片喰は夜に揺れる ~Fate / Berserk Requiem~ 作:斑鳩古都
【ランサー・長宗我部元親の視点】
戦いは一見、私が圧倒しているように見えながらも、主導権はライダーにあった。
空間から出現させた孔は総勢四千。それぞれから弓矢・鉄砲と言った、飛び道具を出現させ攻撃の手を緩めない。その放つ攻撃全弾はライダーへ命中していた。第三者的に見ると、ど派手に私が一方的に押しているように見えるだろう。我ながら素晴らしい命中精度だと思う。
だが、ライダーの宝具『不死身の鬼十河』の効果により、文字通りライダーには傷一つついてはいない。
「どうしたぁ、宮内少輔!! 俺はまだピンピンしてるぞ!!」
そうして、全ての攻撃を受けながら、一直線に私に向かって突撃を行う。私は荒切を構え、ライダーと数撃に渡り、斬り結ぶ。
馬上での武器の使用というのは、非常に技量を要する。馬を操りながら、刀槍を扱うのは単純に難しいのだ。だが、ライダーは見事な手綱さばきを見せつつ、私の斬撃を全ていなして見せた。
人馬一体。その言葉の通りだった。
だが、ライダーの宝具の効果を考えると、攻撃をいなす必要は無い。何なら、全ての攻撃をその身で持って、受け切っても良いのだ。何と言ったって、無敵状態なのだから。
だが、彼の武士としての矜持と技量が、馬上での斬り合いという選択へ結びついていた。こやつ、やはり優れた武士(もののふ)だ。
「槍衾(やりぶすま)ァ!!」
私の叫びに呼応し、頭上から数十本もの長槍が一斉に生える。
槍衾。戦国時代に定番化した、槍兵達が一斉に抜き身の槍を構えて突撃する密集陣形の事である。古代ギリシャにおける”ふぁらんくす”なる陣形に共通する部分がある。
「かかれ!!」
そうして、私の呼び出した槍衾の攻撃は、全てライダーへ突き刺さった。しかし、
「生ぬるいぞ長宗我部」
確かにライダーの全身に突き刺さり、串刺しになったはずなのに、一切のダメージを負っていない。
ライダーは槍を薙ぎ払い、私との距離を取った。再度、突撃を行うための助走距離の確保だった。
と、急に私の手に違和感が生じる。愛刀・荒切を握る手に、力が入らない。
「こ、れは......」
「おっと、お前の大将、まさかだけど、死にかかってるんじゃないだろうな?」
確かに、魔力供給が少し薄くなっているような気がする。
「宮内少輔、お前さぁ、俺の魔力切れを狙ってただろ? だからそんなにも大量の物量攻撃を俺に食らわせ続けてきた。かれこれ二十分ぐらいになるかなぁ? 大したもんだぜ、本当に全ての攻撃を俺に当てて見せた。だがなぁ!」
ライダーは吠える。
「うちのマスターの魔力は、まだ半分以上残ってるんだよ!」
「な......」
あれだけ全力で戦い続けた上、受けたダメージは恐らく全て魔術障壁にて防ぎ続けている。それこそがこの無敵付与のからくりだと思われる。それは、尋常ではない魔力の消費に違いない。それなのに、まだ半分も削れていないというのか。
「何がお前、本気の一割だよ。それは、お前んとこの大将の魔力量的に、出せる出力がそこまでだっただけだろうが! なぁ、宮内少輔。そろそろ諦めろよ」
「諦める、だと......?」
「俺が全魔力をこれから突っ込んでやるよ」
全魔力を注ぎ込む、だと。
「やめろ! そんなことしたら、小夜子殿は死んでしまう。しかも、そなたの霊基が持たない!」
「持たせる必要がどこにあるよ!!」
ライダーは真剣な表情になる。
「どうせ俺は出来損ないのサーヴァントだ。うちの姫さんだって、真っ当なマスターじゃねぇ。あぁ、そうだよ。俺達は、”ある人”がこの聖杯戦争で勝ち上がるための手駒にしか過ぎない。だから、ここでおさらばなんだよ」
「そんな......。そなたは聖杯への願いが無いというのか!?」
「そんなもんなぁ、もう叶ってるんだよ!!」
はっ、とした。
ライダーは、私のことをじっと見つめていた。
「宮内少輔。今ここでこうやってお前と戦えている。最っ高の気分だ。俺は気が付いたんだ。これだけの為に、俺は聖杯に呼ばれたんだってな。いいか、お前は、本来この聖杯戦争に呼ばれる予定じゃなかったんだ!」
「どういうことだ......?」
「何者かの介入によって、召喚するサーヴァントが変えられちまったらしい。別の鬼の名を関する槍兵ではなく、土佐の鬼若子たるお前にな」
信じられない。私は、呼ばれる予定じゃなかった。そう、言っているのか。だとすれば誰がどういう目的で、私をこの伊蔵の地に呼んだというのか。
「ただ、俺も一緒よ」
ハッ、とする。ライダーの表情はどこか寂し気だった。
「俺はお前よりも数ヶ月早くこの地に召喚されたんだが、元々召喚される予定だったサーヴァントとは異なっていた、らしい。あのお方は残念がっていたよ。もっと有名で強いサーヴァントが呼ばれるはずが、俺みたいな出来損ないの敗者が来てしまったわけだ。あの人は嘆いた。俺も嘆いた。あぁ、なんでこんなところに来ちまったんだろうって、さっさと死にたいってな。負けるのは慣れてたし、な」
ライダーは自嘲気味に笑う。
「だから適当な強いやつらに喧嘩仕掛けまくって、さっさと退場しようと思ってたんだが」
ライダーは、言葉を遮って、私を指さした。
「お前に出会えたんだ」
気が付けば、ライダーの身体を焦がす黒炎は消えていた。狂化スキルは解除されていた。今、ライダーは真っ当な思考回路で、物を申しているのだ。
「お前に出会えてよかった」
「ななな、何を言っている! 何だそれ気持ち悪い」
「いや、言わせろよ。俺は、鬼十河の息子だ。だが、そんなの関係ない。俺は三好三郎で、孫六郎で、十河存保だ。ただのそれ以上でもそれ以下でもねぇ。――――さっきお前が教えてくれた言葉だ」
どくん、と心臓が脈を打つ。熱いものを感じた。戦場で度々感じるものだ。とてつもなく、美しいものや気高きものと巡り合った際に感じる。
あぁ、ライダー。そなたは、見つけたのだな。己と言う、確固たる強さを。
「じゃあ、終わりにしよう、宮内少輔」
ぞわり、と何かが肌にまとわりつく。大気に異変が生じている。魔力の渦が巻き起ころうとしている。恐らく、小夜子殿からの魔力供給を全て、自身の乗る葦毛の馬へと集中させているのだろう。
不死身の鬼十河は、無敵状態を付与する、ある意味補助的な宝具だ。何か強い攻撃を発するようなものではない。だが、そこに込められた膨大な魔力は、何者にも破られない鉄壁の盾となる。
では、単純な話。その盾で敵を殴ったらどうなるだろうか。決して欠けず、貫かれることのない盾。その身に宿した膨大な魔力を推進力に置き換えれば、盾は高速で射出され、全てを圧殺する槌へと変わる。
ライダーは、全魔力を身に纏い、体当たりをするつもりだ。
「姫さんどっかで見てるか? あぁ、ありがとうよ、これでサヨナラだ。魔力、全部使わせてもらうぜ」
「やめろ! あの子はただの女の子だ!」
「もう、手遅れなんだよ。姫さんも、俺もな」
よく見ると、ライダーの顔は苦痛に歪んでいた。膨大な魔力に耐え切れず、このままでは霊基は砕け散るだろう。だが、砕け散るその時が訪れる前に、やつは決着をつけるつもりだった。
「あばよ、宮内少輔」
ライダーは、突撃の姿勢を取る。小夜子殿から供給されし魔力は巨大な弓となり、ライダーという1本の矢を発射するために、限界まで引き絞られている。そんな風に感じられた。
私の中に焦りが生じる。守尭、どうしたんだ。一体何をしている。
もしこのままの状態で、私が宝具を全力で展開したとしよう。いくらかは食い下がることは出来るはずだ。
だが、小夜子殿は魔力切れを起こし、命を落とすだろう。
ライダーもその霊基を消滅させ、退去するだろう。
そして、私の霊基も無事では済まず、守尭の魔力を生命力諸共食いつぶしてしまうだろう。
誰も、救うことなんかできない。最悪の結末だ。
私や、ライダーはまだいい。戦いで決着がつけられるなら、それはサーヴァントとして本望だ。だが、守尭と小夜子殿を巻き込みたくはない。
あぁ、どうにかして、ライダーと小夜子殿のパスを解除し、私に相手を倒すための力、魔力があれば――――
と、その瞬間。
「くないぃぃぃぃぃぃい!!!!」
遠く離れた建物がある。それは、この地に着いた時に守尭が言っていた、武道場だ。
その屋根の上に、2人の人影があった。
ボロボロで血まみれの状態の守尭。そして、その腕の中で裸同然の姿の小夜子殿。
「って、守尭この馬鹿もの! 小夜子殿が裸ってお前何しとるんじゃ!! どすけべ守堯!!」
「うるせぇ! そういうのは後だ! 頼むくない、小夜子は俺が何とかした!」
何とかした? それは、もしかすると。
「だから――――」
守尭は叫んだ。私に、全てを託すために。
「――――令呪を持って命ずる! くない、宝具を使え!!」
気が付けば、笑みが零れていた。守尭が無事と分かった安心感。理屈は分からぬが、小夜子殿が無事であるということ。そして、武道場の屋根の上ならば、私の宝具で守尭を巻き込むことが無いということを――――!
「――――宝具、開帳」
そして、私は言葉を紡ぐ。令呪によって後押しされた魔力が身体中に満ちて来る。
「今ここに馳せ参ぜよ! かつて共に戦いし仲間たちよ、我が命に従い、再び具足を身に付けよ!」
私を中心に、再び空間を切り裂いて孔を出現させる。今度は、今度こそ、本気で行く。
「一本の槍と一領の具足。汝らは、決して美しく着飾る者に非ず。しかし、その死をも恐れぬ生き様! そして戦振りこそ、我らを飾り立てる唯一無二の宝玉!!」
孔の数は、総勢四万。そこから現れるのは、筋骨隆々とした影の者たち。シャドウサーヴァント、そう呼ばれるものだ。
「吼えよ進めよ、飲んで騒げよ、――――土佐の”いごっそう”ども!!」
目の前のライダー目掛けて、軍配が如く荒切を掲げる。今から攻めかかる目標を明らかとするために。
「宝具『死生知らずの野武士なり』!! またの名を――――」
地鳴りが如き雄叫びが湧き上がった。あぁ、また出会えたな、お前たち。さぁ、共に行こう。
「――――『一領具足(いちりょうぐそく)』たちよ」
★
振り下ろされた斬撃を、俺は避けなかった。
来るなら来い。そう、覚悟を決めた。
俺は、小夜子を傷つけない。例えこの身を危険に晒したとしても、決して。
だが、このまま黙ってやられるつもりはない。俺は賭けに出た。
俺の命が危機に晒された瞬間。この身体の奥底に秘められた力が目を覚ます。それは7年前の夏の日だったり、今日の駅前のセイバーとの戦いの時であったり。あやふやだし、どうしてそんな力が俺に備わっているのか分からない。でも、賭けるしかない。どうせ、俺みたいな素人はこのままくないの足を引っ張り続けるだろう。だから、使えるものは何だって使う。あぁ、使いこなしてやるさ。
目を閉じる。頭の中で念じる。イメージする。小夜子は何て言っていた? 7年前の俺は刀を握っていたらしい。
そう言えば、くないを召喚した時、俺は何を願った? 何をイメージした?
思い描いたのは刀。心の中の刀を手に取る。あぁ、今すぐ抜きたい。全てを抜き放ちたい、と。
小夜子による必殺の一撃は、すぐそこまで迫っている。俺を脳天から真っ二つにするつもりだ。ならば、俺はそれを受け止めよう。まるで大きな真綿で包んであげるように。
俺は、無意識に胸に手を当てた。さも、そこから、刀が引き抜くことができると知っているかのように。
「来い」
言葉と共に、身体から光が生まれた。胸から刀の柄が現れた。
「洗い流すぞ」
俺は、一気に引き抜いた。そこから現れたのは、目を奪われるほど美しい刀身。思わず見惚れてしまうようなその美しい輝き。俺は、その名も知らぬ刀で、小夜子の攻撃を受け止めた。
あまりの衝撃に、火花が散る。だが、その火花ですら、包み込むように何かが弾け飛んだ。
それは、水だ。どこから生み出されたのか分からないが、飛沫となって飛び散る。そして、火災用のスプリンクラーが起動したかのように、天井から雨のように雫が降り注ぎ続ける。
俺と小夜子は、刀と刀を交えた鍔迫り合いの体勢のまま、全身がずぶ濡れになっていた。
「も、りたか」
ハッとする。目の前の小夜子の口が動いた。
「小夜子!! 気を取り戻したのか!!」
「は、やく、わ、たしを......」
その先の言葉を俺は遮る。
「殺させない! 絶対にだ!」
「だ、め......」
「馬鹿野郎! あいつのことが好きなんだろ!! だったら、ここから俺が救い出してやる! だから、あいつに好きって言って見せろよ!」
小夜子は、泣くように笑った。だが、すぐその顔は苦悶に歪む。
「あぁ、らい、だぁ......けっちゃくを、つける、のね」
小夜子の身体が発光する。気がつくと、その肌は再び聖晶石で覆われていた。恐らく、固有結界内の自身の姿はいつも通りに見えるように細工していたのだろう。だが、その固有結界を維持する魔力は、小夜子の中の聖晶石が源だ。そして、結界の外のライダーは、くないと決着をつけるため、最大限の魔力供給を小夜子に要求している。そのため、固有結界への魔力供給が抑えられているのだろう。結界が崩れるのも時間の問題だ。そして、小夜子の中の魔力が尽きるのも。
「なぁ、魔力が尽きるってことは......そういうこと、なのか」
今の小夜子は、石と完全に合一した存在だ、と言っていた。石とは魔力そのもの。魔力が尽きると言うことは、小夜子の存在そのものが尽きると言うこと。
「うん......そうだよ」
小夜子は笑みを浮かべながら、言った。
「でも、ありがとう、もりたか。すくってくれるって、そのことばだけで、わたしは」
「ざけんな!」
俺は強めに、しかし相手を傷付けないように加減しながら、小夜子を突き飛ばす。小夜子は、身を崩しながらも、立ち上がり刀を構えた。まだ、完全にさっきの声の主のコントロールからは解き放たれていないのだ。
「いいか、今からお前を斬る」
俺は、右足を後ろに下げながら、刀が相手から見えないように構える。それは、刀身を自身の影に隠す、剣道の型の一つ。脇構えだ。
それは、母さんに教わったものだ。
剣道には、主に5つの構えが存在する。中段の構え。上段の構え。下段の構え。八相の構え。脇構え。
それぞれ特徴があるが、基本的には9割以上は中段の構えが使われる。
それはもっとも攻守に隙がないからであって、その他の構えはメリットもあるが、デメリットが目立つからだ。
特に、デメリットが大きいのは脇構え。何故か。それは、刀を後ろに下げて隠すように構えることで、自身をノーガードで敵前に晒すからだ。刀を持つ相手を前に、である。
だが、利点が無いわけではない。それは、刀身を隠すことで相手との間合いを分かりにくくさせ、相手の虚を突く事ができる。ほとんど使われない構えだからこそ、相手をびっくりさせるというものだ。
そうして、その目的は成功した。小夜子の中に根付いた、殺人鬼としての習性は、見慣れぬ構えをする相手に対して、一瞬の躊躇を生み出してしまう。
そして、刀を相手から隠すことは、俺の狙いを相手に読ませないという目的もあった。俺が今から、一体何を斬るのか、ということを。
「う、おおおおおおおおおお!!!!」
俺は覚悟を胸に、気合を込めて、脇構えから胴を薙ぐ様に、刀を横一閃に繰り出した。
そして小夜子は、一瞬の躊躇を見せたものの本能に従い、脇構えの最大の弱点である、俺の頭目掛けて斬撃を繰り出した。
ちょうど手が伸びきり、小夜子の握る刀が俺の頭に届こうとする寸前。俺は――――小夜子の左手の甲にある令呪へ狙いを定めた。
「頼む!!」
願わずにはいられない、この刀の力で奇跡を起こしてほしい、と。この力は、セイバーの攻撃を全て打ち消した。それはつまり、この力とは、魔術の強制解除の力なのではないか。だから、小夜子とライダーとの契約を解除することが出来れば、もう小夜子は魔力貯蔵庫みたいな酷い目に合わずに、済むんじゃないのか――――!
そうして、狙い通り俺の斬撃が、小夜子の左手の甲に触れたその瞬間、――――この固有結界は崩壊した。
まるで、精巧に作られたガラス細工が壊れるように。俺たちが居た武道館は一瞬で弾け飛んだ。
俺は、崩れゆく結界の中で、必死に手を伸ばした。その先に居るのは、小夜子。
「小夜子!!」
必死の叫びに、小夜子は反応する。驚いたような顔だ。石が体内から突き出た痛々しいその姿。でも例えどんな姿になろうが、大切な人は大切な人のままなのだ。
「つかめ!!」
俺の伸ばした手に、硬い感触がした。石のような冷たい手のひら。小夜子の手だった。
「しっかり捕まってろ!」
崩れゆく世界の中で、俺は小夜子の手を何があっても離さなかった。
今度は絶対に手放さない、と誓った。
★
そうして閉じられた固有結界から脱出を果たすと、俺は何故か全裸の状態の小夜子を抱き抱えたまま、武道場の屋根の上に立ち尽くしていた。
「って全裸とは!?」
落ち着けピュアボーイよ。今はそんなことで取り乱している場合じゃない。出来る限り、身体を見ないように半目で小夜子の様子を窺う。小夜子は俺の腕の中で気を失っていた。その身体は全てが石と同化しており、あまりの痛々しさに怒りが込み上げてきた。
そして、俺の身体は尋常ではない魔力の渦を捉える。陸上競技場からただならぬ気配を感じ、俺は全てを理解した。
「くないぃぃぃぃぃぃい!!!!」
叫び声にくないは反応する。
「って、守尭この馬鹿もの! 小夜子殿が裸ってお前何しとるんじゃ!! どすけべ守堯!!」
「うるせぇ! そういうのは後だ!」
戦いの最中だってのに、くないの奴め。俺が無事だったからか、怒っているようで嬉しさを隠しきれてないでやんの。全く、あいつが無事でよかった。
そして、俺は小夜子を見る。見た目は痛々しいが、その表情からは苦しみが消え去っているのを確認した。よかった、どうやら上手くいったみたいだ。
「頼むくない、小夜子は俺が何とかした! だから――――」
俺は身体の中に意識を集中させる。魔術回路を、起動させる。そして、手を高々と掲げ、告げる。
「令呪を持って命ずる! くない、宝具を使え!!」
くないが、目に見えて笑顔を浮かべた。あぁ、頼んだ。もう、ライダーを倒してしまって、大丈夫だ。
「――――宝具、開帳」
そうして、くないの言葉により、宝具は発動した。
その名は、『死生知らずの野武士なり』――――長宗我部元親と共に戦った、四万人の部下達を一斉に召喚する、対軍宝具だ。
★
【ライダー・十河存保の視点】
心の中にぽっかりと穴が空いた気がした。
そうか、姫さん。もう、俺はアンタのサーヴァントじゃ無いんだな。パスが、途切れている。もう、姫さんの心の内も、温かな魔力も感じられない。
じゃあ、今の俺は一体何者だ。魔力が尽きれば消えてしまう、ただのはぐれサーヴァントって所だろう。いいじゃねぇか、さっさと突っ込んでさっさと消えてしまおう。
折角だから目の前の小娘も道連れにしてやりたい所だが、あの野郎とんでもない宝具をぶちかまして来やがった。
一領具足。それは、長宗我部軍が四国を制圧した原動力にして、長宗我部という大名家の象徴だ。
戦国時代において、兵農分離を進めた信長公や秀吉公の功績が語られることが多い。現代の言葉で言うと、職業軍人というやつだろうな。それまでの兵制とは、普段は農作業に従事し、閑散期に兵卒として軍事行動に従事するっていう、半農半兵がほとんどだった。ところが兵農分離が進むことによって、田植えや稲刈りの時期でも、気にせず戦うことが出来るようになった。
だが、長宗我部軍の強さは、時代に逆行した形だった。
それが、一領具足だ。やつの父、長宗我部国親が発案したとされる、独特な軍制だ。
一領具足は、全員が農民だ。だが、毎朝田畑に行くときに、武具を持参する。農作業に勤しむ、長閑な土佐の田園風景。そういった田畑のあぜ道には、何と常に”槍”と簡素な”具足”が置いてあるのだ。
そして、ひとたび有事があれば、やつらはそのまま手にした鍬や鎌を槍に持ち替え、具足を身に着け、ちょっくら敵を殲滅しに出撃するのである。
その動員力と機動力、そして農作業で普段から鍛えられし筋力・体力・忍耐力。何よりも、瘦せこけた土佐という土地に住まう者たちの、『豊かな土地を手に入れたい』というその思いが活力となり、長宗我部氏は瞬く間に、四国を統一してしまったのである。
その、憎き敵である『一領具足』達が、大勢出現した。あまりの数の多さで、この陸上競技場に収まりきらず全数が出現できていない。見たところ、出現したのは五千人ぐらいだろうか。
だが、空を地を埋め尽くすほど生み出された、孔の中に潜みながら無数の殺気が放たれている。
ざっと、総勢四万。それは、秀吉公の四国征伐の際に長宗我部が動員した兵卒の総数と同じであった。
クソが、宮内少輔め。”本気の一割”っていうのは、純粋に、四千人分の力ってことかよ。じゃあ、今度は全力の四万人分の力で俺を叩き潰すって訳だ。
上等じゃねぇか。
「―――――――ッ!!」
俺は、身体の中に残された、姫さんから貰い受けた魔力全てを、体内に循環させる。
その全てを、目の前の、宿敵にぶつける。これで、俺の願いは叶うのだ。
もう一度、あの鬼若子と、長宗我部元親と戦えるのだ。
「さぁ、やろうぜ!! 宮内少輔!!」
目の前の宿敵を見やる。深紅の羽織に、七つ片喰の気に食わねぇ家紋が目立つ。小さな身体に、艶やかな長い黒髪が映える。その表情は、ここからじゃ良く見えない。
見えるのは、天と地を埋め尽くす、一領具足。
後世の軍記物にてこう評されている。「その姿は正に、死生知らずの野武士なり」と。
野武士たちは、全員がその手に槍を構えていた。全く、宮内少輔め。さっきまで散々矢鉄砲でおちょくってきたかと思えば、ここ一番では全員に槍を構えさせている。総勢四万人の名も無き槍兵たちが、その穂先を全て俺に向け構えている。
かくいう俺も、これから最後の馬上突撃を行う。義父上が死の間際まで乗りこなした、葦毛の愛馬。さぁて、俺ならば馬から落ちるなんて下手なんてしねぇ。最後の最後まで乗りこなして見せる。
与えられたクラスは、ライダーとランサー。お互いその名の通り、最後まで戦い抜く覚悟だった。
「いざ、尋常に――――」
俺は、この身全てが崩れ落ちるのも厭わず、
「――――勝負ッ!!」
愛すべき宿敵に向かって、この身諸共駆け出していった。
渾身の神速での突撃。だが、奴らの攻撃は的確にこの身を貫いていく。勿論、我が宝具の効果は順調に発動中である。だが、俺の体内の魔力は、無敵状態を維持し続ける為に驚くべき勢いで消費されていく。
数千、数万本の槍が突き刺さる感覚がする。一撃一撃が必殺の刺突。死生知らずの野武士たちは、名も無き兵卒に至るまで、英雄豪傑の類に相違なかった。
だが、まだ足りない。もっとだ、もっと寄越せ。目の前に立ちふさがる一領具足達は全て薙ぎ払ってやる。
「あああああああああああ!!」
目の前の一領具足たちを蹴散らしながら、そしてその全ての攻撃をこの身に受けながら、ある地点を目指し一直線で駆け抜けた。
そこに居るのは、片喰の家紋を背負う、愛すべき人。
もうすぐ、もうすぐ辿り着く。そして、この一太刀を食らわせてやりたい。参ったと、言わせてやりたい。
だが、終わりは唐突だった。
「――――ッ」
俺の身体を一本の大身槍が貫いていた。気が付くと、葦毛の愛馬は跡形もなく、消え去っており、俺は自身の足でこの地を駆け抜けていたのだ。
目の前に、小さな人影が見える。腰まで届く長い黒髪。深紅に染め上げた羽織を肩にかけた女だ。その顔は、少し切なそうに微笑んでいる。その手に握られた立派な大身槍は我が心臓を正確に一突きで貫いていた。
「参った」
目の前の女は、そう言った。
「......何が参っただよこのクソ女。参ったのは俺の方だ」
「損耗率三割。兵が三割戦闘不能状態になると、その部隊は壊滅と言うらしいな」
よく見ると、競技場に現れた五千近くの兵は、半分近くを俺が蹴散らして数を減らしていた。
「ハッ、何言ってやがる。お前、ここに来てるお前んとこの兵、全部じゃないだろうが。ほら、そこら辺の孔の中でピンピンしてらぁ」
「いや、まぁ、な。山間の狭い戦場に敵をおびき出したりとか、そういうのも戦略としては有りな訳だし? かの信長公も、桶狭間に今川義元公をおびき出したりとか?」
「てめぇ、何が言いたい」
「――――強かった」
俺の言葉を遮って、こいつは言った。
「そなたは、強かったぞ。三好三郎殿」
その瞬間。俺の身体は、光に包まれ始めた。攻撃は霊核に届いている。霊基が完全に破壊され、退去が始まったのだ。そうか、これが、聖杯戦争で負けたということなのか。
光の粒子が我が身を包む。少しずつ足先から順に、宙に溶けだしていく。
あぁ、全く。よく考えたら好き勝手やり過ぎちまったナァ。いくら鬼として召喚され、狂化していたと言っても、姫さんには全く悪いことしちまったかも知れねぇや。
「ハッ、例えお世辞だとしても悪く無ぇな。お前に”参った”って言ってもらえるとはよ」
そうして俺は背一杯の負け惜しみと、心からの言葉を口にすることにした。
「宮内少輔殿。此度は手合わせ感謝いたす。貴殿のご武運を祈っておりまする」
「あぁ、さらばだ」
全ての感覚が消えていく。俺は、目の前のちっこい女を見下ろしながら、ふぅと息を吐いた。肩の荷が、全部降りた。
「おう、あばよ」
通知[NEW!!]:トロフィーが記録されました
「バーサークライダー 十河存保 敗北により脱落」
宝具解放[NEW!!]
サーヴァント・バーサークランサー
真名:長宗我部元親
通称:鬼若子 / 姫若子
宝具:死生知らずの野武士なり (ルビ:一領具足) [NEW!!]
効果:最大四万体ものシャドウサーヴァントを召喚し、使役できる。
槍による近接攻撃、弓・鉄砲による遠距離攻撃が可能。
魔力消費量は膨大となる。
第2章 第6節 了
次へ進みますか?
はい
いいえ
>いいえ
>もう少しこの場に留まる
★
「さんきゅ、くない」
俺は、くないに抱えてもらって、武道場の屋根の上から降ろしてもらった。小夜子も一緒だ。真っ裸というのも可哀想なので、くないから深紅の羽織を借り、小夜子の身体を包んであげている。
「それにしても、お前の宝具凄かったな。まさか孔の中から、沢山マッチョメンが出てくるなんて」
「ま、まっちょ? 抹茶? くないちゃんは酒の方が好みだが」
くないが首をかしげている。あぁ、もう、何でもいいや。とにかくライダーは倒せたのだ。
「お前さ、時たま出現させるその孔って、何でも出てくる便利なワープホールって訳じゃなかったんだな」
「あぁ、これは、何というか、うちの一領具足たちが出現するための孔だったんだ。例えば、こうやって」
ひょいと、くないは指を動かす。すると、俺の目前に一つの孔が出現した。そこからは火縄銃の銃口が、かちゃりと向けられる。
「こうすると、中から、うちの配下が銃を構えているということだ」
よく見ると、黒い影のような人が、孔の中に居て火縄銃を構えている。なるほど、こういう仕組みだったのか。
「まぁ、だいたい長宗我部家の軍制として、種子島は十人に一人の割合で配備されている。本気を出せば、四千丁近い銃を出現させることも出来るが、魔力消費がえぐいからの。私は無意識に数十程度しか使わなかったという訳よ」
確かにそれでも十分強いのだろう。だが、セイバーに通用しなかったように、この一領具足たちを使いこなすことが、これからのポイントになるという事だと理解した。
「でも、ようやくこれでお前がランサーだったことが実感できたぜ。まさか最大数四万の槍兵を従えた大将だなんてよ。後、最後に使っていたでっかい槍、あれは何だ?」
「あぁ、これか」
そう言ってくないは、別の孔を出現させ、そこから大型の槍を取り出した。槍の刃の長さは六十センチを優に超えている。柄の部分を含めると、二メートル半以上もあった。
「これは、大身槍と呼ばれるものだ。大きく重量もあり威力抜群だが、取り扱いも難しい。まぁ、くないちゃんぐらいになれば軽く扱えるがな!」
「これはまた、立派な......ちなみにこれは何か由緒正しい槍なわけ? 誰が作ったとか」
と、くないは少し眉を潜める。
「いや、実は、これ良く分かっておらんのだ」
「え、こんな立派な槍なのに」
あぁ、とくないは槍を手にしながら呟く。
「誰が作ったのか、どうやって父上が手に入れたのかもわからぬ。うちの岡豊城の蔵の中に眠っていたのよ。無銘というのも可哀想なので、私が勝手に『鯨波(げいは)』と名付けて愛用していたのだ」
鯨波。確かに鯨の様に大きく、ひとたび振るえば波しぶきを上げるが如く、敵を弾き飛ばすだろう。良い名前に思えた。
「まぁ、こんな物騒なものはそろそろ仕舞ってだな。小夜子殿をどうにか運ばないと」
さっきまで物騒なことをして居たやつが何ってんだか、と思いつつも俺も同意する。くないは、槍を孔の中へ収納し、心配げに小夜子を見つめた。
「守尭。小夜子殿は、大丈夫なのか?」
「正直分からない。さっき成田先生には連絡をした。何とかしてみるって言ってくれてるし、先生を信じるしかない」
未だ、小夜子は意識を取り戻さなかった。心拍を確かめようにも、皮膚の表面は聖晶石で覆われ、脈を確認することが出来ない。まるで水晶の置物の様になってしまっていた。唯一生存に期待が持てる点としては、口元から呼吸を感じるということだ。もし死んでしまっていたら、こんなことは起きるはずも無い。
「よし、じゃあ、何とかして俺がおんぶするよ」
「なーに言ってるこのすけべ守尭! くないちゃんが抱えるってば」
いや、もう、こんな状況でラッキースケベも何も無いだろうがよ......。
「お前さぁ、もうクタクタなんだろ? マスターの俺が分からないとでも思ったのかよ」
う、とくないは言葉を詰まらせる。パスを通じて俺はくないの状態を把握していた。宝具というのはこんなにも消耗させるのだろうか。くないはもう戦うどころか、立っているのもやっとなほど消耗していた。
くないはバツが悪そうに頭をポリポリと搔きながら、言う。
「し、仕方ないな~。そこまで言うなら、守尭に任せちゃおうかな〜」
「おう、心配すんな、何かあったらお前も一緒に担いでやるって」
戦いを終えた気の緩みだろうか、普段なら言わないようなことまで言ってしまう。自然と表情が緩み、笑顔が溢れてくる。
一時はどうなることかと思ったが、俺とくないは、敵サーヴァントを撃破して、小夜子を死なせずに済んだのだ。大勝利と言って差し支えないだろう。後は、とにかく、小夜子を早く成田先生の所に連れて行かなければ。
「じゃあ、そろそろここを離れようか、くない」
と、小夜子を抱きかかえようとしたその時、
「――――待つでござるよ」
くないの腹部を、後方から物凄い勢いでもって、長槍が貫通した。
「――――が、はッ」
くないが口から血を吐く。
「いや~とっても素晴らしい宝具だったでござるなぁ! そう、拙者の接近に気が付かないほど、魔力が枯渇しちゃうだなんて」
くないの後ろに誰かが居る。その姿は、
「アサシン!!」
「また会えて嬉しいでござる、よ!」
軽口を叩きつつも、くないを背中から蹴りつけ吹き飛ばす。その勢いで、突き刺さった長槍は引き抜かれた。血が、飛び散った。
「くない!」
「離れろ守尭! アサシンの相手は、私が」
だが、戦いを終えたばかりで、足に力が入っていない。目の前には、大角寺で見たコスプレ忍者衣装に身を包んだ黒い恰好の男が立ちふさがる。その手には、くないの血に塗れた槍が掲げられていた。
「さぁて、絶体絶命というやつでござるなぁランサーとそのマスターよ。いっちょ、拙者の手に掛かって死んでみるのはどうでござるか?」
そして、槍の狙いがくないに定められた。だが、どうする? 令呪はあと1つしかない。一体、どうすれば――――!!
「アーチャー、宝具を使え」
聞き覚えのある声が、聞こえた。
俺は、恐る恐る後ろを振り返る。そこに立っていたのは――――
「おま、え......」
「あぁ、守尭くん、お久しぶり」
真里谷健吾、に成り代わっていた男。アウトドアブランドのアウターを身につけて、ゆるふわパーマにおしゃれな丸メガネをかけた男が、立っていた。
「折角だ、ランサー諸共、アサシンを潰すかアーチャーよ」
そうして、アーチャーの宝具が展開された。俺たちは、何もすることが出来なかった。
第2章 第6節 了
次へ進みますか?
>はい
いいえ
【F/BR マテリアル】
★鬼・聖杯戦争 登場人物一覧★
バーサーク・セイバー 立花道雪(鬼道雪)
セイバーのマスター 成田左近
バーサーク・アーチャー アロハシャツの男
※キーワード:常陸国(茨城県)、常陸介、八文字
アーチャーのマスター 真里谷健吾
バーサーク・ランサー 長宗我部元親(鬼若子 / 姫若子)
ランサーのマスター 犬塚守尭
バーサーク・ライダー 十河存保 【脱落】
ライダーのマスター 千葉小夜子
バーサーク・キャスター ???
キャスターのマスター ???
バーサーク・アサシン コスプレ忍者野郎
※キーワード:槍使い、信康事件
アサシンのマスター ???
バーサーク・バーサーカー ???
バーサーカーのマスター ???
and more…?
第2章おしまいです。
ご覧頂きありがとうございます!
続けて第3章もどうぞ