我ら桃の園〜正義と愛と遺された命〜   作:黒影時空

26 / 26
最終話「ヒーロー『シエル』」

 

 シャドウによってゴクレンジャーが作られてから色んなことがあった。

 弱きを助け強きを挫く、それを理想として戦ってきた一人の存在がいた。

 ……本当に救いたかったのは過去の弱い自分であると目を逸らし続けていてどれだけ経ったのか。

 

 しかし向き合わなくてはならない、弱かった自分を。

 シャドウによって歪められたゴクレンジャーの伝統と、それによって失われたものを……。

 

――

 

 ゴクレンジャーの真相が明らかになり、空の向こうでシャドウと花岡さくらが表向き失踪したことになってから早くも5年が経過していた。

 人々は混乱から立ち直るのにまだ時間がかかり、国家保安部隊は今回の騒動を受けてゴクレンジャーごと解体、かつて分派組織だったホワイト・レボルシオンが国を牛耳っている。

 都合が良かったのは本来100年はかかる計画をシャドウが先を急ぎすぎたことで、世界に対する思っていたよりもゴクレンジャーの影響は少なかった、日本全土は何かしら影響があるだろうがそこまで根深いものでもなかったことが僅かな余裕が生まれていた。

 

 しかしそれでも、ゴクレンジャー達の真実を知ってもなお支持するもの、レッドのかつての平和主義の思想を悪用する人間はまだいくらでもいる。

 そういった者たちを止めない限り現状維持の平和すら訪れない。

 

「集まったか諸君、昨夜現れた例の残党軍はどこだ」

 

「はい……例の場所、桃の園跡地にまだ残されたエレボス研究所です」

 

「まだ設備が残っていたか……2番隊3番隊に声をかけ、1週間以内に鎮圧しろ、我々の相手は常に人間だ、このやり方が正しいと思うものだけついてこい」

 

 2066年、シエルはひたすら出世に出世を繰り返してホワイト・レボルシオンの総司令官にまでなっていた。

 彼女の部下はかつての秋葉蓮蛇の同胞達や桃の園の関係者、まだ数は少ないがこの勢いなら本当に日本を象徴する組織となるだろう。

 シエルはあれからずっと戦い続ける道を選んだ、その間だけは全てを忘れられる……これからの平和な世の中は目に毒のように感じていた。

 

(そうか、あれからもう5年も経ったのか……)

 

「すまない、急遽予定が出来た……3時間後にまた改めて合流する」

 

 シエルは一度部下たちと別れ、一人で外に向かっていく。

 たまに……本当にたまにだが、何も考えずに誰かに会いたくなる衝動が増えてきた。

 一人で生きていくことはとっくに慣れたはずなのに、どこか寂しさを感じてしまうのはなぜか、考えても結論は出ないままかつての関係者たちに会いに行く……。

 

――

 

「空中歩行だけじゃ湧かせるのは厳しいぞ、もっとレベルの高い演目を考えなきゃな」

 

「んだな、三回転ジャンプや壁蹴り……?いや後輩に教えられるレベルじゃねえとだな……?」

 

「おいカオル、お前に会いたいやつがいると」

 

「オラはべっぴんさんからしかプライベートのサインは出さねえって言っとけ」

 

「なら書いてくれるんだな相田コバルト」

 

「……えっ、シエルちゃん!?」

 

 相田コバルト……現・三代目アマノガワカオル。

 彼はホワイト・レボルシオンには加入せずゴクレンジャーが解体された後にはあまのがわ一座に戻って地域を回り、演目を重ねながら特待生時代に稼いだ功績と資金で復興支援を行っていた。

 その為、シエルが現在の彼に会えることは滅多にない。

 

「水臭えなあ、せっかく来てくれるなら晴れ舞台を見せたりたかったのに」

 

「すまないな、とてもそちらを見る余裕は作れそうにない」

 

 5年経って相田の雰囲気も変わった、ヒーロースーツとサーカス衣装では全然違うので当然だが少し年を取って花形スターとしての貫禄が出てきた気がする。

 これまでのブルーなカラーリングとは打って変わってイエローカラーの服装は凄いイメチェンのように感じられる。

 

「まさかお前が黄色とはな」

 

「初代アマノガワカオルが金髪で黄色だったんでな、オラもどっちかってえとこっちのが好きだべ」

 

「色が違うだけで印象も変わるか、奴らのカラーイメージの押しつけは気に入らんが役割付けがそれだけ簡単だったということか」

 

「それでいえば白くなったシエルちゃんもだいぶ変わったんじゃねえのか……いや、変わったのは色だけでもねえか……」

 

 相田達もさくらの件は聞いている、受け入れられない人物はまだ沢山いる……相田も、桃の園のことを忘れたかったのがサーカスに帰った理由の一つでもある。

 こうして懐かしい顔を見るだけで……初めて姉がいなくなった時のように虚しい気持ちになる。

 その顔を見たシエルは相田の顔を掴む。

 

「何故そんな顔をする?何も変わってない……ずっと、ずっとだ、奴を馬鹿に出来るくらい出世はしたがな」

 

「…………あの時そばにいなかったオラが言えたことじゃねえのはわかってんだ、でも見てらんねえて、さくらちゃんはなぁ」

 

「お前もか?お前も同じことを言う気か?忘れるな……花岡さくらは死んでいない、身体が潰れたのか?心臓が止まったのか?遺体を見たのか?違う、違う、違う……あそこでは誰一人として死んでなどいない」

 

「目を反らしたくもなるけどな…でもなぁ、いくらなんでも、目の前でそんなことになったとなれば…」

 

 

「ああそうだ、奴は目の前で消えた…だが死んでいない、連れて行かれただけだ、奴がその程度の事で死ぬようなことはあり得ん…私達の家族だって怪人として生きていたじゃないか、死んでない限り可能性はある」

 

 

「……まあ、もしかしたらってことも確かにあるが、まさかオメェその為だけに……」

 

 

「そうだ、私はヤツのようにお花畑な頭をしていないから戦う事に何かしらの気高い思想も持てない……理由付けが欲しいんだ、私が無茶できる理由が」

 

 

 話すだけ話してシエルと相田は別れる、これからもう間もなく相田はまたお客様に対して演技を行う。

 自分とは全く違う光のある所に行った彼は自分と同じ道を歩むこともない…もし、ここから顔を見に来ることを辞めれば数年もしないうちにまた他人になってしまうのかもしれない……。

 シエルの後ろ姿を見送ることしかできない相田、だが自分はもう愛想を振りまく女に好かれるブルーではない。

 

「なあ、オラの同期たち元気か?何人かはそっちにいるんだけんどな、新しい職場が決まったってよくオラに報告くんだって……ああこれは先輩としてのお節介でもあるが、同僚は大事にしといたほうがいいでな」

 

 

「……同僚、か」

 

――

 

 墓標……レッドたちが過去に訪れていたという、数々の戦隊だった命が埋葬された場所。

 シエルはここでよく揉めたものだ、花岡家の人間……例の家族やピンク、レッドともそうだが、彼女の墓を作るかどうかで……作戦と生じて何度も木っ端微塵にしてやればいよいよ引き下がったが、今日通りかかった先で意外な先客と出会う。

 

「マゼンタ?」

 

「……5年ぶりくらいか、シエル」

 

 マゼンタもまたホワイト・レボルシオンに所属せず、極魔法を覚えるだけ覚えたあとに遠い街に行ったっきりだった。

 なのでマゼンタと会うことは想定してなかったが、こんな形で会えたのも何かの縁だ。

 

「何故ここに?」

 

「お前、近頃はだいぶ無茶してるって聞いたぞ……ここに来ればお前に会える気がした」

 

「つまりわざわざ待ち伏せしてまで話したいことがあったというわけか」

 

「そういうことだ……前に話したよな?グリーンとの戦いのこと」

 

 マゼンタがグリーンと戦った際、魔法によって次元の彼方から大昔に飛ばされたが謎の七姉妹に助けられて帰還し、ついでに魔法戦隊の力も得たことは、ゴクレンジャー騒動後にシエル達にも話していた。

 その七姉妹の写真は残してあったので親戚に見せたところ、更にその関係者がその人を知っていると言ったので調査をしていたとのことだ。

 

「それでお前にとって重要なことだけ話すとな……どうやら俺が会ったその七姉妹もシャドウと関係がある」

 

「その情報が載っている資料もらっていいか」

 

「ああ……それだけじゃない、前にお前にも話したろ?俺の親戚がシャドウに似たやつを知ってるって……間違いないそうだ」

 

 謎の姉妹が住んでいたとされる廃墟で発見された家族の『父親』らしき男、そしてマゼンタの親戚のかつての『教師』だった男、そしてシャドウ……これらは全員同一人物であるとマゼンタは結論付けた。

 元々彼は人間離れしていると思っていたので、今回のことがあってもただでは済まない……いや、もしくは死ぬということがないのかもしれない。

 これにはシエルも冷静さを失いそうになっていた。

 

「つまり奴は……」

 

「ああ、下手すれば今後……どころか俺たちが死んだあとも100年、1000年でも現れてろくでもないことをするんだろうな、何回でも何回でも名前を変え、立場を変えてな……」

 

「ふざけたことを言うな、そんなことになってしまえば奴のやったことが無駄になる」

 

「それどころか多分、俺の会った姉妹たちも気付いてないが無駄になった結果だろうな……これがずっと繰り返されるんだ、それをどうにか出来ないかと調べてみて、シャドウと深い付き合いだったあいつのことを思い出した」

 

「……スノーホワイトのことか?」

 

 スノーホワイトについてだが、金の久遠を支配してから姿を見せなくなった。

 工場は現在も稼働して市民にも問題なく商品が提供されているが、元々ホワイト・レボルシオンの始まりといえば彼だ、おそらくマゼンタもまた同じ立場にいるものだと思ったようだが……。

 

「期待させて悪いがスノーホワイトも同じく行方知れずだ、思えば奴も人間離れてしていたが……」

 

「……多分そいつも名前や立場を繰り返してる、しかも記憶喪失になって」

 

「なぜ言い切れる?まさかそこにも知り合いが居たなんて言うんじゃないだろうな」

 

「居たどころじゃない……完璧に一致するんだよ」

 

 七姉妹が存命であり、向こうの街で騒ぎが起きていた時は2026年、そこから時が経ってコンテンツショックが起きた時期の2046年……この2つの時期とシャドウの一件、スノーホワイトが同時に現れたことまで綺麗に一致している。

 つまり簡単に言うと、シャドウが行動開始したのと全く同じタイミングでスノーホワイトが記憶を失った状態で現れて行動を行い、どちらかが消えれば片方も消える。

 分かっていることは敵同士ということだけ。

 

「……スノーホワイトの方は、どんな知り合いだった?」

 

「俺の親戚にとってはよく世話になった人だそうだ、結局スノーホワイトとしては話を聞けなかったが……事情を話してやったら完全に愛想を尽かしたみたいだ」

 

「……だがこの結果は私にとっても重大な収穫だ、助かったぞマゼンタ」

 

 いつか必ず……明日かもしれなくても法則性があるなら前もって対策が組める。

 記憶喪失、目立ちたがり、銀色の髪、人外じみた力……少しでも怪しいところがあれば隔離、徹底的に離れる。

 スノーホワイトには世話になったところもあるが、奴は怪しいところもある……もう少し調べなくてはならない。

 

「スノーホワイトに関しては俺より詳しいやつがいるから、そいつに聞いてくれ」

 

「悪いな……お前はこれからどうする?」

 

「魔法を広める、後世の奴らのためになるかもしれんからな」

 

――

 

「……これがマゼンタと言っていた喋る槍か」

 

 シエルがマゼンタに紹介されて向かったのは、真っ黒な槍……かつてイエロー戦でちょっとだけ手助けしたりしなかったりした渇望の槍と呼ばれた存在。

 出会って早々にスノーホワイトから離れたこの存在は、実際は戦隊を助けに行ったわけではなかった。

 槍はシエルの姿を見ると……ぐにゃりと黒い液体から変化して、人型の女性のようになる。

 

「スノーホワイトと同じ身体か……聞きたいことが山ほどある」

 

「山程って言われても……私もあれから逃げてきた形だから、大したことは言えないけど」

 

「なんでもいい、私は時間がないんだ、奴らを排除するために少しでも状態がいる」

 

「奴ら、かぁ……世界を救うように言ってるけど案外嫌われてたのねあの人……まあいいけど」

 

 渇望の槍が教えてくれたのは、又聞きではあるがやはりシャドウが世界を思い通り弄んでいるということ、それを止めるためにスノーホワイトがSoraと呼ばれる電子空間から現れて複数の部下と共にこの場所に居り立つが、その際必ず記憶を失うということ。

 ……そして、今回スノーホワイトが突然いなくなったのはSoraに危機が訪れたので金の久遠で上書きした、つまりもう既に消えてなくなり出てくる頃には数年後とシエルは解釈した。

 

 

「私はその時に騒ぎに便乗して逃げてきた形なんだけど……そのほら、そのシャドウ?とやらを止めるために私たちは作られたけど勝手にしてくれって形というか……」

 

「あいつ思ったより人望ないのか」

 

「人望……というよりは、あの人失ったものしか見えてないのよ、貴方達のことは虚像みたいに言っていたから愛情の一欠片もないんじゃないの?どうせ終わるものだからって」

 

「……で、お前は槍のままそこで過ごすのか?スノーホワイトを裏切る形になるが」

 

「私のかわりなんていくらでも作るでしょあの人は、大体の同僚が出発したまま帰ってこないのは別に里帰りするほど恩義もないからよ、まあ……彼にとっては関係ないことだろうけど、それよりも……貴方も気をつけたほうがいいわ、私は戦隊が見れたからそれで満足したけど、派遣された私の仲間は沢山いるし、普通にアイツを裏切った奴も結構いるんだから」

 

「…………達者でな」

 

「あら、私を見逃すの?一応悪者として作られたのよ私は」

 

「今更どうでもいい、その気になれば何回でも倒せるからな」

 

――

 

「……そして堂々巡りを繰り返して最後には俺だと?」

 

「ああ、嫌がらせも兼ねているがな」

 

「堂々と言ったか、人間の感性は時折分からなくなる……と言っても、俺も元々人間だったか」

 

 そして最後に訪れたのが地図にも載ってない……というよりは意図的に載せてない立ち入り禁止の洞窟。

 ブルーは本当に自分で与えた猶予を守り、怪人全てを取り込んで研究や改良を重ねている。

 あれから5年でエレボス細胞に感染した動物の突然変異が起きたらしく、炎を出したり雷を蓄電したりと怪人を超えた力を持っているらしい。

 ベビー・キャロルもほぼ彼に付き添っている。

 

「そんなもの研究して人類でも滅ぼす気か?」

 

「俺が手を下さなくても、これだけの力があれば人類はあっけなく負けるだろうな……レッドのことだ、共存を考えるがそれができなければ終わったと見ていい」

 

「だが奴らはその生物も利用する」

 

「その頃には他の人間もこいつら……そうだな、モンスターとでも呼称するか、相対し前提に加えた生活を想定していく時期だろう」

 

 モンスター達はまだ進化を繰り返す、もう1年くらい経てば人類達もその脅威に気付いてまた新しい生活が始まるだろう。

 ブルーにとっては知ったことではないが、元々の人格のクセもあってか研究をしないと暇で仕方ない。

 ゴクレンジャーはもうほぼ終わったものとして語り継がれる、わざわざブルーに会いに行く人間などシエル以外に現れないだろう。

 

「ベビー、前々から聞いておきたかったがお前はそれで幸福か?」

 

「なんで?ブルー様がいてくれる以外に幸せはないし、その為なら別に人間じゃなくても一緒かなーって、このまま何百年も生きられそうだし」

 

「……怪人の肉体様々だな、ホワイト・レボルシオンもそれくらい長生きさせられたらいいが」

 

 

「シエルちゃん、それ本気で言ってる?」

 

「当然だ、お前も聞いた通りシャドウはただで転ばない、花岡さくらが無駄死にではないと世間に知らしめるために今の私がある」

 

「相田先輩にはあんなにさくらちゃんは死んでないって力説したのに?」

 

「…………私の信念を世間が異端と言うものが多いことなど理解している」

 

「違うよ、シエルちゃんはさくらちゃんのカッコつけを利用したいだけなんだよ、シエルちゃんから見てバケモノになったあたしが言えたことじゃないけど、周りの人の事も考えずに一人で突っ走っちゃったさくらちゃんも、さくらちゃんの生き様を勝手に利用してるシエルちゃんもバカみたい」

 

「……………………」

 

 シエルは何も言わなかった、何も言わずに光のある洞窟の出口へ向かう。

 もしかしたらもう二度とベビーはシエルと会わないかもしれない、だがこれでよかった。

 能天気なベビーでも見てわかるほとにシエルは変わった、ほぼ接点も少なかった彼女があそこまでさくらに入れ込むのは、それだけ失うことを怖かったのだろう。

 そして、いよいよ目の前で命が消える時にその人生すらも利用しないと正気のフリすら出来ないほどに限界が来ている。

 

 そしてその理由は……。

 

 

「ねえダザクちゃん、貴方はせめてシエルちゃんのそばにいるべきだったんじゃないかなぁ」

 

 

 アダザクラ……さくらのクローンはあの一件のあと失踪した、レッドとピンクを連れて。

 エレボス人の寿命は全くわからないのでもしかしたら時期が来たのかもしれないし、人間の関わらないところで怪人統治国家を作るのかもしれない。

 しかし自分達はあの一件以来バラバラになった、その原因になりそうなものを考えるとシャドウの顔しか浮かばない。

 

「ブルー様、これから世界どうなっていくのかな」

 

「奴が本気なら人類の平和は確立されてるんだ、数百万の何も知らない個人にとって幸福なのは変わらないだろう、奴が独裁者になろうがどうなろうが、どうでもいいことじゃないか」

 

 

 ――

 

 

「シエルさん」

 

「ああ、分かっている……我らは桃の園、弱きを助け強きを挫くを否定した者として……この世の脅威は全て排除してやる、お前が『ヒーロー』として語り継がれるようにな……」

 

 新国家保安部隊ホワイト・レボルシオンはいずれ本当に日本を支配するだろう。

 戦隊の時代が終わっても戦いの歴史は終わらない。

 シエルという人間の命と意地が残っている限り……。

 

【第3幕】

『我ら桃の園〜正義と愛と遺された命〜』

【おしまい】 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告