片喰は夜に揺れる ~Fate / Berserk Requiem~   作:斑鳩古都

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第3章 狂戦士襲来 〜第8節 島津四兄弟〜

 島津四兄弟。戦国時代の九州に覇を唱えた、優秀なる武将達である。

 薩摩国の島津家は、鎌倉御家人の出である。その版図は狭く、小大名でしかなかったが、この四兄弟が世に現れたことによって、瞬く間に九州を征圧していく。

 祖父である島津日新斎(しまづじっしんさい)は、孫であるこの四兄弟をこう語った。

 

 

 長男・島津義久(よしひさ)。総大将たるの材徳自ら備わる。

 次男・島津義弘(よしひろ)。雄武英略を以て傑出す。

 三男・島津歳久(としひさ)。始終の利害を察するの智計並びなく。

 四男・島津家久(いえひさ)。軍法戦術に妙を得たり。

 

 

 丸に十文字の旗を掲げ、勇敢なる薩摩隼人たちを引き連れて進軍する様は、鬼島津と称された。そうして、大友家、龍造寺家に勝利し、戸次川の戦いでの勝利、関ヶ原での敵中突破など、彼らの異常なまでの戦闘能力を示す逸話は数えきれない。

 また、豊臣秀吉の朝鮮出兵として知られる文禄・慶長の役では、まさに鬼神のごとき働きを次男・島津義弘が見せることになる。

 有名な泗川の戦い。資料によっては、兵の数にバラつきがあるものの、一説によれば島津義弘は七千人の兵で、三十倍の二十万人の明軍を破って見せたという。その際、薩摩島津の必殺戦法の”釣り野伏せ”が使われたことは有名だ。

 また、これも創作の域を出ないが、この戦いでの島津軍のあまりの強さにより、長らく朝鮮半島では言うことを効かない子供にはこういって聞かせたという。「鬼石曼子(グイシーマンズ)が来るぞ」と。そう言われた子供たちは怯え震えながら、親の言いつけを守るようになった、と。まるでハンニバルが如きである。

 それほど、島津軍というものは、戦国時代において異常なまでの強さを誇り、恐れられていた。

 

 

 鬼島津。鬼・聖杯戦争において、よもや呼ばれるはずが無い、そう思われていた存在。

 だって、そうだろう。あまりにも強すぎてしまう。召喚した時点で勝利は揺るがない。と、同時に、どの島津を召喚するかで票が分かれてしまう。四兄弟どれもが優秀であるがゆえに。

 だから、こんなことを思いつきもしなかったのだ。四兄弟全員召喚してしまえ、なんて。

 

 

 ★

 

 

「降参してください、アーチャーとランサー。あなたたちは、我らには勝てません」

 バーサーカーは、俺たちに語り掛ける。既にセイバーが退去してしまった成田先生は、戦意喪失してうずくまっていた。バーサーカーが語り掛けるのは、俺とくない、偽健吾とアーチャーに対してだ。

「第三宝具『釣り野伏せ』、これは対軍宝具潰しの効果があります。あなたたちのような、多数の魔術的に召喚された軍団を使役する宝具には、勝ち目がありません」

 その口調は、冷静かつ理知的で、とても狂戦士のクラスだとは信じられない。

「第二宝具『捨て奸』、これは捨て身の宝具です。自身の身と引き換えに、相手にも致命傷を与える宝具。自身の霊核に致命的なダメージが発生した時が発動のトリガーです。相手も巻き込んで死にます。ですが、我らは霊核が合計四つある。先ほど、セイバーと共に一つ失いました。ですが、あなた達を巻き添えにしても、まだ霊核は一つ残る。引き算でお考え下さい。どう考えても我らの勝ちです」

 バーサーカーは槍を携え、少しずつこちらに向かってくる。

「それに加えて、あと二つ宝具があります。圧倒的なまでに戦力差があります。ですので、降伏をしてください。方法は簡単です。マスターが、令呪で命ずれば良いのです。自らのサーヴァントに自害せよ、と」

 自害、だと。そんな、そんなこと。

「承諾できる訳がねぇだろ」

 俺は、吐き捨てるように言う。だが、

「繰り返します。降伏してください」

 バーサーカーは、何の感情も無く、淡々と俺たちへ告げる。

「............なぁ、お嬢ちゃんと小僧」

 ぼそり、とアーチャーは俺たちに言う。

「お前ら、ここから逃げろ」

「ば、馬鹿なことを言うな!」

「良いから聞けって。ほら、そこのお嬢ちゃん見なよ」

 くないの様子を窺う。顔面蒼白なまま、身体が震えてしまっている。

「な? とても戦えそうにねぇだろうが。鬼島津だっけか? むかーしのトラウマ引きずり出されて、幼い頃の姫若子(ひめわこ)に戻っちまってる」

 ぐうの音も出ない。今のくないはまともに戦える様には見えない。くないって、こんなに小さかったっけ。こんなにも華奢だったっけ。いつも、刀や槍を構え、敵に勇敢に立ち向かっていくその姿。その姿からは想像できないほど、か弱い。そして、自分でも感情がコントロールできないのだろう、くないの目尻から大粒の涙がこぼれ落ちていた。

「だから、足手まといだから逃げろって言ってんだヨ」

 ハッ、としてアーチャーを見る。アーチャーも決して調子が良いわけじゃない。むしろ自身の誇りでもある宝具を打ち砕かれたばかりだ。アーチャーは、ろくに戦うことが出来ないだろう。

「そう言うわけで、守尭くん。役に立たない共闘相手なんて、要らないんだよね」

 そして、俺の傍らに立つ人影がある。アーチャーのマスター。真里谷健吾、に成り代わっていた男。

「もうここで、共闘は解消ってことで。ヨロシク」

 いつも通りの軽いノリで、偽健吾は言って見せる。

 このクソ野郎。何を言ってやがる。そんなの、絶対におかしい。どうして、どうして――――

「どうして、お前、俺たちの身代わりになろうとしてるんだよ」

 俺は座り込んだまま、立ち上がる気力も無い。だが、目の前の健吾の足を力なく掴んだ。

 一緒に、逃げよう。その言葉が、ここまで出かかっている。でも、

「はぁ? 守尭くんの身代わりって、それ何の冗談? これは、俺の戦いなんだよ」

 そう言うと、やつは、バーサーカーとその先に居る、ニヤついた笑顔を浮かべた果心居士に向き直る。

「俺は、アイツの子孫なんだ」

 突然の告白だった。

「だから、この手で、アイツを倒したい。死にに行くわけじゃないよ。バーサーカーを倒さなくっても、そのマスターを倒せばそれでいい。勝算が無くて言ってるわけじゃないんだ」

 嘘だ。俺には分かる。バーサーカーのマスターは、一筋縄ではいかない。そんな簡単に倒せるわけが、無いじゃないか。

「そうだ、俺の、俺の能力で......」

「やめておけよ素人」

 偽健吾は、冷たい口調で言い放つ。

「相棒のサーヴァント抜きで、お前に何が出来る? いいから、退けって言ってんだろ」

 そうして、偽健吾は勤めて明るく、敵に言葉を投げかける。

「なぁ! ご先祖様よ! アンタ、どうやってそんなとんでもないサーヴァント召喚出来たんだ! 俺は結構有力な筋から、アンタが鬼武蔵を召喚するって情報手に入れてたんだけどなぁ」

「あぁ、こちらも驚いたよ。正直、触媒から何から何まで、鬼武蔵を召喚するための準備は整っていたんだ。むしろ、この鬼・聖杯戦争を思いついたのも、鬼武蔵でどこまで他のサーヴァントを屠れるか試してみたいって理由だったんだけどな」

 果心居士は、楽しそうに喋る。

「まぁ、本当はそれだけじゃなくて、鬼武蔵を餌にさらなるデッカイ獲物を釣ろうと思っていたんだが、」

 デッカイ獲物? それは一体なんだ?

「なーんか、鬼武蔵だと負けちゃいそうな予感がしたんだよ。なぁ、アーチャーのマスターよ。お前さん、どこまでを知っていて、どこまで仕込みをしていたんだ? ライダーもまさか十河が出てくるなんて想定外だったよ。百以上も聖杯戦争やってるとな、こういうイレギュラーにも慣れてしまってね。単なる誤差の範囲内かなぁと思ってたんだけど、ランサーで確信したよ。お前さんが、この鬼・聖杯戦争に仕掛けを施したってことがね」

「あぁ、ライダーは完全にノーマークだったさ。十河が出てきてしまったのは完全に想定外。恐らくランサーの縁に導かれて出てきたんだろうね。で、お察しの通りランサーは俺の策だよ。この素人が簡単に殺されるのが忍びなくってね。ついついお節介しちゃっただけさ」

「嘘」

 と、場の空気が変わった。果心居士が、おぞましい笑みを浮かべていた。

「知ってるんだぞ、なぁ、真里谷健吾」

「―――――ッ!」

 偽健吾は、果心居士から放たれた殺気に咄嗟に身構えた。

「もういいや、バーサーカー。あいつら、殺しちゃえよ」

 俺は、傍らにいるくないの手を取る。だが、くないは立ち上がれない。全く足に力が入らない様子だ。クソ、こんなのじゃ逃げるどころか、相手の攻撃を防ぐことすら出来ない。

「しかし、マスター。これ以上戦う必要はありません。彼らは我らに勝てる道理が無いのですから、令呪で自害するように仕向けるべきかと」

 こんな時でも、バーサーカーは冷静に判断をしている。本当にコイツ、狂戦士のクラスなのか?

「あぁ、お前もそんなこというのか、めんどくさいな」

 そういって、頭をガリガリと掻き毟る。そして、良いことを思いついた、みたいな顔で、果心居士は呟いた。

「令呪を持って命ずる。目の前のやつらを、殺せ」

 途端に、バーサーカーは身体を震わせ始めた。怯えているのではない、これは自身の中の破壊衝動を抑えきれないでいる様だった。それが、令呪によって解き放たれようとしている。これは、流石に、マズい。

「あー、先にそこのめそめそ泣いてる女。そいつから行こうか」

 果心居士の指示が、バーサーカーに届いた。バーサーカーは標的をくないに定める。

「させるか!」

 俺はくないの前に立ちはだかる。そうして自身の心の中に問い掛ける。

 今だ、今しか無い。あの能力を、使うなら今しか。

 イメージするのは刀。胸に手を置く。そこから、抜き放つイメージ。

 だが、

「小僧言っただろ、肩に力入ってるぞ」

 目の前に、漆黒の具足を身に着けた武者が、乱入した。

 バーサーカーが繰り出した、槍の一撃。それを何とか弾き返す。

 愛刀・八文字長義を手にした、アーチャーだ。しかし、その身体は立っているので精一杯だ。

「令呪を持って命ずる、アーチャー時間を稼げ」

「あいよ、マスター」

 アーチャーの身体が発光する。令呪による魔力の補填だ。アーチャーは少し持ち直した様に見えた。

「じゃあな、小僧。ちょっくら暴れてくるわ」

 そうして、アーチャーは雄叫びを上げながら、バーサーカーへ吶喊していく。

 そして、俺の目の前には、偽健吾が微笑みながら立っていた。

「ごめん、守尭くん。俺の作戦ミスだったわ」

「お、まえ......」

 こんな絶望的状況だというのに、何故だか清々しい表情をしている。

「ここからは、ある人に道案内を頼んでいる。そこで崩れ落ちている成田さん共々、ここから無事に逃げ出して欲しい」

「おまえ、おまえはどうすんだよ!?」

「言っただろ? 勝算があるって」

 嘘だ。お前、さっきの令呪、時間を稼ぐって......。

「色々と説明が足りてなくてごめん。君に色々と押し付けてしまってごめん。あと、小夜子にも、ごめんって言っといてくんない?」

 本当に申し訳なさそうに、目の前のこいつは笑った。すまん宿題見せて、というようなノリで、笑った。

「あぁ、あの日の夜、書き置きと一緒に犬のぬいぐるみ渡したけど、あの中にSDカードが入ってる。そこに色々と今回の件について説明が入ってるから、良かったら読んで」

 それって、まるで遺書みたいじゃないか。

「じゃあ、元気でな。楽しかったよ、”守尭”」

 

 

 その瞬間、十文字槍が――――俺の大切な友人の胸を貫いた。

 

 

 なぜ、どうして。

 どうして、バーサーカーがそこにいるのだ。

 どうして、目の前のこいつに刃を突き立てているのか。

 血が、飛び散った。俺の顔にも、温かい鮮血が、かかった。

「............これが、”俺の終わり”か」

 そう言いながら、こいつは、痛みに耐えながらも微笑みをたたえたままだった。

 正常な判断が出来ずにいる俺は、バーサーカーの後方へと視線を移す。そこは、地に伏して力尽き、光の粒子に覆われて既に退去を始めているアーチャー・佐竹義重の姿があった。バーサーカーは、狂化スキルを使用していた。黒き炎がその身を焦がさんと燃え盛っている。だが、その身にはアーチャーの愛刀が深く刺さったままだった。

 そうか、アーチャーは必死に戦い、そして力尽きたのだ。もしかしたら、アーチャーはバーサーカーの霊核を砕いたのかもしれない。突き刺さった愛刀がその証拠だ。そして、宝具『捨て奸』によって道連れにされたのだろう。

 ただでは死なない、決して退かない男・鬼義重の意地がそこにはあった。

 そして、バーサーカーの紅く鈍く光る眼は「次の標的はお前だ」と言わんばかりに俺を睨みつける。だが、俺はそんな無粋な視線を無視した。それどころじゃないんだ。俺の視線の先は、バーサーカーなんかじゃない。この二年間、一緒に過ごしてきた、友達の姿だった。

「――――ッ!!」

 名前を叫びたかった。でも叫べなかった。よく考えれば、俺はコイツの名前を知らないのだ。偽物だとか、クソ野郎だなんて、酷い呼び方をしていた。後悔してもしきれない。

 友達の口から、鮮血がこぼれ落ちる。バーサーカーの繰り出した槍は、確実にその生命活動を終わらせる、そんな一撃だった。

 だが、不可思議なことが起こった。

 目の前のこいつの身体を金色の粒子が纏い始める。その粒子は足から順に、膝、腰、肩と空気に溶けていく。

 そう、まるでサーヴァントの退去のように。なぜだ。お前は、ただの人間では無かったのか。

 そうして、その姿が完全に溶け切っていく直前、

 

 

「――――ありがとう、さよなら」

 

 

 俺は、名も知らぬ友人からの別れの言葉を聞かされた。

 

 

 ★

 

 

 俺と、くないと、成田先生は気が付けば、成田クリニックの待合室で気絶するように寝ていた。気がついた時には、日が高く上がっており、三人とも満身創痍だった。

 身体が、ではない。心が、である。

 そう言えば、気を失う直前、どこかで聞きなれた男性の声で、「宝具解放」と聞こえた気がした。どういうわけか、無事に逃げ出せたのだ。

 そういえば、アイツ。俺の目の前で消えていった、大切な友人。アイツが、誰かに道案内を頼んだと言っていた。アイツは、最悪の状況まで想定して、準備をしていたのだ。

 そうして俺は、本当の名前も知らないアイツに、助けられたのだ。

 なぁ、どうすればいい。答えてくれよ。俺たちは、これからどうすればいいんだ。その問いかけに回答は見つからず、俺たち三人は何かから逃げるように、再び眠りについた。

 今は何も考えられない。今は何もやる気がおきない。そうだ、起きてから、起きてから考えよう。

 何の根拠もないけれど、今は全てから目を背けて居たかった。

 

 

 嗚呼、俺たちは負けたのだ。

 

 

 

通知[NEW!!]:トロフィーが記録されました

「バーサークアーチャー 佐竹義重 敗北により脱落」

 

 

 

 

 

 

第3章 第8節 了

次へ進みますか?

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 いいえ

 

 

【F/BR マテリアル】

★鬼・聖杯戦争 登場人物一覧★

 

バーサーク・セイバー 立花道雪(鬼道雪)【脱落】

セイバーのマスター  成田左近

 

バーサーク・アーチャー 佐竹義重(鬼義重)【脱落】

アーチャーのマスター  真里谷健吾【死亡】

 

バーサーク・ランサー 長宗我部元親(鬼若子 / 姫若子)

ランサーのマスター  犬塚守尭

 

バーサーク・ライダー 十河存保【脱落】

ライダーのマスター  千葉小夜子【意識不明】

 

バーサーク・キャスター カシン(果心居士オルタ)【脱落】

キャスターのマスター  果心居士

 

バーサーク・アサシン 服部正成(鬼の半蔵)【脱落】

アサシンのマスター  ???

 

バーサーク・バーサーカー 島津四兄弟(鬼島津)

バーサーカーのマスター  果心居士

 

and more…?








第3章おしまいです。
島津ゥゥゥゥゥ最強ォォォォォォ!
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