「な……なんでシエルさんがこんな所に!?ピンクじゃなくて……黒!?」
非公認戦隊『秋葉蓮蛇』……調べてみると、自分達がいない間にシャドウは桃の園でも立場が上がったらしく、エレボスに対抗すべくゴクレンジャー以外に作り出した新陣営、ここから異動すれば見習いだった人物でも集団戦限定で国家保安部隊が対処するBランクの『グァモンス級』鎮圧の許可が降りる。
ピンクしかなれないから女子たちはピンクになる、もし別の手段が存在すればシエルはそちらを選ぶ、それだけのことなのかもしれない。
パソコンを開いて調べてみると、桃の園以外でも藍の波止、金の久遠からも秋葉蓮蛇に移動した生徒は数多く存在し、部隊の規模は100人にも及ぶという。
「どうするさくらちゃん、あたし達も桃の園からそっちに行く?」
「……いえ、なんといいますか、私はピンクを諦めきれないですし、シャドウ先生は……信用できません」
ゴクレンジャーの一部存在には不信感がある、レッドまでは疑えないが今回のブルーの所業、助けてくれなかったイエローとシャドウ、特にシャドウは自分達がいない間にお株を奪うような、仲間すらも裏切るような真似をしている。
分からないことが多いがなんとなく推測できるのは、今のゴクレンジャーの連携はかなりバラバラになっており、壊れそうになっているのはシャドウが原因なのではないか?
スノーホワイトと知り合いのような語り方をしていることから、ホワイト・レボルシオンとも何か関係がありそうな気がしてならない。
それよりも……問題は自分達がちゃんと特待生になれるかどうかだ、秋葉蓮蛇の台頭により怪人被害も減るということは良いことなのだがサポートに徹する自分達ピンクの仕事が殆ど無くなってしまうことだ、
「我々がここからピンクになるためにはどうすればいいと思います?」
「うーん……さくらちゃんの場合は勉強かなぁ」
「成績は追々伸ばしていきますから!!それとは別で何かやらないと厳しいという話で……あと、まだ身体が痛いから怪人相手も厳しいですよ」
「うーん、あたし達も休んでる暇がないもんね……となると、やっぱり専門の人に頼むとか?」
――
「ついこの間ぶりだなぁ、こうしてちゃんとした顔を見るとなかなかべっぴんさんで……まさか、またこうしてオラに会いに来るのは思わなんだけど」
「ベビーさんの分まで助けてくれたお礼を言えてなかったので、えっと……藍の波止の……」
「相田コバルト、一応特待生だべ……だから誘ったんだな?」
さくらは1人、あの時助けてくれたあの男……コバルトに話をしていた、特待生の先輩である彼なら他校であっても何かしらのアドバイスを聞かせてくれるだろうと思った。
藍の波止の方は直後にエレボスが襲撃しに来たということがあった為に一時休校、彼にもさくら達の様子を見ておきたいところもあったのかネットで調べたらすぐに連絡をよこしてくれた。
ただし仮にも相手はあのブルーの関係者、助けてくれた気まぐれもありベビーは誘わずに1人で顔を隠し、喫茶店で対談する。
「警戒すんのもわかる、オラがブルーだでまたとっ捕まえるんじゃねえかと……だがオラはおめぇらに会ったのはあれが初めて……ま、だから分かってるよな?オラに頼むんからには聞きたいこと全部答えてもらう」
コバルトの言い分も最もだ、助けてもらった上にアドバイスまで貰うなんて図々しくなる、どこまで話していいかという心理戦が始まろうとしている。
「……どれを聞きたいんですか、私達があそこでどんな研究されていたことか、ホワイト・レボルシオンのこと、それともシャドウ先生の?」
「あ〜……そん中だったらデリケートなところもあるし例の六人目の話でええ……んで、なんでそんな話聞きてえかってなったらオラも知ってること話すか、一種の文化交流だな」
さくらはその交渉に乗り、シャドウの話をする……自分達とほぼ同じタイミングで教員になり、ゴクレンジャーの裏方である六人目を自称して色んなことを教えた……ウィドー級が増える、つまりホワイト・レボルシオンが台頭したのも同じ時期だ。
しかも入ってすぐにどんどん立場が良くなっていき、帰ってきた頃には教員をしながら『非公認戦隊』を作っていた。
それだけ言うとコバルトはコーヒーを整えながらメモを取り、冷静に答える。
「来てすぐに桃の園の理事長周囲が失踪……おめぇも薄々察してるとは思うが、オラは間違いなくシャドウが始末したと考えとるべ」
「そ……それは確かに思いましたけど、先生がそれをする理由はなんですか?」
「自分のルールに都合が悪いから、それが例の……秋葉蓮蛇にも繋がってるとみた」
つまりコバルトが言うには秋葉蓮蛇のような……自分の思い通りに動く戦隊が欲しかった、桃の園に来た理由までは分からないが……コバルトはその点も踏まえて、ゴクレンジャー達に命よりも優先されるルールがあり、それに沿って世界の何かを操ってるような気配を感じ、藍の波止に来たことを明かす。
「つまり相田さんは、ゴクレンジャーのやましい点を調べるために……シャドウ先生のこと何か知ってますか?」
「オラも六人目なんて奴がいることを知ったのはちょっと前だ……お二人を帰してすぐに本人とばったり会ったが、エレボスを見てねえと正直に答えると帰ってった……抹殺でもされるんじゃねえかと思ってヒヤヒヤした」
「抹殺って……私たちを逃がしたことで?シャドウ先生が私を見捨てるようには……ありそうなないようなで判断がし辛い」
「その点に関しては例の……ベビーちゃんだべか?極活法の研究に利用されてたと……それも含めて質問だが、ゴクレンジャーのことどこまで把握しとる?」
「10年近く見てましたので活躍はもう、DVDとかも沢山出てますよね……シャドウ先生は一回も出てませんけど」
「そう、縁の下の力持ち気取りかはしんねえけどとんでもねえくらいの影響を与えている、やりすきて悪影響になるかもしんねえくらいにはな……藍の波止で突然極活法の授業が始まった時正気の沙汰じゃねえと思って調べたんだ、そしたらとんでもねえことが分かった……」
「ブルーの極活法、イエローの極武器、ピンクの極召喚法……そんでシャドウの極忍法、もしかしたらレッドとグリーンもなんか仕込まれてるかもしんねえが、アレ全部シャドウが勝手に考えた事だ」
「え!?そ、それってつまり……なんと言いますか言い方的にアレなんですけど……シャドウ先生は少しずつゴクレンジャーを私物化しているってことですか!?」
「そこまではわからんがあの極なんちゃらってのがシャドウが広めたもんってのは事実だべ」
少し交渉したかっただけなのに、とんでもない話をきかされてしまった……シャドウのことを話したとはいえ、ここまで聞けてよかったのだろうか?
「どうして……私にそこまで話してくれるんですか?まだ貴方みたいに特待生でもないのに」
「特別邪魔ってわけでもねえし、間違いなくなんかあんだろ?ウィドーに何度も襲われて、土壇場で極召喚法とやらを成功させたんだ……だからこそ、ブルーに独占されんのは気に食わねえなあ」
「……ブルーさんのことですけど、なるべくベビーさんには黙っててくれませんか?あれをやったのがブルーさんとは気付いていませんし、あの人……本当にブルーさんのこと、想ってるんですよ」
「なら尚更だが、ずっと黙ってられるわけでもねえぞ……ま、そこはベビーちゃん次第だな?んでめっちゃ話が先延ばしになったが……特待生のことだったな?」
衝撃的なことが多すぎて最初に聞きたかった肝心な話を聞きそびれていたが、コバルトはそこもしっかり説明してくれる、特待生というものはただ成績が優秀だったり、怪人を多く鎮圧……ピンクの場合はまた手段が異なってくるが、それ以外にも必要なことがある。
「特待生になるために一番大切なもんは愛想、身内に、生徒に、街に……とにもかくにも好かれねえと駄目だな」
「つまりコネ作りですか……?」
特待生を決めるのは養成校ではなく、街全体による選挙票で一番相応しいものを決めるとか、コバルトは藍の波止の規模を利用して学校の大半を味方につけることで特待生の座を勝ち取ったらしいが、学校の大きさに差がある桃の園では厳しいところがある。
しかしなんとなくやり方が分かってきたさくらは、次に何をすべきか決まった。
次に自分がやるべきことは……と、去ろうとしたところで殺気を感じる、長居しすぎたこともあり自分の分の代金を置いて逃げようとするがコバルトがさくらの腰を掴んで一緒になって空へと逃げる。
「相田さん!?」
「オラくらいになんとレーダーなくとも怪人の感覚くれぇはわかる、すぐ近くに来てんな……Cランク、『アパス級』だな」
Cランク……今ここにいるコバルトのような特待生が相手できるようになる、見習いが相手出来るものより更に上の実力。
ただし特待生が側に付く形で援護すれば見習いでもC級と戦うことは出来る。
「しかしとんでもねえ速さだ、獣ってか車みてぇな速さで各地を突っ走ってる、こりゃなんかにぶつかったらただしゃ済まねえ……が、妙だな、あっちこっちグルグルして街を壊す様子もねえ」
現場に急行しながらさくらにレーダーを見てもらっているが、反応の中の怪人は特定のルートに沿ってずっと同じ道を回っているのみで破壊活動などはない、養成校が捕縛していた怪人ならもっと大人しく、自然発生したものならもっと荒々しいはずだが今回の例はどちらにも当てはまらない。
……さくらは、ひとつの可能性に思い至った。
「相田さん、もしかしての話になりますが怪人は逃げてるんじゃないですか」
「逃げる……まあありえなくもねえか、向こうからすりゃ敵だらけだし……そんならオラ達が助ける理由もなくねえか?」
「あれを見ても……ですか?」
レーダーの先に見えてきたのは、確かに追いかけ回されて逃げる怪人の姿、しかし追いかけ回しているのは妙なことにエレボスを信仰する、つまり怪人の味方であるはずのホワイト・レボルシオンの面々が鷹のような自動車……いや、よく見たら下半身が車輪のようになっているサイボーグだ。
「ドルドルドル〜ッ!!ようやくゼレット様がエンジンマシーンに改造してくれたんだ、ガソリン使い切るまで暴れてやるぜ〜」
「あ〜あ、怪人だけでもオラ達手一杯なのにあんなびっくり人間出されてもなぁ……んで、どっち潰すつもりとかは聞くまでもねえか」
「相田さんは自動車と喧嘩したことはありますか?」
「自動車どころかトレーニングの一環でトラックを引っ張らされたこともあるべ」
「なら大丈夫ですね」
コバルトは猛スピードで迫るエンジンマシーンの前に涼しい顔で立ち塞がると、いとも容易くその下半身の車輪に足を引っ掛け、豪快にひっくり返した。
「おっと、スピード違反だべ」
怪人に関しては、自分達が手を出さなくても代わりに相手をする者はいくらでもいる。しかし、スノーホワイト 以外にも新たな幹部が裏で糸を引いているとなると話は別だ。今後のためにも、ここで情報を引き出すべく対処しなくてはならない。
ひっくり返されたエンジンマシーンは、ギギギと不快な機械音を鳴らしながら起き上がった。そして、内蔵されたセンサーの赤い光でさくらとコバルトを舐めるように解析し始める。
「ターゲット確認。コレヨリ、ハンティングゲームヲ開始スル」
「よっしゃああゴクレンジャーだ!これでまたポイントを稼げるぜ!怪人よりずっといい!」
エンジンマシーンの乗っていた機械から無機質な音声が響き渡ると同時、怪人の内部に紫色の『エレボスオイル』がドクドクと注ぎ込まれていく。
すると、自動車のパーツで構成されていた下半身がグロテスクに拡張・変形を繰り返し、瞬く間に巨大で歪な人型兵器『エンジンエース』へと姿を変えた。
「相田さん、ブルーの生徒なら一応……極活法 は使えるんですよね?ベビーさんみたいに5つは」
さくらは圧倒的な質量を前にしても怯むことなくコバルトに尋ねた。
「まあ使えるけんども……アレって気軽に使うもんでもねえべ。それに、あの程度なら生身で充分だ」
コバルトは飄々とした態度のまま、軽く首の骨を鳴らす。
「なら、少しだけ時間を稼いでくれませんか?」
「お? 何か企んでんな? ま、せっかく新人ちゃんに良いところ見せられるんだ、特待生の力見せちゃるべ」
直後、エンジンエースが爆音を轟かせ、マッハを超える信じられないスピードで突進してくる。
しかし、コバルトは全く余裕を崩さない。迫り来る凶刃を紙一重で躱し、何もない空中をまるで足場のように蹴って自在に飛び回り、巨体の猛攻を鮮やかにやり過ごしていく。
(今なら……!)
コバルトが敵の注意を完全に引き受けているこの隙に、さくらは準備に入る。
実は、あの忌まわしい施設から脱走を試みる前、彼女は一つだけ常備できるように複製された『戦隊遺伝子』を密かにくすねていたのだ。
あの時はほんの僅かな量を試しただけだった。だが、この完全な量を自分の肉体に注いだ時、どうなるかは分かっている。
女はピンクにしかなれないという常識。サポートにしか回れないという絶望。その全てを打ち破るための、切り札。
さくらはデバイスを取り出し、自身の肉体に迷いなくそれを注ぎ込んだ。
冷たい液体が血管を駆け巡り、全身の細胞が爆発的に熱を帯びていく。
「染色!」
かつて、戦隊は『変身』していた。巨悪と戦うに相応しい、強靭な姿に。
いつしか消され、隠蔽されてしまったその歴史を超えて今、真の力が蘇る。受け継がれ、紡がれてきた戦隊達の遺伝子に乗せて――花岡さくらの身を、眩い光が包み込んだ!
「分かる……今の私には分かる!貴方と同じで、この遺伝子に秘められた力!そうこれは……ゴーオンジャー!!!!」
さくらの全身に遺伝子が行き渡る、そして声が聞こえた……それは紛れもなく過去に存在した、燃える魂を持ち正義の道をマッハで駆け抜けていった赤いヒーローの魂、真なるマシンとの共存。
「なっ……ちょっ、さくらちゃんオメェ!?身体が……」
極召喚法を資料で見ただけに過ぎないコバルトは一体どんな変化をするのか期待していたところはあった、だが変わっていく姿は全身が機械のようになっていくがさくらは全く動じていない。
それではまるで、そこにいるホワイト・レボルシオンのサイボーグ共と同じではないか?
「大丈夫です相田さん、遺伝子に刻まれた記憶によると、ゴーオンジャーはマシンと深い縁があったから皮膚がそれっぽくなっているだけです!これが……これがゴーオンジャーとゴクレンジャーを合わせた私の……全てを救う力だ!!」
まるで蛹か脱皮のように機械のような皮膚が剥がれ、左頬にコンドルのようなタトゥーが生えてくる、さらに胸のマークはゴクレンジャーピンクのPではなくなり、代わりに羽根の生えた1という見たことのないシンボルになっている。
両肩にはエンジンエースのものにも似ている赤い羽根型の鎧、膝は青、腰回りは黄色の鎧が付けられている。
素朴だったさくらのゴクレンジャースーツが見事にインナースーツの役割を果たしている。
「これぞ!極召喚法Ver.32『ゴクレン炎神SOUL』です!!」
「……なんだぁあいつ?ピンクの分際でレッドの真似事どころか、俺様のエンジンオーの真似までしやがるとは身の程を知れ!!」
「身の程を知るのは……貴方の方です、エンジンオーが何かまでは知りませんが、誇るべき戦隊の力を私利私欲に使う人間を私は許さない……救うべき人類の為、鉄拳制裁!!!」
エンジンエースの攻撃を高速の残像で当たったように見せかけて背後に回る、エンジンエースどころかコバルトすら遥かに超えるスピード、これが過去の戦隊を継承した力……ほんの僅かな量でウィドー級を圧倒した戦隊遺伝子の力!
エンジンエースはさくらは面倒とわかるとコバルトに矛先を変えるが、コバルトは振り下ろされる金棒を蹴り上げて吹っ飛ばす。
「こっちはオメェらぽっと出に構ってる暇はねえんだよ、ゴクレンジャー目指してる奴ら舐めんじゃねえぞ、……今言っても遅ぇな」
コバルトが言い追える間もなくさくらは既に音速で拳を眼前まで捉え、コバルトも膝を下ろし低い姿勢で必殺技の体勢へ
「桜花一拳派生三十二番・ストレート!!」
「アルタイル・スプラッシュ」
前と後ろから必殺技を叩き込まれ、反発して上に吹っ飛んで空から大爆発していく。
怪人だったらレッドも来ていないのにトドメを刺したら問題になってしまうが、相手は機械と人間のなりそこないなので誤魔化しは聞く。
戦いが終わった後、さくらはふくらはぎに違和感を関して膝を抑えてうずくまるが……遺伝子が足のなかに駆け巡り、なんとも奇妙なことに……まるで粘土を引っ張るかのように足が引き伸ばされており肉が足されて、シエルからよくチビと言われていたのがちょっとだけ背が伸びたような気が……いや、筋肉がつけ足されている。
これが戦隊遺伝子の副作用だろうか?
「それ……大丈夫なんか?」
「まあ背が伸びたくらいなら……それよりそろそろ逃げましょう、シャドウ先生か誰かしら来たら面倒なことになります」
足がちょっと伸びた影響もあってか歩きづらいので、またコバルトに抱っこしてもらいながら撤退するが、その姿を……あの白い乗り物が観察していた。
スノーホワイトが双眼鏡でさくら達を眺めている。
「あー……ゼレット、どうだった?例の改造人間のデータ、戦隊遺伝子を取られた俺のせいもあるけど……給料に支障は出ないっていうし」
「あの程度眼中にない、適当に余ったものを差し向けていたのを傑作と真に受けたバカならいくらでも消してほしいくらいだ、それより大事なのは俺の作ったエレボスオイルの成果だ……次のエレボスマシーンを作るとするか」