我ら桃の園〜正義と愛と遺された命〜   作:黒影時空

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第14話「ダブルスーパー怪人!! 猛烈!! 大脱出!!」

 ダザクの情報が世間に公表されることは決してなく、彼は『藍の波止』に連なる研究所の最奥深くに秘匿されていた。

 彼の特異な肉体には一切の薬物が効かず、これまでの怪人のようにカプセル内に保管できないため、強固な独房へと送られることになった。国家保安部隊はダザクからホワイト・レボルシオンやエレボスの情報をなんとか聞き出そうと試みているが、現状は全く実を結ばない状態となっている。

 

 その気になればいつでも出られる余裕なのだろうか。あるいは、本当に何も考えていないだけなのか。

 檻に入れられた後のダザクの行動といえば、「あれが食べたい」「これが食べたい」と気の向くままに要求を口にし、与えられたものを食べるだけ食べたらそのまま深い睡眠に入るというサイクルの繰り返しだった。

 睡眠時間は常に一定。無防備に眠っているように見えて一切の隙がなく、研究員たちが調査を行える唯一の期間でありながら、その核心に踏み込んだところまでは決して調べることができない。

 

 ブルーも一度強硬手段として絶食を試みたこともあったが、全くの無駄に終わった。

 ダザクはあっさりと独房の壁を破壊し、藍の波止の食堂へ忍び込んで食料を貪り食い満足するだけ食べたらそのまま自分の独房へ帰ってまた眠りについたのだ。

 人間の三大欲求から性欲が欠落した結果、残りの食欲と睡眠欲が極端に異常活性している。この生態は新たに『怪人二極欲求』と定義付けられ、その姿は知性ある怪人というよりも、まるで腹を空かせて山から下りてきた野生動物そのものであった。

 もしも人類種を残すために作られたというエレボス人が皆このような状態になってしまうのだとすれば、その生き方は知能のない動物と同じ……そういう意味では、結局のところ従来の怪人と何ら変わりないのかもしれない。

 

 一方、地上でも厄介な問題が動き出そうとしていた。

 現役のピンクの引き継ぎが1年以内に行われることが決定しており、その期間中に『桃の園』から次期ピンクの候補となる特待生を決めなければならないというのだ。

 だが、相田は薄々勘づいていた。間違いなく、花岡さくらが選ばれる……いや、半ば強制的にねじ込まれる形になるだろうと。

 

 現在のピンクである花岡あやめ。血縁関係の詳細は不明だが、さくらと同じ「花岡」の家系に生まれた存在である。そしてさくら自身も、入学して間もないにも関わらず、ホワイト・レボルシオンの幹部格であるスノーホワイトを捕らえたという異例の成果をすでに出している。

 コバルトは、花岡家と国家保安部隊の間に何らかの直接的な繋がりがあることを把握していた。……何かが裏で深く関係している、これまでの情報で得たようなエレボスとの戦いを繰り返す命よりも大切なルールが。

 

「いずれオラもブルーになる人間だ。家にさ上がり込んだところで何の問題もないだろうて」

 

 さくら達もこの世界の為に何かしようとしているのに自分がブルーとして何が出来るか……コバルトは花岡家へ直接乗り込んで調査することを決意した。

 

 しかし、コバルトが花岡家に向かう道中のことだった。

 ふと視界に入ったコンビニエンスストア。そこに、あり得ない人物の姿があった。

 

 厳重なはずの研究所をいつの間にか抜け出し、コンビニの棚にあった菓子を一つ残らず買い占め――いや、抱えきれないほどの量を持ってレジ前に立っているもの。

 ……ダザクだった。

 

---

 

「うん、そろそろ缶詰も飽きてきたし地上で売られてるものが欲しくてね」

 

「おめぇさん一応怪人……じゃねえにしてもホワイト・レボルシオンの自覚ねえんだか、そんな格好までして」

 

「そう?一応何も言わず買ってくれたよ、もちろん代金も付けて」

 

「金あんのか!?……いやそういえば、スノーホワイトも給料が振り込まれてたっけな……」

 

 こうして話してみると本当に人間のようだが……まじまじと見ると不気味だ、男らしい体格、女に近い顔……双性という二つ合わせの肉体構造は精密なホルモン構成で成り立っているものの人間らしさは感じない。

 買ったお菓子を次々と食べていく姿はせっかくの美形が多少台無しになっているところはあるが……それにしても能天気なものだ。

 

「それで君は僕をどうするつもり?食べるだけ食べたら一応帰るけど、力づく?」

 

「オラはまだ優等生として振る舞わなきゃなんねえ、Sランクのエレボスを見ても通報しか出来ねえ」

 

「ふーん、真面目なんだね君は……スノーホワイトみたいで、と言ってもアレも作られた人格か」

 

「エレボスに従ってたんならおめえがやったんじゃ……ねえか、さくらちゃんの遺伝子使ってんなら、それより前にエレボスが居なきゃ成立しねえ、あるいは……」

 

 国家保安部隊の尋問よりも話してくれるダザク、相田も彼の気まぐれをよく理解しているのでさりげなく多くを語らせるようにしているがどれだけ出来るか分からない、良くも悪くも無垢なようで大した情報はあまり握ってないのだろう。

 そこで、ホワイト・レボルシオンについてもう少し調べようとする。

 現在分かっているメンバーはスノーホワイト(脱退予定)、そこにいるダザク、ゼレット……さくらの話から聞いたライフル銃を持つ男。

 

「仲間は何人いる?」

 

「うーん……スノーホワイトと僕を含んで、という話かな?それなら……これあげるからもうちょっと買ってきてよ、今度は脂っこいもの食べたいな」

 

「だんだんしたたかになってなだ……これで食うだけ食って爆睡さしたら脛を蹴ってやっからな……」

 

 ダザクは懐からお札を何枚も握らせて残りのお菓子を食べながらゆっくりと待ち、相田を唐揚げの無人販売へと走らせる……少し後に数百個分の唐揚げを箱のように用意して、ダザクはそれをポップコーンのようにまとめて食べていく。

 

「それでああ、仲間の話だっけ?……指で数えられる程度だ……」

 

 買わせておいてなんだが分けてやる気はないらしいが、ひとまずメンバー達の話をしてくれる。

 まず知ってる範囲で言えばスノーホワイト、たまにホワイトスノーだったりもするがそこら辺は気まぐれに変わるとか。

 レンジャアクや戦隊遺伝子、エレボス細胞といった怪人工学は全て彼が作ったものであり、記憶喪失以前から並外れた製作技術を持っており別次元の能力を持った科学者だが……無欲だったため、人一倍周囲に馴染んでない人物だった。

 研究データはカガミさんというAIに流用されたので彼がいなくなっても特別支障はないと聞いたとか。

 

 その次がゼレット……現代で歴史に名を残したいとレボルシオンに入り、エレボス細胞を改造してどんな物にでも運用できる万能燃料エレボスオイルを開発し世間に売り出すことが目的、他にも闇バイト等で集めた人間をエレボスオイルの実験のためにサイボーグとして改造していたりもする。

 

「あと一応僕に、君の言うライフルを使う奴と言うとラガンダーかな?あと1人は僕も見てない」

 

「つまり残る幹部はあと3人……はあ、気の遠くなる話だな」

 

「とはいっても世界征服だとか大真面目に言ってたのはカガミさんだしスノーホワイトはそれに乗っかってただけ、彼らは出世したいとそんな感じなんだからほっといてもいいんじゃないのか?」

 

「んなもんそっちの理屈でねえか、スノーホワイトのやつも言ってたが現在の態度や振る舞いで過去が帳消しになるわけでもねえ……少なくともお前はかつて街を破滅させ、多くの命を奪った、のうのうと飯食って寝る生活なんか見せて言いわけもねえ」

 

「そんなに憎いの?エレボスという存在が」

 

「間違いなくそうだろうて、ゴクレンジャーははっきり言って気に入らねえけんどもおめえら怪人共をなんとかせんことにはオラは無責任になる、初めて会った時に襲いかかってきたメガネの嬢ちゃん覚えてるか?あの子は怪人のせいで家族を全員亡くした」

 

「残念だが僕に同情は出来ないし、こんな命でも惜しいという気持ちがある……しかしなんだ、怪人という存在は相当面倒な存在だな……」

 

 ダザクは己の生まれを皮肉るように呟いて、あんなにたくさんあったはずの唐揚げを全部平らげて横になる、どうやらまた睡眠に入るようだ……本当に自由気ままに生きているようだ。

 

「……全人類お前みたいになったらそれはそれで人類は終わりじゃねえかと」

 

「だがこのままじゃ僕の知らないエレボスは人類を滅ぼすかもしれないんだろう?そうなるのは僕も嫌だ……そうだ、僕が代わりに旧世代のエレボスを倒して、怪人を僕が全部持って行って怪人統治国家でも作るというのは……ん」

 

「ん!?おい待て今寝る前に何を言っ……」

 

 しっかり何を言おうとしたか聞き遂げようとしたが、最後まで言い切る前に眠ってしまった。

 ダザクのことは置き去りにしてもいいだろう、そう思っていた矢先に持っていた携帯から警報……この音は覚えがあるというか聞いたばかり、エレボスが発見された時のものだ、ようやく国家保安部隊もダザクか逃げ出したことがバレたのか……そう思っていたが様子が違う。

 音が一定のままじゃない、どんどん迫ってくる……覚えがある、ダザクが落ちてきた時と同じじゃないか。

 

「まさか……新しいエレボスが来るんじゃねえか!?」

 

 相田は急いで市民避難用のスモークとブザーを設置したあと双眼鏡で空を確認……しかしそこに落ちてくるのはカプセルじゃない。

 ピンク色の肌。頭部から突き出た、禍々しくも大きな赤い角。そして、底なしの闇を思わせる漆黒の瞳の女性によく似た肉体。

 

 自分たちのよく知る……エレボス。

 

「おいおいおいおい……エレボスが街に2体!?」

 

――

 

「ついてくる必要なかったんじゃないですか」

 

「元はと言えばお前が私に付いてきた形だろうが」

 

 冷やりとした空気が肌を撫でる薄暗い通路の中、さくらとシエルは足音を殺しながら進んでいた。

 二人が潜入しているのは他でもない『桃の園』の地下エリアである。シャドウが度々この場所に一人で入り込んでいるという情報を得たからだ。

 

「相変わらず荒れ放題か、休校しているなら直す余裕でもあるのかと思ったが」

 

「無いんじゃないですか?私もたまに忘れそうになりますが理事長が失踪したりもしてますし」

 

 普段の地下は、訓練用にせり上がってくる闘技場の設備が置かれていたり、沈静化させたシーカー級怪人(Dランク)を多数収容したりするための場所だ。

 

 しかし現在は、スノーホワイトが過去にウルフウィドーを差し向けた事件からまだ日も浅く、整備が追いついていないため瓦礫が散乱し、荒れ放題となっている。 

 普通に考えれば、教員として壊れた地下闘技場を修繕しているのだろうと思うところだ。

 

 だが、シャドウは桃の園で極忍法を教える時や『秋葉蓮蛇』の場以外では、あまり表に姿を見せない。それにも関わらず、ひっそりと地下へ向かっていく姿を見たという証言が複数あった。

 つまり、この桃の園の地下には、何か隠さなければならない秘密がある。そしてその鍵を握っているのはシャドウだ。

 

 それを裏付ける事実があった。ここへ来る前、シエルは国家保安部隊の研究所へと潜入し厳重な独房に入れられていたスノーホワイト――気まぐれにホワイトスノーとも名乗る、怪人工学のすべてを作り上げた例の男と面会を果たしていたのだ。

 

「なんだお前だけか?まあ、一番知りたいのはお前だろうしシャドウとも縁がありそうだ、何が聞きたい?」

 

「当然知っていること全てだ、洗いざらい話せ」

 

「当然そうなるよな……いいぞ、何かしらのケジメになるか分からないが世界に貢献させてくれ」

 

 シエルや彼自身も驚くほどあっさりと、エレボスのことや戦隊遺伝子のことについて口を割ったらしいが、その中で見過ごせない話題があった。

 

「金の久遠で色々資料は拝見したけど……極武器ってなんだ?なんで過去戦隊の力が現実のものとなっている?……そりゃまあ、何十年か前には魔法少女だのはいたけどさ」

 

 極活法や極忍法――過去の戦隊の歴史を再現し、現在のゴクレンジャー達が振るう5つの力。

 しかし、スノーホワイトが知る限り、本来のゴクレンジャーは過去にそんなものを使ったことなど一度もないというのだ。

 もしその力が流通しているのだとすれば、それは「存在していたということになっている以前」から戦隊を知る人間が広めたとしか思えない。そして、その人物に心当たりがある、コンテンツショックの当事者の疑いがあり、異様なくらい戦隊というものに詳しい男。

 

「まさかそれがシャドウ先生だと……?」

 

「それだけじゃない、奴の怪しい点は他にもある……秋葉蓮蛇に入ってから収穫もあった」

 

 シエルの言葉に、さくらは息を呑んだ。

 秋葉蓮蛇の方でも探りを入れていたシエルは、引き抜きではなく潜入捜査のために「思考を抑えられたフリ」をして紛れ込んでいた一部の特待生候補と接触し、決定的な写真を入手していた。

 

 そこに写っていたのは、これまでさくら達が巻き込まれた数々の死線のすぐ近くで……シャドウが密かに待機している姿だった。

 極鍛山の任務中での襲撃。藍の波止での非道な遺伝子実験。白鳥いぶきの招待した特別番組。

 そして、つい先程のスノーホワイトからの告白の場……ずっと近くに、シャドウがいた。

 特に藍の波止の件では相田コバルトが実際に彼と遭遇しているため間違いない……だが、その件以外ではなぜ彼は現れなかったのか。

 理由は明確だ。いずれの事件でも、すでにレッド、ブルー、イエローといった他のゴクレンジャーが先にさくらに接近し、接触を果たしていたからだ。タイミングが良すぎる。

 

「怪人を先回りしていたとなるととんだ茶番となり、ヒーローの面目は丸潰れだろう……だが視点を変えれば」

 

「6人目の仲間……身内の独断の行動であれば先回りが出来る……!?」

 

 さくらの脳裏に、一つの推論が浮かび上がる。

 ゴクレンジャーの根幹にある歪んだルールに深く介入し、立ち回っているであろうシャドウ。

 そして、どんな縁かは知らないが、互いに顔見知りどころではない関係にあるとされるスノーホワイト。

 さくらの手元には、そのスノーホワイトから託されたという『3つの戦隊遺伝子』がある。自分と、シエルと、ベビー……この三人で使えということなのだろうか。

 

「ここか」

 

 瓦礫を避けて進んだ先、行き止まりに見えた壁の前でシエルが足を止めた。

 彼女が壁の一部分を正確に見極めて蹴りつけると、その部分が不自然なほど綺麗に空洞となり……埃にまみれた、使い古された隠し階段が姿を現した。

 地下施設として認識されていた場所の、さらに地下。桃の園の最深部に、こんなものが隠されていたのだ。

 

「怖気づいたか?このまま入れば間違いなく後戻りは出来なくなる、大事になればピンクになるどころではないな」

 

 暗闇へ続く階段を見下ろしながら、シエルが試すように視線を向けてくる。

 レッドを超える『ピンク』を目指していたさくらにとって、この先に進むことは、これまで信じてきたものを完全に手放すことを意味するかもしれない。

 だが、さくらの瞳に迷いはなかった。彼女はふっと口角を上げ、力強く答える。

 

「その時は男装でもなんでもして相田さんの学校に乗り込みますよ」

 

 覚悟は決まっていた。全てを知るため、そして本当のヒーローになるために。

 さくら達は、深淵のような更なる地下へと静かに足を踏み入れていった。

 あらかじめ持っておいた懐中電灯を付けると……少し上の闘技場があった場所と違い階段の先は綺麗だった。

 正確にはこちらも荒れた跡があるが、しっかり整備されている……シャドウはずっとここを優先して直していたわけだ。

 電灯の光で辺りを照らしてみると……さくらには覚えがある、その時意識は薄れていたがぼやけていても印象に残っている。

 

 「ここ……藍の波止にあった国家保安部隊の研究所と同じ構造になってます」

 

 「なるほど、秘密の第二研究所ということか……金の久遠にも工場が隠されていたと考えると変な話でもない」

 

 桃の園では最低ランクのシーカー級しか保管していないはずだったが、数々の怪人がこの中に入れられている……しかも研究資料や写真まで、怪人に関するものだろうか?……いや、この顔には覚えがある。

 

「これ……相田さんに似てません?」

 

「奴の身内か何かだろう、この学校に来る奴ならありふれた話だ……問題はなぜここにそれが落ちているかだが……奴はここを知ってるのか?」

 

「さあ……相田さん、桃の園に来たことないはずですけど」

 

 落ちている写真や資料は片っ端から回収していくと、光が漏れている部屋があったので覗き込むと……大昔のテレビ、更に見たことない形の道具が落ちているが……シエルがよく見てみると大昔の道具だ。

 

「VHSか……子供の頃教科書で見たな、昭和という年号の時期はこれで記録をしていたらしい」

 

「へぇ……昭和というともう100年以上前ですか、そんなものがどうしてここに……というか、動くんですか?」

 

「ここに差し込むらしい、入ってる情報は重要かもしれないから後ろを見張っておけ」

 

「私も見たいんですけど」

 

「後で交代してやる」

 

 ということで……シエルがVHSの内容を1つだけ確認しながら、さくらが後ろを向いて誰か来ないか見張ることになる。

 ビデオデッキを見たのは初めてだが、挿入口のような部分に差し込むのは分かり……再生する前に巻き戻す、不便だがこういうじだいだったのでしょうがないか余計に警備の時間が増えるさくらとしてはちょっとイラッときた。

 だが、流れてくる映像と音楽に目を離せなかった……そこに流れている曲、トランプのような仮面をつけた4人のシルエット……そしてタイトルにはでかでかとこう描かれていた。

 

 ……『ジャッカー電撃隊』と。

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