片喰は夜に揺れる ~Fate / Berserk Requiem~ 作:斑鳩古都
......と言っていましたが、「鬼」の名を冠する聖杯戦争において、鬼武蔵に触れない訳にもいかず
どう描いていくのか、拙い文章ですが、ご覧いただけると喜びます
【ある男の手記】
森長可(もりながよし)。
戦国時代の武将である。一般の人には知名度が低いと思われるが、織田信長に仕えた小姓・森蘭丸の兄と言えば、伝わるかもしれない。
織田家、豊臣家に仕え、信長や秀吉の天下統一事業に貢献するも、道半ばで命を落とした猛将だ。
いや、猛将というには、いささかこの武将は苛烈すぎるかもしれない。
というのも、あまりにも残虐かつ狂気に満ちたエピソードが多く残されているのだ。
各戦において、抜群の槍働きを上げるも、幾度となく軍規違反を侵しており、非常に気性が激しい人物だったとされている。同僚に暴言を吐くなど可愛いもので、他の織田家臣の奉公人を些細なことで殺害してしまうなど、日常茶飯事だった。
また、『人間無骨』と呼ばれた十文字槍を愛用しており、その名の通り「この槍の前では骨など無いも同然である」という鋭い切れ味を持っていた。その戦いの苛烈さからついたあだ名は、”鬼武蔵”。武蔵は、森が武蔵守を称していた為である。
私が独自に調べた所によると、別の異なる聖杯戦争でも召喚された実績があるとのことだ。その際も尋常ではない力を発揮して見せたと伝わっている。
通常の聖杯戦争でそれなのだ。此度の鬼・聖杯戦争においては、正に他のサーヴァントなど一切寄せ付けない圧倒的な力を見せつけることだろう。
断言できる。現時点で、単独で彼に勝てるサーヴァントは、この伊蔵の地においては存在しない。
だが、私は2年間準備を行ってきた。鬼武蔵を倒すための、その準備を。
私、いや、私たちなら必ず倒すことが出来るだろう。鬼義重こと、佐竹義重。彼が、重要なキーとなっている。
そして、土佐の鬼若子、長宗我部元親。彼女の力も借りなければならない。
奴を倒すため、私はここにいるのだから。
■■■■の手記
※名前は黒く塗りつぶされて読めなくなっている
★
並々とグラスに注がれた透明な液体。人はそれを日本酒と呼ぶ。
「いいい、いいのか? なぁ、守尭ぁ、飲んでいいのかぁ!?」
こいつ、あまりにもお預けを食らい過ぎて、頭がおかしくなってしまったのだろうか。
「あぁ、貰いものだけど良かったら飲んでくれよ」
俺とくないは無事自宅へ戻り、晩御飯を食べようとしていた。
あの後、無事お葬式は終わった。俺はしっかりと幼馴染の健吾とのお別れを済ませることが出来た。
また、この辺の葬式の風習として、終わった後にちょっとした宴会を行うことが多く、参列者には御膳とお酒が振舞われる。俺は未成年だったこともあり、お弁当を用意してもらっていた。お家で食べるんだよ、と健吾の親父さんに持たされたのだが、まさか地酒の一升瓶も一緒に持たされるとは思わなかった。俺は断ったのだが、良かったら家族で飲んでと押し付けられたのだ。うちは、ばあちゃんと2人暮らしなのをすっかり忘れているようだった。ちなみにばあちゃんは酒は飲まないし、現在は暗示をかけられ旅行に出かけてしまっている。
そうして、昨日から戦い三昧で魔力が枯渇気味のくないへのご褒美として飲んでもらうことにしたのだ。
「じゃあ、ありがたく! いただきます!」
そうするとくないは、グラスに注がれた酒を一気に飲み干す。
「お、おおおおおお」
何故だか感動で眼が涙目になっているではないか。
「すごいな守尭! 現代の酒造りの技術は本当にすごい! こんな澄み切った酒なんて中々手に入らんぞ!!」
俺も良く分かってないのだが、食品加工や衛生管理といった部分においては、過去と現代では段違いなのだろう。くないは「神の飲み物じゃき!」と騒ぎながらどんどんお代わりをしている。
あと、俺は未成年だから良く分かってないんだけど、日本酒ってそんなスポーツドリンクのようにごくごく飲むものだっただろうか。
「あと、これ」
そうして俺は鯨の大和煮を差し出す。さっき帰り際にスーパーで買ってきたのだ。鯖とか鮭の缶詰と比べるとちょっと高かったけど、くないが喜んでくれるのならと、お小遣いから捻出したのだ。
「ああ、ああああ、あぁ......」
もうくないは恍惚とした表情で、良く分からない奇声を上げ続けていた。高知人のご当地性や人間性もあるのだろう。これは土佐の領内に禁酒令を出すのも頷けるし、出した本人が隠れて酒を飲んで家臣にこっぴどく叱られるのも頷ける。
俺は、自宅の居間で、セーラー服姿の少女が酒と肴で美味しく幸せそうに晩酌している様子を、微笑ましく眺めていた。
★
「そう言えば、守尭。この服、洗って欲しい」
俺も簡単に夕食を済ませ、風呂の支度を始めようとしていた時だった。
「この服って、まさか」
「そう、せぇらぁふく」
くないは椅子に座りながら、スカートをひらひらとはためかせる。こらこら、はしたないですぞ! 中見えちゃうから!
「あーそもそも疑問なんだけど、お前って服脱げるの? 俺よく分からないんだけど、サーヴァントの衣装って装備みたいなもんなんだろ?」
「あーら服の中、見てみたいのかえ?」
「ばばば馬鹿やろう、守尭さんはなぁ、硬派で知られてるから、そういうのは興味が無いんだよぉ」
嘘です。めっちゃ興味あります。
「まぁ、それは置いといて。実際、こういった現代の服装は、勝手に着ているだけなので、英霊本来の衣服とは異なる訳。だから自由に着れるし自由に脱げる。ほら、アーチャーだって現代の服を着ていただろう?」
「確かに。あれは確実に現代で手に入れたものだな」
「英霊本来の持ち物であれば、魔力に応じて着脱も自由だ。例えば破損したり破けてしまったとしても魔力を補填すれば簡単に修復できる」
「あれ、それで言うと、お前の服って......」
「あぁ、なんか良く分からんが着ていた。でも、私本来の装備や衣服ではないから、破けたら破けたままだ」
俺はまじまじとくないのセーラー服を見る。何と、泥や埃で汚れに汚れており、何なら昨日のアサシンの攻撃で貫かれた際の穴がぽっかりと開いている。傷は魔力で塞がっているが、服はどうしようもなかったのだ。
しまった、あんまりくないの身体をじろじろ見るなんて失礼だと思って、衣服の汚れや損耗に気が付くことが出来なかった。
「............すまん」
ん? と全く意に介していない様子で、くないは俺の顔を覗き込む。
「お前が傷だらけ泥だらけになって戦ってくれていたのに、俺はお前の身の回りの物について、全く気が回っていなかった。本当にすまん」
「良いのだ、守尭。むしろ私は感謝しているのだ」
そう言うとくないは、微笑みを浮かべながら俺に語り掛ける。
「私は、自分が何者なのかを思い出せた。もちろん、辛く悲しい記憶も思い出してしまったが、それでもかつての仲間たちと共に戦えた」
感慨を噛みしめるようにくないが言う。一領具足のことだ。
英霊として蘇った今もなお、宝具となってくないの戦場にはせ参じる、長宗我部元親の忠勇なる家臣達。
「そうして、かつての宿敵とも相まみえることが出来た。まぁ、屍人を生み出していたという、奴の行動は許すことは出来ない。だが、最後は正気を取り戻したようだったし、何より気持ちよく戦えた。そして、その黒幕はいずれ必ず倒す。だから、これで良いのだ」
ライダーとの戦い。それも、くないの中では、決着がついているのだ。
「何より、そなたに出会えた」
ふと、くないの顔を見る。温かな笑顔がそこに浮かんでいた。
あぁ、良かった。俺は、こいつを笑顔にしたい、それだけの想いで戦ってきたのだ。まだ戦いは終わらない。始まったばかりだ。でも、たったひと時でも構わない。こいつが笑っていられる時間を少しでも作れた。それが何よりのご褒美だった。
「というわけでな、守尭」
「あぁ、なんだよくない」
「風呂に入りたいから着替えを準備せよ!!」
俺はまた頭を悩ませた。女物の服なんて、持ってねぇよ......。
★
俺は何とか自分の中学時代の服を引っ張り出してきた。くないの身長は百五十センチそこそこ。俺の中学一年生ぐらいの身長だった。良く捨てずに取ってあったもんだ。物を捨てたがらないばあちゃんに感謝!
そうして何とかかんとかくないを風呂にぶち込んで、俺はお古の衣服をくないに着せたのだった。
「なぁ、守尭~、何だか股の辺りがスース―するぞ」
「あのねくないさん! 女性下着を俺が持ってるわけないじゃないのよ!」
オカマ口調になってしまった。こんな時に、小夜子が居てくれたら......。
「守尭は身体が大きいんだな。そなたの十三歳の服でも、まだぶかぶかだぞ」
くないさん。どうして萌え袖なんてしちゃうんですか。お兄さん、ちょっと不覚にもドギマギしてしまいますよ。
「とりあえず、洗濯するか......」
いや、でもこれよく考えたら、クリーニングに出すべきなんじゃ無いか? だとしてもこんな厚物はすぐ帰ってくるわけじゃ無いし...全くどうすりゃいいんだ。
俺は仕方なく、手洗いをすることにした。ちょうどよく、おしゃれ着洗い用の洗剤もあったので、やり方はネットで調べながらやった。
その後、くないは本当に疲れていたのだろう。霊体になる気力もないのか、俺の布団を強奪してぐっすりと寝てしまった。俺は客用の布団を敷いて、隣の部屋で寝た。制服は洗って外に干しておいたので、明日の朝には乾いているだろう。
そうだ、アサシンの槍が貫通した穴を縫わねばならない。裁縫セットはどこにあっただろうか、そもそも裁縫なんて家庭科の授業以外でやったことなんてねぇよと思い悩んでいたが、全ては明日に持ち越すことにした。
「それにしても、三日間か......」
俺は寝床の中で、今日の偽健吾との会話を思い出していた。
★
「それじゃあ、セイバーのマスターによろしく」
そういうと、偽健吾は大角寺を去ろうとした。
「ちょっと待てよ」
「何だい、守尭くん。バーサーカーとの戦いに備えて、セイバー・アーチャー・ランサーの三陣営で一時的な休戦を結ぼうって言っただろう。それに不服でもあるのかい?」
「そうじゃねぇよ」
「あ、俺への連絡だったら、さっき渡したメモに電話番号書いてあるから。そこに連絡して。魔術的にプロテクトかけてあるから、盗聴とかの危険は無いから」
「だから、違うっての」
そう言うと、偽健吾は俺の言葉を待った。俺が何を言うのか、分かっているくせに。生意気だ。
「お前の戦う理由。お前が真里谷健吾として過ごさねばならなかった理由。その他諸々、ちゃんと教えろよな。それが、俺がお前と共闘するための条件だ」
「あぁ、ちゃんと覚えているよ。バーサーカーを無事倒せたら、ちゃんと説明するからさ」
「いや、そんなんじゃ納得できねぇって」
やれやれ、とワザとらしく肩をすくめて見せる偽健吾。
「頼むよ守尭くん。俺と君は、敵同士なんだ。変に慣れ合うと後で戦いづらくなるし、私情を挟むのって俺嫌いなんだよね」
「............じゃあ、後でちゃんと説明しろよな」
「おっけー。まぁ、ひとまず三日間ね」
そう言って、颯爽と偽健吾は大角寺から去って行った。
三日間。それが、俺たちに与えられた共闘期間。その間に、傷を癒し、力を蓄え、バーサーカーを見つけ、倒す。
その後、俺は成田先生に会いに行き、ここでの話を包み隠さず伝えた。
成田先生は、正直乗り気ではなかったが、セイバーの助言もあって、今回の共闘を受けることになった。
セイバー曰く、「バーサーカーは、底知れぬ何かを感じる。アーチャー陣営が信用に足るか否かは分からないが、今の優先度としてバーサーカーに当たるのが肝要と思われる」との事だ。それについては俺も同意見だった。既に、小夜子が生み出した固有結界の中で遭遇した声の主の話は伝えてあったし、成田先生も早めに動かなくては、という認識だった。
と言うわけで俺たちは、まさかの偽健吾からの提案に乗り、バーサーカーを倒すことを次の最重要ミッションとして定めることになった。
★
【ある男の思考】
ライダーは非常に残念だった。千葉小夜子も、まぁ、あんなもんだろう。当初の予定から変わってしまったが、それでも良く頑張ってくれた。二人とも、お疲れ様、だね。
それにしても、ランサーとアーチャーの宝具には驚いてしまったよ。
正に、英雄豪傑そのものだ。普通に戦ったのでは、私たちもただでは済まないだろうね。
でも、惜しい。非常に惜しいぞ、アーチャーのマスターよ。
それで、私を出し抜いたつもりか? それで、私に勝つつもりか?
はは、良いねぇ。滑稽だねぇ。戦うのが、楽しみになってきたよ。
そうだな。三日後、はどうだろうか。
セイバー、アーチャー、ランサー。三つの陣営諸共、叩き潰してやろうじゃないか。なぁ、バーサーカー。
第3章 第2節 了
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