「……戻ってこれましたか」
「上手くいったんだな?さくら……と、それが例のやつか」
「なっ……ここは!?」
さくら達が魔法陣で転送された先は……桃の園の地上、さくら達の寮部屋、魔法を唱えただろうマゼンタがいて、少しは負傷が癒えたベビーが待っていて……ダザクまでもが一緒に巻き込まれていた。
「おいなんでこいつまで巻き込んだ!!」
「シャドウ先生と側にいさせても面倒になるだけじゃないですか……それにエレボスを回収してほしかったので」
「エレボスまでもか!?」
エレボスを連れてきた……ということはつまり、旧エレボスもいる。
ついにその姿が明らかになると、当然ベビーもマゼンタも、シエルまでもが押しのけて肝心な旧エレボスの姿を拝もうとするがさくらはダザクの隣に座り込む。
「いいの?君にとっては宿敵だし、トドメを刺す権利を決める戦いだったはずだけど」
「貴方こそ……」
「僕の場合はそれどころでもないからね、それよりお腹空いちゃったから何か買ってきて」
「能天気な……それに私はもう察していたし、シエルさん達も嫌でも気づくことになります」
ピンクを育てる桃の園の地下深くにエレボスを研究する施設があった。
全部の養成校にこの設備が存在しているわけではないことは金の久遠や、マゼンタから連絡を受けた翠の庭園で学習済みだ。
国家保安部隊の全面的な協力を受けて怪人研究が盛んな藍の波止ならともかく、技術も教育法も下を行く桃の園に何故そんな物がある?その答えは簡単だ……エレボスは女性を由来としている時点で気付くべきだった、エレボスの裏の顔に。
角が生え、肌の色が変わり……完全に人ならざるものになってしまっていても、知る人が見ればすぐに分かる。
旧エレボスはひょっこりとこちらを覗く……あまりにも見知った顔で。
「……こうして見るのははじめてですね、エレボス……いや、ピンク……花岡あやめさん」
自分達の敵である怪人の根源……それは、皆の英雄ゴクレンジャーにしてさくらの血縁者、ずっと探していた現役のピンクであった……。
そして……さくらは地下で見てきたこと、ダザクのこと、スノーホワイトのこと……そしてシャドウのことまで何から何まで話した。
その間にもダザクとあやめは隠れてもらっているが、ダザクは天井に張り付いて呑気に携帯食料を食べている。
「……つまりまあ、その、なんだ?俺たちはエレボスになるために利用されてたのか?」
「密かにって形ではそうかも知れません……私がレボルシオンに付け狙われるのはもっといろんな理由がありそうですが、ピンクの存在する理由としてはこれで確定事項かと」
「……あのエレボスがピンクを模したクローンという可能性はまだあるのか?」
「うーんない、絶対にないね、そもそも僕のようなクローン細胞に伴う怪人の作成なんて初めて実現させたのはスノーホワイトだからね、君のところのエレボスは間違いなく純正な人間を改造したものだね」
「で、でもそしたらそれって……もしかして……」
「なんだ、君たちは分かってたうえで相手をしているものだと思ったけど……気付かなかったのなら僕が改めて伝えよう」
ダザクはあまりにも衝撃的すぎる真実を……恐るべき内容を知っていた、これをゴクレンジャーへの尋問で言わなかったのはそれが普通にそういうものだと思っていたからだ。
エレボスが人間なら、そのエレボスが作り出すとされていた人類とは?それは、あまりにもおぞましすぎて目をそらしたくなる……まるで夢を壊されるかのような恐ろしい内容。
怪人なんてものは存在しない……これまでゴクレンジャーが倒して、自分達が収容して……戦いの中で繰り返し作られていたものは、生きた人間を改造したもの……。
そしてそんなものを作れるのは……資料も沢山残されている、国家保安部隊……。
「スノーホワイトの研究は画期的だった、己の人外じみた遺伝子とエレボス細胞を組み合わせて無から怪人を作れるんだ……君らと違ってね」
「どうしてそれを言わなかった!?」
「エレボスは宇宙人でも不思議生物でもない、ホルモンを介した普通の生き物と大差ない存在だよ?ちょっと考えれば分類的にはその辺の知的生命体と変わらないと分かるものだけど」
「……まあ、実のところ大問題ではありますがそこばかり見ていても仕方ありません、その辺りは相田さんに対処してもらうとして、ですよ」
「まだ何かあるのか?」
「改めてそもそもを考えましょう、怪人の正体が私たちと同じ人間だとしてゴクレンジャーが何故そうしたのかが分からないままです」
ホワイト・レボルシオンの行動理念がエレボスという怪人を利用して私腹を肥やすといかにも古臭いが分かりやすい悪の組織なのはそうだが、ゴクレンジャーは何故怪人を人から作ってまでヒーローになろうとするのか?
全ての人を幸福にする……区別なく人を愛している、レッドはそう言っていたが、『怪人』は人ではないのか?
考えだしたらキリがないが……その鍵を握っていそうな肝心な旧エレボスはというと、ダザク以上に動物のようだ、衰弱しているのか反応が少なく言葉を発するようにも見えない。
「お前もエレボスなんだろう、なんかこう……意思疎通できないのか?」
「じゃあ君は語学の勉強もなしに数千キロ離れた島国の人と会話できる?そんな感じだよ僕にとって」
「じゃあピンクさんに戻すことって出来ないのかなぁ?ほら、あたし思ったんだけどピンクさんとしてやってるなら……ゴクレンジャーとしての姿も見てるよね?テレビとかで」
「そう、そのテレビで見た活躍に関して……マゼンタさん、DVDにも収録されたゴクレンジャーのエピソードで印象に残ってるものありますか?」
「エピソード……そうだな、半年前くらいに見たイエローが運転免許を取る話!めっちゃくちゃに暴走して教官の首を次々と犠牲にして遂には怪人を跳ね飛ばすんだから面白かったよな」
「それ楽しんで見ていいものなのかな?それがどうかしたのかいオリジナル」
「……これを見てください、私が桃の園で発見したビデオと呼ばれるものから手に入れた映像です」
「撮ったのは私だけどな……これだ」
シエルがダビングした映像を繋げてプロジェクター越しに手に入れた秘匿映像を流す。
……その内容は自分たちと異なる戦隊達の映像、しかしとても人間離れしているし意味がわからないが惹かれる、なにせ色も常識も違う、緑は存在せず黒がいるし、ピンクは男性が変身している上に背丈が異様に長い。
しかし面白い、破天荒なレッドとそれをお供として従える未知の戦隊、分かりやすく言えば『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』という作品が部屋全体に大公開されている。
問題はさくらがリモコンを弄って特定のエピソードに変える……ドン40『キケンなあいのり』を見せる、その内容は……マゼンタが話してくれた思い出のエピソードとほぼ同じような内容だった。
それだけではない、別の戦隊の話に変えてみると誰かしら覚えのある内容に引っかかるのだ、特にさくらは昔から色々とDVDを見ているのでよく分かるが……どれもこれも見せかけの武勇伝だったわけだ。
怪人も偽物、経験も偽物……ゴクレンジャーとはいったい何のためにこんなことをしているんだ?
というところで何やら外が騒がしい……エレボスが街に逃げ出してかなり経つしダザクは桃の園に一直線出で来ている、大事になってもおかしくない。
「どうする?僕としてはいつでも帰れる感覚だが……」
「ベビーさんには悪いですが今はゴクレンジャーにも信用できない方が居る状況です、ここは一芝居打ちましょう」
そっとブラインドの隙間から外を覗き込むと、物々しい制服に身を包んだ集団が寮の周囲を完全に包囲していた。
「……やはり、国家保安部隊の人間のようですね」
さくらが呟くと、後ろで息を潜めていたマゼンタやシエルも険しい顔を見せた。
エレボス級――それも、旧世代であるあやめと、新世代のダザクの二体もが脱走しているという緊急事態。このような養成校に大部隊を差し向けるのは当然といえば当然だ。
しかし、不自然な点がある。
「これほどの騒ぎになっているのに……ゴクレンジャーの姿が見えません。それに地下のシャドウ先生も戻ってくる様子がない、刺したにしてももうそろそろ……」
国家保安部隊の練度が高くとも彼らが対応できる怪人のランクはせいぜいゴクレンジャーの下位互換程度のはずだ。
エレボス級を相手にするなら、レッド達本隊が駆けつけるのがセオリーである……ましてや、ここにいるあやめはピンクだ。
「なぁ、ダザク」
壁際に寄りかかっていたシエルが、天井に張り付いて呑気に携帯食料をかじっているダザクを見上げた。
「ホワイト・レボルシオンがお前を迎えに来ることはないのか?」
「ないね」
ダザクは咀嚼しながらあっさりと首を振った。
「エレボスを資源にするあいつらなら、僕に固執するより新しいエレボス人でも作るんじゃないかな」
一芝居打つ……とさくらは言った、問題がある。
ダザクは現状ここに居座る気もなく大人しく帰るつもりらしいのだ……あの独房のことを賃貸ぐらいにしか考えてないのは大した余裕だ。
さくらとしてはその行動に乗る形で盤面を動かしたい。
作戦のなかで手っ取り早いのは「エレボスに人質にされた姿を装う」ことだ。
だが、ダザクの実力が本物であることは身に染みて分かっているもののこれまでの経過報告から見ても彼には決定的にやる気がない……武力行使に出たところで、どれだけ本物らしく反応してくれるか未知数であり、実際ダザクは面倒くさがってやろうともしないだろう。
では、旧エレボスであるあやめはどうか?
最大の脅威であるはずの彼女は、ダザク以上に知能を感じられず簡単な指示すら受け付けそうになかった。ただ虚ろな目の中にも、ダザクのように怪人らしからぬ意志が微かに揺れているようにも見える。彼女を無理に動かすのは危険だ。
では逆に、さくらたちがエレボスを人質に取るという案も考えた。
しかしダザクの言う「ホワイト・レボルシオンが自分を連れ戻さない理由」を鑑みれば、エレボス個人に対する価値は両陣営にとってそこまで高いものではないのだろう……やはり、エレボスが候補生を人質にするという方向性しか考えられない、では、どうするか?
さくらはダザクを見上げた。ダザクは、自分を元にして作られたクローンだ。身長差こそかなり離れているが、そこをクリアしてしまえば……。
「……立場を入れ替えましょう」
数分後。
寮の入り口の扉が乱暴に開け放たれた。
「動くな、ゆっくりと武器を捨てて手を挙げろ」
低く威圧的な声が響く。
立っていたのは、長身を布ですっぽりと覆い隠した『怪人』だった。
その実態は、シエルに肩車をしてもらったさくらだ。さらにダザクの着ていた上着などを何重にも羽織ることで、長身の怪人を装っている。
そして、その足元には、捕らえられた人質――『さくら』がうずくまっていた。
(これ本当に通るのかな。僕、この体勢するの嫌だから早めに終わらせてほしいところだけど……)
さくらの制服を無理やり着込み、窮屈そうに腰を下ろして無理な体勢になり、低身長に見せているダザクが心の中で盛大にぼやいている。顔だけ見ればほぼさくらと同じであるため、体の不自然な部分さえ上手く布で隠せば、遠目からでは気づかれない。
銃口を向けていた国家保安部隊の隊員たちに緊張が走る。
『怪人』に扮したさくらは、声を張り上げて要求を突きつけた。
「要求はただ一つ。桃の園で収監されている全ての怪人を解放しろ」
当然、そんな要求が通るはずもないことは知っている。
だからこそ、部隊が難色を示すのを見計らってから、さくらは多少譲歩したように見せかけた。
「……ならば、私をこの桃の園の生物保管室へ収監しろ。その後、桃の園の怪人を全て屠殺してやる」
もちろん、これも本気ではない。真意を確かめるためだ。
怪人が「人間を改造した」重要な資源であり、ゴクレンジャーの正義を演出するための道具だというのなら、全ての怪人を殺されることは組織にとって大きな損失となるはず。
果たして、ゴクレンジャーは本気で止めに来るのだろうか?
意外にも要求は呑まれ、さくら(怪人)とダザク(人質)は、保安部隊に囲まれながらゆっくりと桃の園の生物保管室へと歩かされた。
ゴクレンジャーが現れる気配はない。
そして、厳重なロックが解除され、生物保管室の扉が開かれた瞬間――。
「え……」
さくらは息を呑み、シエルの肩の上でバランスを崩しそうになった。
収監されているはずの怪人たち。実験体として生かされていたはずの存在。
なんと、自分たちが行動を起こすよりも前に、すべての怪人が事切れていたのだ。
血の匂いと異常な静けさが部屋を支配している。
こんな事が出来る人物は……。
さくらの脳裏に、ただ一人しか思い浮かばなかった。
「上か!!」
シエルがさくらの肩車を解いて咄嗟に足を振り上げてクナイを跳ね返す……信じられない、あんなに力強く貫いたにもかかわらず穴が開いたままシャドウが平然としている。
しかも……その身体中の痕跡から確実にこの怪人たちを葬ってきたのが見て取れる。
「……まさか、本気でエレボスと組んでいるとはね、やはり怪人との共存でも考えたのか」
「シャドウ!貴様生きていたとはな……何の真似だ!!」
「先生であり指導者に向けて貴様はないだろう、シエル!!」
シエルとシャドウは一心乱れぬぶつかり合い、ダザクはさくらを掴んで危険のない綺麗な檻に避難していく。
「極忍法其の伍・太陽の型『黒溶岩』!!」
「極忍法其の拾弐・の型『戊硫外』」
しかしどうしたことか……極忍法でいえばシエルがシャドウを上回っているようにも見える。
シャドウの放つ黒溶岩は地面を灼熱の溶岩に変えるものだがシエルはそれを逆立ちした手で耐えてかかと落としまで決めてしまう。
それだけではない……そこから人差し指だけで器用に逆立ち……初めてシャドウが生徒たちに見せた大技、極忍法其の拾壱・光の型『宙武』だ。
シエル・ローレンスは秋葉蓮蛇で、完全に極忍法をものにしていた。
「す……凄い、シエルさん、いつの間にシャドウ先生を追い越せるくらい技を鍛えたんですか?」
「いや、僕の見立てた感じだと逆だ……君のところの先生は実際は全く極忍法を使ったことがない、特に使い慣れた技というわけでもなかったんだろう」
ダザクはじっくり眺めるとシャドウのは練度が甘い、いかにも凄い技のように見せているので入学したばかりの新入生には派手に感じられるが目が慣れて秋葉蓮蛇で数々の生徒達と実践を積み重ね、脳が覚えていなくても体の反応がしっかり動くシエルはあっさり極忍法のノウハウを会得していた……それはもはや、完全にシャドウのアイデンティティを奪うような光景だった。
「ああ、思い出した……思い出したぞ、私は記憶を閉ざされたな、あの時あの発言をしたから……だが今となっては言うまでもなく核心をついたと断言できる」
「極忍法其の弐拾漆・爆竜の型!!」
シャドウの攻撃を全部受け止めて、シエルはそのまま自身の得意技であるホワイト・ルブニールの体勢へ、ほぼ完璧にシャドウの忍法を上回っているように見える、いざとなったら加勢しようかとさくらは考えているがその必要もないが、シエルは改めてさくらにも聞こえるように話した。
「お前は本当はゴクレンジャーのメンバーでもないな?」
「え?」
シャドウはゴクレンジャーの仲間ではない?
つまりそれはゴクレンジャーに6人目の仲間なんて存在していなくて当然ということになるし、5.9なんて意味でもなかったし、あの黒いスーツもただの自前、それどころか彼は赤の他人にも関わらず極シリーズといった過去の戦隊要素、過去の戦隊の思い出を作っていた。
ここまで浸透させたとなれば単なる無関係ということもないだろう、だがこの人物明らかに普通ではない。
「俺はゴクレンジャーだ、むしろ俺こそゴクレンジャーとして一番よくやっているんだ」
「大した凄みも結果も残さず努力だけを一丁前に自慢するのは典型的な役立たずのように思える、秋葉蓮蛇は確かに優れた部隊だが……それも私以上に優れた特待生達の連携によるものだ」
「ダザク……シャドウ先生がゴクレンジャーじゃないってどういうことか分かります?」
「ああ言ったが、ゴクレンジャーではあるのだろう……シエルくんのやらのニュアンスでは、ゴクレンジャーの寄生虫って感じみたいだけどね」
「違うというのなら答えろ、怪人は人を加工したもの、エレボスの正体はピンク!ブルーが花岡さくらとベビー・キャロルで人体実験をしたことも聞いた、更には貴様とスノーホワイトの関係……ゴクレンジャーのふざけた伝統に携わっていたのなら知っているはずだ、レッドの真の目的を!!」
「レッド……そうか、レッドが何故エレボスと戦い続けるかだな……?聞いてないのかな、レッドは全人類を幸福にさせたい、俺は全面的に支持してる、それだけだ!」
「夢物語のような事を言ってないで本筋を語れと言ってないのが分からないのか!!」
「じゃあ分かるように言ってやるがレッドだってさくらをエレボスにしようとしているんだ!!」
「ああ……はい、それはまあ……想定してました」
「えっっ!?嘘だろ!?」
「嘘じゃないね、だってこの時にも……君はずいぶん冷静だ、僕も同行させてもらうよ」
シャドウが驚いている間も、シエルが攻撃を振り上げている間にも……赤い手、一瞬でレッドがさくらを捕まえて空中へと飛び出していき……ダザクが散歩のようにそれを追いかける、捕まる刹那さくらは自分が持っていたアンプルをシエルへと投げ渡し……シエルは「染色」の一語もためらいもなくその薬を首筋に打ち込んだ。
「私は暴れる、お前も好きにしたらどうだ?……さくら」