いよいよ始まった特別番組の第一種目。それは、強固なセキュリティが施された小さな密室からの『脱出』だった。
各チームで選ばれた1人がそれぞれ用意された狭い部屋に押し込められ、スタートの合図が鳴り響く。しかし、部屋のどこを探しても鍵らしきものは一切見当たらない……。
それもそのはず、この種目の真の目的は『知恵や力での脱出』ではないからだ。
周囲の部屋からは、他のピンク候補生たちの声が響き始めていた。
「誰か助けてぇっ!」「怖いですぅ……開けてください!」
涙ぐみ、か弱く怯える姿をカメラに向けてアピールする候補生たち。
ピンクに求められる『庇護欲をそそる愛らしさ』や『誰かに助けられる存在』としての振る舞いを完璧にこなした者から、オーディエンスやスタッフによって鍵が投げ渡され、救出されるという悪趣味なシステムなのだ、さくらだったら殴り壊して意地でも脱出していたことだろう。
しかし、本来そんな茶番を演じている余裕はなかった。
部屋の外側の様子を窺っていたさくらは、壁に取り付けられている異様に大きな機械の存在に気づき、顔を青ざめさせた。
「あれ……本物じゃないですよね?」
どう見てもバラエティ用のハリボテではない、本物の時限爆弾のような代物がセットされている。あの照明落下の事故——いや、暗殺未遂を経験した直後だ。これがただの演出だとは到底思えなかった。
「こんなところで待ってられません……マゼンタさん!!前にシャドウ先生から教わったアレ、いけますか!?」
「おう!オレもちゃんと覚えてるぞ!」
マゼンタは覚悟を決めると、シャドウから教わった極忍法の構えをとった。
極忍法其の壱・秘密の型『玄重地』――!
術によって手榴弾のような小型爆弾を生成し、強固な扉に向かって思い切り投げつける。
ドォォォンッ!という轟音と共に部屋の内側で激しい爆発が起こる。しかし、煙が晴れた後には、ビクともしていない無傷の扉が冷酷に立ち塞がっていた。
「マジか、結構頑丈だな」
「嘘、この爆発でも傷一つ付かないなんて……!」
絶望しかけるさくらとベビー。二人の視線は、自然と同じチームのマゼンタへと向けられた。
その見事なまでに鍛え抜かれた筋肉質な肉体。マゼンタなら、こんな扉など力任せにぶち破ってくれるのではないか――そう期待を寄せたのだが。
「ふっ……焦るなよ、お前ら、オレには秘密兵器があるって言ったろ?本当なら極武器や極活法も試したいが、急いだほうが良さそうだしな!」
マゼンタは全く助けを呼ぶ様子もなく、余裕の笑みを浮かべていた。そして彼女が懐から取り出したのは、筋肉に物を言わせるような破壊道具ではない。
片手には、一昔前の携帯電話のような形状をした、魔法の杖のような不思議なステッキ。そしてもう片方の手には、電話帳のように分厚く重厚な本だった。
その出で立ちは、彼女の屈強な見た目とはまるで正反対の……『魔法使い』。
「極魔法の26ページ!カーク・ドロンナ!!」
マゼンタが分厚い本を開きながら、ステッキのボタンを素早くプッシュして呪文を高らかに唱える。
次の瞬間、どろんっ!という効果音と共に真っ白な煙が部屋の中を包み込んだ。
「え、なにこれ!?」
「マ、マゼンタちゃん!?」
煙が晴れた後、さくらとベビーが目を丸くする。なんとマゼンタは、強固な扉も厄介なセキュリティも全てすり抜け、まるで脱出マジックを成功させたかのように何事もなく部屋の『外』に移動していたのだ!
『極魔法』――それは本来、グリーンの戦士を育成する養成校『翠の庭園』で教えられる特別な力。
極系統の能力の中でもトップクラスの種類を誇り、呪文の組み合わせ次第で千変万化の現象を引き起こす、無限の可能性を秘めた呪文群である。しかし、その複雑さゆえに完全に使いこなせる者はごくわずかだと言われている。
マゼンタはピンクの候補生でありながら、5000以上も存在するという極魔法の呪文のうち、なんと50種類もの魔法を既に完成させていたのだ……!
こうしてマゼンタは無事に脱出したが、そうこうしていられない。
「ま……マゼンタさん!?その魔法って爆弾らしきものをなんとかできるものはありませんか!?」
「よし、ちょっと待ってろ……よしこいつだ!極魔法36ページ、バスゴ・バスータ!!」
マゼンタは別の魔法を唱えると、まるで電子状の残像が見えるように高速移動して機械を次々と叩くと、動きが止まって完全に機能停止する、力任せに叩いて壊しているわけではない、本当に触れるだけで止めている。
「これでいいか!」
「ありがとうございます!」
こうしてマゼンタの大健闘で好成績を叩き出し、マゼンタは指で数えられるくらいには早く脱出、なんともとんでもない結果を見せつけたが……それに抗議をしてきたのがジングル・レディが含まれているチームやその他ピンク達だ。
「あんなものイカサマですわ!!」
「イカサマも何も……まあ確かに壁を壊そうとはしたけど無理だったぞ?だから別の手段で出ただけだ」
「それが許されざると言っているの!あんな手段が認められるわけないでしょう!」
「いいえ……私から見れば問題がないわ」
しかしマゼンタを庇ったのが……白鳥いぶき、数年ぶりのヒーロースーツだが中々様になっており、マゼンタが持っていた本の中身を見る。
「グリーンが教えている極魔法をピンクの貴方がどうして使えるのかしら」
「ピンク以外のカラーにも興味あって通信教育を受けたり通販で買ったりした!特にグリーンの呪文はいっぱいあって面白くて……ハマったらこんな風になった」
「へえ……大したものね、極魔法はゴクレンジャーも使用している正当な能力であり、呪文から魔法を作るというのは小手先で片付けられるようなレベルの低いものではないのよ」
「でも……」
「ピンクとして大成したいならそれ以上に結果を示しなさい、ということよ……だって彼女の仲間、あのベビーちゃんは極活法を使えるのよ」
「き……極活法!!?ブルーは教えてるけど滅多に使わないっていう、あの!?」
「……まあ、どっちにしても脱出に時間がかかった3グループはピンクとしての魅力が皆無として脱落、お疲れ様」
もう既に周囲をざわめかせているさくら一行、それでいえばさくらも……なのだがまだ明かせない、とにかく何にしても順調な滑り出しで終わった。
――
楽屋に戻り、マゼンタが作り出した極魔法を確認しながら楽屋裏で作戦会議を行う。
今回の事故、仕掛けられた爆弾らしきもの……明らかに普通のピンクたちの祭典ではないが、考えるのは後でいい。
ピンクは目立つべきではないという風潮が浸透した中でのピンク卒業生のいぶきからの助け舟……自分達がすんなり当選したことも含めて引っかかるが、まずは勝ってからだ。
「そっか!ベビーの秘密兵器って極活法のことだったんだな!オレもやってみたけどツボ押しとか全然分かんなくてなぁ、2個だけだった!」
(5個使えるって聞いた時の相田さんのドン引き具合凄かったなぁ……そりゃまあ、私でも特待生すら5個が人体に使える限界って聞いた時には驚いたし……ベビーさん相当危なかったんですね)
そのベビー・キャロルは実際には5個どころか、国家保安部隊に捕まった際に50種類全部叩き込まれていることは知らない……その時の後遺症も痣になって残っており、色は落ちてきたが今でも肌に残り続けている。
……ここでさくらは閃いた、桃の園で現在も教えられている極忍法、ベビーの極活法、そしてマゼンタの極魔法……これらを1人で独占することもない。
「マゼンタさん、ベビーさん、私たちそれぞれ自分達が覚えていたことを教え合いませんか?私、極忍法はシャドウ先生に言われる前から一通り勉強してたので知ってる技はたくさんあります」
これはチャンスだと思った、全員が3つの技術を均等に使えるようにすればもしもの時にも対処できる……だが、さくらとしては極召喚法の説明はするものの、ベビー達に教えても使えることは出来ないのが気がかりだった。
「つまりその戦隊遺伝子ってやつが必要なんだな?」
「それなんですけど……偶然手に入れた1個もついこの間使ってしまったので手元にないんですよね、ホワイトスノーというレボルシオンの幹部が持ってて、悪用しているのでそこから奪えたら……」
「そもそもの話なんだけど戦隊遺伝子とか極活法とか大昔の戦隊ってよく分からないんだよねぇ……コンテンツショックが起きる前は60ぐらいあったらしいけど」
「……あ、そういえばオレの親戚がコンテンツショックの当事者だったっけな」
マゼンタは遠い街にいるという親戚の話をする、10年くらい前に婿入りしたそうだがその人たちがコンテンツショックに巻き込まれ、大きな打撃を受けたが彼らのような人達が諦めずに巻き返したことで立て直したとのこと。
自分達がエレボスに襲われたのと近い時期に、あらゆる会社が消えて無くなったのだから日本は本当に終わりを迎えていたのかもしれない。
「マゼンタちゃんの親戚ってどんな人なの?」
「簡単に面白い人だった、新しい遊びとか作るの上手くて……それが突然誰かにスカウトされてゲーム作りを始めたんだとか、会社とかは作ってないけどそこでバンバン面白いゲーム作ってんだよ、今は百年先も残るゲームってのを制作中らしい」
「へぇ……凄い人が親戚にいたんですね、平和になったらその人のゲームやってみたいです」
「ああ、その時には……あっ、そういえばなんだが、オレが秋葉蓮蛇に入らなかったのってその人に止められたのもあるんだよな、オレにとっては第二の親みたいな人だから」
「その人が?」
「ああ……いつになく真面目に言ってたからなぁ、じゃあ従っておくかって、理由は聞いたんだけどよ……その人の高校時代の先生に似てたんだってよ、その人がまぁワケアリで、コンテンツショックが起きたのはそいつのせいだとか」
「な……なんともあやふやな話ですね、私たちとしてはそのおかげで今の状況があるのでその親戚の人には感謝ですが」
「あっ、そろそろ次の種目らしいから準備しなくちゃ……次、さくらちゃんが行くのは?」
「はい!行ってきます」
セットの準備が終わり、さくらが1人でスタジオに向かう。
その姿をこっそり覗き込んで見ていたいぶきは、何度もメールを送っているが……一向に返事がない、件名には白鳥良夜とある。
「兄さんが連絡してこないなんて、藍の波止でも面倒なことになっているのね……まあ、兄さん一人に勝手にあの女をめちゃくちゃにされるのも御免だけど、私ももっと弄びたいもの……」
「い……いぶきさん!見つけましたわ!!」
「あら、あなたはさっきの」
まだ認めきれず抗議をしにきたのはジングル・レディ、あんなムキムキ女が助けも呼ばず変な力を使って独断で脱出したどころか、謎の人助けまでしてしまうレッド顔負けの活躍、ピンクとしてタブーを踏みまくって何の後ろめたさも感じていないのが癪に障る、そこで彼女を庇った白鳥いぶきに詰め寄る。
「どうしてあんな奴を庇うような真似を!?私は認められませんわ!あんなピンクにふさわしくない奴を、こんな……こんなの不平等ですわ!」
「ええ不平等よ、せっかくここまでお膳立てしたんだから、飾りつけて目立たせてから最後に笑い者にしてやらないと面白くないじゃない、花岡なんかとつるんだのが運の尽きなんだから」
「え……いぶき、さん?」
「心配は無用よ、貴方達は貴方達で好きなようにピンクとして1番を目指して好きにすればいい、どっちにしても花岡さくらは次の種目で100%負けるわ」
白鳥いぶきの執念、恨み、執着……それだけでこの企画は出来ている、偶然にもレディはそれを知ってしまった。
本当はピンクのことなんてどうでもよくて、最初から……誰かの背中を追い続けているだけだ、その姿がただ、恐ろしい……。
――
遂にさくらが表舞台に立った第2種目、その内容は料理対決。
ここにきてようやく雰囲気がピンクっぽくてファンシーなものが出てきたが、始まって早々に候補生達は一斉に動き出す……相変わらずルールを説明してくれない不親切な番組だが、すぐに分かる、
候補生以外にも見かけない人たちがステージにいて、候補生達は1人ずつ組んでいる……その人達と料理を作るか、あるいはその人の料理を作るか?しかしこれも先ほどのパターンと同じく見つからなければそこで失格になってしまう?
「あ……あの、私と」
しかし大半のメンバーがもう既に決まっていたり、ここまで悪目立ちしていたせいか避けるものも多いためさくらは焦る、このままではせっかく勝ってくれたマゼンタに申し訳ない。
このままではそのまま敗退になる……というところで、これまた予想外な助け舟がかかる、手を差し伸べてきた人物がいた、いたのだがその相手があまりにも予想外すぎる、それを表すようにスタジオに取り付けられていた液晶画面が変わる。
『なお、今回の種目は特別ゲストがついています!金の久遠出身、今も尚前線で活躍し、極武器のライセンスの95%を所有する男!ゴクレンジャーの現役イエローこと〜名月60号!!』
「イエローさん!?」
いつぞやの山で遭遇した時以来、まさかのイエローとの再会。
陽気な様子だったとはいえこの番組のゲストとかやるような人物には見えなかった、というかこういうことを仕事でするとは思わなかった……何より、連続して自分にとって都合のいい展開なので警戒は怠らない。
「えっと……これからどうするんですか?」
「事前にもらったパンフレットによるとなー、自分が作りたい料理を言うからそれを制作しろって感じなんだぜ、ああ言っとくが食材は早いものがちなんだぜ」
「うおっまるでバーゲンセール」
もう既に食材調達は始まっているのか、もう既に食材が陳列されてる棚が凄いことになっている。
なかに突っ込んで何かしらを取り出すことくらいは出来そうだが、問題は……。
「……それで、イエローさんは何を食べたいんですか?」
「食育による相互理解を深めるのは自分は難しいんだぜ、他者と同じものを含めないのが時にトラブルの種となるんだぜ」
「えっと……つまり相当な偏食家ってことですか?何だったら食べられます?」
「あーごにょごにょ」
「……はい?今なんて言いました?」
――
そして視点は代わり、藍の波止陣営。
スノーホワイトとブルー達の戦いは……スノーホワイトが全く堪えていない、戦況的には極めてスノーホワイトが不利であることに間違いはないが、不死身の肉体を持つスノーホワイトを止める手段が存在しない、少なくとも本気を出す理由がないので、エレボイドムラサメに変身しなくてもいい。
「ちっ……このままじゃジリ貧だべ、こうなったら一か八か極召喚法を!」
「……出来るの?カガミさんは男性ホルモンを元にして怪人を作ると言った、女性だからアレは出来るんじゃないの?」
「理論上は不可能じゃない、女性ホルモンは男性にも存在するからな……しかしあまりお勧めはしないぞ、やるとしたら極活法だ」
「んなこと言ってるけんどオメェ使ってるとこ見たことねえぞ!?」
「うーーん、揉め事はそっちでやってほしいけどなぁ……えーと、俺の仕事なんだっけ?」
『国家保安部隊が制作している例の物の破壊です、これが成功されればホワイト・レボルシオンは新国家となります』
「え?新国家?なんというかさ、スケール大きすぎない?俺はただの派遣社員でいたいんだよ……まあいいや、例のものって何?どこ?」
『16番ラボ、ここから直進です』
「いってまいりまーす、ゼレットあとはよろしく」
「なっ……相田!そこから誰も入れるなよ!」
「うっす」(……そっちもブルーが優先べか、機密情報とはいえ何か隠してんな?それに16番ラボはいつも空っぽで普段なんも隠してねえってのに)
だが気にしている余裕はない、スノーホワイトが言ったように援軍が降りてくる……それこそ、体の半分が機械というよりはバイクと連動しているバイク人間、アレが間違いなくスノーホワイトの言うゼレットであり、この間のサイボーグの開発者だろう。
「あの出来の悪いポンコツを作ったのはオメェみたいだな?」
「あんな副産物には何の関心もない、だがそれより素晴らしいだろうこのエレボスオイルは!エレボス細胞を加工したこの液体は万能燃料としてどんな物にも使えるし、ものを作り変える力もある!これを世界に売れば俺は新世紀の石油王になれる!!」
ゼレットの言う事に開いた口が塞がらないコバルト、先ほどのスノーホワイトとは真逆でこのゼレットという男、自己顕示欲と出世欲が凄まじく強い、エレボスを軸にして作った燃料を世界中に売ることしか考えてないようだ、つまり……どちらもエレボスに忠誠を誓っているわけではない。
やはりこのホワイト・レボルシオンは……なにかおかしい。
――
そしてまた視点を番組の方へ、パートナーを見つけたピンク候補生達が一斉に作り出す料理を名乗り上げていく。
もちろん、見つからなかった人達は失格となり落とし穴で落ちていく。
ジングル・レディはいぶきの言っていたことを思い出す、さくらは絶対負ける……イエローが彼女を選んだのは意図的、だがゴクレンジャーが候補生を蹴落とすとは到底考えられない……他のメンバーや自分オムライスやコロッケと無難なもので決まっている中、遂にさくらが挙手して……。
「はい……花岡さくらは……ピザすき焼きを作ります!!」