片喰は夜に揺れる ~Fate / Berserk Requiem~   作:斑鳩古都

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第5章 丸に十文字と七つ片喰 〜第2節 鬼の半蔵は、三度は泣かない〜

【アサシン・服部正成の視点】

 

 

「あの”鬼の半蔵”と言えども、主君の息子を斬ることは能わぬか」

 主君たる徳川家康様は、そう近臣に言ったとされている。

 それは私の忠義を讃えた言葉として、徳川家の内外に広まっていた。

 しかし、私にとってそれは賞賛には値せず、屈辱であり侮辱以外の何物でもなかった。

「ねぇ、半蔵。介錯はそなたに頼みたいのだが、いいだろうか?」

 若君は、そういって私を指名してくださったのだ。なのに、それなのに、私はその任を全うすることが出来なかった。

 侍が、武士が泣くものではない。そう教わってきた。いかなる戦いであっても槍一つで敵の眼前に立ちはだかり、武功を上げ続けた。私には、忍術は使えない。ならば、せめて得意の槍で主家を守る。いついかなる時でも敵に立ちはだかり、守って見せる。

 そうしてついた異名は、鬼の半蔵。

 だが、あの日、鬼は泣いたのだ。いや、昔話やおとぎ話のように、鬼だからこそ泣いたのかも知れない。

 後世、『信康事件』と呼ばれた、徳川家に訪れた災難。

 私はその折、若君である信康様の、切腹の介錯の任から――――逃げ出したのである。

 

 

 ★

 

 

「ねぇ、半蔵。お願いを聞いてくれないか?」

 柔らかな口調だった。我がマスター・カシンは、私に優しく語りかけた。

「この私と、契約を解除してほしい」

「そ、それは......」

 それは、とうてい許容できるものでは無かった。

「もう一人の私のやろうとしていることを聞いただろう? 彼は、私利私欲のためにこの世界を混沌に陥れようとしている。いや、もう既に手遅れだ。多くの人たちが、犠牲となり、屍人として使役されている」

 カシンは、悲しげに語る。

「私は、英霊たる皆様をもてなす役を仰せつかっている。そして、皆様とお会いし、給仕を通してその人柄に感じ入った。貴方を含めた皆様は、素晴らしい英霊たちです。そして、もう一人の私によって騙され利用されている。私はね、半蔵。それが我慢ならないのですよ」

 拳を震わせ、怒りに満ちている様子が、こちらにも伝わってくる。

「そして私は、あの男の片棒を担いでしまっている。こんなふざけた戦いに皆様を巻き込んでしまっている」

「そんな、あなた様はあの果心居士とは違う......」

「違わないのですよ、半蔵。私も、果心居士なのですから」

 カシンは、悲しげに微笑んだ。酷く胸が痛んだ。

「ですから、あなたを解き放つのです。あなたなら、この戦いを終えるために、上手く立ち回れるでしょう。いいですか? あなたの正しいと思うことをしなさい」

 私は、カシンに対して、進言をした。

「恐れながら申し上げます。そんなことをして良いのですか? 私との契約を解かれては、あなたはタダでは済まないのでは?」

 ははは、と笑いながら、カシンは答えた。

「良いのです。私の名はカシン。皆様の心の家臣です。果心居士である前に、此度召喚された皆様の世話を仰せつかった者。これも皆様の世話の範疇ということで、これぐらいの職権乱用は許されるでしょう。............いや、やっぱ許されないかも。そしたら処刑ぐらいはされちゃうかもなぁ」

「............介錯を、せめて介錯をさせてくだされ、マスター」

 そんな私の言葉に意を介すことなく、カシンは微笑んだ。

「いや、介錯など不要です」

「マスター!!」

「聞きなさい、半蔵。君には私の令呪を三画預けます。その三画を無事、皆さんの為に使ってください。それこそが、私への忠義と呼べるのではないでしょうか?」

 私はカシンの姿を、直視することができなかった。その心中を慮ると、胸が張り裂けそうだった。

 そして、私は主君の意に従うことを決意した。

「......分かりました。それではマスター、御達者で」

「もう、私は、あなたのマスターではない。ただの皆様の世話役です。だから、初めてあの待合室で出会った時のように、カシンと。そう呼んでくださいませ」

 私は、震える声を精一杯振り絞って、主君の願いをかなえるべく、口を開いた。

「............それではカシン殿。どうか、ご武運を」

「えぇ、ありがとうございます、半蔵様」

 目の前のマスターは、優しく微笑んでいた。

 

 

 ★

 

 

「ハハ、カシン殿。拙者は、無事にお勤めを果たせたでござるかなぁ......」

 ランサーとそのマスターの二人は、無事この場から転移を完了していた。

 私の周りには、数万にも及ぶ屍人の群れが形成されていた。なるほど、このまま私は、こ奴らに嬲られるみたいだ。

 だが、既に勝負は決していた。

 そう、この半蔵にとって、無事に送り届けたこと。それこそが、勝利なのだ。

「............か、は」

 嗚呼、もうこの身体は持ちそうにないで御座るよ。

 今の『神君伊賀越え』で、もう魔力は切れ申した。

「忠義、でござるか......」

 頭の中でその言葉を繰り返す。確かに、拙者は、切腹を命じられた信康様の介錯から逃げ出した。信康様が大好きだった。家康様の跡を継ぐのは、信康様をもって他にいないと信じていた。

 だが、政局は複雑怪奇なり。

 信康様は、謀反の疑いをかけられ、織田家との関係も破綻寸前になっていた。母君の築山様と奥方の徳姫様の確執が原因など、様々な憶測が飛び交ったが、真実は闇の中。この騒動を鎮めるべく、築山様は死罪。そして、渦中にあられた信康様も切腹することとなってしまった。

 忠義とは何なのだろうか。あの時、拙者が信康様の首を落としていれば、こんな自責の念に苛まれることは無かったのだろうか。

 だが、過去を悔やんでも仕方ない。拙者には、拙者にしか出来ないことがあるはずだ。

 そうして、震える手で槍を握る。

 はは、鬼の半蔵ともあろうものが、もう満足に槍を握ることも叶わぬか。

 周りには、いろは歌で強化を受けた数え切れぬほどの屍人がひしめき合っている。

「さてさて。もう少しだけ、踏ん張ってみるでござるかな」

 この行為に、何の意味があるかは分からない。あと、数十秒もしないうちに、自分はこの地から退去することは明白だった。

 だが、ランサーたちの戦いが長引けば、もしかしたら目の前の屍人の大軍が、大角寺に到達してしまうかもしれない。折角引き離したのにそれでは意味がない。そして経験上、戦場の情勢は複雑怪奇。何が起こるか分からない。

 ならば、一人でも多く、危険の芽を摘むべきであり、目の前の敵を屠っておくべきだ。

「さぁ、皆様。鬼の半蔵の槍裁き、得とご覧あれ」

 嗚呼、信康様。

 いつかどこかで胸を張ってお会いできる日が来ることを楽しみにしております。

 この半蔵、例え残された命がわずかであったとしても、精一杯忠義に生きてみまする。

 

 

 ★

 

 

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「バーサークアサシン 服部正成 消失により脱落」

※完全に消滅を確認しました

 

 

 

 

第5章 第2節 了

次へ進みますか?

>はい 

 いいえ










少し補足というか語らせてください。

服部半蔵正成という歴史上の人物について、自分が書いてみたかったことをこの際全部ぶちまけてみました。
槍の名手であり、忍者のイメージが強いが実は忍者では無く、信康事件で涙を流した、無骨な三河武士。
能力的にランサーとして召喚されたりしたら、面白かっただろうなと思います。
ですが、宝具の神君伊賀越えをどうしてもやりたかった&補助法具ならアサシンの方がピッタリだよね、と判断した次第です。

没設定として、実は鉄オタで東京メトロ半蔵門線のNゲージをネット購入するというものがありましたが断念。自分の名前を冠するものをこよなく愛する英霊というのも良いですよね。

そう言えば執筆してた時にちょうど大河ドラマで活躍してたのを思い出します。
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