片喰は夜に揺れる ~Fate / Berserk Requiem~ 作:斑鳩古都
あー、どうだったかな。メモ帳メモ帳、っと。あーあったあった。これ難しいんだよなぁ。えーなになに。
――よし、それでは一丁始めましょうかね。
素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する。
ーーーー告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
......さて、ここからが大変だ。かなり文言をアレンジをしなければならない。
これは、ただの聖杯戦争とは別物なのだから。
★
「......ん」
寝てしまっていたのだろうか。下半身の温もりを感じ、俺は健吾の部屋のコタツに入ったまま大の字で寝ていたことに気がついた。
部屋の中は、灯りが付いたままで、健吾の姿が見えない。
「あいつ、どこいったんだ?」
まだ少し微睡んだ状態で、時間を確認するべくスマートフォンを手にした。
「げ」
思わず奇声を上げてしまったのもそのはず。なんと、時間は22時を過ぎており、しかも複数回実家の固定電話からの着信履歴が残っていた。留守番電話の記録も残されている。恐らくばあちゃんだなこりゃ。
「流石に春休みだからってこれは怒られるなぁ」
うちは複雑な家庭事情により、祖母と2人暮らしなのだ。母は俺が小学生の時に病気で亡くなり、父親は母の死が受け入れられなかったのか、まるでこの街から逃げ出すように、東京へ単身赴任を希望して出稼ぎ中。先日の東京行きでも会うことは無かった。
家にお金だけは入れてくれるみたいで、何不自由なく暮らせているのは父のおかげで感謝はしているのだが。
どうしてだか、そんな俺も東京への進学を希望している。ばあちゃんは何も言わず応援してくれているが、独りぼっちにさせてしまうのは申し訳が無い。
「だって仕方ないじゃないか……」
誰もいない部屋に俺の言葉が小さく響く。
俺も、どこかで、母さんと過ごしたこの街のことから目を背けたいのだ。悲しい気持ちにならないように、嫌なものに蓋をしたいのだ。だから、退屈な日々を過ごしているのかもしれない。
ふと、自らの両手のひらを見つめる。何も怪我一つない手のひら。小さい頃はあんなにも稽古に励んでいたのに。手にまめを沢山作りながら竹刀を振っていたのに。もう、そのころの面影は残っていない。剣道を手取り足取り教えてくれた母の袴姿は、あんなにも目に焼き付いて離れないのに、記憶はあっても、母と過ごした記録はこの身体にはほとんど残されていない。左頬の切り傷を除いては。
「って、いけねぇ。早いところ帰えらないと、ばあちゃんに怒られる!」
健吾のやつはどこに行ったんだ。とりあえず、団子の空箱はゴミ箱に捨てさせてもらって、湯呑にちょっぴり残った冷え切ったお茶を飲み干す。後は、モバイルバッテリーと充電ケーブルをリュックに仕舞って――と、
「なんだこれ」
カバンの中に見慣れない紙袋が入っていた。そこには「もりたかくんへ」と健吾の字で書かれている。紙袋を開けてみる。そこには、小さな手のひらサイズの犬のぬいぐるみと、
「手紙?」
が入っていた。二つ折りの手紙をそっと開けてみる。そこに書かれていたのは、
守尭へ
お前と過ごした日々、結構楽しかった
あとは頼む
サヨナラ
友からの突然の別れの言葉だった。
急に胸がざわざわと揺れる。何だか、分からないが、息が詰まりそうだ。
空気がどろりと肌にまとわりつく。電気が付いたままのこの部屋。消えた友人。残された自分。そして、犬のぬいぐるみと、謎の書置き。
「…………健吾、いるのか?」
少し、大きな声を出す。部屋の外まで聞こえるように、大きな声で。
「健吾! いるんだろう!?」
少し、声量を上げる。返事は返ってこない。
「いたずらが過ぎるぞ健吾!」
何も変化が起きない。これはおかしい。何かは分からないが、異常事態が起きていると、身体が本能が警告を発している。
とにかく、ここにいてはいけないと。
俺は、リュックを背負い、この部屋から出ることにした。部屋の扉を開けると、外の廊下は真っ暗だった。確かここに電灯のスイッチがあったはず。
「どうして、点かないんだ......」
灯りが、つかない。故障しているのか?
真っ暗なままの廊下が長く伸びいている。この先に行ってはいけない、と本能が叫んでいる。しかし、ここを通らなければ帰れないし、そもそもこのまま帰るわけにもいかない。健吾にこの書き置きについて問いたださなければ。
部屋の電気を消すことが出来たので、俺はスマートフォンの懐中電灯機能をONにして、真っ暗闇の廊下を進んでいくことにした。
突き当たりには階段があり、1階に降りられる。しかし、降りた先も真っ暗であり、やはり電気はつかない。
「今日はおじさんやおばさんは、地域の寄り合いで遅くなるって言ってたな......」
でも、こんな遅くまで誰もいないことなんてあるだろうか。終バスが18時で終わってしまうこんな田舎の集落の寄り合いだ。朝早くから農作業に勤しむおっちゃんたちも多い。いつもなら解散していてもおかしくない時間帯なのに、どうして誰も居ないんだ。健吾の両親はどこに行ってしまったのか。
そうして、階段の下で固まっている俺の耳に、――――若い男性の悲鳴が聞こえた。
ぞわりとした感覚。
途端に、身体が駆け出していた。真里谷家の建物から、玄関の扉を開けっぱなしで、外へ飛び出す。
声が聞こえたのは、寺のお堂の前の参道方面に違いない。そして、さっきの声は、
「――健吾!!」
付き合いの長い友人の声に違いなかった。
俺は何も考えずに駆け出していた。
★
ほおら、始まるよ。
悪鬼羅刹たちの殺し合い。
頭が死にそうなぐらい痛いし、よく前が見えないし、何も考えられないけど、”あの方”が教えてくれたのだ。これに勝てば何でも好きなものをやろう、って。
私が欲しいのはあの人だけ。あの人に振り向いてほしいだけ。
身体にいっぱい細工をされたし、あんなものを沢山埋め込まれてしまって、とてもとても痛かったけど、でも私我慢するよ。”あの方”の言う通り、沢山敵をやっつけるんだ。全部の敵を一人残らず。
「へい、彼女。こんなところで何やってるの?」
聞いたことがあるような声が聞こえる。でも、良く分からない。何も考えられない。何も見えない。この人が一体誰なのか分からない。
そうだ、殺し合いだ。殺し合いをしなくちゃいけないんだった。
ほおら、目の前の男の子。
顔が良く見えないけど、この子から殺せばいいんだよね?
そうして私は自らの使い魔に令を下す。
使い魔は「はい、喜んで」とにっこり笑って、刀の一振りの元、目の前の男の子をただの肉塊に変えた。
★
大角寺の本堂。
その前には、参詣する人向け石畳の参道が広がっている。
横幅は20メートル近くあり、寺門の入り口までは100メートル以上もの距離がある。
その石畳の上に、見慣れないもの。この寺という聖なる領域にふさわしくないものが2つあった。
どうして、ふさわしくないと分かったのか。
さっきまで隠れていた月が、雲の隙間から月光を降り注がせた。その明かりに照らされて、はっきりと目に入ってきた。
血が滴る大刀を担いだ、馬上にたたずむ黒い影。
そして、その馬の脚元に上半身と下半身が真っ二つに分断された、人間の死体。血が止まらない。参道の石畳に血が広がっていく。斬られた際に吹き飛んだのであろう。見覚えのある丸眼鏡が、俺の足元に落ちていた。
そして、こちらを向いているその顔は紛れもなく――
「――――健吾」
声に出してしまった事を後悔する。健吾だったと思われる肉塊は、俺の問いかけに反応しないことは分かっているのに。
「よぉ、大将。どうしたよ、そんなに息を切らして」
血塗れの大刀を担いだ黒い影の様な存在が、俺にフランクに話しかけて来る。若そうな男の声をしていた。何がそんなに嬉しいのか、声色が喜びに満ちている。
「お前が、そいつを......健吾を殺したのか?」
「おうよ! どうだい大将、見事な切れ味だと思わねぇかい?」
明るく、元気に回答する。まるでよく描けた絵を母親に見せて褒めてもらいたがっている子供の様な、無邪気さを感じる。
すると、影に変化が現れた。邪気が抜けたのであろうか、その身を覆う黒い霧の様な影が、空気に溶けていくように消えていく。そして、影が完全に消え去り、その姿が露わになった。
藍色の羽織袴を身につけた、侍といった風貌の若い男性だった。歳の頃は20代半ばだろうか。そして、その着物には扇が象られた紋章がワンポイントで胸の当たりに飾られている。
この男の家紋、なのだろうか。非常に美しく、雅なデザインだと思った。先ほど行われたと思しき”所業”に似つかわしくないほどに。
そして家紋とは別に、目を引くのはその頭である。いわゆる月代(さかやき)と呼ばれる、額から旋毛近くまでを剃り上げる髪型だ。ちょんまげを結えるお殿様とかがしているイメージが強い。だが、この男の月代は特徴的だ。ストレートにまっすぐ美しく反り上げられており、腰まで届かんとする黒い髪の毛が、ポニーテールの様に紐で結ばれている。時代劇でよく見る、新選組の沖田総司のようだ。
「なぁ、おい大将。何とか言ったらどうなんだ」
そんな思考も、目の前の男の声で遮られる。俺は一体何を考えているんだ。目の前で、友達が殺されたというのに。
「ライダー」
急に、10メートルほど離れた前方から、声が聞こえる。女の、声だった。
その者は、漫画やゲームに出てくるような、魔法使いのような黒いローブを全身に身をまとい、姿形を隠している。フードを深くかぶって表情を読み取ることもできない。
「目撃者は殺すのが、この戦いのマナーよ。”あの方”がそう、言っていた」
「おっと、いけねぇいけねぇ、マスター忠告ありがとな」
へらへらと笑う、ライダーと呼ばれた男。女の名前はマスター、か。というより、今なんて言った? 目撃者は殺す? それは、つまり、
「じゃあ、大将よ。――死んでくれや」
標的が、俺に切り替わったということ。ライダーと呼ばれた男は、馬にまたがったまま、その大刀を振りかぶって、
「あいや、暫く!!」
急に目の前に現れた、珍妙な格好をした男の言葉によって、その動きを止めた。
★
新たに表れたその姿は、何というか、コスプレみたいなペラッペラな姿の、
「……忍者?」
だった。
まるでドン・〇ホーテのパーティーグッズのコーナーで売られているような、ザ・忍者装束。というか待て待て、こいつがしている額当てって、世界的にも大人気の某有名忍者漫画のグッズじゃないか?
「左様! ジ〇ンプショップの通販で買ったでござる!」
心を読んだみたいに、楽し気に教えてくれた。そうだよなぁ、この辺にはジャ〇プショップ無いから通販じゃないと買えないよなぁ、と変に納得。いや、納得してる場合じゃない、コイツは一体何者だ。助けに来てくれたってのか?
「…………おい、アサシン、こいつぁ何の冗談だ?」
ライダーと呼ばれた男は、目の前のコスプレ忍者野郎を、アサシン、と呼んだ。
ライダーに、アサシン。この言葉は聞き覚えがある。いや、聞き覚えがあるというレベルではない。どういうことだろうか。さっきまで健吾と一緒に遊んでいたゲーム、MDDのゲーム内設定とまるっきり一緒なのだ。
MDDは、過去や神話の時代を生きた英雄たちを召喚して戦うゲームだ。その際に、各英雄たちの特性ごとに、7つのクラスに分れて現界される。
剣士・セイバー、弓兵・アーチャー、槍兵・ランサー、騎兵・ライダー、術者・キャスター、暗殺者・アサシン、狂戦士・バーサーカー。
どういうことだ。こいつらは、ゲームの中から飛び出して来たというのか。でもそうでもしないと説明がつかない。馬に乗った”侍”に、コスプレが過ぎるが正体不明の”忍者”。明らかに現代に生きるものとは違う存在であることが伝わる。
このコスプレ忍者も、姿かたちは非常にチープだが、漂う雰囲気は百戦錬磨の殺し屋だ。なぜなら、俺とライダーの間に割って入ったものの、俺の体はこの忍者野郎から感じるオーラで身体が震え上がっている。こんなの、絶対ただの人間ではない。
「なぁ、ライダーよ。ここは一旦引くのはいかがでござろうか」
「あぁん? なーに抜かしやがる。目撃者は消すべきだろう?」
「いやいや、だから」
そういって、ゆっくりとアサシンは俺に微笑みかける。顔立ちは目だけしか分らないが、パッチリ二重で綺麗な澄んだ眼をしている。そんな綺麗な眼が、
「拙者が、代わりにこの男の子を殺して差し上げようかと」
一瞬で豹変した。
赤だ。赤く紅く光る眼。それが想起させるのは、血。鮮血。禍々しい輝きがそこにはあった。
「あぁ、そういうことかいアサシン。獲物を横取りたぁ、趣味が悪いね」
「いやはや、拙者の趣味に文句付けられたくはないでござるよ」
「そんじゃ、競争ってのはどうだい、アサシン」
「ほぉ、つまり、先に殺した方が勝ちということか、ライダー」
「左様」
次の瞬間、ライダーの眼も同じく赤く禍々しく輝き始める。そして、とある文言を唱えた。
「鬼神・招来《きしん・しょうらい》」
子供のころ見ていた特撮ヒーロー。そのヒーロー達は共通して、固有の変身のポーズやセリフがあった。それによって、生身の人間からスーツを着装し、ヒーローの姿形に変身するのが定番だった。まさにそういう言葉だったのだろうか。文言を唱えた瞬間、ライダーはどこからともなく、黒い霧状の影を全身に再びまとった。
その影は、やがて形を黒い炎へと変質させる。黒い炎は、ライダーの身を焦がすことなく、轟轟と燃え盛っている。
「やれやれ、ライダーよ。おぬしはよーいどんも知らぬのか」
「うるせぇエセ忍者」
「え、エセではござらぬ! 拙者まごうこと無き忍者でござるよぉ!」
「ごちゃごちゃ言うなや。とりあえず」
ライダーは一呼吸置き、
「始めてええかの?」
刹那の内に、俺との距離を詰めた。瞬間移動という言葉で片付けるにしては、あまりにも見事な間合いの詰め方。俺の目と鼻の先に、馬にまたがった漆黒の炎の武者が居て――
「よーい、どん」
――俺は、衝撃を受け、宙を舞った。
★
抑止の輪より来たるは、天秤の守り手と聞き及ぶ。
否、こたびは守らずとも良い。誓わずとも良い。
ただ、その身その意のままに、敵を屠るが良い。喰らうが良い。血を啜り嗤えば良い。
来たれ――――聖なる杯に縁を紡がれし、嘆きの鬼の子よ!!
★
気が付けば、寺のお堂の入口の木戸に、身体を叩きつけられていた。
何をされたわけでもない。タンポポの綿毛を飛ばすように、ライダーは小さく息を吹きかけただけだ。それなのに、どうして俺は十数メートルも吹き飛ばされて、いるのだろう。
「――ハッ、がぁ」
骨が軋む。背中が痛い。呼吸が出来ない。
お堂の中へと通じる木製の扉が割れるような音と共に、弾けた。扉は壊れてしまったのだろう。吸収しきれない衝撃により、俺の身体は、そのままお堂の外廊下に叩きつけられる。立ち上がろうとするが、手足に力が入らない。恐怖で顔を上げることが出来ない。
しかし、逃げなければ。やつらはそこに居るのだ。俺を殺すため、目撃者を消すために。
「ちくしょう」
何かを掴みたくて手を伸ばす。
「ちくしょう」
その手に触れるのは、スマートフォンだ。さっきまで握っていたのを落としたのだろう。
「ちくしょう」
こんなものが有っても、何にもならない。友達を殺したアイツが憎い。
「ちくしょう」
武器だ、武器が欲しい。アイツを倒せる。そんな武器が。
「ちくしょ」
「――さぁ、おしまいだぜ、大将」
全身の力を込めて、何とか顔を上げる。そこには、黒く燃え盛る鬼が居た。ライダーだ。
ライダーは、血まみれの刀を俺の顔に突きつける。そのそばから同時に心臓を狙い打たんと、アサシンと呼ばれた忍びが、何故だか槍を手にして構えている。なんで、忍者なのに槍なんだよ、そこはくないとか手裏剣だろうがくそったれ。
「……たまるか」
携帯を握る手に力を籠める。
「死んで、たまるか」
何も出来はしない。そんな事分ってる。でも、
「こんな所で、死んでたまるかぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
何かに、そう、この死への運命に抗いたくて、叫んだ。
『……この子に、加護があらんことを』
急に、誰かの言葉が頭の中に響く。そして、どこからか現れた突風が、旋風となってライダーとアサシンに襲い掛かった。
「おい! なんだこの風はよ!!」
「拙者知らないでござる!」
俺の目の前に見えない風の障壁が生まれた。そして――次の瞬間スマートフォンの画面が点灯した。
そこには、こんな状況に似つかわしくない、いつも遊んでいるMDDのゲーム画面が表示されていた。
「なんで......こんな時に......」
そこに映し出されたのは、ゲーム内におけるキャラクターの召喚画面だった。円卓の元になったと言われる大きな西洋式の盾。その横たわった盾の上を光の白球たちが緩やかに時計回りで回転を始める。その回転は速度を増し、やがて光の筋となり、三本の光輪が広がっていく。そして、
『さぁ、呼べ』
頭の中で声がする。何かに促されるように、俺は足に力を籠める。
『我が名を呼ばなくても良い。我が名を知らなくても良い。ただ、必要か、必要でないかを、叫べ』
生まれたての小鹿が大地の上で必至に足を踏ん張るように、俺は痛みと恐怖に押しつぶされそうになりながらも、立ち上がろうとする。
『我を必要とするならば、叫べ』
力を欲する。イメージは刀。幼い時に、母が剣の稽古をつけてくれたからかもしれない。当時は竹刀だったが、何かに立ち向かうとき、ここぞで踏ん張るとき、自分の力の源のイメージは刀だった。刀を抜きたい、全てを解き放ちたい、そう願った。
『叫べ!』
何かに突き動かされるように、立ち上がる。
周囲の暴風に負けないように、立ち上がる。
そして――お望み通り、叫んでやった。
「来い! セイバー!!」
★
『――残念、私はランサーだ』
え、という言葉を遮るように、スマートフォンが熱を持つ。熱い。手のひらが焼けそうだ。しかし、その手を放すことは許されない。何者かの力がそこには介在するかのように、俺はより強くスマートフォンを握りしめた。手を離すなと、誰かが言っているようで。それを見ろと、誰かが言っているようで。
画面には、既に召喚を終えたサインとして、1枚のカードが映し出されていた。槍を携えた、西洋風の騎士の絵柄。槍兵、ランサーのカードだ。それがゆっくりとゆっくりと、徐々に光の筋によって、めくれあがってくる。そこに映し出されたのは――――セーラー服を身にまとった少女だった。
「え」
今どき古風な、紺色のセーラー服に、朱色のリボン。
スカート丈は膝が隠れる程度の長さで、黒いストッキングを履いて、足は露わになっていない。髪は長く腰まで伸びており、平安時代の貴族のようないわゆる姫カットで、前髪も綺麗にパッツン。その顔は人形のように整っており、幼さを残しつつも、凛々しさも持ち合わせている。しかし、その見目麗しさと相反し、少女は画面の中でニコリともせず、無愛想な表情を浮かべている。
というより、何だこれは。え、セイバーじゃないの? こういう時物語の主人公は剣士を従えるってのがお約束じゃないの!? そもそもこんなキャラクター見たことないし、そして何故、「真名が」黒く塗りつぶされているのだ。
『構え』
先ほど、頭の中で響いた声が聞こえる。どこかで聞いたことがあるような、凛々しい声だ。
そしてその声を起因として、俺の身体の周囲に、空間を裂いて丸い円が生まれた。
SF映画等で見られるような、ワープホールのような円。というより穴だ。
数は、一つだけではない、いくつもいくつも穴が瞬時に複数生まれていく。その数は瞬きの内に数十も生まれ、そしてそこから鉄の筒のようなものが無数に覗き――火薬の匂いがした。
『撃て』
その言葉を文字通りトリガーとして、轟音が連続で響き渡った。
それは風の障壁を貫き、文字通り嵐のような暴力として、ライダーとアサシンへ叩き込まれる。
これは銃撃だ。猟師の免許を持つ親戚のおじさんが、山の中でイノシシやシカを撃っているのを遠くから見たことがある。しかし、それとは比較しようもないほどの銃弾の嵐が目の前に現れた。
正に暴力。
それが数百発も聞こえただろうか。硝煙が腫れると、そこには片手に火縄銃を持ったセーラー服の女の子が――ゲーム画面に映し出されていた姿そのままで――俺に背を向けて仁王立ちしていた。
そのはるか前方、20メートルほど先には、黒い炎が消えかかったように、馬の上で肩で息をするライダーの姿があった。身体に外傷は見られないが、全身を覆った黒い炎はほとんどはがれてしまっており、顔は露わになっている。銃撃の嵐により後ろへ追いやられたのだろう。地面には引きずられたような跡が残り、表情に余裕は一切ない。
「......畜生、アサシンのやつめ、俺を盾にして逃げやがった」
その射線上の先には、黒いローブのライダーのマスターと呼ばれる存在も居た。つまり、このライダーと呼ばれる侍は、アサシンに盾にされたのも事実なのだろうが、自身の身内を守るために、全ての銃弾をその身で受け切ってみせたのだ。
ボロボロには違いないが、何という打たれ強さだ。ライダーはその存在を消失することなく、その場にあった。
それに何よりも、ライダーのまたがる馬は無傷のようだった。もしくは、ライダーによって使役される使い魔のような存在かもしれない。それの証拠に先ほどから、生き物としての息遣いが感じられず、まるでバイクなどのただの乗り物のようにそこにあるだけだった。
「ほう、生きていたか」
ライダーが無事と知ると、目の前のセーラー服の少女は口を開く。
「全く、サーヴァントというものは便利だな。先籠め式の火縄銃が魔力とやらで自由に連射し放題だ」
少女は、手にした火縄銃を子猫でも愛でるように撫でてみせた。
ライダーは不機嫌さを隠すことなく、叫ぶ。
「やかましいぞ女ァ! この程度でこの俺様を殺したつもりコラ。なんたって、この俺の名は――」
と言いかけた瞬間、ライダーはセーラー服の少女をマジマジと見て、言葉を失った。目をぱちくりとさせ、あんぐりと口を開けている。
「おまえ......まさか............」
「ん? なんだ? 私は今、気が立っているんだ。ふざけたこと抜かすと、あと千発は食らわせるぞ」
「ハ、」
その瞬間、ライダーは
「ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
笑った。いや、嗤った。ライダーは嗤いに嗤った。あまりにも嗤い過ぎて、涙を流している。一通り嗤った後、とてつもなく明るく、銃を構えた少女に微笑みかけた。
「会いたかったぜ女ァ」
そう言うと空を仰ぐ。月は何事もなかったように美しく輝いている。
「あぁ、今日はいい日だ。お月さんに感謝だなぁ。......じゃあな。ここは引くとしよう。お前さんとやり合うのなら、ちゃんと身なりを整えてこないとな」
そう言うと、
「さらばだ、好敵手よ。また近いうちに、な」
ライダーは空気に溶けていくように、その身をくらませ、俺たちの視界の中から忽然と消えてしまった。気が付くと、黒いローブの女も居なくなっている。どういうカラクリか知らないが、脅威はこの場を去ったのだ。
「生き残った.......のか」
辺りは完全に静寂を取り戻した。そうして、無音が訪れる。何もない。虫の音も聞こえない。月の光だけが降り注ぐ、静かなる世界。
魂が抜けたように、あっけにとられた俺に向かって、セーラー服の少女は振り返る。俺は尻餅をついており、無様にも見下ろされる形となった。
美しい少女だ。年の頃は一緒ぐらいだろうか。月明かりに照らされて、その姿はキラキラと輝いている。
身長は高くない。恐らく、155cmぐらいなのではないか。
しかし、小柄ながら、弱い印象は感じない。スレンダーな体型だが、それは痩せているというよりは無駄なものを削ぎ落した、それこそ刀工が手塩にかけて鍛え上げた日本刀のように鋭く、そして美しい。そんな、少女が目の前に立っていた。
セーラー服と火縄銃。そんなアンマッチな組み合わせすらもどうでもいいと思えるような、ずっと眺めていたくなるような、不思議なひと時だった。少女は、無表情のまま口を開く。
「あ......」
何を言えばいいのか、躊躇いが顔に現れて、
「その......怪我は......ないか」
少し視線を外しながら、言った。
「えっと......怪我は、少し」
「そそそそ、それは大変だ!」
急に大きな声を出す。おや、クールなイメージかと思ったが、急に慌て始めたぞ。割とお茶目さんなのか?
「どこだ、どこを怪我したのだ!?」
そういってしゃがみこんで、俺に向かって身を乗り出す。いや、近い、とても顔が近い。顔が火照るような感覚が込み上げる。恥じらいだ。何を隠そう、わたくし犬塚守尭は、年頃の女子との接し方が苦手な方だ。いや、断言する。苦手だ!!
そんな恥じらいを気取られないように、俺は顔を背けつつ痛む部位を少女に告げる。
「少し、右の手が......」
そういって痛みを感じる手を少女に見せると、手の甲に赤い痣ができていた。いや、それは痣というには不思議な形をしていた。三画の文様が赤いサインペンで描かれたように刻まれていた。花びらのような形が3つ。
「――これは、令呪だな」
再び冷静な顔つきになった少女は、再度立ち上がる。
「これは傷や痣ではない。マスターとして、聖杯戦争へ参加するための証だ」
聖杯戦争? 一体何だそれは。しかし、その問いを口に出す前に、少女は俺に言葉を告げた。
「サーヴァント、ランサー。召喚に応じ参上した」
今度は顔を背けず、恥じらうことなく、真っ直ぐに俺の顔を見つめながら、言葉を紡ぐ。
「問おう――――貴殿が、私のマスターか」
自らを槍兵(ランサー)と言いつつ、火縄銃という飛び道具を肩に担ぎながら少女は言い放った。
いや、もう、めちゃくちゃかよ。
そこで、俺の意識は落ちた。
★
大角寺から少々離れた小高い山。その頂上付近に登山客向けの簡易的な展望デッキがある。そこから大角寺を見下ろす一つの影があった。
眼鏡をかけ、髪の毛にはパーマが当てられているのか、ふわふわとボリュームある髪型が目立つ。
『いいのか? 話しかけなくて。友達なんだろう?』
少年の頭の中に声が響く。何者かが少年の心の中に語り掛けているのだ。
「いいんだよ、これで。歯車は動き出した。もうアイツと友達ごっこをする必要もない」
『そーんなこと言って、あーんな強いサーヴァントを与えちゃってさ。サーヴァントの召喚も何もかも御膳立てしてよぉ。しかも、あのぬいぐるみ、あれにも細工がしてあるだろ?』
「......くそ、何もかもお見通しってか。これだから英霊ってやつは底が知れないよ」
少年はあくまで平静を装って呟く。
「まぁ、簡単に死んでもらっちゃ困るし、ね。右も左も分からないやつを放っておくと、何やらかすか分からんし。上手いこと利用するための首輪をつけたってところかな」
『首輪ねぇ』
「そ。ちょっとあいつには刺激が強いかもわからんけどね」
『まぁなぁ、ありや上玉な女だよ、うん。俺の側室にしたいね。転封先にも連れて行っちゃいたいぐらいよ』
「いや、刺激ってそういう意味じゃないんだけど......」
『え!? 性的な刺激とかそういう意味じゃないの??』
「女好きもほどほどにしておけアーチャーよ」
『まぁ、俺の助平具合はそこら辺にしておいてだな、お前さんも趣味が悪いね。――――なんたって自分を死んだように見せかけるんだ?』
「まぁ、その方が動きやすいから、かな?」
雲から月明かりが差し込んでくる。照らされた顔は、犬塚守尭の友人であり、先ほど胴体を真っ二つにされて死んだとされていた、真里谷健吾その人だった。
「他人を欺くこと。それが俺の唯一の特技だからね」
無表情に呟く。
『まぁ、動きやすいってのは大事だな』
「そうともよ」
『そんなことよりマスターよ』
「なんだいアーチャー」
『聞きたいことがある。非常に重要なことだ』
アーチャーと呼ばれた存在は、少年の隣でその身を露わにする。40代ぐらいの壮年の男性が何も無かった空間から姿を現したのだ。
アロハシャツに短パンを履き、足元にはビーチサンダルと、極め付けはサングラス。完全に季節外れの格好であり、夜の闇の中ではサングラスは意味を為していない。
金色に染められた髪の毛は長く伸び、後ろで束ねられている。肌の色は日焼けサロンでも通ったのだろうか、こんがりと焼けており、何とも緊張感のない、飄々とした風貌だ。まだ春先で夜は非常に冷え込む伊蔵市においては、この格好では風邪でも引いてしまうだろう。そう、普通の人間であれば。
金髪アロハシャツの男性は、赤い日の丸が描かれた扇を取り出し、パタパタと仰ぎながら風貌に似合わず真剣な声音にて問いかける
「なぁ、マスターよ......これってマジなのか?」
そういって、アーチャーはいつの間にやらその手にタブレット端末を手にしていた。そういえば現代の電子機器にとてつもなく興味を持っていたから貸し与えていたな、と真里谷健吾は思い出した。その画面に映し出された、大変重要なこととは、
「茨城県都道府県魅力度ランキングぶっちぎり最下位、ってどういうことよ!!!?」
本当にどうでもいい内容だった。
「ったくよぉ......俺と息子が遠い東北に飛ばされてよぉ、徳川様の息子が代わりに治めるってんで、まぁそれなら仕方ねぇかと納得しようと努力はしてたんだがな。いやはや、こりゃないぜ......数百年の時を経て、愛すべき故郷がこの日の本の中で最も魅力の無い場所ってのはどうにも我慢ならねぇ! あぁ......くそ......」
そういうと、おもむろにサングラスを外すと、
「むしゃくしゃしてきた」
ギロリと猛禽類を思わせる鋭い眼光が赤く輝いた。途端に、その身を黒い霧が覆いつくす。それは先ほどの大角寺のライダーのようであった。黒い霧は炎へと姿をかえ、瞳が赤く妖しく輝く。
「さぁ、始めようぜマスター。この俺、アーチャーが、お前に勝利を届けると誓おう」
「あぁ、始めようかアーチャー。この僕、真里谷健吾が、お前を勝利に導くと誓おう」
そういって、互いの拳と拳をトンと合わせる。それはボクサーが試合前に行う合図の様に。黒い炎が、健吾の拳をチリチリと焦がす。肌の焼ける匂いがする。しかし、健吾は表情一つ変えずに口を開く。
「準備に3年かけたんだ。もう失敗は許されない――さぁ、」
大角寺を見下ろしながら、友人である犬塚守尭とその従者(サーヴァント)を遠くから目に焼き付けながら、言う。
「”鬼・聖杯戦争”の開幕だ」
★
ゲームライター 小諸そば氏のYoutubeチャンネル「そば喰って寝ろTV」
20XX年X月X日公開動画
「大人気ゲームMDDへ物申してみた!」より抜粋
スマートフォン向けアプリゲーム「Mission of Defies Destiny」は、自らが魔術師となって、世界各国の神々や英雄たちを召喚して戦わせる、大人気RPGアクションゲームです。いやー僕も結構、いやがっつりハマっちゃってます笑。
ストーリーの秀逸さ、手に汗握るバトルアクションなど、このゲームの魅力を上げるとキリが無いんですけど、何といっても個性あふれる魅力的なキャラクターたちなんですよね!
古今東西の英雄たちが、サーヴァントと呼ばれる使い魔たちとして、召喚していくわけです。そんなサーヴァントを使役して戦いを有利に進めて行んですけど、彼ら彼女らによって紡がれる物語は時に美しく時に切なく、プレイヤーたちの心を動かしていくんですよね。
まぁ、少し悲劇的な表現が多く、プレイする人を選ぶことも多いとは思うんですが、「人類史最大の英雄譚」というキャッチコピーにふさわしいゲームだと僕は思うわけです!
ただねぇ......しいて言えば、ですよ? これ言っちゃっていいかなぁ。
ゲームのネーミングセンスには苦言を呈したい!
和訳にして「運命に抗うミッション」とはあまりにも安直過ぎる。あとDestinyって何か、こう、しっくりこないんですよね。なんかチープというか。どっちかというと”希望的な運命”というニュアンスというか。
サーヴァントやマスターたちが立ち向かう絶望的な運命。このゲームは悲劇的なニュアンスの方が合うと思うんですよ。
そうだな.......例えばこういうのはどうでしょうか。
Destinyではなく、Fateというのは。
うん、こちらの方が、悲劇的な絶望的な運命にぴったりの表現だ。作中で語られる数々の特異点を修復していく大いなるミッション。それをもじってこう評するのはどうでしょう。
「Fate / Grand Order」
……もしかしたら、この世界とは違った別の世界があって、その世界では、似たようなゲームがこんな名前で作られていたりするかもなぁ、なんて。何か、今、ふとそんな気がしました。
......あー、やめやめ、みんなごめんね! マルチバース的な概念が色んな所で結構流行ってるからかな! なーんか変なこと考えちゃった。まぁ、単なるゲームライターの戯言です!
さぁ、みんなも一緒に楽しくMDDプレイしようねーー!
そしてチャンネル登録・高評価もよろしく!
そんじゃ今夜も~~~~そば喰って寝ろ! おやすみグッナイ!
★
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「物語 タイトル名 開放」
Fateシリーズ二次創作
『Fate / Berserk Requiem』
今後とも、本物語をお楽しみください。
プロローグ 了
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【F/BR マテリアル】
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バーサーカーのマスター ???
and more…?
以上でプロローグ終了です。
引き続きよろしくお願いします!