マゼンタが作り出した古代魔法のツルをマイペースによじ登り、ようやく空の上の空間へと辿り着いたダザク。
バリィン!と、透明なガラス仕掛けで万華鏡のような床を突き破って顔を出したダザクがまず目にしたのは、無惨にも逆さまの状態で床に首から下が埋まっているさくらの姿だった。
「なんかこっぴどくやられてるみたいだけどもう終わったの?」
呑気に尋ねるダザクに対し、腕組みをしたシエルが鼻を鳴らす。
「いや、ほぼムカついたから私がやったものだ」
「シエルさんいくらなんでも元気有り余りすぎじゃないですか……というかダザクこそいくらなんでも遅すぎます、もう3時間ですよ」
埋まったままジタバタと足を動かしながら抗議するさくら。実際、マゼンタの魔法の箒に乗って空へ向かってから[cite: 1]、相当な時間が経過していた。
「木登りしていくだけだと退屈だからちょっと寄り道して丸い餃子買ってきたんだけど」
「決戦間近で寄り道しないでください!!」
「じゃあ君いらないの?」
「いります」
即答するさくら。なんだかんだで腹は減るし、体力も限界に近いのだ。
見かねたマゼンタとシエルの手によって「すぽんっ」と引っこ抜かれたさくらは、頭にできたたんこぶをさすりながら体勢を立て直した。
ダザクの買ってきた餃子を頬張りつつ、ようやく揃ったさくら、シエル、マゼンタ、ダザクの四人は現状のすり合わせを行うことにした。
シエルはシャドウによる配信が始まってからずっとこの特等席とも言える空間に留まり、シャドウの元へ向かって戦闘を繰り広げていたため、外の様子を一切把握していなかった。
さくら達の方はブルーが多数の怪人を取り込んで新たな生命体と化したこと、そして彼が一時的に戦闘を放棄して暗い洞穴に引きこもる宣言をしたことなどを説明するが、シエルはひたすらに眉間へ皺を寄せるばかり。
話を聞いても全く理解できなさそうな顔をしているがそれも無理はないほどの異常事態がついさっきまであったのだからしょうがない。
しかし、より深刻な問題はシエルとシャドウの戦闘結果にあった。
わざわざシエルがさくら達を出迎える形になったということは、シャドウに勝ったのか、あるいは逃げられたのか。だが、どちらでもないのだという。
「攻撃を繰り返しても一向に倒れる気配が無い、効いている事は確かだが限界が見えてこなかった」
シエルは忌々しげに吐き捨てた。
どんなに強力な一撃を与えても、倒したかのように見えても、シャドウは終わらない。
決して奴は弱いわけではないし、絶対に倒せないというわけでもない段階なのかもしれない。あるいは手加減されているのかすら定かではないが、確実なのは、シャドウとの戦いにおいて『負け』というビジョンが全く見えてこなかったことだ。
その特徴には、さくら達も直近で覚えがあった。
もはや人間でも怪人でもなくなった、生まれ変わったブルーと全く同じ性質だ。
シエルの目から見ても、シャドウもまたブルーと同様に、とっくの昔に人間であることを辞めてしまった別次元の生命体なのだろう。
ここで最悪のシミュレーションが頭をよぎる。
もしこの後シャドウの思惑通りにシャドウとブルーが衝突したとしたら、その先に待つ結末は二つに一つ。
どちらかが勝利を収め、誰も止められない絶対的な脅威として君臨するか。
あるいは互いに限界を迎えずに未来永劫戦い続け、地球を死の星に変えてしまうか。
どちらに転んでも、人類どころかどんな生き物も残らない場所になりかねない……そして現在、自分達がシャドウと戦って優勢になるとしても、確実に倒すための有効な手立ては何も分かっていなかった。
「そういえばそのシャドウ先生はどうなったんですか」
ふと気になり、さくらが尋ねる。
「ドンブラザーズの力で南極にある氷山の内部に埋め込んできたが戻ってくるのも時間の問題だ……何かしらの封印も検討したが事態を後回しにするだけで解決には至らない……」
一時凌ぎの足止め。それがシエルの精一杯だった。
確実にシャドウを止めるにはどうすればいいか……。さくらは目を閉じ、自分の中に取り込んでいる『王様戦隊キングオージャー』の戦隊遺伝子から、何か使えそうな作戦がないか意識を集中させて考える。
思えば、初めてこの遺伝子を服用したとき、見慣れない奇妙な幻覚の中でシャドウの姿を見た。
どういう所以かは分からないが、キングオージャーと一番関係が深いのがシャドウなのだ。
遺伝子越しに歴代戦隊達の記憶の海を深く深く巡っていく。
やがて、さくらの脳裏に1つの確実な作戦が閃いた。
戦隊の力を遺伝子によって完璧に再現できるなら、可能性はある。
ただしそれは、実行するさくら本人にとっても、あまりにも危険すぎる命がけの賭けだった。
さくらは静かに目を開き、三人の顔を真っ直ぐに見据えて告げた。
「キングオージャーの力を借りて死者の向かう先…言わばあの世に繋がる扉を作ります、そこにシャドウ先生を放り込めば……」
「僕も戦隊は一通り見ていたから聞いたことがある、死んだ者が向かう国ハーカバーカ……しかしあれはチキュー、厳密には僕らとは異なる惑星の文化だ、はたして地球で通用するのか……」
「その辺りは大丈夫です」
これまでの能力をまとめたさくらの理屈では自分達の戦隊遺伝子の力は、あくまで『それっぽく』カタチだけ再現するというものだ。
これまでの極活法や極魔法もそうであり、振り返ってシャドウが広めたことを考えると彼のやっていることは上っ面だけ参考にして戦隊の真似をしていただけだ。
「シエルさん、あれは流しました?」
「ああ、奴が撮影環境は整えていたからな、ゴクレンジャーの活躍のほとんどが過去の戦隊の映像をパクったことは民衆の知るものとなった……この空間を出る頃には私たちにも多少影響がある……といっても秋葉蓮蛇に所属している私は関係ないことだが……」
「この通りシャドウさんは私の結論になりますが、レッドさんがゴクレンジャーとして人を幸福にしたいのとは別で自分が最後に目立つ機会をずっと待っていたんですよ」
最初から自分のサクセスストーリーに利用されていただけなのだろう、レッドもさくらもゴクレンジャーも。
存在してもいない6人目という立場を作り、まるで自分のおかげで成り立っていたという特に求められてもない仕事で自分が貢献しているように見せているたまにいる人を見せつけて、ゴクレンジャーでもどうにもならなくなったような状況を作り出して、最後に派手に演出する……それがここまでのシャドウのやってきたことだ。
もしかすればシャドウの使っていた武器が首をはねていたのはさくらだったのかもしれない。
「私なりにシャドウとの付き合いも長い……といってもその大半があれだが、その中で相手してきて後世に残したいことはあるが……まあそれはいいよな、チビの話を終わらせるぞ」
「はい、私が言いたいのはつまりシャドウ先生は戦隊の力をどんな形にしても完全に再現しているわけではないので、なんかこういう事できるっぽい力を出来るんです……もちろん私だけでは出来ませんが」
極召喚法、極忍法、極魔法、極ブライダン拳法……4種類ある戦隊を再現した技で全てキングオージャーの力を再現する。
まずさくらの極召喚法では肉体を昆虫のように硬質化、シエルの極忍法では細長く頑強な蜘蛛の糸を無数に伸ばし、マゼンタの極魔法は一次的だが死者を召喚する、そしてダザクの極ブレドラン拳法は命を吸い取る力。
さくらは作戦を組む、マゼンタの極魔法を出力を上げて行い、ダザクのエネルギー供給で更に底上げすることでイメージによる死者の国の門を作り出す、後は拘束して一気に引っ張って死者の国に送ってしまおうということだ。
「ふざけるなあ!!!」
淡々と作戦を発表するので場の空気に飲まれそうになったがちゃんと正気に戻りシエルはさくらを蹴る、この作戦は肝心なところが抜けている。
一気に引っ張るということは……まとめて死者の国に送られる人がいる、必ず誰かが道連れになろうとしている。
花岡さくらが率先してその役となり……この作戦を通す場合、自分たちは彼女を道連れにするという非情な作戦を取らなくてはならない。
「分かっているのか貴様!!この作戦が上手くいくとも限らん!最初から犠牲を前提にするにしても、それを私たちにも加担しろというのか!」
「それは……シエルさん達には悪いとは思ってますけど、そこはもう……仕方ないじゃないですか、さすがにシエルさんやマゼンタさんに道連れになれとは言えないてすし」
「だからお前がどうにかなるのを見過ごすどころか背中を押せというのか……まだ何かあるだろう何か!全員が助かるような……」
「……何言ってるんですかシエルさん、私たちはゴクレンジャーじゃないんですよ……遺伝子やら何やらで頼って強くなぬて……何より、あの人みたいに優しさを持ち合わせてない、だから期待できないんですよ、みんな一緒なんて」
「しかしお前は……」
「それにですよシエルさん、私は残りの三人に生きてもらいたいから私が行くと言ってるんです」
シエルは家族を失っても、秋葉蓮蛇の中でかけがえのない仲間はいる、何よりシャドウは家族の仇だ。
マゼンタにも自分の帰りを待つ親戚がいて……ダザクすら、何事もなく平穏に生きたり、エレボス人として怪人と人の架け橋になる役目がある。
しかし花岡さくらには何もない、自分は家族のことなんて考えたくもないしゴクレンジャーの一件で間違いなく没落するが助けてやろうともこれ以上砂掛けようとも思えない、レッドを超えるピンクというのも……ゴクレンジャーの今後を考えるとそれも興味ない。
自分のなかでやるべきことをやって、レッドのようにいらないものが欲しがってしまう不幸を得る前にさっさとキリをつけようということだ。
そしてこれは……さくらにとって最大のわがままだった。
「お願いしますシエルさん、無理です、もう無理です私は……これから先の世界で私は生きていけません」
ゴクレンジャーはもういなくなる、自分のなかの理想がなくなる。
そんな世界からさっさと忘れ去られてしまったほうが、よほど幸福なのか?
それさえも分からないから安易なオチに逃げようとしているのはわかる、だが……。
「……いいんだなさくら、お前はそれで……」
「マゼンタ!?まさかやるんじゃないだろうな!?」
「ああそうだよ!俺だって本当はやりたくねえよ!でも他にあるのか!?常識外すぎるんだ、相手はバケモノだぞ!?そんなヤツ相手に今更全員五体満足で全員なんとかなると思うほどおめでたいとは思っちゃいねえ!!」
「……僕も同感だね、君が話してくれたんじゃないか、生半可にやってなんとかなる相手でもないし、明らかに人間の常識が通用しないのが君の相手した存在なのだろう?まともに相手するにはあまりにも時代が足りない……むしろレッドには出来ない自己犠牲の作戦だからこそなんとか成立しそう……なんで無責任な結論ではあるが」
「……それで、それでいいのか!?なんでそんな形を通そうとする!!私は認めんぞ、消える形になってそれでいいなんてあっていいはずが……」
「……意外だなぁシエルさん、私は初めて会った時なんだこの真面目なやつは鬱陶しいなぁくらいに思ってたけど」
「貴方は大真面目で、臆病で……ピンクがよく似合う人でした」
「お願いしますシエルさん、シャドウと共に……私を幸福に導いてください」
「………………」
それはこれまでの人生であまりにも幸福で、あまりにも重い呪いのような言葉だった。
シエルは一瞬、息を止めた。
目の前の少女——花岡さくらは、いつものように少し猫背で、頭にできたたんこぶをさすりながら、でもその瞳だけは不思議なほど澄んでいた。
ピンクの戦闘服の裾が、万華鏡の床に映る光の破片に揺れている。
シエルはまだ詳しくは知らない、この子がどれだけ傷ついてきたか。ゴクレンジャーの養成校で、女はピンクにしかなれないという鉄則の中で、
サポート役として嘲笑され続け、
6人目などという欺瞞に巻き込まれ、
レッドを超えるピンクなどという幻想を信じ続け、家族さえも捨てたこと。
それでも、さくらは笑おうとしていた。
「……分かった」
シエルはようやく、声を絞り出した。
その声は、自分でも驚くほど低く、震えていた。「だが条件がある。私も共に道連れになる。貴様一人で死ぬなど、絶対に認めん」
「シエルさん……しかし貴方、いいんですか?」
さくらが目を丸くする。マゼンタとダザクも、呆気にとられた顔で互いを見合わせた。
「ふざけるなよ。私はピンクではないが奴の作った秋葉蓮蛇の人間だ……今となってはシャドウは俺の家族を殺した仇だ。お前が一人で全部背負う必要はない。……それに、お前が死んだら……」
シエルは腕を組んだまま、視線を逸らした。
本当は、もっと情けない本音があった。
この少女が消えるのを、ただ見過ごすことなど、できなかった。
初めて会った時の印象通り、鬱陶しいほど真面目で、臆病で、でもどこかピンクらしい優しさを、シエルは無意識に守りたくなっていたのだ、それご自分に見合わないキャラ付けだったとしても。
マゼンタがため息をつく。
「あーあ、シエルがそんなこと言うなんてな。まあ、俺も実際はその気だったけどな。さくら一人に全部押しつけるのは、さすがに胸糞悪いしな」
ダザクは餃子を頬張ったまま、にやりと笑った。
「僕もそのつまり。君たち人間の感情は複雑だけど今回はシンプルだったよね。オリジナルが生き残る方法がないなら、時間をかけてでもまた別の道を模索する……遠回りでもね」
さくらは三人の顔を順番に見つめ、ゆっくりと首を振った。
「……ありがとう、皆さん」
彼女の声は静かだったが、決意は固かった。
シエルはそれ以上、言葉を返せなかった。ただ、拳を握りしめるだけだった。 準備は、すぐに始まった。 四人は万華鏡の床を突き破り、再び空の上の空間から地上を眺めた……シエルがシャドウを氷山に埋めた南極の空域だ。
冷たい風が吹き荒れ、巨大な氷の塊が海面に浮かんでいる。
すでにその表面に無数の亀裂が入り、シャドウの気配が濃く漂っていた。
戻ってくるのは本当に時間の問題……いや、もうすぐそこまで来ている。
さくらは目を閉じ、体内に眠る『王様戦隊キングオージャー』の戦隊遺伝子に意識を集中させた。
四種類の極技を、同時に起動する。
まず、自らの肉体を昆虫のように硬質化させる極召喚法。
皮膚が黒く光沢を帯び、関節が異様な角度で可動し始める。痛みはなかった。ただ、命が徐々に削られる感覚だけがあった。
「極召喚法……準備できました」
次に、シエルが動いた。
極忍法——細長く頑強な蜘蛛の糸を、無数に伸ばす。
彼の両手から白銀の糸が噴き出し、空中に巨大な網を張り巡らせる。
糸の一本一本が、鋼鉄のように強靭で、シャドウの動きを封じるための拘束具となるはずだった……彼女なくして、この作戦は成立しない。
「極忍法其の四拾七・王ノ型『出済奈落』……発動」
マゼンタは箒を握りしめ、極魔法を高出力で発動させた。
一次的だが死者を召喚する、ハーカバーカの力。
周囲の空気が急激に冷え込み、透明な霧が立ち込める。
霧の中から、ぼんやりとした人影が浮かび上がる——過去の亡霊たち、ゴクレンジャーの犠牲者たちにして死者の国の門の守護者たち。
マゼンタの目が血走り、汗が額を伝う。
「極魔法の47ページ……『クワガ・ワゴナ・クガガ』!!最大出力でいくぞ!!」
最後に、ダザクが前に出た。
性別を持たない新人類、エレボスのクローンである彼は、極ブライダン拳法——命を吸い取る拳を構える。
その拳がマゼンタの背中に触れた瞬間、青白い光が流れ込む。
ダザクのエネルギーが、さくらの体を底上げする。
無論これも命の代償として、彼自身の生命力も削られるが、ダザクは微塵も怯まなかった。
「極ブライダン拳法……『ザ・バグナラク』。マッチョ君、君のイメージを、僕が支えるよ」
四人の力が一点に収束し、さくらの硬質化した掌が、虚空に円を描いた。
そこに、マゼンタの召喚した死者たちの霧が渦を巻き、シエルの蜘蛛の糸が枠組みを形成して……ダザクのエネルギーが、それを巨大化させる。
——ガシャンッ! 空に、巨大な扉が現れた。
古びた木製の扉ではなく、戦隊遺伝子が作り上げた、幻想的な門。
ハーカバーカ——死者が向かう国。
チキューという異惑星の文化を、この場の妄想で『それっぽく』再現したもの。
扉の向こう側は、真っ暗な闇と、無数の星のような光が瞬いている。死者の声が、微かに聞こえてくる。
「これが……死者の国への扉……」
彼女の体はすでに、限界に近かった。硬質化した皮膚に、亀裂が入り始めている。
その時、氷山が爆発した。 ドオオオオオンッ!! 氷の破片が四散し、黒い影が飛び出してきた。
……真なる神に等しい頂点、6人目ことシャドウ。
あの男は、相変わらずの不気味な笑みを浮かべ、桃の園理事長の証しである桃色のマントを翻していた。
戦隊の力を上っ面だけ真似た、あの男。
「へえ……面白いのを作ったねさくら君、こんなことできるとは思わなかったよ、すごいね」
シャドウの声が響く。
彼の周囲に、影のようなオーラが渦巻いている。ブルーと同じ、すでに人間を辞めた存在の気配。 シエルが即座に動いた。
蜘蛛の糸が一斉に射出され、シャドウの四肢を絡め取る。
「今だ、さくら!行くぞ!!」
マゼンタの死者の召喚がシャドウの足元から亡霊の手を伸ばし、さくらは硬質化した体で駆け出してシエルは巻き付きながらさくらを追いかける……死者の国の扉に向かって。
そして、シャドウを道連れにすれば終わる。
だが……。
「ごめんなさいシエルさん、やっぱり私……シエルさんとは無理です」
「なっ……お前」
ぷつりと、シエルが繋がっている糸をクワガタのような尖った部分で切断してシエルのみが残されていく。
「シャドウ先生……!私を、幸福に導いてください!」
彼女の声が叫びとなって空に響いた。
蜘蛛の糸がシャドウを引きずり、死者の手が彼の体を掴む。
ダザクのエネルギーが、扉をさらに大きく開く。
さくらは自らの体を盾に、シャドウを抱きしめるように飛び込んだ。
——シャドウの目が、初めて驚愕に染まる。
「えっちょっと待って……俺またこのオチ……!?」
二人の体が、扉の闇に吸い込まれていく。
さくらの硬質化した手が、シャドウの首を掴んだまま離さない。
死者の声が、歓迎するように二人を迎え入れ……残されたシエルが、必死に糸を引く。
「さくらぁぁぁ!!」
マゼンタとダザクも、声を上げた。 だが、扉は容赦なく閉じ始めた。
さくらの体が、すでに半分以上、闇の中に消えていた。
彼女の最後の視線が、三人に向けられる。
微笑みだった。
本当に、初めて見せるような、穏やかな微笑み。
「ありがとう」
ガシャン。 扉が、完全に閉じた。
死者の国の門がシャドウと共に花岡さくらを飲み込んで……南極の空に、静寂が訪れた。
シャドウが作っただろう透明な空間は消え去り……氷の破片だけが、海面に落ちる音だけが残った。
シエルは膝をつき、拳を地面に叩きつけた。
ゴクレンジャーの物語は、ここで終わるのだろう。
だが、さくらが選んだ道は——
向こうに導かれた先で彼女が本当に「幸福」になれるのか。
それだけは、誰にも分からなかった。
ただ、風が吹く。
ピンクの残光が、ほんの少しだけ、空に残っていた。