片喰は夜に揺れる ~Fate / Berserk Requiem~   作:斑鳩古都

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第4章 姫若子の檻 〜第5節 姫と医者〜

 長らく帰っていなかった場所は、どこか遠い場所の様に感じるものだ。

 私は、新たにマスターとなった成田左近と共に、犬塚家を訪れていた。

「すまないな、左近殿。どうしても最後に立ち寄りたくてな」

「あぁ構わないよランサー。まだ日没まで、時間はあるからね」

 古い日本家屋、その玄関の鍵は不用心に空いていた。少し、守尭の気配を感じる。もしかしたら、少し前に彼らもここを訪れていたかもしれなかった。

「失礼します」

 ただいま、とは言わない。何故なら、もうすでに私はこの家の住人とは縁が切れているからだ。

 そうして私たちは靴を脱いで上がる。もうすぐ消えてしまう世界だとしても、守尭の住まう家を荒らすようなことは私には出来なかった。

「なんだか、小奇麗に片付いているね」

「む、まるで私が居候していたのに、とでも言いたげではないか」

「ははは、そんなつもりはないよ。むしろ最近は私の家にみんな居たじゃないか。あ、こっちはキッチンで、仏間はこっちかな」

 左近は、犬塚家には初めて訪れたというのに、中の構造を完ぺきに把握しているようだった。魔術師というものはこういうものなのか。全く抜け目がない。

 そして、その手の甲には、令呪が輝いている。あの紋様が、私をこの特異点に限界せしめているのだ。

 嗚呼、どうしてだろう。どうして、私はこの男と契約をしているのだろう。未だに信じがたい。

 と、自らに問いかけるも、答えは明白だ。守尭が私との契約を破棄する選択をしたからに他ならない。何故こうせざるを得なかったのか。その理由も左近に聞いた。理屈としては納得できた。もしかしたら、このやり方なら、果心居士と島津四兄弟を倒せるかもしれないと。だが、

「............納得は、出来ないよね」

 思わず、独り言をつぶやいていた。

「............ランサー、すまない」

 そして、それを聞き洩らさなかった男が一人。我がマスター、成田左近だ。

「いや、左近殿。そなたを責めているではない。むしろ、あやつがちゃんと説明をしないから............」

 ふつふつと怒りがこみあげてくる。だが、左近はそんな私に事実を突きつけてくる。

「君がごねてて、説明どころじゃなかったみたいだけどね」

「............あう」

 左近による正論にぐうの音も出ない。

 私は仏壇の間で、頭を抱えてしゃがみこんでしまった。くないちゃん超ショック。

「なぁ、左近殿ぉ」

「なんだいそんな情けない声を出して」

「私は、守尭に会いたいぞ......」

「今は駄目。今夜に向けて準備を進めてるんだから」

 視界が歪む。あれ、これって涙ってやつか。まさか、この私が涙ぐむなど、あり得ない。あり得ないのだが、涙が滲んで止まりそうになかった。

 そうか、こんなにも。こんなにも、あやつの存在は私の中で大きなものになっていたのか。

 あの固有結界の中でかけられた言葉。あれにはハッとさせられた。

 私は、我が息子と、守尭を重ね合わせて居たのだろうか。全く意識は無かった。無自覚だった。

 そして、守尭は冗談だ、と言ったが私には分かる。私の心を搔き乱すために敢えて言ったことには違いないが、あの言葉は守尭の本心だったのだろう。

 守尭は、信親と重ね合わせるのではなく、自分のことをちゃんと真っすぐ見て欲しい。そう、私に言ったのだ。

「............全く、そりゃあ契約も破棄されるもんよな」

 はは、と私は自嘲気味に笑いながら、涙を拭く。そして、立ち上がった。

 今夜、私たちは決着をつける。それが終わったら、この想いにも決着をつけよう。今は、そう決意するだけで良い。今は、それで。

「すまなかったな、左近殿。もう大丈夫だ」

 そう言って、マスターである左近に振り返る。

「もう良いのですか? もう少し感傷に浸っていても」

「いや、大丈夫。短い間だったが、ここでは楽しい思い出ばかりだ。これ以上居座ると、離れられなくなる」

 そうして、出口に向かって歩こうとしたその時、

「ん? なんだこれは?」

 部屋の片隅に、ある小包が置かれていたのを見つけた。それは可愛らしい装飾の紙袋だった。

「貸してください」

 そう言って左近がその紙袋を手にした。魔術で中身を視ているようだった。全く、この男は抜け目ない。

「中には、危険なものは入っていませんね。そして、この小包は、どうやら守尭君が準備したもののようですね」

「守尭が......?」

「開けてみては、いかがですか?」

 と、左近はウインクしながら、私に開封を促した。こやつ、もしかして中身分かってるんじゃないだろうな。

「ふふふ、健気ですね......」

 左近の言葉に、何だか、ぞぞぞと鳥肌が立った。この男は時折全てを見透かすような眼をする。何だか、掌の上のようで不快だった。

 とにかく、守尭が残した小包を、私は開封することにした。

 そこから、現れたのは――――この時代の衣服だった。

「これは......」

「所謂、ワンピースと呼ばれる女性向けの衣服ですよ」

 何とも素敵な服だった。清楚な雰囲気を醸し出す、明るい色に目が奪われた。ひらりひらりと舞い踊るかのような、そのシルエット。その生地には、可愛らしい草花があしらわれていた。

「なぁ、左近殿。これは、一体何という草花か」

「おやおや、御屋形様はそっち方面はあまり御詳しくないのですか?」

「仕方ないだろう。幼い頃から武芸に勉学漬けだったのだ」

「でも引きこもりだったのでしょう?」

「あーもう五月蠅い! とにかく教えてくれよ」

 私の拗ねた様子を見て、左近は微笑みながら答えてくれた。

「これは、シロツメクサ。クローバーとも呼ばれる花ですよ。しかも四つ葉のものですね。四つ葉のクローバーは幸運の象徴です」

「くろーばー、と呼ぶのか」

「えぇ、あなたの家紋の片喰も、クローバーによく似ていますし、このワンピースはあなたにピッタリ似合うでしょう」

 と、左近は手を差し出した。その手には、小さな紙片が載せられていた。

「あなたがこの荷物に気が付いたら渡すように頼まれていました。守尭くんからの、言伝です」

 守尭からと聞いて、私は奪い取るかのように、慌ててその紙片を手にした。メッセージカードと呼ぶのだろう。その紙にはこう書かれていた。

 

 

『いらないっていうかも知れないけど、制服やジャージばっかりじゃなくて、たまにはこういう服を着てもいいんじゃないかな  守尭』

 

 

「あの、馬鹿......」

 私は、服をそっと抱きしめた。

 そうか、あの時だ。二人で買い物に出かけた時だ。あやつは、用事があるとかいって場を離れた。その時に買ったのだろう。

 全く、私の好みなどお構いなしだ。あぁ、そうだ。大好きだよ、こういうものが。

 あぁ、――――大好きだ。

 

 

 と、その瞬間、窓ガラスを突き破って、人影が飛び込んできた。

「ランサー!」

 左近の声が場に響き、私の意識は戦いへと即座に切り替わった。

「............全く、無粋な奴らよ」

 屍人だ。眼は赤く光り、虚ろな表情で、ジリジリと近付いてくる。

 数は、二十名は居るだろう。

 全く、建物を壊して侵入など、守尭が知ったら悲しむ。決して、許さない。

「左近殿。これを預かっていて貰いたい」

 そう言って、私は手にしたワンピースを汚さぬように、綺麗に折りたたむ。そうして紙袋に仕舞い、左近に手渡した。

「とても大事なものだ」

 さて、一領具足たち、準備はいいか? 私の怒りを感じた部下たちが、指示を待つことなく、孔の中から銃口を屍人に向けていた。準備完了だ。

「さぁ、一気に蹴散らそう」

 

 

 後で知ったのだが、四つ葉のクローバーの花言葉は『幸運』と『私のものになって欲しい』とのことだ。

 全く、あの馬鹿守尭。生意気だ。

 

 

 ★

 

 

 遡ること数時間前。

 私は、状況を受け入れられず、成田左近に罵声を浴びせていた。

「この変態医師!! 守尭をどこに隠した!?」

「へ、変態? それは誤解だよ......」

「嘘こけ! いつも守尭に馴れ馴れしくベタベタ触りおって! 男色? 男色なの?」

「ぼ、僕には心に決めた人がいるんだぁ」

 今にして思えば、左近も困り果てていた。それはそうだ、今後の作戦についてキチンと説明するために固有結界に私を閉じ込めたのに、駄々をこねたものだから、説明不足なまま状況を開始することになったからだ。

 そう、この状況を招いたのは、左近のせいではない。むしろ、私だった。

 しかし、守尭と小夜子が失踪したという事実を受け入れられるほど、私に心の余裕はなかった。

「彼は、今ここには居ない。だが、安心してほしい。彼は無事だ」

 左近は、何とか私を宥めようとしていた。

「じゃあ早く会わせてくれ。私のマスターは守尭だけだ」

「それは今は出来ない。良いから、冷静になれ。これは私たちが考えた、バーサーカーに勝つための秘策なんだ。今、彼はある場所でやるべきことを行っている。そこには小夜子さんも一緒だ」

「なんで小夜子殿は一緒に居て良くて、私じゃダメなんだ!」

 あ、と言う声を私は漏らした。そう、あることを思い出していた。

「そう言えばあの女、人の事を貧乳呼ばわりして......ハッ、まさか守尭とふしだらなことを......」

「こらこら。変なことを考えるんじゃない! まずは状況を整理する、いいね?」

 左近はそう言うと、紙とペンを取り出して、現状を書き殴って行く。

 私も、言いたいことを言って、少し冷静になった。左近の書き連ねる文字をじっと見つめていた。

「いいかい? 今の状況はこうなっているんだ」

 

 

・バーサーカー:霊核が二つ。つまり二度倒さなくてはならない。

・だが、霊核に致命傷を負わせても、宝具『捨て奸』でこちらも道連れになってジエンド。

・街の中は、敵の操る屍人でいっぱい。下手すると数万人を超える。

・大量の屍人に一領具足で対抗したとしても、バーサーカーに到達する前に魔力切れ。

・そもそも一領具足は、宝具『釣り野伏せ』で破られる。

・バーサーカーは、あと二つも宝具を隠し持っている。

 

 

「............詰んでおるではないか」

 私は、率直な感想を告げた。

「えぇ、これだけを見ると詰んでいます」

 左近殿は冷静に答えた。だが、その言葉には続きがあった。

「一つずつ、問題を明らかにしていきましょう」

 

 

・屍人:戦闘能力は大したことないが、人数が厄介。

 ⇒つまり、人数を無効化すればいい?

・バーサーカーの霊核を二つ削るためには、致命傷が二撃必要。

 ⇒つまり、複数人で同時に攻撃する?

・宝具『捨て奸』と、宝具『釣り野伏せ』、さらに残り二つの宝具を封じる手段が必要。

 ⇒宝具封印などのスキルを活用?

 

 

「まぁ、ここまでは、大丈夫ですね」

 そういって左近はペンを止める。

「で、そろそろ守尭と小夜子の作戦を教えるがいい」

「あら、どうしてです?」

「とぼけるな。その作戦で、この三つのうち、幾つかを解決できるのだろう?」

「えぇ、その通りです」

 左近は、こそこそと私に耳打ちをする。そこで聞いたのは、とんでもない作戦だった。

「なっ、そんなことしたら、タダじゃ済まないぞ!?」

「えぇ、だからとてつもなく馬鹿なアイディアなのです。そう、相手も思いつかないほどのね」

 左近は落ち着いていた。恐らく、もうすでに腹は括っているのだろう。それは小夜子もそうなのだ。みんな、守尭の能力とその考えに賭けたのだ。

「乗りますか?」

「............ここまで来てやらないわけにはいかない。そうでしょ?」

「えぇ、あなたなら、そう言うと思ってました」

 突拍子もない作戦だ。これならば、果心居士を出し抜くことが出来るかもしれない。だが、まだ完璧ではない。もう少し、何か、何かが必要だ。

「なぁ、左近殿。そのアイディアなら、霊核の一つは確実に貫くことは出来る。二つ目ももしかしたらいけるかも知れない。だが、敵の宝具を完全に封じないと、追い詰めることは出来ても、勝つことは出来ないぞ?」

「まぁ、幾つかの突破方法は考えていたのですが、何せ宝具を四つも使うとなると、中々に厳しいです」

「じゃあ、一個教えて欲しい」

 そう言って、私は左近に向き直って問うた。

「サーヴァントが複数の宝具を所有している場合、――――同時に発動することは可能だろうか?」

「そ、それは......」

 左近は、思考を巡らす。そして答えた。

「それは、不可能だと思われます」

「それは何故?」

「基本的に宝具には詠唱が伴うためです。詠唱とは、宝具を放つまでの準備時間。同時に発動すれば、自らを焼き切ってしまう可能性もある。なので、同時発動は不可能と思われます」

「ならば、こうすればよいのでは?」

 そうして、私は、左近から紙とペンを奪い、己の考えを書き連ねる。それを見た左近は、思わず声を漏らす。

「なるほど......確かにそれなら行けるかもしれませんが、屍人をどうするべきか」

「そこなのよなぁ。屍人は、束になってかかってくるのが面倒なだけで、戦闘力は大したことない。しかも、別に倒す必要も無いから、単純に振り切れればいいだけなんだが」

 はぁ、とため息を一つ。

「それこそ、ライダーの様な機動力をもってすれば、振り払うことは容易いのだが。いかんせん、私しか居ないのでは――――」

 

 

「――――ならばその役目、拙者が承ろう」

 

 

 魔力を感知した。いや、こんなにも接近するまで感知できなかった、という方が正しい。

 その存在は、私と左近の真後ろに立っていたのだ。

「構え!!」

 私は、即座に孔を出現させ、種子島の射撃準備を完了させる。そして、振り向いた先には、見知った顔が居た。

「な、お主、まさか......」

「左様。アーチャーのマスターからそなたたちのことを、頼まれておりましてな。覚えていらっしゃいませんか? 一体誰があのバーサーカーの目前からあなた達を連れて逃げたのか」

 そうして、目の前に現れたのは、サーヴァント。忍者装束に身を包んだ男が立っていた。

「サーヴァントアサシン・服部正成。鬼の半蔵、ただいま推参」

 

 

 ★

 

 

【システムメッセージ】

バーサークアサシン

服部正成が戦いに復帰しました

引き続き物語をお楽しみください

 

 

 

第4章 第5節 了

次へ進みますか?

>はい 

 いいえ

 

 

【F/BR マテリアル】

★鬼・聖杯戦争 登場人物一覧★

※現時点で生き残っているサーヴァントと登場人物を表示しています

 

ランサー 長宗我部元親(姫若子)

ランサーのマスター 成田左近

 

バーサーク・アサシン 服部正成(鬼の半蔵)

アサシンのマスター  ???

 

バーサーク・バーサーカー 島津四兄弟(鬼島津)

バーサーカーのマスター  果心居士

 

犬塚守尭・千葉小夜子【消息不明】

 

and more…?








第4章おしまいです
次の第5章がファイナルになります
引き続きお付き合いください
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