。

 

 ──

 ゴクレンジャーのピンク専門養成学校、通称『桃の園』。

 華やかな門をくぐり抜けた先にある大講堂には、すでに数百人もの志望者が整列し厳かな入学式の時を迎えていた。この場に集った少女たちが目指すのはただ一つ、ゴクレンジャーの『ピンク』の座。

 しかし、その栄光を掴み取ることができるのは、この数百人の中からたった一人だけである。

 

「ピンクたる者、常に一歩引いて仲間を支え、誰よりも美しく咲き誇らなければなりません」

 

 壇上で優雅に語る校長の言葉は、戦隊という最前線の舞台にそぐわない、ひどく前時代的な価値観に満ちていた。求められるのは『英雄』としての力ではなく、あくまで『女性』としての美しさと、サポートに徹する従順さ。

 

 その校風の中にあって、花岡さくらの姿はひどく浮いていた。

 周囲の少女たちがボディラインを強調し、フリルやスカートをあしらった華美なピンクのスーツに身を包む中……さくらのそれは全く異なっていた。

 ズボンタイプで装飾は一切なく、あくまで機能性のみを追求した見栄えのしないピンクカラー。

 低身長ながらも鍛え抜かれた筋肉はスレンダーな体型に無駄なく収まり、髪は少年のように短く整えられている。

 ヒソヒソと交わされる嘲笑と好奇の視線。彼女はすでに悪い意味で注目の的となっていた。事実、運動性能のテストでは他を圧倒する記録を叩き出したものの裏方としての知識を問われる筆記試験の成績は堂々のワースト。

 美しさと従順さを求めるこの学園において、彼女は間違いなく『異端』であった。

 しかしそれでもさくらは全く堪えている様子もないし、気にするわけもない。

 

(私はレッドさんみたいになりたくて来たんだ、今更この程度で挫けている場合じゃない……)

 

 だが……退屈な校長式辞が続く中、突如として大講堂の空気が変わった。

 背後の巨大なプロジェクターに映し出されていた学園のロゴがノイズと共に乱れ、見知らぬ映像へと切り替わったのだ。

 

『戦隊に憧れた君たちだけに教える、ゴクレンジャーの真実』

 

 機械的な音声と共に大写しにされたそのテロップに、講堂中がざわめく、教師陣も慌てふためいたり誰かに連絡している者もいるため、前もって決まっていたことではない様子だ。

 

『ゴクレンジャーとは……5.9レンジャーである』

 

 映像は無機質に語り続ける。5人の輝かしい英雄たちと、その裏で存在を隠された『0.9』の裏方。彼らによってこの世界の繁栄は成立してきた。しかし、裏方は何一つ形に残るような『貢献』を果たせていない、と。

 そして、映像がプツリと途切れた瞬間。

 壇上に、黒い影が舞い降りた。

 

「故に、俺はあるべき場所に立つ」

 

 そこにいたのは、誰もその存在を知らない、黒いゴクレンジャースーツに身を包んだ男。

 

「『幻の六人目』……俺は言うならばゴクレンジャーの影、シャドウだ」

 

 騒然とする生徒たちの中で、さくらだけは目を見開いていた。

 間違いない。

 あの交差点で、ひったくり犯の車を一振りで両断し、人知を超えた力を見せつけたあの男だ、ほんの一瞬だったが目に映って印象に残っている。

 

「俺は今日から『桃の園』の新任講師となりました。……ああ、もちろんこっちでも給料はたんまり貰うし、形はどうあれ現役ゴクレンジャーとしてちゃんとした授業をする予定なのでどうかよろしく」

 

 飄々とした口調で放たれたシャドウの言葉。その衝撃的な幕開けによって入学式は強制的に終了となり、すぐさま実技テストの準備へと移行することになった。

 

 ──同じ頃。

 もぬけの殻となった職員室に、音もなく忍び込む一つの影があった。

 先ほど交差点のビル陰からさくらたちを偵察していた謎の男である。

 男は手際よく端末を操作し、今年行われて採点されたばかりの筆記テストの情報を次々と盗み出していく。

 

「……んん、戦隊の学校は……こんな物を教えてるのか……?」

 

 しかしその内容は、到底実戦を想定したものとは思えなかった。大型機の知識や操縦、高度なハッキング技術、過酷な環境下でのサバイバル能力。それは戦隊を育てるというよりは、まるで軍隊……いや、死を前提とした特攻隊を育成しているかのようだった。

 そんな中で男は何故さくらという少女を狙えと言われたのかも分かっていないが、よく分からないなら考える理由もなくただ言われたことに従うのみだ。

 男が目的である花岡さくらのデータを一通りコピーし終えた時、懐の携帯から無機質な機械音声が鳴り響いた。

 

『承認シーケンス終了。直ちに戦隊遺伝子を結合させてください』

 

「了解。エレボス細胞を注入する……染色!」

 

 男は手に持っていた林檎型の装置を変形させ、禍々しい銃の形へと変えた。そこに、『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』という銘柄が記された赤い薬液のアンプルと、黒く蠢くDNAのサンプルを装填する。

 男の掛け声と共に銃を空に向けて引き金を引くと、撃ち出された細胞が空中で激しく結合し、超活性化を始めた。

 グチャリ、と嫌な音を立てながら肉が膨張し、徐々に怪物の姿が形作られていく。鋭い牙と多脚を持つ異形の怪物、『ウルフウィドー』の誕生だった。

 

「ターゲットは一つ……桃の園の壊滅」

 

 男の冷酷な指令を受け、ウルフウィドーは耳障りな唸り声を上げる。そして、強靭な脚力で職員室の窓を粉々に蹴破り、少女たちの待つ実技テスト会場へと飛び出していった……! 

 

 ──

 

 移動中、クラスごとに隊列を崩さず歩くピンク達に積極的に話しかけてくるシャドウ。

 鬱陶しいかもしれないがいかんせん事実なら無視できない大先輩なので反応に困る。

 シャドウが配属されることになったのはさくらも含まれているものだが、入学して早々周りとしては結果は見えているような形だった。

 さくらのすぐ隣を歩いている白銀の髪をなびかせるメガネをかけた美女、名前をシエル・フローレス。

 ここまでの試験で脚力でさくらを上回る運動結果を叩き出し最優秀、筆記テストではほぼ満点、更にスタイル抜群の高身長とこの時点で抜きん出ているので、ピンク候補生としてあまりにも順調といえる状態で入学したことになる。

 それがさくらと同じクラスというのが、まさに『月とスッポン』という単語が連想されるかのようだ。

 

「一応聞いておきたいんだけど、どうして桃の園でピンクになろうと思った?」

 

「私は幼少期よりヒーローの伝統文化に興味を持ち、心技体を磨いて……時空にも浸透させていく所存です」

 

「ふーん……まあ、記憶しておくよ」

 

 何十回と音読して脳に叩き込んだかのような、心に響かない発言。

 候補生として正しい内容ではあるがその真意が別の所にあるようなものを感じたがその答えを見つけることは自分が一番得意なことなので口には出さない。

 目を向けてみるとすぐ隣には花岡さくらの姿もあり……彼女が自分がひったくりの件で一度目を合わせていることにシャドウの方も気付く。

 

「じゃ、君の場合は?」

 

 そしてさくらにも同じ質問を送ると……さくらは幼少期の記憶を巡らせる。

 あの頃……怪人始祖エレボスが街を襲撃し壊滅状態に陥った時期のこと、幼少期に怪人の軍団が攻め込んで一人取り残され、死を覚悟したところで紅蓮の炎で辺りを焼き尽くし、手を差し伸べて救ってくれたのが……今の時代でも現役のレッドである。

 さくらへのレッドへの憧れはそこから来た、世間が許すならレッドになってみたかった……だから。

 

「『レッド』を越える『ピンク』に、私はなります」

 

 見合っていない成績に身の程を知らない社会のルールを顧みない発現、もうこの時点でどのように思われるのか分かりそうなものだが……教員が止まったのでシャドウも手を引いて止めさせると到着地点は桃の園の校庭。

 テストは外で始まるのかと思えばグラウンドの中心部が真っ二つに両断されていき……中から地下に埋まっていた闘技場のような施設がせり上がっていく。

 防音対策万全、頑丈なケースのような空間……訓練の際に何の支障もないように完璧に設計されているようだ。

 

 地下に隠されていた巨大な訓練施設がせり上がり、重厚な防音壁が周囲を包み込む。実技テストの幕開けだ。教官たちが「怪人役」として配置に付く中、新任講師であるシャドウは、不敵な笑みを浮かべて前に出た 。

 

「さーて未来のピンク様方。俺も特別に参加してやろう。ただし俺は片足一本、それも動かずに相手をしてやる。俺の上半身を地面に着かせたら合格っていうのはどうだ? 面白くない?」

 

 シャドウは宣言通りひょいと右足を上げた。だが、その姿を見たさくらは、言葉にできない違和感を覚える。

 彼はただ片足で立っているのではない。地面に接しているのは左足の**つま先の極一点**のみ。針の先でバランスを取るようなその姿勢は、本来なら自重で崩れるはずだが、シャドウは微動だにせず、まるでそこに「透明な軸」が打ち込まれているかのように佇んでいた。

 

「……行くよ!」

 

 考えるより先に、さくらの体が動いた。

「レッドのように、力で困難を挫く」 。その理想を胸に、さくらは最短距離で踏み込み、渾身の右拳をシャドウの胸元へ叩きつける。

 

 ──ゴンッ。

 

 肉を打つ音ではない。鋼鉄の塊を殴ったような衝撃がさくらの拳を襲った。シャドウは揺らがない。それどころか、彼は踵を浮かせたまま、さくらの腕を絡め取るように掴んだ。

 

「おっと、勢いだけはあいつ並みってところかな? 背中を追って練習してきたというのも案外無駄に終わってなさそうだ」

 

 シャドウが軽く手首をひねる。それだけで、さくらの体は重力を失ったかのように宙を舞った。まるで放り投げられたソフトボールのような勢いで飛ばされたさくらを、背後にいたシエルが、流れるような動作で受け止めることで地面に付くことは免れる。

 

「……やはり。あれは『ハンデ』などではないか。我々の攻撃を無効化するための『小細工』、そのためのブラフということだろう」

 

「ブラフ!? じゃあシャドウさんはあの変わった体制から……必殺技を!?」

 

 シエルが冷徹に分析すると、シャドウは可笑しそうに肩を揺らした。

 

「小細工じゃないが必殺技というほどたいそれたものでもない。鍛えれば誰でもできることさ。かつては『オーラパワー』と呼ばれ、今のゴクレンジャーもリスペクトしている力……。極忍法其の拾壱・光の型『宙武(ちゅうぶ)』。気を一点に集中させれば、不安定な構えこそが最大の力を生む軸になるんだ、もちろん君等だって鍛えたら使えるぞ? オーラパワー、戦う俺はかっこいい!」

 

 手加減など微塵も感じられない。むしろ、この男は本気で「ピンク候補生」を叩き潰そうとしている。

 さくらは考える、相手は人間みたいなものとして……バランスを崩せなくても急所を狙えばいい、人体に存在する部分で先ほどのようにカウンターが届かない場所……。

 考察しながら再び構えるが、隣に立つシエルは静かに両手を挙げた。

 

「……今回選ぶべきは降参、私たちは候補生として勝機のない戦いは選ばない。ピンクの使命は後方支援。市民と、そして自身の命を守ることが最優先としています」

 

 周囲の教員たちも頷く。

 説明しておくと、ぜんていとしてこの世界のエレボスが作り出す怪人のランクはSからDまで分けられており、見習いである彼女たちが想定しているのは最下級のDランクのみだ。

 シャドウが見せたAランク規模の戦闘力に対し、身の程を弁えて引き下がるシエルの判断こそが「正しいピンク」の在り方だと評価された。

 

 しかし、その「正論」を聞いた瞬間、シャドウの顔から笑みが消えた。彼は首を不自然な角度でぐにゃりと曲げ、凍りつくような声で吐き捨てた。

 

「……ちょっと歩いていくだけでも『桃の園』の教科書を読んだが、笑っちまったよ。ピンクに許されるのは後方支援だけ? 目立たず立ち回り、シメには幼児の後始末をするお母さんのようなレッドにトドメを刺してもらえ? ……ふざけるな。俺がこれだけ泥水をすすって動いてるってのに、ゴクレンジャーはそんなに余裕な組織だったか!?」

 

 彼はさっき言った。ゴクレンジャーは5.9レンジャーだと 。

 

「0.9は裏方じゃない。俺たち6番目の黒い奴らは、あと0.1……わずかな何かが足りないと決めつけられ、光の中に立つことを許されない『影』だ。お前らも同じだ。女だから、ピンクだからと、最初から『レッドを越えること』を諦めるように教育されている……!」

 

 

 その言葉がさくらの胸に深く突き刺さる。

 ……しかしその一方で、許せない気持ちになった、同じゴクレンジャーなのに、自分でも納得できない気持ちは同じなのに、彼がそんなことを言える立場なのか? 

 気に入らない、自分達とほぼ同じ分際で、勝手な言い草でゴクレンジャーの事を悪く言えるのが許せない!! 

 だが、怒りを吐き出して反論する間もなく、街全体にけたたましい緊急警報が鳴り響いた。

 

『緊急警報! 桃の園内部に怪人反応! ランクA……コード:ウィドーを確認!』

 

「なっ、Aランクが学園内に……!?」

 

 教員たちが色めき立った直後、強固なはずの地下闘技場の床が、内側から爆ぜるように砕け散った。地中から這い出てきたのは、無数の多脚と鋭い牙を持つ異形の怪物──ウルフウィドー。

 

 エレボス細胞によって超活性化したその怪物は、獲物を定めるように赤い眼を光らせる。その視線の先にいるのは、愕然と立ち尽くす少女たちと、彼女たちが守るべき「偽りの平和」の象徴だった。

 

「……あーあ、テストは中止だ。ここからは、死ぬ気で生き残る実習といこうか、一応俺ゴクレンジャーだからアレ倒していいってことなんだよね?」

 

 シャドウがめんどくさそうに足を下ろし、ウルフウィドーを眺める、獣のように唸り声を上げる怪人は目を血走らせて荒い息を吐くが……逃げ惑う候補生達の中にそれでも……恐怖を感じても使命感で拳を出すさくらを姿を見ていた。

 

「何をしている!! Aはゴクレンジャーしか相手出来ない! 救援を待って大人しくしろ!」

 

「あそこに脚がすくんでる女の子がいます、シャドウさんなら止められますか?」

 

「ん〜〜〜無理、そんな余裕ない、いいか面白いことを聞かせてやる、俺強すぎるからあの子は巻き込まれて死ぬ」

 

「巻き込まれてって……貴方ひったくり犯は死なせず車を斬ったりとか出来たじゃないてすか!!」

 

「だってその技はもう使っちゃったもん、極忍法は強いけど1日1回しか使えないんだ」

 

 そうこう言っている間にもウルフウィドーの爪が逃げ切れてない候補生に迫る、グダグダ話していたら本当に命が無駄になってしまうが周囲の呼び声は無慈悲なものだった。

 

「そこの候補生!! 怪人をあまり刺激させることはするな! ピンクらしく追い詰められたら反撃せず助けを待て!!」

 

 そんな求められているピンク像のあまりにも無様な選択に、さくらの中で何かが切れ、シャドウとの連携もこれまでの怒りも全部忘れ……気がつけばやらなくてはいけない本能として拳を振り上げてウルフウィドーを殴り飛ばした。

 

「ふざけるなっ!! あの子だってゴクレンジャーになるんだ!! ただのか弱い女の子じゃない!!」

 

 啖呵を切り、殴られたわずかな隙を突いて候補生を担いださくらだが、ウルフウィドーは殴られても体勢を立て直し爪を伸ばして獣のように襲いかかるが、シャドウにとってその程度の隙があれば極忍法を選択することなど容易いことだった、両指から静電気を溜め込んで発射する構えを取る。

 

「極忍法其の五拾・頂点ノ型!! 『武雷弾(ブライダン)』!!」

 

 針の形になって放出された静電気の弾丸は音速のスピードでウルフウィドーを貫いていき絶命する、両指から焼け焦げたような匂いを出しながら、しっかりけじめをつけたものの、シャドウが期待したような歓声は待っていなかった? 

 

「おいどうした? 一応ゴクレンジャー様が生徒を救ってやったんだぞ? 拍手の一つでもしてくれたっていいんじゃないのか?」

 

「何を……何を言っている!! ()()()()()()()()()()()()()は、怪人は生きて回収出来るものは死なせないことも知らんのか!?」

 

「え? マジ? ……ったくよー、めんどくさいルールを作るのが好きな連中だよなぁ、君もそう思うだろ? 花岡さくら君」

 

 シャドウが後始末を嘆きながら低く呟き……夢見る少女・花岡さくらにとって、これが本当の「命の選択」の始まりとなった。

 

 そして……ウルフウィドーを作り出した男は瓦礫跡やウルフウィドーの戦闘結果のレポートを携帯で書き込んで送信していた。

 

「ウルフウィドーの目的は達成、桃の園地下にある怪人保管庫の4割を破壊……唐突な花岡さくらへの執着を確認、シャドウとの接触は最低限に……以上、エレボス様に報告」

 

『かしこまりました、本日の業務は以上となります、アプリからタイムカードを受信してください、ホワイトスノー様』




エレボス細胞怪人:ランクA『ウルフウィドー』

構成組織:エレボス細胞×レンジャアークワクチン『ホ・L』

ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーと呼ばれる消えた歴史を由来としたウィドー級怪人、狼の力と嗅覚でターゲットは決して逃さない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告