機械工学に優れ、周囲の緊張を解いて率先して人を笑わせるムードメーカー……それがゴクレンジャーのイエロー。
その現役イエローが……今、候補生達の目の前に立っている、実感が沸かないが感覚としてはサプライズのように大スターが立っているようなものだ。
イエローは相変わらず……こんな真夜中であってもお調子者面で余裕を崩さない変わった振る舞いをしている。
レッドじゃないにしても本物のゴクレンジャーがいるとなればさくらの目も覚める。
「どうしてゴクレンジャーが極鍛山に!?ま、まさかまたAランクの怪人が」
「実を言えばそのまさかだぜ、桃の園で現れたのも含めここ最近各地でウィドー級が異常レベルで確認されているからメンバーが結集する羽目になったんだぜ」
「え!?アレ以外にも!?」
なんとイエローが言うには少し前からAランク怪人『ウィドー級』を各地、毎日のように確認しているという。
政府は突如としてエレボスの動きが本格化したとして徹底的に調査した結果、怪人側として確認される数分前、数キロ範囲に必ず特定の人物が目撃されていることが分かり……現在はその人物の捜索と特定に向けて活動している、とのことだ。
「ちなみにコレが監視カメラに映ったその人物なんだぜ」
イエローが持っていた写真に写る白い後ろ姿こそ、まださくら達は目撃していない……スノーホワイトそのものであり、今まさにこの環境でもスノーホワイトが密かにさくら達を監視していることは知らない。
それよりイエローが聞きたいことはこんな夜中、寮で就寝しているはずの候補生が何故山にいるのかだろうとさくら達はシャドウが行っている授業の説明をすると……イエローは突如立ち止まり、シャドウが前にやっていた時のような首を大きくひねる動きをする。
「もしかしてアレってゴクレンジャーの特別なサインなんじゃ……」
「継承したとしてもアレだけはやりたくないな……」
「本部から通信を確認、セキュリティレベルDクラスの情報開示の許可が下りたんだぜ、今回のテーマは『極戦隊秘術』について説明するんだぜ」
「なんだか昔こんな言い方で電子音声が解説してくれる感じの動画流行ってたなぁ」
ベビーは聞こえない程度の大きさでそう呟いて、改めて説明してくれるイエローの話を聞くことにした。
それは直前までさくらが気になっていたゴクレンジャーは過去に存在していたはずの戦隊達の力を継承しているのかということだが……ある程度は正解だった。
コンテンツショックによって失われた英雄達の痕跡、このまま忘れ去られてしまったり、万が一帰ってきた時に混乱を招かないようその力を分けてリスペクトしている……ということらしい。
シャドウが使った『極忍法』もその類であり、全員が極忍法を使うわけではないらしい……だがそうなればシエルは疑問を浮かばざるを得ない、つまり本来はピンクにはピンクで専用の技法があったはず、なのに何故それらではなく真っ先に自身の極忍法を教わっているのか……だが、イエローでも知らないことはあるようで頭をまた傾ける。
「じゃあ……ピンクは本来どんな力を使ってきたんですか?」
「ピンクのやつは自分も見たことはないんだが理論上は『極召喚法』を使えるらしいんだぜ、でも手順だのが複雑だから1回も使われてないんだぜ」
イエローが話していくうちに気がつけば山頂に、話しながら越えていったのもあって気がつけばこんなところまで来てしまった。
本来の生存訓練であれば登り始めて1時間ちょいで攻略できるのが前提なので苦ではないが……爆弾を多少抱えながら徹夜上等で移動しているので少々体力的にはしんといところはあるが、シエルとさくらはお互いへこたれた所を見られたくないので痩せ我慢している。
「しかしシャドウのやつ、また素っ頓狂な作戦を思いついたんだぜ、裏方って言う割にはめちゃくちゃやりたい放題してるし……」
「あっ、そういえばゴクレンジャーの皆さんから見たシャドウ先生ってどんな人だったの?」
「そりゃまあシャドウはエ……」
その瞬間だった、ベビーに話しかけられて油断が生まれたイエロー……その僅かな隙を見逃さないのが怪人。
しかしエンジェルウィドーではなく、また別の山に籠っていたランクの低い怪人、それがエンジェルウィドーが仕掛けていた羽のトラップを踏んでしまうとまたたく間にウィドーの羽根で指定されたエリアが転送、さくら達の足元に巨大な穴が出来てしまう。
「え?」
と、驚く暇も悲鳴を上げる余裕もなく、さくら、ベビー、シエル、イエローは怪人ごと山頂から落下してしまう。
スノーホワイトが大きな穴を確認して中を見下ろし、携帯に業務内容を報告する。
「作戦進行……以降はエンジェルウィドーの自由行動に任せる、生き埋め対象はイエロー」
『対象がイエローの場合、プランCに移行、直ちに手薄になった金の久遠に向かい研究データを回収してください』
「ゴクレンジャーによるイエローの復帰、あるいは回収にかかる時間は……」
『約5時間!徹夜で作業をしてください、なお明日の午後12時以降は有休となります』
「了解、直ちに金の久遠に出発する……」
スノーホワイトは携帯の通信を切ると、大胆に山頂から駆け出して一気に飛び降ると大きな翼が生えて空から滑空して消えていく……その一方で、大事そうなメッセージは送った。
「花岡さくらの安否は確認できない」
『花岡さくらはこの程度で死ぬことはありません』
――
穴に飲み込まれた三人は、激しい風を切る感覚の後、ドスッという鈍い音とともに地面に叩きつけられた。
「いたたた……」
「っ……なんとか生きているようだな、骨の何本かはイカれた気はするが」
さくらとシエルが咳き込みながら身を起こす。幸いにも、落下地点は山の中腹にある臨時の休憩地点として開拓されていた場所だったらしく、土が柔らかく整備されていたおかげで致命傷は免れたようだ。ベビーも服の土を払いながら立ち上がった。
しかし、周囲を見渡しても、一緒に落ちてきたはずのイエローの姿が見当たらない。
「イエローさん!? イエローさーん!」
さくらが声を張り上げるが、返事はない。落ちる途中でどこかの横穴に逸れたのか、それとも別の場所に転送されてしまったのか……相手はプロだ、自分たちより上手くやっているだろう、それより問題は……。
「だが探している余裕はないようだな。出口が……落石で完全に塞がってる」
シエルが険しい表情で指差した先には、巨大な岩と土砂が崩れ落ち、外への道を完全に塞いでしまっていた。
さらに悪いことは重なるもので、暗がりから低い唸り声が響いてきた。
「ギチ……ギチチ……」
岩陰から這い出してきたのは、最低ランクのDとはいえ、見習いの彼女たちにとっては1体でも厄介な『シーカー級』の怪人たちだった。それが複数体、チカチカと不気味な目を光らせながらじりじりと距離を詰めてくる。
「この狭い空間じゃ逃げ場もない、戦うにも環境が悪い……手詰まりだな」
「爆弾……! さっき作った爆弾を使えば、あの岩を吹き飛ばして穴を開けられるかもしれません!」
さくらはリュックから徹夜で作り上げた不格好な爆弾を取り出した。だが、つい先程まで素人だった自分たちが作ったものが、はたして思い通りに起爆するかどうかは全くの未知数だ。
「私が起爆の準備をするから、二人は時間稼ぎをお願いします! 一応ピンクの役目として、決して倒さずに弱らせるだけで留めてください!」
「お前の導火線ちゃんと火がつくのか!? クソっ貸せ!私が付けてやる!!」
焦って点火に手間取るさくらの手元を見て、シエルも起爆のサポートに回る。必然的に迫り来る複数体のシーカー級を足止めする役割は、ベビー一人が引き受けることになってしまう。
「ベビーさん、ごめん! 少しだけ持ち堪えてください……付けたら回ります!回りますので!!」
「ペコペコしてる暇があったら火をつけんか!!あの不可解教師めこの文明時代に火打石で点けろとは!!」
さくらが叫ぶと、ベビーはいつもの穏やかな表情のまま、一つ頷いて前へと進み出た。
「大丈夫、5個……5個だけ、あたしはブルー様と同じ力を使えるの」
その呟きは、いつもとは少し違う、熱を帯びたものだった。
ベビー・キャロルは、ピンクに憧れてこの桃の園に来たわけではない。
彼女の心を満たしているのは、ただ純粋なブルーへの愛だった。ゴクレンジャーになれば、愛しのブルー様に近付くことができる。ただその一心で、彼女は桃の園に入学する前からメイクやトレーニング、アルバイトと数々の努力を重ねてきたのだ。
その結果、彼女は入学前にして……ブルーが使用していた『極活法』というツボ押しを軸とした技を習得するに至っていた。
「極活法・25柱『正義の雄叫びの巻』……変身!!」
ベビーが両手を器用に背中へ回し、特定の特別なツボを強く押し込んだ。
ドクン、と。彼女の体内で急激にホルモンバランスが変化する音が聞こえたような気がした。次の瞬間、ベビーの肉体がみるみるうちに膨張しスーツの上から盛り上がり、黄金の体毛が腕や首筋を覆い始める。
その異様な光景に、導火線を繋ごうとしていたさくらは完全に手が止まってしまった。
「いや……あれどうなっているんですか!? ツボ押しのレベル越えてますよね!?」
「やはりそうか、極活法と聞いた時点で嫌な予感はしたが、あれは『藍の波止』の禁忌だ……」
シエルが息を呑んで解説する。
怪人の肉体組織は四割が人類と100%一致していると言われている。ブルーとその養成校『藍の波止』は怪人研究を専門とする中で、副産物として限られた者のみ使用を許可する技法を編み出した……それこそが『極活法』。
ツボ押しをトリガーにして人体の様々な細胞やホルモンを独自進化させ、一時的に自らの部位を怪人化させるという禁忌の技である。
若干だが獅子のような猛々しい姿へと変貌したベビーは、凄まじい咆哮を上げ、迫り来るシーカー級たちへと飛び込んだ。
その一撃は重く、しかしピンクの「倒さない」という教えを忠実に守る絶妙な力加減で、次々と怪人たちを打ち据え、弱らせていく。
何より恐ろしいのはその肉体を完全にコントロールしているベビー自身だ。
「すごい……これなら、すぐにでも脱出の準備が……!」
さくらが再び爆弾の準備に取り掛かろうとした、その瞬間だった。
ふわり、と。
密閉されたはずの空間の上空から、純白の羽が舞い落ちてきた。
「え……?」
さくらが見上げた先、岩壁のわずかな隙間から差し込む月明かりを背にして、巨大な翼を広げたエンジェルウィドーが、静かに空から舞い降りてきたのだった……!!
「そ……そんな!?ウィドー級がまた!?」
「イエローが言っていた話は事実だったようだな……ベビーやれるか!?」
「も、もう無理……これそんなに使えないみたい〜」
そう言うと獅子のような体毛は抜け落ちて筋肉はだらんと伸び切ったシャツのように萎んで伸び切った跡が残り……ちょっとだらしない身体になってしまう、やはり体を無理矢理作り変える技には副作用があったようである。
「あっベビーさん危ない!!」
「こうなったらチビお前が身代わりになれ!火は付いたがこの岩盤ぶっ壊すには全然足りん!!」
シエルが自分の作った分も合わせて次々と起爆していくがよほど岩があるのかヒビ割れ程度で外の光が見えてこない、身動きが取れないベビーを助けるためさくらは必殺の『桜花一拳の構え』を取り、エンジェルウィドーに振り被るが……エンジェルウィドーの目線は自分たちではなく、弱ったシーカーに向いており……?
ぐちゃり。
その場で弱ったシーカー達を踏み潰して完全に息の根を止めた。
全員が何をしているのか分からないと意識が飛んだ、怪人が怪人を殺した?何のために?
それだけではない、エンジェルウィドーは無機質にシーカーを踏み潰していくなか、生き残った者が後ずさりながら逃げ出そうと壁に這いすがる、まるで死にたくないと怯える子供のように……。
さくらはその姿に目を奪われ、最後の一匹が手をかけられそうになった時。
「やめろっ!!!!」
咄嗟にその場に落ちていた石ころを掴んで野球の鋭いピッチングのごとくエンジェルウィドーのこめかみに当てると、まるで蚊に刺されたような反応で振り向き関心をこちらに反らす。
シエルは普段だったら何をやっているんだと言っていたかもしれない、経緯はどうあれ怪人を庇ったことになるのだから。
だが、この命もここで途絶える……。
(ああ……せめて、レッドさんが届くところまで生きたかったな……)
「極
その刹那、駆けつけてくれるのがヒーロー。
イエローが極武器を発動して右腕から剣を転送し、エンジェルウィドーの羽を切り落とす、その直後にイエローが来た衝撃もあってか崩れかけていた岩があと一歩という所になり、シエルが蹴ってこじ開ける。
「我々の役目は終わった!!退くぞさくら!!後はゴクレンジャーに任せておけばいい!」
シエルは強引にまとめて……重たいがさくらとベビーをまとめて出口まで飛び出し……無我夢中で外を走っていると、なんとか桃の園の教員が救助用のヘリに乗って駆けつけ、三人は助かることになる。
……さくらとベビーはこれまでの疲れからか気絶するように眠っており、シャドウがそれを介抱する。
「マジかー、こんな所にもあいつが来るとなると厄介なことになりそうだ」
「……シャドウ先生、あえてこう呼びますが、質問があります」
「夜も更けてくる、俺だって眠いんだから一個だけにしてくれ……何?なんか満足いかないって顔」
下手すれば候補生が死んでいたかもしれないのに能天気な態度、自分たちの事をどうでもいいと思っているのか、あるいはピンクを増やすためなら多少の犠牲も気にならない人間なのか……?何にしても、シエルは納得がいかない。
「一つ約束してください、これは桃の園全員にも伝えること……何故我々に極召喚法ではなく、極忍法を教えるのか、自身のこだわりだけでやるにはあまりにも独善的だ」
「イエロー居たんだっけ?じゃあそいつから聞いたのね……うーんまあ極忍法に比べて使う機会が少ないんだよね」
シャドウは古い歴史の話をする、極召喚法は消えた戦隊達の力の一部でありかつては同じものを全てのカラーが使うことが出来たこともある、その頃には『ゴーカイチェンジ』とか『アバターチェンジ』と呼ばれていたらしい。
誰もが疑問に思うだろう、怪人にとどめを刺せないピンクがどうやって実績を出すのか、その答えが極召喚法であり、超・超・超異例の状況でしか使うことができない。
「極・召喚法を使えばピンクは一次的に過去のレッドに変身する、つまり
「なっ……ピンクがレッドに!?それではまるで、あのチビの理想みたいな」
「さくら君が知ればガンガン使うだろうね、でも政府によるとゴクレンジャーで極召喚法を使えるのは何らかの要因で100%レッドが駆けつけられない場合の非常手段、そしてこれまでの戦闘においてレッドが間に合わなかった例は一度もない、今回の山の怪人だってあと3分もすればレッド来れるってさ」
つまりピンクの技を覚えたところで、使う機会など一度もない。
それなら自身の持つ極忍法を教えたほうが手っ取り早い……ちゃんとシャドウなりの考えがあったのだという。
「話は以上か?」
「……まあ、その辺で」
シエルは納得しきれないところもまだあったが一旦は踏み込みすぎないように眠りについた。
その後……シエルは考えた、もしピンクが独断で極召喚法を使えばどうなるのか?
さくらに限らず勢いのまま発動してレッドになり、怪人を倒すなど誰でも思いつきそうなものだ、組織全体で監視しているのだろうか?
「本当は聞いているんだろう」
「あっ、ば……バレましたか」
さくらも途中で目が覚めて話を聞いていた。
極召喚法に興味はあったが……まだ、よくわからないところもある。
それを考えてる場合じゃない、何よりきになるのは……。
「シエルさん、怪人も……死にそうになったら怖いって思うのでしょうか?」
「……ありえないな、怪人に感情と呼ばれるものはない……本にも書いてあった、あの天使の顔をした化け物を見ただろう……まるで邪魔者のように排除する、あれが怪人の普通だ」
シエルに諭され、さくらは改めて眠りにつく。
ベビーは一番頑張って下手すれば死にかけたのに鼻提灯膨らませて熟睡している、本当に強い人だ。
強いが……怖い、極活法による一次的な怪人化、とても手段として用いるにはリスクが高すぎるのに、ベビーの反応は明らかに使い慣れたもの。
もし極活法、極武器、極召喚法も同じく50種類あるとするなら……そのうち5つを使いこなせるだけでもとんでもない進歩だ。
「ベビーさん……貴方一体何者なんですか」
その日の夜、さくらは夢を見た。
遠い過去の記憶、自身が生まれたばかりの頃……彼女はまさに蝶よ花よと華々しく人形のように育てられてきたが……その青春はゴクレンジャーの存在で大きく変化した。
その一方で日に日に両親から向けられる目線は、おしとやかに振る舞えという怒り……それは次第に失望に代わり。
桃の園入学が決定した日、さくらは寮に入ることが決まってすぐ両親と絶縁された。
そして自分は、レッドに憧れると同時に女らしさを捨てた、忌々しい家族の思い出と共に。
「……女として生きることが、そんなに良いことなんですか?」
エレボス細胞怪人:ランクA『エンジェルウィドー』
構成組織:エレボス細胞×レンジャアークワクチン『A・ラタ』
天装戦隊ゴセイジャーと呼ばれる消えた歴史を由来としたウィドー級怪人、敵と判断したものを無差別に断罪し、美しい天使の翼と蜘蛛の残忍さを併せ持つ。