我ら桃の園〜正義と愛と遺された命〜   作:黒影時空

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第15話「トドメをお見舞い」

ジャッカー電撃隊……自分は全く知らない名だったが、画面越しに展開されるその戦いの記録には、どこか酷く覚えのあるエピソードが散りばめられていた。

 理解が及ばず、シエルはすぐにテープを取り出した。

 

 今見ているものはなんだ?ゴクレンジャー以前に存在した、本物の戦隊の映像だというのか。

 画質の粗さやノイズ、そして『昭和』という時代背景を考えればこの映像が現在のゴクレンジャーとエレボスの戦いが始まる何十年も前から存在していたものであることは疑いようがない。

 

 しかし、そこに映されている内容こそが最大の問題だった。

 初めて見るはずのヒーロー達の動き、そのフォーメーション、そして繰り出される技の数々に、妙に見覚えがあるのだ、それは極シリーズの軸になったとして納得のしようはあるが……何故日常風景までもが類似している?

 

「シエルさん、一体何を見たんですか……?」

 

 背後で見張りをしていたさくらが、シエルのただならぬ様子に気づいて声をかけてきた。

 

「自分の目で確かめてみろ。交代だ……」

 

 シエルは頭を冷やし、思考を整理する時間を稼ぎたかったのもあり、さくらと見張りを代わった。戦隊という存在に人一倍詳しく、強い憧れを抱いてきたさくらなら、自分以上にこの映像が放つ『大きな違和感』の正体にすぐ気づくはずだ。

 

 案の定だった。別のビデオをデッキに押し込み、ブラウン管を食い入るように見つめていたさくらは、わずかな時間で息を呑み、シエルよりも早くテープを吐き出させた。

 その顔には、隠しきれない動揺と、信じてきた足元が揺らぐような恐怖が張り付いていた。

 

「これ……どういうことですか。なんで、私たちが教わっている極活法や極忍法……いやそれ以上にこれって……」

 

「そういうことだ。なぜこんなものが、この地下深くに隠されているのかは分からないが……私たち二人で考えるには時間も頭も足りない」

 

 シエルは手早くビデオの映像データを携帯端末へとダビングし始めた。ここで長居して結論を急ぐべきではない。この後の考察は、無事に地上へ戻ってからだ。

 もしこのデータが何かの弾みで世間に公開されれば、世界を根底から覆す大騒ぎになる。……本当に公開などできればの話だが。

 

「よし、終わった。戻ろう」

 

 二人が隠し階段へ向けて踵を返した、その時だった。

 階段の上の方から、コツ、コツ、と静かな足音が響いてきた。

 

「誰か来る……!」

 

 さくらが囁き、二人は咄嗟に物陰へ隠れようとした。だが、その必要はなかった。

 有無を言わさぬ轟音と共に、突然頭上の天井が丸くくり抜かれたように崩落し、大量の土砂と瓦礫が降り注いだのだ。

 もうもうと立ち込める粉塵の中、悠然と舞い降りてきた影が一つ。

 

「何も心配はない、僕だよ」

 

 のんびりとした、しかしどこか底冷えのする声。

 そこに立っていたのは、国家保安部隊の厳重な監視下にあったはずの、そして少し前まで地上で菓子を貪り食って眠っていたはずのダザクだった……あれからすぐにさくらを探して桃の園まで一直線にここまで移動してきた。

 

「……ここにいるんだろうとは思ったんだよね。だって、同じ僕だから」

 

 ダザクは薄暗い地下室を見渡し、最初から二人の居場所などお見通しだったとばかりに微笑んだ。

 敵が来るにしても、ダザクの登場は完全に想定外だ。ゴクレンジャーの資格を持たない者は決して頂点であるエレボスを相手にしてはならない。それがこの世界の絶対のルールだ。

 

 しかし、この地下深くの秘匿された空間であれば、誰もその戦いを見る者はいない……抵抗できるとしたら、ここしかない。

 

「まあ待ってよ。僕としても、ここで君と戦っておきたいんだ」

 

 殺気を放ち構える二人を前に、ダザクは隠れていたシエルとさくらをあっさりと見つけ出し、まるで友人に話しかけるような軽さで言葉を続けた。

 シエルが牽制として鋭い蹴りをダザクのわき腹に叩き込むが、厚いゴムの壁を蹴ったように威力が吸収され、全く効いている感覚がない。

 

「かなり今更な話ですが……貴方、一体何がしたいんですか」

 

 さくらはシエルをかばうように前に出ながら、鋭く問い詰めた。食欲と睡眠欲しかない野生動物のような存在だと聞いていた。だが、目の前のダザクからは、明確な意志と底知れぬ野心が感じられた。

 

「今僕が考えているのはね、国を作って独立したいってことなんだ。怪人による怪人統治国家を作る。……世界の征服なんて、幅広くはいらないよ。でも僕たちの国が成立できるくらいには、世界を手に入れるけどね」

 

 ダザクの態度は、これまでの報告にあった無気力さから打って変わっていた。

 本気だ。本気で国すらも創り上げようとしている。

 しかしそれにしては腑に落ちない。

 なぜわざわざ自分のオリジナルであるさくらの前に現れて正面から挑戦しに来るような真似をしたのか。

 さくらがその理由を尋ねる前に、ダザクはあっさりと種明かしをした。

 

「つい先程、僕とは別のエレボスを捕獲したんだ」

 

「!」

 

「別のエレボス……まさか、貴方が作ったものと別……これまでゴクレンジャーが戦ってきた方の……」

 

「そう。僕の目的を果たすには、無差別に世界を滅ぼすかもしれない他の旧型エレボスが邪魔になってくる。でも、オリジナルである君やそこの友達も、エレボスを倒したいと思ってるだろう?」

 

 ダザクは楽しげに目を細め、両手を広げた。

 

「だから、今僕とここで戦って、勝ったほうがそのエレボスにトドメを刺す権利を得られるっていうのはどうかな」

 

 それは、怪人たちの頂点である存在の息の根を止めるチャンスだった……どちらが負けても捕獲されたエレボスの命はない。

 ゴクレンジャーの候補生に過ぎない彼女たちが、Sランク相当のダザクに勝てる保証などどこにもない。本来であれば、絶対に受けるべきではない取引だ。

 しかし、さくらは……。

 

「ええ、受けますよ。その挑戦」

 

 さくらの声に迷いはなかった。

 

「怪人との共存という道……不思議と、頭ごなしに否定しようとは思わない話でした。あなたの言う国がもし成立するなら、理不尽に命を奪われる悲劇は減るのかもしれない」

 

 さくらは拳を強く握りしめ、ダザクを真っ直ぐに見据えた。

 

「だからこそ、こういう時は、この手で止めるしかないんです! 私たちが信じてきたヒーローの誇りにかけて!」

 

 その宣戦布告を受け、ダザクは満足そうに口角を吊り上げた。

 

「いいね。いずれ決めなくちゃならないことだったのかもしれない……」

 

 ダザクの黒い瞳が、妖しい光を帯びる。

 

「どちらの『花岡さくら』が、エレボスを倒した本当のヒーローになるのか。ここで決めようじゃないか」

 

 大勝負は静かに幕を開く、両者の拳がぶつかり合いダザクは一切避ける事無く全てを受けきる。

 さきほどシエルが蹴り上げた時もそうだが攻撃を当てたときの感触が人間と全く違う……普通に攻撃しても歯が立たない、シエルが瓦礫からコンクリートブロックを掴んで頭を殴りつけるが……コンクリートのほうが割れたどころか、割れた破片にダザクが足をかけて力を踏み込むだけで粉々に潰れる。

 

 ダザクは光が漏れている……さっきさくら達が入ってきた部屋、そちらに目を向けてダザクが手を伸ばし……というよりまるで本当に伸びているかのように取り出した……ついさっきまで見ていたビデオ。

 

「どうしたの?ゴクレンジャーも君たちもこのビデオのヒーロー達みたいに変身しないの?ほら、番号を打ち込み腕を振る、それだけじゃないか」

 

「貴方もこの中身を見たんですか!?」

 

「レボルシオンの中で一通りね……その中でも『天装戦隊ゴセイジャー』は面白かったね、悪を倒した側からまた新しい存在が現れるんだ……それでもなお、変身という力で立ち向かう……故に彼らは僕のなかで戦隊を超えた戦隊、スーパー戦隊と言えるんだ」

 

「……ゴクレンジャーだって、そんな戦隊達の伝説を継いで生まれた59番目の戦隊です!」

 

「はたしてそうだろうか……59番目っていうのが引っかかるところだが……まあその話はゴクレンジャーが終わってからにしようか!」

 

 ダザクの一撃は全部重い、話をしようにもこの攻撃に耐えなければならない。

 それに……もしかしたらこの騒ぎを聞きつけてレッドが来てしまう、いつもだったら会えるだけで幸せになれるレッドもなるべく来ないでほしいと願う。

 この時間が終わってしまうから……。

 

「ゴクレンジャーのレッド、僕もあの時見たけど……もし僕が怪人統治国家を作ったら全力で滅ぼすのかな」

 

「それは当然だ、お前は腐ってもエレボスで、悪の組織だからな……」

 

「君はレッドに詳しいんだよねオリジナル、なんでそんなことするのかな?」

 

「それは……レッドさんが己の身を捧げて人々を幸福にしようとしているから、それがゴクレンジャーというものです!」

 

「じゃあ君に聞くけど幸せって何?幸福というものはどうやったら僕に与えられる?それがわからないんだ、君と違ってね」

 

 自分でそう思うのも中々に失礼な話ではあるが、ダザクは生まれてからずっと恵まれていた。

 圧倒的な力を持ちながら暴力性を抑制し、性欲を持たないため何かを愛することもなく、常に餌と睡眠が得られる毎日。

 食べたらすぐ寝るを繰り返すダザクにとって、人々のたった1日すらも長い余暇で構成されている。

 はたから見れば自由気ままに過ごしているダザクという生命体は、その一方で誰にも理解できない虚無で生きていた。

 

「だから王様にでもなってみるつもりですか、幸せを得るために」

 

「遠からずもそうかもしれない、僕のようなエレボス人を増やすには人類の敵というシナリオで動くエレボスが邪魔で仕方ないというのはさっき話したけどね、そしていずれは君も」

 

 桜花一拳、レッドに憧れて何度も何度も練習したさくらの中の一番のオリジナル。

 それを意図もたやすく真似した……さくらは風圧だけで奥の壁まで吹っ飛び、スーツが裂けて体の各地から血が漏れる。

 シエルはもうすでに割り込む気迫すらなくなってきている、下手に援護すれば自分は死ぬ……!

 だがそれでもさくらは体の骨は折れても、心までは折れるわけにはいかない。

 それに……ようやく分かってきた。

 

「……だんだん、お前のことが分かってきました……アダザクラ、貴方は全人類をエレボス人にするとか、怪人のために統治国家を作るとか色々言っていますが、結局のところお前のやりたいことは一つ、全部をお前にする、お前のように餌を貪り、お前のようにただ眠る……」

 

「そうしてお前の苦しみを全人類に共有したい、それだけの……弱い人間なんですよ」

 

「………………????」

 

 初めてダザクは悩んだ、何をわけのわからないことを言っているんだ……とは思った。

 その一方で自分がそう思っているのかと本気で考える……考えていた時……記憶の奥底に言葉が宿った。

 

「……あっそうだ、そういえば僕が寝てるときにそのレッドが似たようなことを言っていたな、己の存在価値に理解を持たない人間に存在するだけで尊いと理解させたいと、そうしてゴクレンジャーはあると……オリジナル、いやさくら、君はさっき僕を人間と言ったな?なら君は……こんな僕の存在にどんな幸福があるか」

 

「……そんなのこんなところで言われたって分かるわけないじゃないですか、こっちだってさっきから色々抱えてていっぱいいっぱいなんですからせめて戦闘に集中させてくださいよ」

 

「うん、まだ秘策ありといったところか……まだ余裕?そういえば君にはあるんだっけ、あいつの得意技……極召喚法が」

 

 ……時は来た、チャンスは1回……使える薬は一つ。

 やはり生身の肉体ではエレボスに勝つことは出来ない、ならやはり極召喚法を使うしかない。

 しかしオリジナルを丸ごと全部は初めてだ……どんな影響があるのかまでは分からないし、藍の波止でくすねた模造品とは勝手が違う

 

「……染色!」

 

 それでも覚悟を決めてアンプルを全部打ち込む……戦隊遺伝子が全身を駆け巡った瞬間、脳に大量のアドレナリンが噴き出して……さくらの意識は別次元へと飛ぶ。

 

――

 

「こ……ここは?」

 

 さくらの周りに見える空間は全くの別次元のようになっていた……そこにあるのはまるで大きな街、ビルに触れてみても通り抜けるのでどうやら立体映像あるいは誰かの記憶を覗いているようだ。

 おそらくは遺伝子に刻み込まれた……つまりはスノーホワイトのものだろう。

 恐らくはスノーホワイトとシャドウの深い因縁にもまつわるもの……それが、すぐに分かった。

 まるで街に爆弾が落ちてきたかのように全てが消し飛ぶが、見ている立場のさくらにはそれに巻き込まれず……ただ多くの人間が理不尽なほどの力で消し飛ばされていく、悲鳴を上げることすら出来ないほどに。

 

 ……紫色の髪をした少年が手を伸ばしていた、その姿はスノーホワイトによく似ていた。

 さくらは咄嗟に手を伸ばして手を掴んだ。

 

 

「許してくれ……弱い、僕を、許してくれ」

 

「この時空に生きる全ての人たちよ、どうか……もしワガママが叶うのなら、またみんなに会いたい、でもそれは叶わないんだよな?だからせめて……お前たちの力を借りることだけは、許してくれ」

 

「これが……紛い物である僕の、名前すら価値のない僕の存在価値であり贖罪だ、花岡さくら!!こいつは……こいつは僕がすぐそばにいながら救ってやれなかったあいつを模した遺伝子だ!!……」

 

 

「無駄にするなよ、正真正銘のかっこいいヒーロー」

 

 少年は笑った、さくらは何かを言いかけたがまた意識が飛んで……目の前にダザクがいる。

 自分は夢を見ていたのか?分からない、あれはスノーホワイトだったのか?アンプルを確認する、遺伝子のことをあいつと言った、何故?まるで会ったことがある……というよりは彼のなかに深い縁を感じた。

 

 

 

 スノーホワイトにとって、『王様戦隊キングオージャー』はそんなに深い存在だったのか?

 その答えすら木っ端微塵に消えた今、もう自分達が何かしたところで手遅れなのだろう。

 

「恐怖しろ!そして慄け!一切の情け容赦無く、一木一草尽く!貴様を討ち滅ぼす者の遺伝子が、私の中にある!!」

 

「……戦隊の力を取り込んだはずなんだよね?僕から見たら何も変わってないように見えるのは、気のせいか?」

 

「いえ……この通り」

 

 王様戦隊キングオージャーはシュゴッドと呼ばれる虫のような力達を剣に宿す、さくらが袖をまくるとその腕の肌はまるでクワガタムシの羽根のようにきれいな光沢で構成されており……。

 

「はあーっと!!」

 

 四股を踏むだけで蜂のように鋭い衝撃、トンボの目、カマキリの切れ味を持つ手刀……完全に自分の力が変質した……シエルもこれには呆然とするしかなかった。

 

「これが……ピンクのみが使える極召喚法だと!?それがこの結果ではエレボスと変わらんではないか!!」

 

「実際答え合わせみたいなものです、肉体を遺伝子操作とツボ押しによるホルモン活性で変化させる極召喚法と極活法……それを教えてる学校でエレボスの研究施設があるということはそういうことでしょう」

 

「極シリーズは僕みたいなエレボスに連なるものか、人々を守るゴクレンジャーが正義であるはずなのに悪の力を使うなんておかしな話だね、さてその力どれだけのものか……」

 

 ダザクが話している最中にも、さくらは足元に落ちていたガラスの破片を掴むと……手首から虫のような物か群がって伸びていき……まるで大きな剣のようになった。

 これまでのホルモン操作だけでは説明がつかない、人知を超えた力だ……ダザクの存在も含めてこれまでの研究とは常軌を逸する力を持っている。

 それを作り出したのは……。

 

「ここからが本番だ、アダザクラ」

 

「案外嬉しいものだね、僕のことをちゃんと呼んでくれるというのは」

 

 剣を掴んださくらは初めてダザクと渡り合った、ダメージが和らいだり頑丈になったりはしないがこれまで何の一撃も通らなかったのが初めてダザクを押し出している……それでも血の一滴も流れないのは生命として圧倒的すぎるが。

 しかしそれでいい……まだシエルもダザクも油断している、ここで大技を使い一気に叩き込めばいい。

 エレボスの弱点を全く理解できない今、強力な技でゴリ押しするしかない……この遺伝子の力を研ぎ澄ませたらそれすらも出来る気がする。

 

「この一撃で全て決める……」

 

「おや、僕そういう一騎打ちみたいなの好きだよ……じゃあそうだね、本当にこの一撃で終わりにしようか!ブレドラン流拳法『ダグデ道』!」

 

 まるで侍の刹那の見切り、初めてアダザクラはこの勝負で必殺技を披露し……さくらの方も持っていた剣にまるでそういうギミックが付いていたかのように柄を撫でると王冠が出現する……同じ、全く同じ。

 継承どころかほぼ同じ力が宿っている。

 

「王鎧武装……始祖光来!」

 

『You are! I am! We are the, We are the, KING! KING-OHGER!!』

 

 王冠を頭に乗せると……物語のようにキングクワガタオージャーになるわけではないが、片手に黄金の槍が形成されて2つの武器持ちになり……完全に本気モード、互いに先に踏み込んだほうが勝負を制する……。

 

 

 はずだった。

 

 

「今だッ!!!」

 

 先に動いたのはさくらだったが、その槍が飛んだ先にいたのは……シャドウだった。

 シャドウが貫かれて天井に槍が突き刺さり……それでも目線がこっちを向いている。

 

「私たちが勝負して……苦戦を見せれば必ずあなたはここぞというところで跳んでくる……読んでましたよ」

 

「なっ……さくら!!まさか貴様は最初からこれが狙いだったのか!?」

 

「話は後です!!マゼンタさんお願いします!!」

 

「おう!ウルザード魔法『ウーザ・ウジュラ』!!」

 

 さくらが合図を送ると、魔法陣に乗ってさくら達の姿が消えていった。

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