片喰は夜に揺れる ~Fate / Berserk Requiem~ 作:斑鳩古都
本作品は、2023~2025年にかけて、pixivにて全37話で公開したFateシリーズの二次創作です。
既に完結済みなので、ほぼ毎日投稿を続けたいと思っています。
(毎日正午アップ目標で)
プロローグ 〜第1節 待合室 -Waiting room-〜
おやおや、こんな所でどうかしましたか?
貴女様のようなお嬢様が紛れ込むにしては、ここは非常に高度に政治的かつ物騒な場所でして。早くお父さんお母さんの所に帰った方がいいですよお嬢さん――と、すみませんすみませんいきなり刃物を向けるのはやめてください大変失礼いたしましたごめんなさい!
ほぉ、なるほど。ふむふむ。これはこれは、そういうことでしたか。これは大変失礼いたしました。
よく貴女を”視て”みると、それなりの実績をお持ちの武人のようだ――あぁ! ”それなり”って表現が何か馬鹿にされてるみたいで気に食わんと、刃物を向けるのはやめなさい! すみません! 立派! 立派な実績ですよぉ!
……では、改めまして、この部屋のコンシェルジュを勤めております、カシンと申します。漢字で書けば”家臣”。その文字通り、貴女様をはじめとする御客人をもてなす管理人兼ここの召使いのようなものです。以後お見知りおきを。
この部屋は通称「待合室」と申しまして、誰かのお導きやお誘いがあるまではいつまでもお寛ぎ頂いて結構です。飲食物やその他アメニティにいたるまで、世界中の多岐にわたるジャンルまで網羅しており、欲しいものならなんでもご用意させて頂きます。お休み頂ける別室もご用意がございます。
早速ですが、お飲み物はご入用ですか? 古今東西のドリンクのご用意が……おや、いきなりお酒をご所望と。しかも日本酒です? 貴女様、見かけによらずいける口ですね。
それもそうですね。貴女様の生きた時代は、16世紀――日本の中世から近世にかけた戦乱の世だったと聞いております。飲酒に年齢制限が課された現代とは異なる時代。明日をも知らぬ時代を駆け抜けてきたわけですし、そりゃ飲まないとやっていられないですよね。まぁ、――現代もそう代わりはありませんが。
と、話がそれましたね。
それでは当室自慢のお飲み物《おさけ》を後ほどお持ちしますので、ごゆるりとお寛ぎください。
★
夢を見た。
愛しい君の、とても悲しい夢。
君は、聞き分けのいい子だった。私の言いつけやお願いを喜んで聞いてくれた。
それなのに、最後の最後に言うことを聞かなかったのだ。
君の命が散る様を見ることもなく、人づてに聞いたのだ。
何も助けてやれなかった。救えなかった。一緒に死ぬことすら出来なかった。
黒い靄が、私を包む。何かの感情が、自身を急き立てる。今までの自分では無くなったみたいに、まるで新たに生まれ変わったように、意識が黒に塗りつぶされていく。霧はやがて漆黒の焔となって、この身を焦がす。焦がしたから黒くなったのか、己の心が黒いからこそ焦げたのか。
これを何と表現すればよいのか、当時の私は分からなかったが、今なら分かる。
これは――「鬼」だ。そう呼ばれる存在に他ならぬ。
自身の心の中の「鬼」が、脈打つ。全てを破壊しろと、殺戮しろと、囁く。
文字通りの復讐鬼に、その身が変質していく。もう一つの私が目を覚ます。
あぁ、せめてもう一度。
もう一度、君に会えたのなら、――全てが上手くいくのだろうか。
★
さてさて、空いた器をおさげしようと来たのですが、一升瓶が3本も空っぽとはこれいかに……。
一升瓶ですよ……一つ1.8Lですよ……純米大吟醸が......。
いやはや確かに御一つはお持ちしましたとも。でもこれは飲みすぎというやつです!
冷蔵庫に冷やしておいたストックまでもが……何なら私もあとで少し頂こうと思っていたのに、もう……。
まぁ、いいでしょう。貴女様がこちらにお越しになる際に、しっかりと”対価”は頂戴しておりますので、これもサービスの範囲内でございます。お酒はまた”いつもの所”に発注でもしておきましょう。
――と、そうでした。忘れる前に、貴女様にお伝えしなければならないことがございます。
これは未来からの予測ですが、どうやら近い将来、貴女様にお呼びがかかる見込みです。
え? なに? お呼びってなんだ?
ホホホ、何をおっしゃいますやら。このお部屋に招かれる際に一通りのオリエンテーションは済んでいると受付の者より聞いておりますが。
は? 寝ていた? そんなの聞いていない? おぉ、マジでございますか。
……まぁ、いいでしょう。改めてご説明差し上げます。
既にお察しと思いますが、貴女様は既に死んだ存在です。それも数百年も過去に。
ただ、生前に成し遂げた偉業により、とある理に導かれてこの部屋にたどり着いたのです。
その目的はただ一つ。えぇ、簡単に言ってしまえば、”英雄の人材派遣”ですよ。
貴女様は魔術師によって召喚される使い魔として、とある聖遺物を巡った殺し合いのゲームに参加して頂きます。見事最後まで勝ち残ったら、どんな願いでも叶えることが出来る。どうです? 魅力的でしょう?
え? なに? 魔術師ってなんだ? そんな物騒な戦いに参加したくない? 自分はもう戦いはこりごり?
なーにをおっしゃいますやら、生前にあれだけぶいぶい言わせていたのにこの子ってばもう、あーーーー刃物はやめてね! それいっぱい刺さるやつ! とても痛いやつ!
はてさて、どうしたものやら。貴女様を派遣しないと、私も困ってしまうのです。そもそもあまり記憶が無いようですが、私共と契約なされたのは、貴女様自身ですからね! 契約についてはキチンと果たして頂かないといけません。流石に約束を破られると、このカシンもおこですよ、おこ!
あ、そうです。ナイスなアイデアを思い付きましたよ。これは本当なら越権行為なのですが、貴女様がこの戦いに参加するにあたって、小さな願い事なら事前に叶えてあげることをお約束しましょう。
どうです? 魅力的でしょう? 本来なら、その”とある聖遺物”を獲得しないと叶えられない願いを、何割かだけでも事前にかなえてあげるというこの私の心意気に免じて、ね?
ふむふむ。ほうほう。んーーーー。ん?
その、えっと、本当にそんな願いでいいんですか?
「生前の記憶を全て削除したい」ということですか?
んーーそうですね、削除となるとそれこそ聖遺物の力が必要になりますが、限定的に封じることなら可能です。それでしたらお約束できますよ。
ほほう、初めて笑顔を見せてくださいましたね。なるほど、生前の記憶を忘れたくて、いきなりウェルカムドリンクをアルコールでご指定されたのですね。……それでしたら、現代日本に伝わるハッピードリンクこと”ストロングなんちゃら”をお持ちしましたのに……。
と、なんでもありません、こっちの話です。
分かりました。では、貴女の記憶を封じさせて頂きます。ただし、事前にお伝えしなければならないことがございます。
まず、一般的な記憶喪失の方と同様に、自身に関する記憶は失われますが、貴女が生前生きた時代の基礎知識を忘れることはありません。加えて、召喚される時代の理念・通念・一般常識といった最低限度の知識は事前に脳内へインプットされますので、召喚後の生活および戦いにおいて不便はないのでご安心を。
代わりに、これが一番の問題ですが――戦いにおいて非常にハンデを負うことになります。
――――宝具、まともに使えませんよ?
そりゃそうですよ、記憶が無いんですもの。自分がどこのだれってことが分からないんですから。自身の持つ必殺奥義までも封じられるわけです。まぁ、何となくの脊椎反射みたいなもので、仮装宝具として展開は出来るでしょうけど、出力はまぁ良くて十分の一って所ですね。10%です。消費税戦士です。
それでも、よろしいですね?
――はい、かしこまりました。では、お望みの通りにさせて頂きます。あくまで、封じることしか出来ませんので、何かしらの拍子にふっと思い出してしまうこともあるかもしれません。そう、それこそ夢から覚めるように。
では、まもなく貴女様の出番となる見込みです。今しばらく、お寛ぎのほどを。そして、願わくば、貴女様が勝利者となられますことを、このカシンは願っております。
ええ、願っておりますとも。
プロローグ 第1節:了
次へ進みますか?
>はい
いいえ