戦隊遺伝子……それは単に、スノーホワイトがそう呼称しているだけの代物に過ぎない。
この時代において、それは戦隊の力を継承し、怪人やゴクレンジャーを生み出すためだけに使われてきたからこそ名付けられた名称だが、実際はそんな生半可なものではない。そもそも、スノーホワイトという一人の男の身体から成分を引っ張り出して作られている時点で、常軌を逸しているのだ。
その実態は……670。
実に670種類もの異なるDNAが全て融合され、全く新しい形の存在として再構築されたものが彼の肉体だった。
それだけではない。過去にイエローが捕獲し、解析にかけた怪人たちのDNAデータと照らし合わせても、その全てがスノーホワイトのそれとは一致しない。つまり、彼の肉体には最低でも1370種類のDNAが複雑に絡み合っているということであり、いや……間違いなくその桁だけでも遥かに上をいっているはずだった。
「まさか人間じゃないとでも言うのか……隕石から落ちたエイリアンか、それともおとぎ話と言われた魔法少女時代の産物か!?」
ブルーは、目の前で檻をすり抜けた化け物に向け、抑えきれない戦慄と共に叫んだ。国家保安部隊の科学力をもってしても説明のつかない存在を前に、彼の冷静な思考は限界を迎えていた。
「……魔法少女の時代ってまだ30年くらい前だぞ? あいつらも生きてたらすっかりおばあちゃんか……だが違う。俺は経緯は複雑だが、簡潔に言うと、大昔から人体研究してるやつはいたってことだよ」
スノーホワイトは、ひらひらと手を振りながら飄々と答える。
「……シャドウか!」
その名が出た瞬間、研究室の空気が一段と冷え込んだ。
ゴクレンジャー達にもエレボスにも極めて無縁な話ではあるが、シャドウもまた自らの狂気じみた特定の思想のために歴史の裏で数々の存在を生み出してきた男だという。
……その最後の失敗作こそが、他ならぬスノーホワイト自身。
現在こそ劣化し、こうして人間に近い振る舞いに収まっているが、かつての彼は不老不死の肉体を持ち、どんな姿にでも自在に形を変えることができた、史上最悪の犯罪者と呼ばれる存在だったのだ。
「研究者が己の成果を発表するときは自慢か時間稼ぎ……俺の場合は後者」
スノーホワイトの視線の先には、両手に握らされた二つのアンプルを見つめ、小刻みに震えているベビー・キャロルがいた。
「何!? まさかお前、あれが成功すると本気で思っているのか?」
ブルーが吠える。
二つの戦隊遺伝子を同時に服用するなど常人の発想なら自殺行為に等しい。
事前に複数回打ち込まれ、徐々に体を慣らしてあるさくらや、戦隊遺伝子の中でも特殊な『ドンブラザーズ』を一発打ち込み、変質した部分もほぼ瞳だけと少ないシエルとは勝手が違うのだ。
極活法による崩壊と再生を繰り返してきたとはいえ、ベビーの肉体が耐えられる保証はどこにもない。
しかし、スノーホワイトは確信していた。……自分が優れた科学者であると、向こうが信じ切っていることを。そして、目の前の少女の執念を。
「コンテンツショックの影響で近頃の大人は戦隊の知識が乏しいから、特別に俺が教えよう……まだ戦隊という概念がテレビにしか無かった頃……俺は番組と同じ数、49種類の戦隊遺伝子を作った」
「そのハッタリには乗らんぞ! ゴクレンジャーを作る上で戦隊の資料に一通り目は通した、その時期のスーパー戦隊は50種類だ!」
ブルーの反論に、スノーホワイトはにやりと笑みを深めた。
「そう、厄介なことに1つだけ例外があるんだよ……ほんの1回だけ、一度の番組に二組の戦隊が出てきたことがあった」
快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー。
極シリーズにおける『42番目』を表すその作品は、特異な構成をしていた。特徴となるのは陣営が戦隊と悪の組織の存在だけではない。
孤高に失われたものを取り戻すため、時にクレバーな手段を取る『快盗』と、世界の平和を守り秩序に従って悪を処罰する『警察』
2人のレッドは、敵組織を倒したいという意思は同じながらも、全く異なる正義の形を持つがゆえに対立して競い合うことになるという物語だ。
だから、ぴったり50枠にはならないのである、ゴジュウジャーなのに50番目にならなかったりとか。
「そしてね、俺はどうしてもルパンレンジャーの戦隊遺伝子が作れなかったんだ。パトレンジャーが好きだったからね」
どちらが好きになっても構わない、好きな方を支持すればいい……そんな自由な作品だったからこそ、スノーホワイトはつい、警察という秩序側に立つパトレンジャーの方を贔屓にしてしまった……作っている最中、何度も
その結果、ルパンレンジャーの遺伝子の出来栄えにどうしても納得がいかず、未完成のまま設計図だけ放置していたのだ。
「だがアンタは真面目に作ってくれた。戦隊遺伝子を国家保安部隊が研究して、何個も複製して……自分が全部作っていないにも関わらず、全種類を再現した。おかげで俺の作れなかった、混じり気のないルパンレンジャーの戦隊遺伝子が揃ったんだ」
気付かれなかったのは、薬の名称がほぼ一緒だったこともあるだろう。まさか、ちらの戦隊も略称にすれば『K1-R(魁利/圭一郎)』になるとは、スノーホワイト自身も驚いたが、それが奇跡的な盲点となった。
「2つの戦隊は、2つの薬を同時に服用することでようやく形になる。そしてその結果は……極活法以上」
スノーホワイトの言葉が終わるか終わらないかの瞬間、ベビー・キャロルの身体が発光した。
悲鳴はない。だが、その身体がぐにゃりと歪み、分かれる……いや違う、これは千切れているのではない。
細胞分裂。毛髪から足の爪に至るまで、全身の細胞が爆発的な速度で再構築されていく。
そして現れたのは、一つではない。三つの身体だ。
「な、なんだと……!?」
ブルーが絶句する。
「俺は愛に準ずるタイプであり、勝つために数を増やすタイプなんだ……そして女の愛って重いぞ、3倍返しにされるくらいにはな!!」
成功したルパンレンジャーの戦隊遺伝子の能力。それは……人体を完璧に複製し、擬似的に分身能力を再現すること。
しかしただ分身するだけでは、いずれ肉体は崩壊してしまう。分身後の肉体を元通り一つに復元するには、パトレンジャーの能力である『人体融合』がなくてはならないのだ。
対立する2つの力が、一つの肉体の中で手を取り合って、初めてこの戦隊遺伝子は完成と言える。
土煙が完全に晴れたラボの跡地で、三人のベビー・キャロルが、かつて愛したブルーを冷ややかに見据えていた。
「今だ相田!!」
しかもそれだけではない、ここまでの行動ですら壮大な前準備……分身したベビーの股下をすり抜けて相田コバルトが走り込んできた、予測はできたがタイミングまで掴めなかった特待生の裏切り、ブルーに送られたこれまでの衝撃的な発言も思考を遅らせ油断させるためのもの……非常電源のスイッチを押すタイミングが遅れ、シャッターが下りるギリギリで通り抜けられてしまった。
「おお危ねえ危ねえ、ちょっと遅れたら自慢の顔が台無しだったでねえか」
「裏切るつもりか相田!!」
「わりぃがオラは平和がどうとか考えるより可愛こちゃんの背中追いかけるのが好きなんでな……あんだろ!!ワクチンが!!」
ゴクレンジャーのピンクとエレボスがイコールである場合、当然ピンクとしての姿も社会に見せなくてはならない。
しかしそれはテレビの中の偶像だけではボロが出る、最低限どうしても生で現役ピンクの姿を見せなければ……なので当然存在する、エレボス化を抑制するためのワクチン、表舞台に建つための姿。
「スノーホワイト!!ここまでオラを手助けしてくれた仲間を一次的に貸す!!全員ブルーの優秀な候補生だ!一人でも失わせたら承知しねえ!!」
「……待機場所は?」
「緊急出動口だ、いつでも全員行ける」
「……そうだな、ブルーのことはベビーに任せて問題なさそうだ」
「逃がすと思っているのか!!イエロー!すぐに金の久遠から名月を全機出撃しろ!!俺の所有している対ウィドー級決戦兵器『暴蓮王二』も引っ張り出せ!!」
「失わせたら承知しねえだと!!!当たり前だろうが!!!僕だって嫌だ!!!もう嫌だよ!!!たった一人で生き残るのは!!」
スノーホワイトは片腕が液体のようにぐんぐんと伸びて天井を突き破りそのまま脱出、藍の波止に向かっていきブルーもそれを掴もうとするが……3人のベビーがそれを寄せ付けない。
「どいつも……こいつも……民衆はお前たちの行いを悪として罰することだろう、ゴクレンジャーの正義は覆らない」
「あの小娘を始末したら次は貴様だ相田!!」
「やれるもんならやってみたらええ、オラが知る限りあんな強くてべっぴんさん見たことねえ」
「なめるな……俺には極活法はない、だが奴が教えてくれたじゃないか、この薬は2つ同時に使うということを……染色!!」
ブルーは複製していた戦隊遺伝子……先ほどと同じルパンレンジャーとパトレンジャーの遺伝子を同時に首筋に打ち込んで……。
「ブルー様……ごめんね、あたし達どうしてもやるから」
――
「こっち!!スノーさんこっちです!!」
空を飛ぶと声がするので更に腕を伸ばしてロープウェイを作り急降下、確かに相田が指定した場所に沢山の生徒達が見える。
青色のスーツを着ているので確かにみんな藍の波止の生徒なのだろう。
「お前んところの先輩は無事にエレボスのワクチンを回収する段階というところだ」
「すげぇ……相田のやつ本当にやりやがった!俺たちでも秘密研究所に入ることすら出来なかったというのに」
「……俺がこんな事言うのもなんだが良かったのか?ブルーを裏切る形になるし、相田に従わなかったらなあなあになってたかもしれないんだぞ」
「ブルーやゴクレンジャーの今のやり方に納得がいかないって奴はうちの学校にはいくらでもいます……その中で相田が結果を出して特待生に選ばれた、それだけのことです」
「立場は別でも相田も俺たちも志を共にする仲間ってわけだ」
「……おっと危ない」
話してる最中でも容赦なく機関銃の嵐、スノーホワイトは体を広げて全部受け止める、真っ黒にコーティングされた表皮が軽々しく弾丸を受け止めて全員の攻撃を食い止める。
「スノーさん!?」
「その程度じゃかすり傷にもならん……まあ、今回は身体が上手く動いてラッキーって感じだが状況は!?」
「あっ……あれを!!」
候補生の一人が望遠鏡で除くと……そこには、あのホワイト・レボルシオンのアジトだった白い戦闘機のような乗り物……ではない、変形して巨大な人型ロボットに変形する。
喪失前のスノーホワイトに金の久遠に潜入させ、データを回収させ開発させた……『スカイザー』だ、あのなかに乗っているのはイエロー……しかもそれだけではない。
数多くの戦闘機、戦車、爆撃機の大群、あれが全部襲い掛かれば周囲が木っ端微塵どころではない。
金の久遠が総動員でブルーを潰しに来た……。
「あ……あんな数無茶苦茶だ!!国家保安部隊の認可降りてるのかよ!?」
「戦隊といえば巨大ロボだろとは思っていたが、まさか蹂躙に使われるとはな……」
「まさかとは思うが過去の戦隊に巨大ロボで踏み潰すなんてことはないよな!?」
「戦隊の歴史舐めんな普通にあるよ!!……しかしあれはちょっと面倒だ」
エレボスの仕様上巨大ロボなんて必要ないのだがまさか引っ張り出されるとは思わなかった……しかし、出てきたものは仕方ないと腹をくくり……こういう時、自分は人に頼ってもいいと誰かに言われたことを思い出して行動する。
「……君らさ、ロボットの操縦ってやったことあるか?」
「戦車ならともかくそっちの方は……だがハッキングだったら!」
「充分だ、むしろこの手のやつは素人なら大人数かけてでも動かすべきだろう……ブルーの諸君……ちょっとした冒険してみる勇気はあるか!?」
「押忍!!」
「いい返事だ!スクランブル!ゴーゴー!」
スノーホワイトが合図を送ると、自分自身がレーダーとなり5種類の乗り物がスクランブル。
次々と乗り込んでいき……残ったスノーホワイトは大きく広がって合体の繋ぎ目になる。
「そこのボタンを押せ!」
『合体シフトオン!ダンプ!フォーミュラ!ジャイロ!ドーザー!マリン!』
「ボウケンフォーメーション!!」
スノーホワイトが中心部となり、5つの白いメカが集まって変形……1つに集まる。
スノーホワイトは実を言えばバリブルーンからテガソードまで全部作りたいと思っていた、集める時には全部揃えるタイプのオタクだったからだ。
しかし時間がなかったので唯一チューンナップが完成して誰でも変形合体まで至るように用意したのが……『轟轟戦隊ボウケンジャー』に出てくるものだ。
中に乗り込んているブルー候補生たちは説明書を読んでぶっつけ本番で……ダイボウケンを完成させた!!
「よっし!!見事だ……一応周りには気をつけろよ!市民を踏み潰すとか洒落にならん!」
「ん……周りって言ったら、今空を何か通らなかったか?」
「え?俺はロボ越しだからよく見えるな……ああ!?あいつは確かあの番組にいたムキムキのやつ!?」
――
「ベビーは研究所、さくらも連れ去られて……ついさっきには巨大なロボットまで通りかかった、間違いなく面倒なことが起きている!翠の庭園が危ない!!」
話を聞いてから……さくら達はこれまでバラバラに行動していることになる、振り返ってみよう。
花岡さくらはレッドに連れて行かれて、それを追いかけたダザクと共に交戦中。
シエル・ローレンスは大量のアルターを作り出して各地に現在の情報を広げていき金の久遠へ出発。ベビーは国家保安部隊の研究所へブルーと交戦し、その間に相田コバルトがエレボスを連れてワクチンを捜索。
イエローの方も戦闘に入ったとみていいだろう……ここまで大事になると医療施設・託児施設を兼ねている翠の庭園が一番危険になると判断して魔法の箒を全速力で飛ばしているわけだ。
(あいつらはゴクレンジャーを裏切ったことになる……存在がバレて指名手配だのされるのも時間の問題だろうな、俺にはゴクレンジャーの平和とか全然よくわかんねーけど!街がとんでもねえことになることだけは避けたい……極魔法でどこまで出来るかわからないが、あいつらだってマジなんだ!俺は俺の出来ることを通す!)
全速力で箒に乗ってすぐさまグリーン養成校の翠の庭園へ到着、多少強引な手を使うが極魔法を使うことに。
「極魔法の19ページ!レオン・オーレラ!!」
マゼンタが呪文を唱えると翠の庭園全体にピラミッド型の結界が広がる……この結界でどれだけ攻撃を補えるかは考えていないが何もしないよりはいい。
何より……一応名目上は事情を知らない候補生が出来ることでいえばこの程度だろうと腰を下ろすが……ゆっくりしていられないようだ。
「……」
結界の上で佇む男……間違いない、ゴクレンジャーのグリーンだ。
普通にやったら勝てないし、何より本来なら喧嘩を売る必要性もない相手だ……さくらやシエル達が正面から挑みに行くのが異常であり、それが正しい反応。
しかし……マゼンタの場合はそれらともまた異なった。
「ゴクレンジャー、こう見えても俺は本気でファンだったしなりたいと思ったんだぜ……?レッドもブルーもイエローも、当然グリーンにも憧れてさ……ここで魔法の勉強した時楽しかったぞ?……なのに、なんで全部見せかけなんだ?オレ達はずっと本物だと思って教えられてきた、いや……いいんだよ見せかけでも、子供に夢を与えることは良いことだってあの人も言ってた!!」
「なのにその思い出すら他所から適当に拝借したものってどういうことだよ!!歴史からなかったことになったからって自分達がオリジナルだったかのように見せかけて、何がしたいんだ!!」
「…………」
「なんで何も言わねえんだ!!俺はなあ!さくらやシエルと違って特別恨みはないし、ベビーのやつみたいに特定個人に愛着があったわけでもない……だからこそ俺は!!こんなことをしていたゴクレンジャーが許せねえ!!隠してたってことは後ろめたいと思ってたんだろうが!!」
「…………」
「こんなときにでもだんまりかよグリーンは!!あいつらには悪いが……俺も俺で鬱憤晴らさせてもらう!!」
かくして、マゼンタはただ自分の怒りの為にグリーンに勝負を挑み……いつしかさくらの関係者とゴクレンジャーによる総力戦が始まろうとしていた!!
そしてその頃、国家保安部隊の研究所深く……様々な資料と薬を手当たり次第に漁っている相田、この時に国家保安部隊が作り出した様々な資料を見て、男性が将来生まれなくなるために女性だけで生きていく未来のことまで知ることになる。
おまけにエレボスワクチンの情報は見つかったもののそのほとんどが破壊されている、もはやこのピンクも用済みと言わんばかりに……。
「ひでぇもんだが……なんとか2個見つかったな、後は……そうだ、スノーホワイトのやつにでも作るように言っときゃ無限に用意できっか、んじゃちょっと我慢してくれ……」
1つポケットに仕舞い、もう1つをエレボスに打ち込むと……ワクチンが即座に効いていくのか肌の色が常人のものに戻り、角も少しずつ萎んで、自分もよく知るゴクレンジャーの現役ピンク……花岡あやめの姿に戻っていった。
「……ん?貴方は確か、ブルーの特待生の……」
「話は後だ、今とんでもねえことになってるから避難を……つっても何処に行こう」
ここから先待ってるのは逃避行……そもそも肝心な話として、あやめが自分達に協力してくれる保証は何処にも無い、彼女はエレボスとして使い潰されていた以上にピンクであり、あの花岡家なのだから……そうだ、相田はまだあの関係性について聞いていないと、聞くことにした。
「なあ、こんな時になんだと思うが……最近オラが目をかけてる子に花岡さくらってのが桃の園に来たんだ、無関係じゃねえな?」
「さくら……そう、あの子に会ったのね、そしてエレボスウイルスを持ち、残り4人からの連絡も取れない……状況はおおよそ理解したわ、その上で貴方はさくらのことを知りたいと見る、なら……貴方もゴクレンジャーならそれ相応の覚悟が必要じゃない?」
「……ああー、やっぱそうなっちまうか、オラはなるべく穏便に脱出したかったが」