片喰は夜に揺れる ~Fate / Berserk Requiem~   作:斑鳩古都

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立花道雪が生き生きしていて、とても楽しく書いたのを覚えています
宝具も、お楽しみに






第3章 狂戦士襲来 〜第5節 3日目〜

 ようやく、相まみえることが出来る。

 この2年。いや、自分の人生の全てをかけた、戦いの旅路はもうすぐ終わる。

 友よ。君が視た未来は、今日までだったな。さぁ、長く苦しい戦いを終わらせよう。今夜だ。全ては今夜、終わる。

 今夜、――――私は運命と出会う。

 

 

 ★

 

 

 成田先生の魔術工房で仮眠を取っていた俺は、急に叩き起こされた。

「守尭くん! ランサーが眼を覚ましたよ!」

 息を切らせて駆け付ける成田先生。その後ろに、見慣れた少女の姿があった。

「もりたか......」

 気まずそうに視線を逸らす。丸二日間も寝たきりだったその姿。買ったばかりの紺色のジャージに身を包み、美しい黒髪を腰まで伸ばした可憐な姿。くないは元気にそこに立っていた。

 俺は、言葉にならない感情をどうすればいいのか、完全に思考が止まってしまった。そして、本能のままに身体が動いていた。

 クタクタな身体を何とか起こし、一歩ずつくないへ近付いていく。何故だろう、視界がぼやける気がする。眼にゴミでも入ったのかも知れない。

 俺は自然と――――くないを正面から抱きしめていた。

「もり、たか......」

「うるせぇ」

「すまんかった、な」

「起きるのが遅いんだよお前」

 くないの華奢な身体をしっかりと抱きしめながら、俺は本当に言いたいことは胸にしまっておく。いいのだ、どうせ、この女は俺の考えなどお見通しなのだから。

「なぁ、守尭」

「あぁ、なんだ」

 そうして、くないは俺の腕の中に収まった状態で、言葉を発した。

「............鯖の塩辛は、どこ?」

「おいこらああああああああああああああ!」

 俺は全身の力を込めて、くないを背負い投げしようとしたが、いとも簡単にくないに組伏せられてしまった。

「あ、すまん。つい、反射的に......」

 この女............俺の純情を、返せぇ。

 

 

 ★

 

 

「まぁ、別に良いんですけどね~元気そうなのが分かったんで~」

「守尭、すねなくてもいいだろう? ほれほれ、お主の相棒ですよ~可愛い可愛いくないちゃんですよ~」

「うるせぇ、お前なんかもっと寝てれば良かったんだよ。とにかく酒なんか飲ませねぇからな。次飲んだら、最後の令呪でキツく禁酒してやる」

「ああああ、マスター何なりと下知を! お代わりですか? ご飯のお代わりですか?? 守尭は育ち盛り!」

 俺たちは、クリニックの隣の成田先生の自宅にて、朝ごはんを食べていた。古い戸建てを譲り受けたとかで、二階建ての古民家の今でザ・和食という感じの朝ごはんを食べている。白飯に、茄子と葱のお味噌汁、出し巻き卵に、焼き魚、ひじきの煮物だ。まるで旅館の朝食だ。こういうの結構好き。

 俺とくない、成田先生とセイバーが、食卓を囲んでいた。くないは、俺のご飯を山盛りに盛って、上目遣いで様子を伺ってくる。いや、こんなにご飯盛られても食いきれないし。戦国時代はとりあえず客人には米食わせて置けば良い、という倫理観なのか? 江戸時代は脚気になる人が多かったのは米ばっかり食べていて栄養が偏ったからとか聞いた気がするが、まぁそれは今は置いておこう。

「............まぁ、ひとまず元気になってよかった」

「おう、心配かけたな!」

 ニコニコとした表情で笑いかけてくる。べ、別に心配なんかしてないんだからね。

「ランサーが目覚めたことは重畳よ、なぁマスター」

「あぁ、守尭くんの姿、見ていられなかったからね。そりゃあ、徹夜で魔術の特訓も頑張るさ」

 いや、成田先生。それは間違ってないんですが。どちらかと言うとあなたが寝かせてくれなかった、の方が正しいんですがね。

「それにしても、急に目覚めたのはどうしてなんだろうね? 私たちの仮説ではバーサーカーの影響だったり、ランサーの中に眠る......」

「眠る?」

 くないは、成田先生の発言に訝しげに、眉を潜めた。

「まぁ、いいじゃないですか先生! とりあえず今夜の戦いに間に合ったんだから!」

 わざとらしかっただろうか? 俺は、先生の言葉を遮るように、話を変えた。奥底に眠る狂気。そんな話は今すべきではない。

 成田先生は俺の意図を察したのか、それ以上言及することは無かった。

「そう言えば、くないは、今夜の作戦内容は聞いたのか?」

「あぁ、道雪公から先ほど手ほどきを受けた、が......」

 そうして、くないは少しだけ目線を伏せた。

 あぁ、そういうリアクションね。まぁ、それはそうなるだろう。今回の作戦内容は、くないからすれば少々不愉快に感じることは、――――歴史が物語っていた。

「まさか、戸次川で釣られた私が、今度は敵を釣る羽目になるとはな」

 ハハッ、と自嘲気味にくないは笑う。

 そうして、今回の作戦内容についてくないは言及した。頭の中で反芻し、咀嚼するように。

「作戦名は『釣り野伏せ(つりのぶせ)』――――私が戸次川の戦いでやられた、薩摩島津秘伝の必殺戦法だと言うのだからな」

 

 

 ★

 

 

「あー”釣り野伏せ”というのは簡単に言うと、囮を有効活用した包囲殲滅戦法の事じゃな」

 ご飯を食べ終わった俺たちは、食器を片付けつつ、突如始まったセイバー・立花道雪の戦術講義を聞いていた。

「あ、ちなみに、”釣り野伏せ”とは名付けてなかったが、拙僧も似たような戦法で敵をガンガン殲滅していたから、別にあのクソ島津だけに伝わるような秘伝というのも間違いじゃよ~」

 クソ島津呼びと来たもんだ。まぁ、大友家サイドのセイバーからすれば、憎き因縁の相手なのだろう。

「まぁまぁ、セイバー今はそういうのは置いておいて」

 成田先生は、話が横道に逸れようとしていたので、軌道修正するよう促した。

「まぁ、マスターそう言わずに」

 あ、軌道修正失敗。成田先生、シュンとする。

「ここで言いたいのは、拙僧もすごいだろと自慢したい訳ではなく、ある程度まで戦術を突き詰めていくと、似たような戦法に辿り着くということじゃな」

 話が脱線するかと思ったら、割とちゃんとした内容だったことに安堵する。

「十三世紀のモンゴル帝国が勝利したワールシュタットの戦いでも、似たような戦術が使われている。そもそも囮とは少し違うが、敵を包囲して殲滅するというのは、紀元前の名将ハンニバルによるカンナエの戦いから見ても、かなり理に叶っていることは歴史が証明している。まぁ、それぐらい効果的な戦術ということよ」

 流石セイバーだ。現代に召喚されてからも、書籍を読み漁り探求を欠かさなかっただけはある。古今東西の戦争についても詳しい様だった。

「で、”釣り野伏せ”って、俺良く分かってないんだけど、教えてくれよセイバー」

 ぶっちゃけ、剣術稽古や魔術鍛錬で慌ただしく、あまり作戦内容について理解できていないのだ。まぁ、くないが寝たきりでそれどころでも無かったのもあるけれど。折角なので、色々と解説を求めることにする。

 そんな俺に微笑みかけながら、セイバーは丁寧に説明を続けてくれた。

「まず、島津の戦い方としてはこうだ。敵と遭遇する先陣、ここでは敢えて『餌』と呼ぼう。そこそこに戦った上で、『餌』は撤退を始める。ようはわざと負けるんじゃな」

「ワザと、負ける......?」

「あぁ、これが非常に難しい。引き際を間違えると全滅するし、早々に引き上げると囮であることが分かってしまう。勿論、部隊から死人も出るし、誰もがやりたがらない損な役目よな。だが、ここで重要なのは『餌』は活きが良ければ良いほど、敵も食いついてくるということよ」

 セイバーは、懐からおもむろに将棋の駒を複数個取り出した。準備が良い、というか恐らく”釣り野伏せ”の解説がしたくてたまらなかったのだろう。小道具の準備も万端だ。

 そうして、食器が片付けられ綺麗になった食卓の上に、セイバーは将棋の駒を並べていく。

「この王将が、敵。桂馬が、囮だとしよう」

 王将と桂馬が向かい合うように配置する。桂馬から見た後方にその他の駒を無造作に配置していった。

「こうやって、活きの良い『餌』が逃げる」

 桂馬を動かす。向きを反転して、王将に背を向ける。まるで、追いかけてこいと言わんばかりに。

「そこに敵が釣られ、食らいついてくる」

 王将が桂馬へ近付く。その動きは今にも敵を食いつくさんとする勢いで。

「だが、そこには伏兵が置かれており」

 気が付けば、セイバーが無造作に散りばめた駒たちが、綺麗に王将を取り囲むように配置されており、

「包囲されて、殲滅される、というものだ」

 王将は、伏兵たちによって包囲されていた。

「まぁ、将棋の駒でやると簡単に見えるが、これが中々難しい。伏兵の置く場所もそうだし、とにかく相手に気が付かれないようにというのを、臨機応変に戦場の地形や敵の心理状況まで見抜いて、的確に判断するというのは並みの将では難しい」

 ピン、とセイバーは王将を指で弾いた。弾かれた駒は食卓から弾き出され、どこかへ消えてしまった。これで、ジ・エンドという訳だ。

「ここで重要なのは、一度勝ったと敵に錯覚させることだ。敵は、逃げる相手を完膚なきまでに叩こうと深入りを余儀なくされてしまう。だからこそ、敵の術中にハマったと思い知った瞬間、あまりの絶望感に軍としての統率すら取れなくなり、殲滅されてしまう」

 と、セイバーは意地悪そうに、くないへ向き直って笑った。

「のう、ランサー。お前さん、見事に戸次川で釣られたのよな?」

「............セイバーよ。一応、私はあの時無謀な戦いを止めた側であって、伏兵には気が付いていたんだけどな」

「あぁ、そうだったのう。仙石なにがしが強硬策を、お主が撤退策を進言した。しかし、結局は押し切られて戸次川を渡る羽目になったんだったのう。お主は四国征伐で負けた側じゃったし、その場における発言権も強くは無かっただろうしなぁ」

「............何が言いたい?」

 ぞくり、と背筋が凍る。くないの指がピクリと動く。一領具足を呼び出す気だ。おいおい屋内で戦闘をおっぱじめるのは止めてくれ。

 くないは、怒っていた。それは当然だ。いくら作戦の説明だとは言っても、戸次川の戦いで、釣り野伏せによって敵に負けたのだ。大事な息子を喪うことにも、なったのだ。余りにも配慮が欠ける発言だ。

 どうしたんだセイバー。そんな話をすれば、くないが苛立つことぐらい分かっているだろうに。どうしてそんな煽るような真似をするんだ。

 そんなくないの様子を気にすることなく、セイバーは堂々とした佇まいで言った。

「なぁ、ランサーよ。今夜、バーサーカーを叩いた後、我々の共闘関係は解消することになった。聞いておるよな?」

 くないは、黙ったままだ。

「昨日、アーチャーにも果たし状を渡してきた。まぁ、我々が争っていれば、血に飢えたバーサーカーは勝手にやって来るだろうという『餌』の意味合いもあるのだが、本当は違う。拙僧は、お主ら全員倒す気でおるぞ」

 場に緊張感が走る。

「もちろん、バーサーカーは我々の三陣営の共闘により、完膚なきまでに倒す。だが、その後は正々堂々とお主らと戦いたいのよ。だから、慣れ合いもほどほどにしておかんとな」

 そうして、セイバーは少しだけ寂しそうに俯く。

「............今回の三つ巴は、負けるわけにはいかんからの」

 それは、戦国時代の九州での事を悔いている様子だった。主家が落ちぶれていく様を二度と見たくは無いのだろう。戦いから外され、仲間たちが討ち死にしたとの訃報を、戦場から遠く離れた博多で聞かされたセイバーの気持ちは如何なるものだったのか。

 セイバーはちゃんと戦いたいのだ。いざというときにその手が鈍らないように。その為には、相手の神経を逆撫ですることも厭わない。それは逆に言えば、くないを敵として認めたという風にも感じられた。

 それは、隣にいるくないも理解したのだろう。先ほどまでの怒りを抑え込み、真っすぐにセイバーを見つめた。

「あぁ、そうだな。慣れ合いをしたいわけではない。今宵、戦いが済んだのち、改めて宣戦布告させてもらうよ、セイバー」

「おうよ、それがよいランサー。互いの剣と槍。どちらが、強いかハッキリさせんとな」

 両者の視線が交錯する。

 俺は俺で、成田先生と視線を交わした。先生も、俺をじっと見つめていた。

「まぁ、小夜子さんを盾にするような真似はしない、とだけ言っておこうか」

「えぇ。やるときは、正々堂々、ですよね」

 話は終わりだ。そして、やるべきことも明確になった。そうして俺は口を開く。

「じゃあ先生。最後にご指導お願いできますか? 昨日の続き、ってやつ」

「やれやれ、同盟関係が維持されてる間に、少しでも自分を強く、ってことかな?」

「それぐらい図々しい方が、いいでしょ?」

 俺は笑っていたのだと思う。明日からは殺し合う間柄に戻るというのに、気心が知れた相手へ接するように。

「あぁ、構わないさ」

 成田先生も、笑っていた。裏表のない、美しい笑顔だった。

 

 

 ★

 

 

 伊蔵市の郊外には、ちょっとした港がある。

 近隣には高齢になりつつあるが漁師が未だ多く在住しており、早朝には漁船が立ち並び活気を見せる。

 また、少し離れれば綺麗な砂浜や防風林も立ち並んでおり、夏のシーズンになれば海水浴場やキャンプ場としても賑わいを見せるエリアだ。だが、3月末のこの時期には閑散としており、夕方から夜にかけては人も寄り付かない。

 さらに、海の近くまで山がせり出しているため、崖になっている場所もあれば、少し陸地へ行けば平地が広がり果樹園となっているなど、非常に入り組んだ高低差のある地形になっている。兵法の心得が無い俺には良く分からないが、伏兵を置くにも持って来いとのことだ。

 俺たちは、この地で敵を釣り、迎え撃つことにした。

 まぁ、迎え撃つとは言ったものの、別に船で上陸してくる訳ではない。ここら一帯に結界を張り人を遠ざけた上で、その中で俺たちが争い合うことで、血に飢えた狂戦士を呼び寄せようと言うのが今回の作戦の狙いだ。

 というか、バーサーカーはそんなことでやってくるのだろうか。

「いや、来る。拙僧たちが本気で戦えば、な」

 そういって自信満々の表情なのは、セイバー・立花道雪だ。相変わらずジャージ上下に松葉杖。身長2メートルを超えるその巨漢は、怪我でもした体育教師の様な格好をしている。眼を引くのは数珠を首や腕に巻き付けているということか。

「そうは言うけどなぁ、本気で戦ったらお前さんたち一瞬で消し飛んじゃうんじゃないの? 坂東武者なめんなよ」

 そのおかしな恰好が、何故だか背景になじんでいるのは、アーチャー・佐竹義重だ。アロハシャツにビーチサンダルの男が砂浜を背景にするとあら不思議、まともに思えてくる。何なら今日は大きな浮輪を腰に巻いている。この男、完全に遊び気分だ。だが、その言葉からは殺気が全方位に放たれており、この男の言う通り本気で戦えば周りはただでは済まないことは明らかだった。

「たわけ、お主の鉄砲足軽ごときにやられる我が配下では無いわ。何が坂東武者よ。お前は確かに強いが、どうやら相手を追い込むことは出来ても、勝ち切ることが苦手なようだなアーチャー」

 そう言って、ひっさびさのセーラー服姿を俺たちの前に晒したのは、ランサー・長宗我部元親。くないだ。ちなみに、どうしても戦うときはセーラー服がいいとごねたので、わざわざ家まで着替えに戻った。最初は違和感しかなかったが、この衣装がしっくりくるほど、短い間ではあるがこの相棒と共に戦ってきたのだ。休養も万全。魔力が漲っているのが令呪越しに伝わってくる。

 今ここに、セイバー・アーチャー・ランサーの三騎士が港に集結していた。

 と、アーチャーが口火を切った。

「うるっせぇよお嬢ちゃん。お前、勝ちきれないとか、どの戦いのこと言ってんだコラ」

「そりゃあ、伊達政宗を追い詰めるも討ち取れなかった”人取橋の戦い”とか。あーあ、もう少しで政宗を討ち取れたのに『地元で反乱が起きた。ヤバいから帰るわ』とかしょうもなさすぎじゃろ。まんまと政宗の工作にやられおって。あぁ、八千丁の種子島がどうとか息まいてるが、そもそも”沼尻の戦い”って、戦自体は引き分け扱いで、しかも戦後処理を考慮すると敵の北条家に軍配が上がるって聞いたぞ。八千丁鉄砲揃えて負けるとか大丈夫かぁ?」

「はっはっは! まぁまぁ、負け自慢はやめておけランサー! お主も四国征伐や戸次川は散々な負けっぷりだろうが。その点拙僧は負けという負けは無いがな!」

「やかましいこのハゲ、お前の所、主家傾いてるじゃねぇか! 局地戦がどうこうで威張るな、所詮家老風情がよぉ! お嬢ちゃん所も大坂の陣で負けて息子ちゃん処刑とか情けねぇなおい! そこを言うと我が佐竹は、秋田へ転封を余儀なくされるも、幕末までしっかり存続しているわけでな! ほら、生き残った俺の勝ち~」

「ハ、ハゲ......これは仏門に入っただけで......あと大友家の事は言わん約束じゃろ......拙僧は島津には負けてない......」

「も、盛親は悪く無いぞ! 何なら大坂の陣でも藤堂軍相手に善戦してるんだからな! あれは戦いに消極的だった淀君が悪いだけで......。そもそも、転封に応じるとか徳川の言いなりの方が情けない!」

「ちーがーいーまーすぅー、徳川殿は我が佐竹家を恐れたが故に、遠方の秋田まで飛ばしたんですぅー」

「そもそもな、拙僧調べて驚いたんじゃが、秋田小町とか言われて秋田は美人の国とか言うとるが、お前さん常陸国の領内からことごとく美人を引き連れて移住したって正気か? 女好きもほどほどにせよ、な?」

「あぁん? 可愛い女の子連れてって何が悪いんだコラ」

 ハゲと茨城ヤンキーとセーラー服の酒クズが何か言い合いしてる。おいおい、もうこれ泥仕合みたいになってきたぞ。

「............で、さ」

 そんな醜く罵り合う三英傑を横目に、俺は――――炭を弄りながら言った。

「頼むからご飯の支度を手伝ってくれないかな三馬鹿トリオ」

 目の前で懸命にバーベキューの準備を行う、俺、偽健吾、成田先生の三人のマスター。

 そう、戦いは夜。夜になれば、聖杯戦争は行われる。

 だが、まだ日は高く、それまでやることも無いため、偽健吾の提案により、俺たちは――――何故だかキャンプ場でバーベキューをすることになっていた。

「おぉいセイバー、そろそろ肉が焼けるよ~。あれ、仏門に入ってても肉とか食べていいんだっけ?」

「アーチャー、浮輪なんて邪魔なんだから置いて来い。あとちゃんと手を洗うんだぞ」

 ニッコニコで肉を焼いている成田先生。そして火起こしから何まで完ぺきにこなすベテランキャンパーの偽健吾。そして、良く分からんうちに魔術の鍛錬もそこそこに切り上げられ、不服ながらも雑用に勤しむ俺。

 嗚呼、本当に今夜殺し合うのか? 守尭さん、すっごく心配。

 

 

 ★

 

 

 肉を焼き、酒を飲み、楽しそうにする英霊たち。

 何とも不思議な時間だった。俺も最初は気乗りしなかったものの、それなりに楽しかった。

 ちなみに俺たちがごっそりと留守にするので、小夜子は成田先生の知り合いの魔術に心得のある人が経営する病院に移った。流石に1人のまま成田クリニックに置き去りのするわけにもいかないし、バーサーカー陣営が小夜子を狙いに来る可能性もあったためだ。絶対に安全とは言い切れないだろうが、それでもだいぶマシだろう。

 ふと、考える。いつか小夜子が目覚めたときに、俺はなんて声をかけるんだろう。彼女のこれからの人生をどう支えていけばいいんだろう。色々と悩むことはあるが、俺は気持ちよく「おかえり」と言ってあげたいと思っていた。

「それまでに、この戦いを終わらせなきゃな......」

 俺たちは、バーベキューを終わらせ、炭などの後片付けを終え、思い思いにキャンプ場で時間を過ごしていた。

 釣りに興じる者。読書に興じる者。焚火を起こしてぼんやりと眺める者。酒を飲む者。あ、最後のはくないね。

 俺は、ただ何もすることなく、防波堤に腰かけながら、海の水面を眺めていた。

 ゆっくりと、ゆっくりと。押し寄せては返す波を眺めながら、イメージを膨らませる。今夜の戦いのことを。自分の持つ能力のことを考えていた。

 母さんは、一体何者だったんだろう。俺は小夜子が怪我をしてしまった7年前の夏の日の事を未だに思い出せないでいる。だが、母さんはあの日を境に体調を崩してしまった、らしい。

 俺の能力の発動が、母さんの寿命を縮めてしまったのだろうか。それとも、俺にその前後の記憶が無いことが、母さんの病気に関係があるのだろうか。そもそも何でこの俺に、あんな能力が備わっているのだろうか。

 この子に加護のあらんことを。頭の中で、時折響くこの言葉。単純に解釈すれば、この子とは俺の事だろう。そして、加護というのはあの能力だ。何者かによって、俺はあの能力を、あの刀を、授かったというのだろうか。

 そして、この能力を使うときに必ず現れる水。俺は小夜子と戦った固有結界の中で「洗い流す」と無意識に発言した。水は、清らかで人々の喉を潤し、作物を育て、汚れを洗い流すこともあれば、時には洪水となって人間に牙を剥く。俺の能力は、誰かを救う物なのか、それとも......。

 俺は左頬を無意識に触った。そこには、幼い頃についてしまった切り傷があった。恐らく、この傷は俺の能力が発動したことが原因なのだろう。何故なら、今ここで、どうしてこの傷がついたのかを俺は鮮明に思い出すことが出来ないからだ。

 何故、俺はこんなにも自分の事を知らないのだろうか。

「どうした、守尭」

 気が付くと、隣にはくないが立って居た。

「いや、何でもないよ。海を、見ていただけ」

 そう言って、俺はくないに隣に座るように促した。くないからは少しばかりの酒の匂いと、炭の香りがした。完全に、バーベキューで肉焼いて酒飲んでるパリピじゃないか。こいつ本当にサーヴァントかよ。

「お前何飲んでるの?」

「ふっふー、聞いて驚け! すとろんぐなんちゃらと言う、魔法の様なお酒でな! 何だかしゅわしゅわするし、甘くて美味いし、何より手っ取り早く酔える!」

 そう言ってどや顔で見せてくるのは500mlの缶チューハイだ。何とも派手なパッケージで、アルコール度数が9%であることを嫌と言うほどアピールしている。いや、良く分からんけど、これ結構キツいやつじゃないの?

「お前、ちゃんと戦えるんだろうな。そんなに酔っぱらって」

「心配ないない。土佐人は、酒飲んでなんぼだ。むしろ酔わない酔えないことの方を恐れる」

 ぐびり、と喉を鳴らして、くないは酒を飲み込む。その頬は紅くほんのりと染まっており、俺は少しドキリとした。

「それにしても、ちと寂しいな守尭」

 ボソリ、とくないは呟く。

「こんな愉快な奴らと殺し合わなくてはならないとはな」

「それは......」

 俺も、そう思っていた。というか、成田先生も、あのクソ野郎も、おかしいんじゃないのか。慣れ合いはしないとか言っておきながら、めちゃくちゃ慣れ合ってるじゃないか。矛盾の塊だ。

 こんな、こんなにも楽しい思いをしてしまったら、戦うなんて躊躇うに決まってる。

「まぁ、でも、だからこそなのかもな」

 そう言って、くないは遠くを見た。その視線の先は海の向こうだ。

「みんな同じことを考えているんだと思う。どうせ戦うなら、気持ちよく、とな」

「............あぁ、そうかもな」

 ふと、くないの手に触れたいと思った。でも、何故だか触れられなかった。

 それは、海を見つめるくないの横顔が美しかったから。この美しさに触れてしまう、それを躊躇ってしまう自分が居た。

 そうして、俺は何もせず、何も言わず、くないの隣で海を見続けた。

 嗚呼、俺も酒が飲めたらな。そうすれば、この感情を酒のせいにできたのに、と思いながら。

 

 

 ★

 

 

「じゃあ、やるか。事前の打ち合わせ通り、『餌』は拙僧、立花道雪が承ろう」

 日も暮れ、夜の帳が落ちた。キャンプ場は暗闇に包まれ、港もポツポツと街灯が灯っている。既に人払いの結界は為された。ここには、3人のマスターと、3体のサーヴァント以外は存在しない。

 俺たちは、浜辺に集まっており、その中心には焚火台が置かれ、火が燃えている。本当はキャンプ場以外で勝手に火を起こしたら駄目なのだが、まぁこの戦いにはそんな常識は通用しない。

 今から行うのは、聖杯戦争だ。

「そしたら、伏兵その一。佐竹家・足軽鉄砲隊が承ろう」

「つづいて、伏兵その二。一領具足・鉄砲隊が任された」

 この作戦は、サーヴァントが従える鉄砲隊が鍵を握っている。佐竹軍八千、長宗我部軍四千の鉄砲隊。その魔力を込められた銃弾の嵐により、確実にバーサーカーを仕留めるのだ。

 そうして、偽健吾が感情を押し殺すように、言葉を紡いだ。

「鬼武蔵こと、森長可の唯一の弱点。それは死に際の逸話だと考える。彼は、小牧長久手の合戦において、名も無き鉄砲足軽が放った銃弾によって眉間を打ち抜かれ、絶命する。どれだけ、狂化に狂化を重ねて戦闘力を増大させようが、英霊はその逸話が必ず自身を追い詰める。古代ギリシャの英雄”アキレウス”の弱点がアキレス腱であるようにな。バーサーカー・鬼武蔵は、火縄銃による攻撃には抗えない」

 と、アーチャーがそれに追随する。

「つーわけで、派手に行こうや、セイバーにランサー。まぁ、ぶっちゃけ、俺の”坂東太郎”だけでも十分なんだが、うちのマスターがどうしてもランサーのとこの鉄砲隊も使いたいって言っててな」

「気を抜くなアーチャー。お前を信頼していないわけじゃない。より確実に仕留める為に、一領具足が必要なだけだ。バーサーカーを、そしてそのマスターを決して舐めてはいけない」

 偽健吾は、張り詰めた様子で窘める。こいつの、こんなにも真剣な表情、俺は初めて見た。

「忘れたのか。俺たちは、知らず知らずのうちに小夜子をマスターにされていたんだ。これだけ入念な準備をしたといっても、何か手を仕掛けてくるかもしれない。もしこの”釣り野伏せ”が失敗に終わった場合、我ら三騎士クラス全員の全力の宝具で敵を叩き潰す。魔力を惜しむな、名を惜しめ」

 偽健吾は、血管が浮き出るほど、拳を握っていた。

「はっはっは! まぁ心配無用ぞ、アーチャーのマスター」

 そうして、大きな身体を揺らして、セイバーは笑い飛ばしてみせた。その心配は、杞憂だと言わんばかりに。

「信じよ、少年。我々は必ず勝つ」

 そうして、セイバーは、俺たちを見た。

「じゃ、まずは『撒き餌』じゃな。拙僧たちが戦わんことには、始まらんわい」

 そうして、ここに集いし3体の英霊たちは、同時に息を吸い、

 

 

「「「――――”霊基再臨”」」」

 

 

 声を合わせて、呪文を唱えた。

 霊基再臨。それは、サーヴァントの持つ力をより高めるもの。セイントグラフと呼ばれるサーヴァントのステータスを向上させ、衣装・装備・保有スキルを変質せしめる。つまり、ギヤを上げるということ。

 セイバーは、僧衣に身を包み、その上から具足を着こんでいた。仏門に身をゆだねたその姿。しかし、だからこそ敵を屠ることも厭わない。また、いつも通り神輿の上で胡坐をかき、ゆったりとした佇まいで俺たちを見据えている。だが、その傍らには見慣れぬ太刀が置かれていた。セイバーのクラスが指し示す通り、その太刀は鬼道雪の切り札なのか、それとも。

 アーチャーは、漆黒の当世具足に身を包んでいた。その兜の前立てには、黒い毛で出来た飾りが付けられている。これは毛虫をモチーフとしている。毛虫は前に進むことができるが、後ろ向きに下がることは無く、一方通行な動きしか出来ない。このことから、『決して退却しない』という決意が込められているとのことだ。鬼義重は、決して退かない。

 ランサー・くないは、陸上競技場で身に着けていた女物の深紅の羽織を、セーラー服の上に肩から掛けていた。その胸元には、七つ片喰の紋様。片喰草とは、クローバーによく似た雑草であり、踏まれても踏まれても立ち上がる、強い生命力と繁殖力の象徴と聞いた。我こそは、不屈の野武士の首領であると高らかに主張している。

 今ここに、三英傑の力が集う。

 と、突然高らかに笑うものが居た。セイバー・立花道雪だ。

「じゃあお主ら、これから拙僧が襲い掛かるから、死なない程度に身を守るんじゃぞ?」

 流石のアーチャーとくないも、咄嗟に身構える。手が滑って倒しちゃうかも、ぐらいのノリだが、鬼道雪の言葉に偽りはない。

「伏兵分の魔力は残しておけよ。まぁ、そんな余裕ないかもしれないがな」

「............セイバー、流石にそれは作戦が狂う。丁度良く加減を、」

「いや、マスター。この鬼道雪、これだけ滾りに滾る相手を目の前にして、加減は出来申さぬ」

 成田先生の制止も意味を為さない。セイバーの様子が、おかしい。

 セイバーの背後が揺らめいた気がした。それは、燃え盛る炎の熱の様に思えた。炎、黒い炎だ。セイバーは、無意識に狂化スキルを発動させている、のだろうか。それとも、これからやってくる狂戦士の魔力に当てられているのだろうか。

「はっはっは! 拙僧は、至って正常ぞ。単純に血が滾っているだけよ」

 と、セイバーの顔から笑みが消えた。

 

 

「――――宝具、限定解放」

 

 

 その瞬間、くないは俺を抱えて、はるか後方へ跳躍した。セイバーから距離を取る。同じく、アーチャーも偽健吾と共に、セイバーから距離を取った。

 来る。最優のサーヴァントたる、セイバーの力が目覚める。

「其は、我が身を焦がす炎なり。其は、我が身を巣食う膿であり。其は、我が身が進むための糧となる」

 そうして、セイバーは神輿の上に――――急に立ち上がった。

 立った。鬼道雪が、立った。

「嗚呼、神が鳴る。我が身を焦がせと、泣き叫ぶ」

 一体、何が起きた。セイバーは、若い時に雷に打たれて、半身不随になったのではなかったのか。どうして、何の支えも無く立ち上がったのか。

「我は自由を失った。而して、我は神すらも恐れぬ力を手に入れた」

 だが、その姿は、直立したその姿は、見る者全てを威圧し圧倒する。俺たちに、かかって来いと、雄弁に語り掛ける。

「何度でも落ちるが良い。何度でも鳴くが良い。幾星霜の時が経とうとも、何度でも、我は幾千もの烏を引き連れ、――――雷をば斬り能うぞ」

 そうして、傍らの太刀を、鞘から引き抜いた。

 その刀身は――――光り輝いており、電流を纏っていた。

「目覚めよ千鳥、天を切り裂け! さぁさぁ、ご照覧あれ!!」

 セイバーは、雷を纏ったその刀を掲げて、吠える。見ている俺たちも、血が滾った。

 

 

「――――宝具『雷切丸(らいきりまる)』よ」

 

 

 

 

宝具解放[NEW!!]

サーヴァント・バーサークセイバー

 

真名:立花道雪

通称:鬼道雪

宝具[NEW!!]:雷切丸(らいきりまる)

 

効果:刀身に雷を纏い戦う。

雷の範囲を調節可で、対個人も対軍戦闘も

両方こなせる。(単体or全体宝具か選択可)

 

敵に確率でスタン状態を付与。

(オーバーチャージで確率上昇)

 

また、自身に電流を流すことで、身体能力を強化し、

生前負った半身不随を一時的に克服できる。

『雷=神鳴り』という解釈から、神性特攻を有す。

 

 

 

第3章 第5節 了

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