片喰は夜に揺れる ~Fate / Berserk Requiem~   作:斑鳩古都

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第5章 丸に十文字と七つ片喰
第5章 丸に十文字と七つ片喰 〜第1節 屍人を越える〜


【千葉小夜子の視点】

 

 

 私は、一体何をやっているのだろう。たまに冷静になって、そんなことを思う。

 あの果心居士とかいうクソ野郎に身体を弄られて、操り人形になって、多くの人を殺して殺して殺しつくした。そうして今は聖晶石と一体化して、人ならざる者として醜くもこの世界で生き永らえている。

 そもそも、生きているのかどうかも分からない。この身は人外に落ちたのだから。

「なぁ、小夜子ぉ、そろそろ準備いいか?」

「待ってって、もう少し時間がかかりそう」

「うーい」

 目の前で、守尭が手持無沙汰にしている。全く、こっちの気も知らないで能天気な顔しちゃって。

 これから私は、人生で初めての魔術儀式を行う。恐らく、最初で最後の。緊張してしまって仕方ない。それなのに、『晩御飯まだ?』ぐらいのノリで聞いてくるこの馬鹿は、緊張感が無いったら無い。

 てか、私こいつのお母さんじゃないし。飯なんか作るか、あほ。

「なぁ、小夜子何イライラしてるんだ?」

「してない! いいから黙って待ってなさい!」

「うーい」

 ふと、辺りを見渡す。ここは、私にとって居心地の良い空間だった。固有結界の中だ。

 儀式の邪魔をされたくないのと、私が集中できる環境ということで、ここを選んだ。

 蝉が騒がしく鳴いている、幼き時のあの夏の日。心象風景の具現化とは言うものの、言ってしまえばここが私の心のふるさとなのだろう。

 そして、目の前に守尭が居る。

 トクン、と鼓動が弾んだ。そう言えば、この場所で何だか恥ずかしいことをアイツに言ってしまった気がする。あぁ、何であんなこと言っちゃったんだろう。

「くそ、死にたい......」

「ん? 死ぬとかやめてくれよな、戦いの前だってのに」

「はい、そこ聞き耳を立てない!!」

 こいつ地獄耳かよ。全く油断も隙も無い。

 というか、こいつはいつもそうだ。馬鹿みたいなフリをして、結構周りを見ているんだ。恐らく、儀式を目の前にして緊張している私を、心配しているのだろう。全く、昔っからそういう所は鋭い。

 よし、準備も整った。そろそろ始めないと、夜に間に合わない。

「じゃあ、守尭。そろそろ始めるわよ」

「おっけー、待ちくたびれたよ」

 そうして、守尭は私に微笑みかける。ズキリ、と胸が痛んだ。

「あの、さ......」

「何だよ小夜子」

「あんた、怖くないの?」

 恐らく、私はとても不安げな表情を浮かべていたのだろう。それを見てから、守尭は大丈夫だと言わんばかりに笑顔を浮かべてくれた。

「全然、大丈夫だ。だって、お前のこと信じてるから」

 あぁ、こういう所がズルい。ここぞというときに、こんな言葉をかけるだなんて。

 本当はこんな馬鹿げた所業は止めて欲しい。こんなことをして欲しくなんかない。私たちには荷が重すぎる。あんなチートみたいな敵の相手なんか誰かに任せて、世界が終わるまでひっそりと暮らしていればいい。でも、

「それに、俺たちがやらなきゃ、だろ?」

 この馬鹿は、逃げずに戦いに挑むのだ。

「そう、だね」

 いけない。こんなことでは、迷いを持っていては、いけない。私は、この馬鹿の背中を押してあげなきゃいけないのに。

「じゃあ、始めるね」

「おう」

 そう言って、守尭は所定の位置に立った。そこには今回の魔術儀式のための陣が描かれていた。その中心に、守尭が居る。

「あ、そう言えば小夜子」

「ん? なによ」

 チラリと守尭を見た。視線が交錯する。

「ありがとうな、今まで」

 思わず、胸に熱いナニカがこみあげてくる。くっそ、この男。女の子を泣かせるなんて、とんだ極悪人だ。

 深呼吸する。感情を鎮める。我慢だ、我慢。今、泣いてしまっては折角のお別れが台無しだ。

「別に、気にしないで」

 私は、感情を押し殺す。いつもの様に、ぶっきらぼうに。そうで無ければ、私は私を保てそうに無いから。

「へ、可愛くねーやつ」

「うっさい、じゃあ始めるからね」

 そうして、私は呪文を唱える。

 

 

 素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。

 繰り返すつどに五度。

 ただ、満たされる刻を破却する。

 

 

 ーーーー告げる。

 

 

 ★

 

 

 夜の帳が落ちる。月光に照らされて、この伊蔵の街が眠りにつく。

 だが、それはいつもの日常ではない。聖杯からの知識に寄れば、この世界は地球という星なのだという。その天体の公転運動によって暗闇が生み出されるのだと。

 だが、これはそんな暗闇などではない。正に、世界の終わりが近づいている。特異点が揺らいでいる。それは、ランサーたる私と、バーサーカーである奴の激突を予感しているかのようであった。

 今宵、この戦いは終末を迎える。

「さぁ、始めるとしよう」

 私は、伊蔵市の中心市街地を見下ろせる場所に居た。伊蔵駅ターミナルの屋根の上に、マスターである成田左近と共に居る。

 そして、見下ろす先には敵の軍勢。駅前の大通りを埋め尽くす人の群れだ。

 屍人だ。果てしない先まで、屍人で埋め尽くされている。

「これは、まるでロックフェスだね」

 私の傍らに居る、左近が呟いた。

「ろっくふぇす?」

「まぁ、お祭りみたいなもんかなランサー」

「なるほど、祭り、か」

 無意識だったのだろう、私は口角を吊り上げ、嗤っていた。

 血が、騒いだ。

「じゃあ、始めようか左近殿」

「あぁ、ランサー。この戦いを終わらせよう」

 私は槍を抜き放つ。まずは準備運動と行こう。

 意気揚々と、眼下の敵に向かって飛び込んで行く。

 

 

 ★

 

 

 光が舞い、魔力が飛び散る。

 ここが戦場であるならば、舞うのは肉であり、飛び散るのは血である。

 だが、敵は魔術によって偽りの命を宿された屍。それらを倒した際、その身は光の粒子となって消え失せる。

 槍を振るう。そこには何の意味も無い。意味を見出すと、苦しくなる。何故ならば、この屍たちはこの世界の住人だったのだ。罪無き人々を槍で貫き葬るということだ。

 意識してはならない。意識してしまうと、槍が鈍ってしまう。だから、心を無にし、滅しなくてはならない。

 何十体、いや何百体を滅したのだろうか。槍を振るうその力は緩むことは無い。だが、死者へのせめてもの手向けとして、私は可能な限り派手に攻撃を繰り出し続ける。

 速く。速く。もっと速く動け。

 早く。早く。早く、――――来い。

 例え陽動であることがあからさまだったとしても、今は攻撃を繰り出し続けるしか無いのだ。

 そして、

『お盛んじゃないか、ランサー』

 来た。

 果心居士の声が天から聞こえた。

 

 

 ★

 

 

『やぁやぁ、元気にしていたかなランサー。知らないうちにマスターを変えたみたいだね。あの犬塚守尭なる素人マスターでは勝てないと踏んだのかい? 何だか姿を消してしまったみたいだね。例の固有結界の中にでも引きこもっているのだろうか? まぁ、もうここまで来ればあんな奴には興味なんて無いんだけども』

 神経を逆なでするような声が聞こえる。果心居士だ。

 守堯には興味がない? 恐らく自身のサーヴァントに絶対的自信があるのだろう。例え正体不明な能力を有していたとしても、負けるつもりは毛頭ないのだ。全く舐めた真似をしてくれる。

 守尭を馬鹿にされ、少し不機嫌になったのを自覚する。怒りを鎮めるため、少しばかり乱暴に、目の前の屍人を屠って見せた。

「ハッ、少々気分を変えてみたくなっただけよ」

『そりゃあ良かった。あぁ、あと私のおもてなしはいかがかな? 盛大に大勢でお迎えをさせてもらったつもりだが』

「あぁ、お迎えご苦労だな。楽しませてもらっているぞキャスター。いや、キャスターだったのは、お前のオルタナティブだったな」

『おいおい、言ってくれるね。アイツの事なんて思い出したくも無いんだ。我の単なる別側面の癖に、いい子ちゃんぶって、好き勝手にやってくれてさ。私が召喚して生かしておいてやったというのに。あの忌々しい首を刎ねることが出来て清々しているんだ。あれ? 首を刎ねたんだっけ? 手足を切断したんだっけ? 心の臓を貫いたんだっけ? まぁ、死んだ奴のことなんてどうでもいいや』

 果心居士の声だけが聞こえる。姿は見えない。恐らくどこかで私たちの様子を見ながら、楽しんでいるのだろう。高みの見物というやつだ。この特異点は果心居士が生み出した世界。見渡すことなど造作も無いはずだ。

『なぁ、ランサー。お前が強いのは分かったよ。まったく、折角沢山準備した屍人たちも、二割ほど失ってしまったじゃないか』

「いやいや、こんなもんじゃ足らない。もっと寄越すがいい果心居士」

『そう言うと思ったよ』

 姿は見えないが、奴がニヤリと笑った気がした。

『だから、君が居る場所に差し向けさせてもらったよ。――――残りの全部の兵力をね』

 途端、後方から凄まじい圧を感じた。

 振り返る。その先には、空を埋め尽くすナニカ。鳥や獣の類ではない。それらは、一目散に私を狙って、飛来してくる。

 飛翔体の正体は、人だった。いや、正確には人ならざるもの、屍人だ。その目標である着地点は、当然私の居る位置だ。

『さぁさ、バーサーカーの能力を特と御覧じろ』

 手には刀や槍と言った武器を携えたまま、数十メートルの高さにまで跳び上がり、こちらに向かって来る。おかしい、とてつもない身体能力だ。

 先ほどまでの屍人たちは、魔術により身体能力を強化されてはいるものの、ここまでの動きは見せなかった。せいぜい練度の高い兵、さしずめ母衣衆ぐらいの戦闘力であろう。

 だが、これはまるで別物だ。ちょっとしたサーヴァントに近しい能力ではないだろうか。

「............ちょっと分が悪いかな」

 そうして私は、空間を裂いて生まれた孔より、我が部下たちを召喚させる。

「――――槍衾、構え」

 飛び掛かってきた屍人たちに、槍の攻撃を見舞う。敵の初撃は打ち払うものの、次から次へと攻撃が繰り出されてくる。

 その一撃は、汎用型のサーヴァントに匹敵する。シャドウサーヴァントと表現すべきだろうか。

 我が一領具足たちも決して引けを取らないものの、全てを打ち払うことは出来ず、相打ちとなって消滅する者も現れている。

 戦力が拮抗している。この強さ、そして魔力。これはまるで、

「鬼島津の、宝具か」

『左様』

 果心居士は心底嬉しそうにしている。

『そうだ。島津四兄弟の第一宝具『日新斎いろは歌』さ』

「じっしんさい、いろはうた?」

 聞き覚えのない言葉だった。

「島津家に伝わる、四十七首のいろは歌ですよ」

 と、私の傍らに気配を感じた。マスター・成田左近だ。安全な領域にいつつ、先ほどから治癒魔術を駆使して私をサポートしてくれている。

「例えば、”い”は、”いにしへの道を聞きても唱へても わが行に せずばかひなし”、とね。意味は、例え代々伝わるような立派な教えであっても、口で唱えるだけでは意味を為さず、実践実行することが重要である、ということです」

 なるほど。この医者も、中々に博識であった。左近は説明を続ける。

「日新斎とは、島津忠良(しまづただよし)のことですね。バーサーカー・島津四兄弟の祖父で、島津家中興の祖と呼ばれる名君です」

「ほう、左近殿詳しいのう」

「むしろ、ランサーの方こそ知ってないとまずいんじゃないです? 一応時代としては被ってる訳で」

「さ、薩摩の様な辺境の地については、詳しくないのだ!」

 といいつつ、土佐もたいがい辺境なのだが。

 私は、屍人たちの猛攻への対処を部下たちに命じ、少しばかり左近との問答に興じることとした。

「で、さっきちょろっと言っていたが、そのいろは歌とは何なのだ?」

「言ってしまえば教育のためのメソッドですね」

「めそっど?」

「まぁ、教材と言えばいいでしょうか。子供たちが楽しみながら学ぶためのものです」

 左近は、説明を続ける。

「このいろは歌は、江戸時代の薩摩藩における郷中教育に繋がっていましてね。薩摩示現流と合わせて、薩摩藩の剛毅で屈強な気風を育んだ要因と言われています。先ほども申した通り、一遍だけ切り取ったとしても、かなり実践的な考え方でしょう? 極論ではありますが、このいろは歌が基盤となって、薩摩藩は江戸幕府を倒すことが出来たと言っても、過言ではないのです」

 あの徳川殿のご子孫を倒した基盤。そう聞くと、とてつもない存在に思える。

 と、果心居士が得意げに話に割り込んでくる。

『そう! このいろは歌の効果は、兵卒全体の戦闘力を格段に引き上げることが可能になるのだ。つまり、兵隊さえ準備しておけば、それらを貴様の宝具『死生知らずの野武士なり』と同等にまで強化することが出来るのだよ』

 というか、待て。兵隊さえ準備しておけば、と言ったか。

「まさか、貴様。このために、小夜子殿を使って......!」

『あぁ、人を殺させまくって、屍人を大量に準備させた。貴様みたいな宝具を使うサーヴァントが召喚されてもいいように、ね。兵隊が現地調達できるというのは助かるね。今の彼らは、君のご自慢の『一領具足』と同じだよ』

「ふざけるな、こんなふざけた所業と、我が配下と一緒にするでない」

 全く持ってふざけている。人を大量に殺して、操って、最終的には宝具による強化。死をも恐れぬ軍団と化すとは。

『だが、どうする? この『日新斎いろは歌』で強化された我が軍団を滅するには、そなたの宝具を使わざるを得ないだろう??」

「あぁ、流石に全てを滅するには、全力で展開するしか無いだろうな」

『こやつらを全て片付けなければ、我が元にたどり着くことは出来ないだろう?』

「あぁ、そうだな。おっと、ちなみに、お主ら今どこにおるのだ?」

『おやおや失敬失敬。そう言えば伝えていなかったな。ほら、こないだ刺し殺したカルデアの魔術師が居ただろう? そう、我が出来損ないの私の子孫。あやつが入り浸っていた寂れた寺院だよ』

「つまり、大角寺ということか」

『その通り。まぁ、そなたが我が元にたどり着いたとしても、既に魔力は空っぽだろうし、我がバーサーカーに勝てることは、万が一にもありえないけれどもね』

 と、その言葉を聞いた私は、笑った。

 自然と顔がニヤけていた。もう、我慢することができない。あぁ、可笑しい。心底可笑しい。気が狂いそうだ。

『............何を笑っている? 何が可笑しいのだ』

 訝しむ、果心居士。

「いやいや、そりゃ可笑しいに決まっておろうが。大角寺か。うむ、いい所に陣を構えたな」

 笑いを抑えることが出来ない。傍らの成田左近も、表情が緩んでいた。

 勝機が、見えた。

「そう言えば、果心居士よ。私が今いるここは、どこかの?」

『そりゃあ、伊蔵駅の近くだ』

「で、ここから大角寺まではどれぐらい離れておるかの?」

『そりゃあ、車やバスで二十分はかかる。歩いたら一時間半はくだらんさ』

「ほうほう。じゃあ、大角寺で何かあっても、――――ここにいるお前の兵隊たちは、直ぐには駆け付けられないよなぁ??」

 瞬間、私の周りに風が舞った。

 その風は、私と左近を取り囲むように円を描きながら、回転を始める。

 旋風。それは、周囲の屍人と我らを隔て、風による結界を形作っていた。

『............おい、何を考えている?』

「何をって? そりゃあ、今からそっちに行くんだよ」

『馬鹿な! 貴様は魔術を使えない! 成田とかいう魔術師も治癒ぐらいしか使えない! そして貴様の宝具にも空間を超えて移動できるような、そんな効果は持っていないはずだ!』

「あぁ、その通り。そう、私にはできなくても」

 

 

「――――拙者になら、出来るでござるよ」

 

 

 そうして、傍らに現れたのはアサシン・服部正成だった。

『おい、貴様、どうしてそこにいる?』

「ははは、身を隠すのは、忍者の得意技でござるよ」

「いや、お主忍者じゃ無いだろうが」

「まぁまぁ、良いではないか! 信じるものは救われる! あいらぶ伊賀!」

 アサシンめ、私のツッコミを華麗にスルーして見せた。何という強靭なメンタル。

「そう言えば、主殿」

 そういって、アサシンは果心居士に声をかけた。主、ということは元々はアサシンは果心居士側の陣営だったのであろう。

「............なんだ、アサシン。というか何で生きていたなら帰ってこない?」

 果心居士は苛立ちを隠しきれない。

「だって、私のマスターを殺した人の元になんか、帰れませんよ」

 と、アサシンは肩を竦めて、言い放った。

「違うぞ、アサシン。順序が逆だ。お前のマスターである”カシン”が私の命令に背き、全ての令呪をお前に預けてしまったのがいけないんだろうが」

 果心居士は衝撃の事実を告白する。というか、私たちもアサシンの細かい事情など聞かされていなかったため、単純に驚いた。

 あのキャスター・カシンが、アサシンのマスターだったのか。

「えぇ。我がマスターは、あなた様の行動について非常に心を痛めらて居られた。だから、ランサーが召喚されたあの日に、私を開放してくれたのです。自身の持つ令呪三画分の魔力を、私に託して」

 アサシンは、俯きながらつぶやく。

「マスターは言いました。『あなたの正しいと思うことをしなさい』と」

 と、ふと疑問を感じ、私はアサシンに問うた。

「なぁ、アサシン。そなたがカシンによって解き放たれたのは分かった。あの日の夜、そなたは果心居士の陣営から抜けていたわけだな」

「えぇ! これぞまさに抜け忍!」

 ちょっと何言ってるのか分からないからスルーして、質問を続ける。

「果心居士の手先では無くなっていたのなら、どうして私と守尭に襲いかかってきたのだ?」

 召喚されたあの日の夜のことを思い出していた。

「ははは、あれは単純に武士としての性と言いますか、単純に『誰に味方すれば良いか見定めていた』だけでござるよ」

 そんなことで、守尭は殺されかかっていたのか。やはり、鬼・サーヴァントは常識から少しずれているのかも知れない。

「そもそも、マスターと契約を破棄し、はぐれサーヴァントとなった時点で、拙者はこの鬼・聖杯戦争を勝ち残る気は全く無かったので御座るよ。だから、生前果たせなかったことを成すために、自らの生き様を曲げないように、尽くすべき主君を見定めていたので御座います」

 果たせなかったこと? それは一体何なのだろう。

「そんな中で、アーチャーとそのマスターと手合わせ頂きましてな。ついていくなら、この方たちだと気が付いたのですよ。だから、陸上競技場では一芝居を打たせて頂いた次第」

「なるほどね、じゃあ『坂東太郎』でやられたのは、フェイクだった訳だ」

 今まで話を聞いていた左近が話に割り込んできた。

「左様。アーチャーのマスターに言われたのです。姿を隠している方が、諸々有利だ、とね」

 服部正成。忍者ではないが、アサシンのクラススキル・気配遮断を駆使して、偽装して息をひそめていたのだ。何たる忍耐力と精神力だろう。

 そうして、アサシンは声高らかに宣言する。

「さぁさぁ、主殿。いや、果心居士よ。今から、ご両人をそちらに届けてご覧に見せましょう」

 大気が肌に絡みつく。空気中に魔力が充満していく。これは宝具の気配だ。

「今の私は、マスターの居ないはぐれサーヴァント。魔力の供給は見込めず、宝具を使えばたちまち消滅してしまうでしょう」

 アサシンは両手を大きく広げる。目に見えない大気を捕まえているかのようだった。

「与えられた令呪は三画! 一つ目は陸上競技場にて『坂東太郎』から逃れて周囲を欺くために使い! 二つ目は『鬼島津』なる強敵から皆様を逃がすために使った! そして三つ目は、屍人の山を掻き分け、御二人をとある寺院へ送り届けるために、惜しげもなく使いましょうぞ!」

 捕まえた大気を力を込めて練り上げていく。さながらそれは大きな手毬を、力づくで潰していくように見えた。

「我が名は、服部半蔵正成! 数多くの武勇を誇る槍遣いの英霊なれど、此度は”運び屋”として召喚されし者で御座候! かの有名な”本能寺の変”の際、我が主君・徳川家康が母国である三河国に無事に逃げおおせたのは、一体何者の手引きがあってのことか。――――ご存じであろう?」

 そして練り上げた大気が、渦の中心となり、旋風は一気にその力を増す。まるで吹き飛ばされてしまうほどの、圧を感じる。

「ではでは、皆様良い旅を」

 アサシンは、私と左近に向けてニッコリと笑って見せた。

「あぁ、アサシン。そなたの助力、感謝いたす」

 私は、アサシンの眼を見て、感謝の意を伝えた。アサシンは、優しい目をしていた。

「――――宝具展開」

 そうして、アサシンは自身に託された最後の令呪の魔力を使って、宝具を使用した。例えその身が消滅することとなろうが、自身の信じた生き方を全うするために。

 

 

「いざ、主君を危機から御救いし、目的地までお連れせん。――――宝具『神君伊賀越え』」

 

 

 我らは光の渦に巻き込まれ、やがて伊蔵駅前からロストした。

 そうして私と左近は、屍人の包囲を抜け出し、大角寺に姿を現すことになる。

 最後の戦いを始める為に。

 

 

 

宝具解放[NEW!!]

サーヴァント・バーサークアサシン

 

真名:服部正成

通称:鬼の半蔵

 

宝具:神君伊賀越え (ルビ:しんくんいがごえ) [NEW!!]

効果:護衛対象もしくは自身を、任意に好きな場所へ転移することが可能。

さらに対象もしくは自身に、回避と弱体耐性を付与。

 

元マスター:カシン(果心居士オルタ)

※既にカシンは死亡しています

 

 

 

第5章 第1節 了

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