(第三の舞台、藍の波止前記念公園より――)
轟音と爆炎が、空と大地を激しく揺るがしていた。
数十人の候補生たちが決死の並列ハッキングによって操る白き巨人『ダイボウケン』は、迫り来る無数の無人戦闘機や戦車の大群――それに合わせたスカイザーの猛攻に対し、防戦一方を強いられていた。
イエローを輩出する養成校『金の久遠』が誇る突飛した科学技術は個々の威力こそ未だダイボウケンには及ばないものの、最大の脅威はその「圧倒的な物量」にあった。撃ち落としても、叩き潰しても、次から次へと際限なく湧いてくるのだ。
対するこちらは、未知の巨大ロボットを無理やり稼働させている綱渡りの状況。
迎撃にリソースを割き続ければ、いずれ限界を迎えるのは明白だった。
「それで、本当なのか……!? イエロー達の正体が、国家保安部隊が作り出したロボットだっていうのは!」
ダイボウケンの臨時コックピット内に、候補生の一人が焦燥に駆られた声を響かせる。
「ああ……ちょっと前に学校の地下にある工場で似たようなのを沢山見てきたからな、十中八九そこに乗ってる現役のイエローもそうだろう」
スノーホワイトがかつて初めてアダザクラと対峙した際、偶然にも知ってしまった事実。
『金の久遠』は表向きこそ工学的なエリートを育てる養成校とされているが、そこで教育を受けているイエロー候補生たちは、その全てが機械仕掛けのロボットだった。
だからこそこれほどまでに無慈悲に兵器を使い潰せる。兵器だけではない、パイロットの命すらも「量産品」として消費できるからだ。
その時、コンソールに向かっていたブルー候補生の一人が弾かれたように顔を上げた。
「ビンゴだ! 国家保安部隊の機密領域、ハッキング成功……イエローのデータ、抜けたぞ!」
モニターに無数の文字列が滝のように流れ、ひとつのファイルが展開される。
そこにあったのは『名月(めいげつ)』というプロジェクト名。
それは、国家保安部隊がエレボスに対抗すべく作り上げた最高傑作の人型兵器のコードネームだった。
一人の女性の脳波をベースに、実に35万回以上のデバッグと人間観察を繰り返し、極限まで最適化された存在。
プログラムされた命令すらたまに寄せ付けず、自らの意思で行動する、もはや「生物」に等しい自律型兵器。
幾度もの改良を経て、実戦投入級として現在のゴクレンジャー・イエローの座に就いているのがその完成形である『名月60号』だという。
「冗談じゃないぞ……金の久遠に配備されてる極武器(ウェポン)は、5種類ある中でも一番実用性が高いって噂だ。もし、あのアンドロイドが直接乗り込んできてそれを使われたら、俺たちに勝ち目はない!」
絶望的な状況下で、一人の候補生が通信越しに呼びかけた。
「相田から聞いたが、お前も一個だけ持ってるんだよな!? 極武器を!」
視線の先、あるいは通信の向こう側にいるのは、元ホワイト・レボルシオンの幹部、スノーホワイト。彼は少し気まずそうに、手元の得物を撫でた。
「ああ〜……記憶喪失前に作ったみたいだな。極武器・Code46、妖刀『脳戸(のうど)』。俺専用に改造されてたから少し手を加えて作り直したけど……これ、他の奴に渡すのはちょっとな……」
スノーホワイトが手にするCode46は、一見するとただの模造刀に見えるが、その本質は妖刀の概念を電子的に再現した恐るべき代物だった。
流れるデータで構成された刃を持ち時に実体を得て自律的に動く意志のある刀。
それは、記憶が無くとも本能のままに怪人とは異なるアプローチでドンムラサメという「新たな生命体」を創り出そうとした結果、偶然生まれてしまった人工生物のような存在だった。
元々備わっていた人格の憑依と無差別な人斬り衝動こそスノーホワイトが消去していたが、それでも他人が振り回すには危険すぎるシロモノだ。
しかし、この刀の「全てが電子情報で構成された意志を持つ存在」という特性が、ひとつの奇策を生み出していた。
「相手が全て機械とシステムで動いているなら、大元を絶つしかない。『金の久遠』のメインシステムそのものを完全に停止させる、国家保安部隊の根本を砕けるチャンスではある……あるけどまずい選択でもある」
スノーホワイトの提案は、あまりにも極端だった。
この妖刀『脳戸』を、超強力な『トロイの木馬』として作り替え、システムの根源に直接打ち込む。そうすれば、イエローの機能はおろか、スカイザーの大群も全て沈黙させることができる。
だが、口で言うほど簡単な話ではない。技術的な問題ではなく、その「代償」があまりにも大きすぎるのだ。
『金の久遠』の力は、単なる兵器工場に留まらない。
巨大なプラント施設から量産されているのは、イエローの代替機や極武器だけではなく、市民の生活を支える日用品、最新の電化製品、果ては加工食品に至るまで、ありとあらゆるインフラが同じ施設で賄われている。
つまり、金の久遠をシステムダウンさせることはこの国のインフラの大部分を完全に破壊し、麻痺させることを意味する。
数千、数万という人間の生活と命が、一瞬にして天秤にかけられる。あまりにも重すぎる選択だった。
コックピットに沈黙が落ちる。正義のために立ち上がったはずの彼らが、市民の生活を壊していいのか。
その重苦しい葛藤を切り裂くように、スノーホワイトが吠えた。
「……3年! 3年だけでいい!」
彼の目には、かつて組織の幹部として暗躍していた頃の冷徹さと、今の彼女が持つ不屈の意志が混ざり合っていた。
「すぐに出来るものじゃないが、俺なら絶対に代替案を作れる! 腐っても、記憶が無かったとしても……俺は新国家保安部隊、ホワイト・レボルシオンの人間だったんだ! インフラの埋め合わせくらい、死に物狂いでやってやる!」
その言葉は、迷いを断ち切る確かな「覚悟」だった。
国を敵に回し、生活を壊す泥を被ってでも、今の狂ったシステムを止める。
その宣言と共に、スノーホワイトは妖刀『脳戸』を強く握り直した。刃が電子の瞬きを放ち、来るべき反撃の時を待ちわびるように、低く鋭い駆動音を鳴らした。
「目的地は金の久遠!合図に合わせてボウケンフォーメーションを解除する!マリン室にいるブルー候補席は至急待避して別ビークルに乗るんだ……行くぞ!!フォーメーション!」
スカイザーの攻撃を避けるようにダイボウケンはバラバラになり、ボウケンマリンを犠牲にして4つの車両に分かれて金の久遠を目指す。
しかし候補生達はただならぬ予感を感じ取っていた……それは相田との連絡のために用意していた連絡装置……その反応は相田の心臓と連結しているのだが。
「相田の生命反応がちょっとずつだが小さくなっていく……あいつ、本当にプランCをやるつもりか!?」
「プランC!?なんだよそれ」
……相田コバルトがピンクを相手に一世一代の命がけのショーを展開しているが、その大まかな台本を候補生達は聞いている、本当に勝てないと悟った際の同時打ちに持ち込むプランC。
相田は見えない壁を作り出す装置を持っており、それによりバリアを展開させるが……この中に自分とピンクを閉じこめることによって確実に窒息死させ、ワクチンの製造も邪魔されず行えるというもの。
「……そんなもん命を捨ててるようなものじゃないか」
止めたい、なんとしても止めに行きたい……だがそうもいられない、脳戸を持っているのは自分だからこそ一番金の久遠に向かうことを辞めてはいけない。
だが、さらなる試練がスノーホワイトを襲う……相田コバルトの様子を確認しようとカメラをハッキングしてみると、2人の会話が聞こえるではないか。
「相田コバルト君……貴方の姉は怪人になったのね、姉ということは桃の園に収容されて……ついさっき連絡が入ったわ、桃の園の怪人はシャドウが皆殺しにした」
「なっ……」
「……相田コバルトの姉が、怪人にされて桃の園に?いや、待て……可能性としては……ありえる、まさか……まさか」
待て、全てシャドウが悪いわけではない……それは自分が散々経験していたことだ。
奴がヒーローで、自分が悪……そうして作られた。
そして今回は明確に被害を出している……溢れ出した感情をこぼすように、相田に電話で伝えた。
「……違う、お前の姉を殺したのは……俺だ、情報を調べてみたら、俺は初めての任務で怪人を収容していた地下室の半分を破壊していた……それを作り出したのは、記憶が無くとも俺だ」
本当にそうだという確証はない、しかし……自分が起こしたことにケジメをつけなくてはならない、見た目に反して自分は花岡さくら達のような潔白な人間ではないからだ。
しかし……世の中には因果応報というものがある、運命の悪戯は悪気が無かったで見逃してくれるほど甘くはない。
もう1つ連絡が入る……それは、本来ならばよほど何か起きない限り連絡をよこすことなどない……スノーホワイトが記憶を持っていた際の拠点からだった。
「何……Soraが……滅ぶ!?」
あの男はどこまで手を尽くしたのか……候補生達は何が起きているのかわからないがそれが普通の反応、時間がないのでスノーホワイトは簡潔に、自分にとっての帰り道を無くしたとだけ答える。
つまり後がないのはスノーホワイトも同じ、死んでも問題ないとして動いていた彼は一転して安全運転に変わる。
(Soraがもうしばらくして壊滅するってことは……俺、ちゃんと時間ワープできるんだよな?多分記憶喪失になるのは変わらないが……下手したら今後戻らない?いや、バックアップは大丈夫か……それよりも心配なのはアイツだ……マガイモノ達の教育係をさせたアイツはどうしてんのか……いや、考えるのはよそう)
(俺はここにいるやつらの家族を奪ったのかもしれないんだ、そんなやつが誰かを心配する資格なんてものはない……)
「メソメソするのやめなさい!!」
「……え、あの!?スノーホワイトさん!なんか槍みたいなのが飛んできてるんですけど!?」
「えっ槍?よしわかった俺が受け止めるから運転代われ」
なんと考え中にボウケンダンプ目掛けて真っ黒な槍が飛んで来ているではないか、極武器かと思って一度車内に登ってスノーホワイトは受け止めようとするが……よく見るとその武器には見覚えがある、そう……確かついさっき連想したことがあるような……。
「あーーっ!!『渇望の槍』!?なんであいつの武器がここに……」
「いい加減……気付きなさいよバカ!!」
「うお危ねえ!!その声……嘘だろ!?お前か!?」
まさに『あいつ』、スノーホワイトが考えてたそいつの声が、そいつの持っている武器から聞こえてくる。
簡潔に世界観に合わせて言うと、スノーホワイトの大昔の大事な存在を元にした奴、それが今話しかけている槍だ。
「……今ちょっと忙しいから省略しながら語ってほしいんだけど、お前なんでそんなことになってるわけ?」
「私たちの本拠地が例の男に潰されて……なんとかバラバラになって貴方の作ったマガイモノは全世界に配備したけど、いざ私が貴方のところ行こうとしたらこんな形になって」
「そうか……多分転生みたいなノリで極武器になってしまったんだな」
救う神あれば拾う神あり、そして拾う神は常に自分でありリサイクルの精神、そうこうしてもいられないのでスノーホワイトは渇望の槍に事情を説明すると、聞くだけ聞いて別方向へと飛んでいってしまう。
「なんだったんすかあれ」
「世界が平和になった時にでも語り明かしてやるよ……戦隊オタクのあいつのことだ、相田を助けてくれるだろう……」
「相田を?そいつにしてもお前にしてもなんでそこまでしてくれるんだ?さっきのことで借りを返したいってわけでも……ないんだよな」
「何、ちょっとしたワガママだよ……俺が嫌だから、俺にとって俺以外が死なれるのが嫌だから」
もう死んでほしくない、もう一人になりたくない。
もう自分だけになりたくない。
だから自分はこの刀やあの槍を作った、自分は今シャドウのいる世界に来た……そして、誰一人として死なせないように努力していた。
その為なら死んでも困らないように対策もしていたが、その上を行くようだ。
そういえば渇望の槍から聞いてなかったが、この状態で万が一自分が死んでしまったらどうなってしまうのだろうか?
今回の肉体は少し怪人化しているのか従来に近い形になっているが、今回記憶喪失になって操られていたこともあり肉体が人間の時何があるか分からない。
その時に亡くなるようなことがあれば、Soraのバックアップが無いのに自分はどうなるのか。
(いや、あるいは俺もそうなったほうが楽かもしれないのか……?いや待て、俺が楽になってどうするんだよ、俺はあいつの作り替えた全作品乗り込んで止めることが存在意義だ……)
「……今が3回目で、あと50000くらいかな……」
「え?」
「いや、こっちの話だ……そろそろ金の久遠が見えてくる頃合いだな」
車を走らせて目的の場所へ辿り着くが、こうしているあいだに……一つの考えがよぎる。
Soraはもう使えない……今の環境では。しかし考えてみればマシンスペックが高くて大きくて扱いやすいところがあったではないか。
定期的な記憶喪失までは直らないが、上手く行けば今まで以上に楽に活動できる……無論、シャドウに常に狙われるリスクも伴うが現在のように丸腰当然の状態よりはマシかもしれない。
だが……インフラ環境は三年どころか一分で立て直せそうだ。
「予定変更!予備のボウケンマリンをスクランブルして再度ダイボウケンに合体だ……今回はレスキュードリル、ショベル、ミキサー、クレーンも来い!」
スノーホワイトは急遽予定を変えて、金の久遠を破壊するのではなくそのままシステムを上書きして乗っ取ることを選択、スカイザーをガチで寄せ付けないようにするために予備パーツやサブ車両まで一斉に引っ張り出して、今後は強化版である『スーパーダイボウケン』を使い、本格的に足止めする。
……破壊にしても乗っ取りにしても、この時代で自分に出来ることはここまでだろう。
金の久遠の地下の行き方はよく覚えているが、手っ取り早い方法を思いついたのでわざと丸腰になり、戦車を続々と寄せ付けていく。
「おいあんた危ねえぞ!」
「よそ見してる場合か!ダイボウケンはくれてやるから好きにしな!!」
……久しぶりに抜いた愛刀、ドクロ丸。
サビ一つない自分好みの刀は本来、切っても生かし続ける刀だったが表面に塗られる薬のような成分は一切なくなっている。
これさえなければ……ドクロ丸はただのめちゃくちゃ切れるとてつもなく強い刀に早変わり、迫りくる戦車を10枚おろしにまとめて刻んで爆破させ、大穴を開けるが数十年越しにメンテナンスもせずとんでもないことをさせたので刀身がぽっきり折れてしまうが、そのへんのスクラップ加工機に投げ捨てる。
(ありがとな、ドクロ丸……僕の思い出の一つ)
地下工場に辿り着いた後手っ取り早くことを済ませる為に工場内部に……潜入するまでもない。
このまま機械に張り付いて工場全体をSoraでハッキングさせ、余計なシステムを消去し一体化させる。
これによって仮想空間形成技術を維持したまま量産体制をコントロールしてSoraによって生活環境を意のままに操ることが出来る。
もちろん、イエローの生産を止めてしまうことも出来るし国家保安部隊は手出しが出来ない、真の意味でホワイト・レボルシオンが新国家保安部隊となるのだ。
「ゼレット……あと誰だっけ残り……まあいいや、あいつらも野心だけでよくもここまでやれたもんだ」
スノーホワイトはまだずっと持っていたレボルシオンのスマホを今度は切り離した右腕ごと工場に寄生させる、これによって金の久遠を完全に『奴』の支配下に置く。
「……久しぶりですね、カガミさん」
『おはようございますスノーホワイト様、デイリーを確認したところ30日分のタスクが溜まっています、職務の放置により70%の給与マイナスです』
「いいんだ、もう俺にお金は必要ない……それよりももっとすごい仕事をしてもらいたいんだカガミさん」
『……記憶の再生を確認、私の役目が終了したことを確認』
「バカ言え、お前はこれから頑張ってもらわないと……困るんですよ」
『私はエレボス様によってホワイト・レボルシオンが怪人の支配する地球を作るために開発されました、それ以上でもそれ以下でもありません』
「……そのエレボス様ってのがゴクレンジャーの中にいるんだろ?なら、お前の役目はここからなんだ……そして、僕のなかで罪滅ぼしをするためには一回ここで亡くならないといけない」
『……』
「カガミよカガミ、カガミさん……この世を統治するに相応しい存在は誰?」
「私の答えは変わらず、エレボス様でございます」
「そうか」
『スノーホワイト様、ゴクレンジャーのイエローが接近中です』
「問題はない……俺の命はそこまで重要視してないし、3秒後にイエロー生産機能を停止させろ」
『了解、3 2 1……名月の全機能をシャットダウン、システムを掌握しました』
壁をぶち破りスカイザーが手を伸ばすが……握り潰される寸前でスカイザーの動きが止まり……空の方でも戦闘機や戦車が次々と停止していることだろう。
これからこの工場を、スノーホワイト及びSoraの支配下に置く。
「……カガミさん、僕はこれから融合するから……あとは頼む、名月61号、最後のイエローとして……生きてくれ……」