そしてコントロールエリアでは一気に時間が進んで、グリーン、イエロー、ピンクの戦闘が既に終わっている頃。
ベビー・キャロルはというと3人揃って逃走して一気に地下から這い上がり、研究所へと登って……相田のいる国家保安部隊秘密研究所の16ラボへと辿り着く。
「あっピンクさん!!ちょっと全員力貸して!!3人でやれば助けられそう!」
ベビー達は透明なバリアを手で掴んで『そこにある』ことを瞬時に理解して3人で息を合わせて空気を掴んで引き裂くという科学を超えた芸当を行い、そのまま2人であやめと相田を引っ張り出し、そのままえげつない圧力で心臓マッサージを行い……相田がちょっと血を吐いたが目を開く。
「うおっ頭がヤベェ美女が3人見えるべ」
「あっじゃあ一人になる」
細胞に限界が来たベビーは分裂した肉体を再度結合させて元の一人のベビー・キャロルに戻り、相田とピンクをまとめて担ぎ上げながら走る。
こうしている間にも体内に酸素が蓄積されていく相田は少しずつ状況を理解していく。
「あ……ああ、ベビーちゃんか、まさか助かるとはなぁ……あん時とは逆になっちまった」
「ピンクさんと戦ったの?」
「いんやてんで相手にならんかった、もしかしたら今までの訓練やゴクレンジャーで一番強いかもしんねぇ……って、そっちこそブルーはどうなった?倒せたか?」
「そ……それなんだけど……ちょっと怖いことになって!ブルー様化け物になっちゃったの!」
そう言ってる間にも、なんとベビーの真横から肉々しい不気味な触手が伸びてきて間一髪で相田も回避する……あれはエレボスで作られた怪人ではない、あまりにも大きすぎる。
ましてや、レボルシオンや国家保安部隊が隠していた切り札ということでもなさそうだ。
いつも手元にある怪人の発信機は強く反応している。
「簡潔に言ってくれ、ブルーに一体何があった?」
「あたしみたいに戦隊遺伝子を2個打ち込んだら……あちこちの怪人全部と合体し始めてあんなことに」
「……助った、何あったかすぐにさ分かった」
つまり、戦隊遺伝子を間違えている……。
ベビー・キャロルがあの時受け取った戦隊遺伝子はルパンレンジャーとパトレンジャーの遺伝子を両方服用すふことで成立したのだが、問題は遺伝子の銘柄が両方同じ名前ということ。
細胞分裂による分身を行うルパンレンジャーと、タイムリミットの際に結合して崩壊を食い止めるパトレンジャー。
しかしブルーは恐らく……間違えて2つともパトレンジャーの遺伝子を打ち込んでしまった、異常活性した肉体融合によって辺り一面の存在を取り込んでいき、さながらゾンビ映画のクライマックスのように怪物と成り果てたようだ。
藍の波止は怪人の研究が進んでおり、数多くの生物室と数え切れないほどの捕獲された怪人が収容されている……それが取り込まれたとなると、想像したくもないが想像するまでもなくなる。
「前にあたし達を逃がしてくれたあの部屋って使えないかな?」
「あのダクトば今は危険だ、生物室通らないかんだで奴に会っちまう……セキュリティさえ何とかできるならもっと近道出来るんだがなぁ……」
「それなら大丈夫そう、あたしなら……」
ベビーは相田に案内してもらい厳重なロックがかかっている扉に触れると……『648!マスカレイド!』という効果音と共に勝手に扉が開いていく。
戦隊遺伝子に込められたルパンレンジャーの力である自動施錠能力らしく、触れるだけでどんな鍵でも数字三桁だけのパスワードでなんでもこじ開けてくれる。
それだけではない、これもまた対象的にパトレンジャーの能力で自動的にパスワードをリセットして書き換える力、これによって防犯の力もあるという。
「はえー……戦隊ってなんでも出来るべなぁ……」
「とりあえず逃げるとして……ピンクさんも連れてきてどうしようか?」
「逃げるとしても逃げ場所はないと思うぐらいだ……ベビーちゃん気づいてるか?オラ達の戦いはずっとカメラで撮られていた、趣味悪いことに全部まとめてな……ピンクもオラも気付いたから敢えてエレボスのことをバラしてやった」
「……あっ、じゃあさくらちゃんのところ行かない!?あたしあっちが気になる」
「それはええな……イエローやグリーンの方は終わったしレッドにも用がある……」
全てのロックをくぐり抜けて研究所から飛び出すが、それと同時に研究所が丸ごと破壊されて、もはやこれをブルーと呼ばれても誰も信用しないであろう……様々な生物を取り込んでビルよりも巨大になった生物が飛び出してくる。
ようやく身体が楽になった相田は近くに置いてあった生徒用の電気モービルの中に入り、ベビーとピンクを乗せてレッド達が戦っているゴクレンジャー記念タワーへと走り出していく……!
――
そして5つ目の舞台、ゴクレンジャー達の活躍と功績をたたえて作られた施設、ゴクレンジャー記念タワーの真上でアダザクラとレッドが戦闘中……まるでここだけクライマックスのように激闘を繰り広げる。
ダザクに戦闘経験はほとんどないもののレッドの攻撃が飛んできてもほとんどゆらりとかわしながら指一本で奇襲を仕掛ける、戦隊遺伝子があるとはいえまだ毛の生えた候補生にすぎないさくらが全く戦闘に入り込めないスピード感だ。
方や時に破滅的な手を使いながらも全人類の幸福を掲げるゴクレンジャー、方や能天気に動物のような精神構成で怪人統治国家を作ろうとするエレボス人。
こんな状況でなければ、まさに最後の決戦といってもいいぐらいだが……それでも、さくらはレッドの語る平和主義を認められない。
「ダザク!」
「そうだね、僕ばかり遊んでいても面白くない……どんなものなの?君の極召喚法は」
戦闘中にダザクが頭を下げて、その頭上からさくらの振り上げた拳がクワガタの角をぐるぐるとまとめたような血管でまとめ、腕というよりは槍のような形状でそのままレッドを貫こうとする。
「桜花一拳・凌牙一閃!!」
しかしレッドの腹部には全く届かず、杭打ちのようにダザクが膝を打ち込んで後押ししても全く効果がない……戦隊遺伝子を使ってるとしか思えないが、ダザクは何か気付いた。
「なるほど、がらんどうな肉体だな……男性ホルモンを硬質化させ、表面に貼り付けて姿を変えているのか」
「えっ、つまりどういうことなんですか?」
「レッドのあの姿は見せかけだ……デトックスというものがあるだろう、古くなって使い物にならない成分を外に出す、細胞が活性化されるとその分デトックスの勢いも増える……そうして廃棄した肉体をつけてまでヒーローごっこをしているわけだ、僕より不気味だね」
「アダザクラ……動物のように半端なるエレボス人ではやはり無理か、オレはエレボスを用い、己の存在価値を理解できない人間に存在価値さえあればいと伝えたいだけなんだ、わからないか?わからないよなぁ、だがそれでもいい……分からずに死ぬほうが幸せだ」
幸せに生まれて幸せに育ち幸せに死ぬことがそれ以上の人生があるか、誠実であるだけの人生がどれだけ幸福か。
「紅蓮一拳」
しかし、そんなレッドの思いに強く反発するようにレッドの燃え上がる拳を顔面で受け止めるさくら、右目に火傷の跡が残り額から血が噴き出しても、その眼差しは曇らずレッドをまじまじと眺める。
「オリジナル!」
「……わからないですね、一生わからないままです、個人に委ねられた幸福というものがどれだけ歪なバランスによって成り立っているのか、貴方の語る平和主義には致命的な欠陥があります……ダザク、平和主義の反対はなんですか」
「……破壊主義?」
「そうですね、伝統を壊し、平穏を壊し……明日を壊すものは破壊主義者、刺激を与えるために怪人を自分で倒せるものにする都合上……焼きが回ってきます、ゴクレンジャーより強力な破壊主義者が現れた場合、貴方の平和主義は瞬く間に瓦解し、貴方の正義はただの『暴力』に落ちる」
さくらもまた、自分達が撮られていることに気付き、携帯で他のメンバーの戦いをレッドに見せつける。
究極の魔法をマゼンタに破られたグリーンは正義の象徴にも関わらず無様に背を向けて逃げ出し、ピンクは自らがエレボスであることが世間に知られてしまい……スノーホワイトがその身を犠牲にしたが、金の久遠を完全に掌握され……そして遂にはブルーまでもが人類を超えた未知にして絶悪なる存在へと変貌してしまった。
ゴクレンジャーという正義が……外部の力によっていとも簡単に崩れ去ろうとしている。
「レッドさん……無理だったんです、確かに貴方は多くの人を救いました、幸福を作ってきたのは確かです、でもこれが……貴方の平和主義者達の限界なんです」
「僕も同意見だ、君は本気で世界中すべての人間を一人で救おうとしている、それは無理だ絶対に」
「……だが、だからこそオレは君達の力を借りたいんだよ、あやめと同じエレボスになるかオレと同じ力を得てゴクレンジャーの糧となり幸せになれ……だが、それも無理らしい」
これまでの結果を得て……仮にこのままレッドが逆転勝利をしたとしても、もう人々はゴクレンジャーによる幸福を得ようとしない、人々が幸福を感じる手段がなくなってしまう。
「なんてことをしてくれたんだ、人類の未来はどうなる?」
「確かに私がやったことは許されることではないでしょう、しかし私は幸福ですよ……願ってもない形ですがまさか、こんな形で花岡家に復讐出来るとは思いもしませんでしたから」
花岡あやめがエレボスであり、新たな人類の未来で男性を最初から切り捨てる選択を行っていた国家保安部隊……並びに花岡家の真相がこうして世間に知れ渡ったことでその信用は地に落ちることだろう、間違いない、没落して路頭に迷うことになる。
「すみませんレッドさん、私は貴方を尊敬していました、貴方みたいになりたかった、でもダメです、私も所詮人間でした……私の人生を歪ませたあの家族に報復できたって感じるだけで笑ってしまいそうになります」
さくらは幸福だった、ちゃんと笑っている。
レッドはいつも通り人を幸福にした……しかし、どうにも腑に落ちない。
彼女の思想はエレボスに相応しいと思っていた……しかし、筋違いというわけではないがどうにも歪だ。
女性だけで生きていく世界のため、男性観を極力排除したさくらは……なんて楽しそうに笑っているんだ。
ずっと戦っていたレッドもダザクもそんな彼女に何も声をかけられない、この歪んだ幸福こそがまさにゴクレンジャーの掲げてきた平和主義を一身に否定するものであり、精神とともに己の身体に亀裂が入るような感覚。
しかしこの騒動はこれだけで終わらない……記念タワーの壁を一気に駆け上がり、最高速度でモービルがぶち抜いて一気に駆け上がり……さくら達の前に降りてくる。
「さくらちゃん……とそれに似たエレボスの人!」
「君は確か……ベビー・キャロルか、確か配信によるとブルーと戦って、ブルーが……ああそういう事情?なら話は別だ」
「あの、そちらで勝手に話を進めないでください、何があったんですか?」
「ブルーが戦隊遺伝子の運用に失敗し、藍の波止の怪人全てと融合した、というよりは今も見えてるね」
「あれが……ブルーなのか?」
タワーの屋上の縁から身を乗り出して下を見下ろしたレッドは絶句した。
眼下の街を、波のようにうねる巨大な肉の塊が埋め尽くそうとしていた。それは周囲の建造物を呑み込み、圧し潰しながら、確かな意思を持ってこの記念タワーへと迫ってきている。
ゴクレンジャーの長い歴史の中で、これほどまでに巨大な怪人と戦闘した事例など一度もなかった。
彼らが想定していたのは、あくまでエレボスが生み出した等身大のあるいは多少大柄な程度の怪人との戦闘であり、文字通りの『大災害』の前触れを目の当たりにするのはこれが初めてのことだ。
幸いなことに、巨大な怪物は周囲の建物を破壊しながらも、一直線に自分たち――タワーの屋上を優先して向かってきているように見えた。
今のところ無差別な街への被害は考えなくても良さそうだが、あんな規格外のバケモノが現れた今、平和主義がどうこうと内輪揉めをしている場合ではない。
「よ……よく逃げられましたねあんなもの」
「文字通りの命がけだったんでな……ギリッギリまで近道してなんとか這い上がったってとこだ、燃料もすっからからんだでな」
しかし、問題はどうやって戦うというのか。
この場にいる人数、そして戦力で、あの巨大な存在に立ち向かうことなど到底不可能に思えた。
街や市民への被害を最小限に抑えるという建前のもと、ゴクレンジャーのルールとして強力な遠距離武器は配備されていない……仮に一般的な銃火器を用いたところで、あの肉の津波の動きを止められるとは到底思えなかった。
頼みの綱である国家保安部隊も、スノーホワイトによって金の久遠が掌握・停止された影響で、組織として完全に麻痺してしまっている、もしこんな事態になっていたことに気付けば反応はしてたのかもしれないが、自分のことでいっぱいいっぱいだったこともあってタイミングが悪すぎた。
あの巨大な肉の塊によって街が物理的に荒らされるこの惨状は、ダザクが思い描く『怪人統治国家』のビジョンともかけ離れていた。
このままでは、いとも簡単に人類は絶滅してしまう。
そんな絶望が場を支配しかけた時だった。巨大怪人は記念タワーの壁面にベチャリと張り付くと、突如としてその不気味な蠕動を止めた。
暫くの沈黙。
やがて……タワーに張り付いた肉の一部がボコボコと不自然に盛り上がり始めた。まるで脱皮するかのように表面の粘膜が剥がれ落ちると、その中から『人型の物体』がこぼれ落ち、ずるり、ずるりとタワーの外壁を這い上がってくるではないか。
屋上の縁から姿を現したそのシルエットには、とても見覚えがあった。
「ブルー様……?」
ベビー・キャロルが、信じられないものを見るように呟いた。
先ほどまでベビーが相手をしていた、見栄えのする端正な姿。皆のテレビの人気者であり、ゴクレンジャーの『ブルー』としての人間の姿。
だが、現れたそれは、エレボスとはまた違う、もはや人間とも呼べない異形の存在へと成り果てていた。青いスーツは布地ではなく、硬質化した肉体そのものと一体化しているような悍ましい形状をしており、頭部に生える髪の毛に見えるものは、うねうねと蠢くヒルのような……全く別の生命体の群れだった。
それは、ブルーの姿を借りた『何か』だ。
「まさか……本当にお前なのか」
レッドが、張り付いた笑顔の下に明らかな動揺を滲ませて問う。
「そうだ。だが俺は既に人間ではないことも、ましてや怪人にも含まれない存在になっていることも、自分自身で理解している」
声だけは、かつてのブルーの冷静なトーンを保っていた。しかし、そこには決定的に温度が欠けていた。
「ここに来たのは……殺しに来たわけですが。裏切り者の相田さん、エレボスであることを知られたピンク、そして花岡家の私を」
さくらが警戒を露わにして身構えながら問うと、異形のブルーはゆっくりと首を振った。
「そうだ。だが、今更ブルーという役割に拘る必要もない。人ではない俺は、もはや国家保安部隊にも居られない。なら……やることは一つだけだ」
ブルーのヒル状の髪が、微かに蠢いた。
「この街に存在する『ゴクレンジャーの痕跡』を、木っ端微塵に消し飛ばす」
その言葉は、レッドが築き上げてきた歴史と平和への完全な否定だった。
ブルーの身に起きた悲劇――それは彼にとっては不慮の事故だった。戦闘中に戦隊遺伝子の運用を誤ったことで、服用されるはずだった人体融合能力が異常発達を引き起こしたのだ。
結果として彼は、藍の波止にいた数百体もの怪人を一気に取り込んでしまった。
その際、ブルーの脳内には恐るべき情報が流れ込んできた。表向きには『意思がない』とされていた怪人たち……その実、彼らの中には、人として生きていた頃の様々な形の幸福の記憶や、意思の残滓が結合されていたのだ。
それだけではない。ブルーはベビーを追いかけタワーへ向かう道中、藍の波止から上層部を襲撃し、国家保安部隊の人間たちをもその巨体に取り込んでいた。
無数の怪人と、権力者たちの記憶の奔流。
そこでブルーは思い知ったのだ。ゴクレンジャーの戦いによって適度な刺激を与え続けるだけでは、結局のところ人々を真に救うことはできないという限界の境地を。
そして、常に幸福を維持し、平穏が約束されることを貪欲に求める人間の意思というものが、どれほど醜く、身勝手なものであるかを。
「人間だった頃の俺は、考えすぎて空回りしていた」
ブルーは、かつての同僚であるレッドを、感情の抜け落ちた双眸で見据えた。
「どんなに戦争主義者を排他しようが、火種を一つ残らず断ち切らなければ、世界は変わらない。善悪の二元論など意味はない。そもそも人類も怪人も平等に『畜生』に過ぎなかったのだ」
平和に甘んじるな。
戦争を考えるな。
幸福を受け入れるな。
不幸を理解するな。
ただ降りかかる理不尽を一身に受けて消費するだけで、人類の意識改革などと高尚なことを並べ立てても、結局のところ根源的な何も変わりはしない。
それが幾千の記憶と意思を融合させたブルーが辿り着いた、極限の虚無だった。
「ヒーローごっこは終わりの時間だ、レッド……」
巨大な肉の塊が、タワーの基部から地鳴りのような咆哮を上げる。ブルーの姿をした分身体が、宣告するように右腕を振り上げた。
「人類を存続させるために……全人類は破滅どころか、平和すら生ぬるい」