私と、これから何百年にもわたって推し続けることになるお姫様との出会い。
物語の新章は、それはそれは大層ロマンチックなもの――では、なかった。
端的に言えば、そう……事故。
「どわうひゃあ痛ぁ゛っ!?」
「あいたーっ!?」
衝突事故、である。
地面から突如ボッコリと飛び出してきた私は、勢いそのままに近くにあった何かへとぶつかる。
それが久方ぶりに見る樹木であることに気づくのは後の話。
それよりも、だ。
「ま、前が見えねえ……眩しすぎる……あの、今私だれかにぶつかってしまいましたか……?」
よろよろと立ち上がって、あまりにも久方ぶりに感じる『光』に瞳は中々慣れてくれないため手探りで周囲を確かめる。
やがて指先が、何かに触れた。
それはなんだかとっても、ぷにっとしていて。
「お、おお、魅惑の手触り」
「わぷ、ふにゅ、ちょ、ちょい。やめっ……やめぇっ」
「え、声?」
手に取ったものはとっても小さく、声がするとはとてもじゃないが思えない。
明らかな言葉を発したが為にそれが何かを理解できずにぐるぐると混乱すること数刻。
ようやく目が慣れてきた末に目が合ったのは、世にも不思議な白い玉だった。
「………………毛玉?」
「ウミウシだよ!」
「ウ、ウミウ……?」
世にも不思議なのが自分以外にもいたとは驚きだった。
名乗った名前にはとんと聞き覚えがなかったので聞き返すと、海に住んでいる生き物とのこと。
あの、ここは思いっきり竹林なのですが、なぜ海の生き物がここにいらっしゃるので?
「いやー色々あってねー。今は流されるまま気のまま生活してる、的な」
「すっごいふわふわしてますね、見た目みたいに」
「ちょいちょい、モフるならお代をいただくよー」
「モフ……?」
「あ、そっかこういう言い回しはまだ通じんか」
目の前の白玉さんはなにやら一人合点したのち、くるりと反転してこちらにつぶらな瞳を向けてくる。
「ねえ、黒い髪のお嬢さん」
「はいはい」
「私を連れてってほしいんだよね……あのお城のところまで」
城? 城とは――目を向けた先には、思わず圧倒されるような光景が広がっていた。
埋もれる前には考えられないような、絢爛豪華な都市と人の群れ。
眩い光に目を奪われていると、白玉さんは手のひらの上からこちらを見上げてきて。
「あそこにいる淀さんって人に今お世話になっててさー。黙って抜け出してきたから……あ、そういえばなんで地面から出てきたの?」
「……あ、ええと。それは色々ありまして」
「ふぅん、そっか。みんな色々あるもんだねー」
白玉さんは私のあやふやな返事にも素直に返事を返してくれる。
そう、色々あったものは色々あったのだから仕方がないのだ。
「よかったら、あなたも来る?」
突然の申し出に、言葉も出ず見つめ返してしまう。
来るとは、つまりそういう意味だろうか。
こんな突然土の下から出てきたおかしな存在に、なんともまあ寛容なことだ。
「だって、一人って寂しいじゃん」
「――――」
胸に、言葉がやけに響いた。
きっとその瞬間からだろう。この白玉さんを不思議な存在だとは思えなくなったのは。
騙そうとしているんじゃないのか、とか不遜な考えをほんの一かけらすら持つ気が失せたのは。
「行きます」
気づけば反射で返事をしていた。
ついていきたかったんだ。この不思議な存在に。
「じゃあ紹介してあげないとねー。あ、ちなみに私、ちゃーんと名前あるからそこんとこヨロ!」
「お名前、ですか?」
「ずーっと白玉さんって呼ばれるのもくすぐったいからさー」
ああ、そういえば私はずっと見たまんまの呼び名を使っていた。
というか、私もまだ名乗っていなかった。
「私はね、か――――ううん、私はヤチヨ!」
ヤチヨ、ヤチヨ……うん、雅な響きだ。とっても素敵。
すぐにその名前を、決して忘れないよう心の奥底に深く深く刻み込む。
「あなたの名前は?」
「私は……」
一瞬、悩む。
果たして名乗ってよいものか。いや、流石にまずいか。
高速で頭を回した末に、思いついた名は。
「私は――
考えた時間にしてはひねりの無いもの。
だけどこの瞬間、私は新しい名を手に入れたのだった。
キンクリしまくって次回はレッツタケノコ窃盗