片喰は夜に揺れる ~Fate / Berserk Requiem~   作:斑鳩古都

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第5章 丸に十文字と七つ片喰 〜第3節 剣士、遅参する〜

 急に目の前の視界が開けた。

 空間を切り裂いて、我らが出現したのは大角寺の境内だった。

 目の前には、漆黒の斎服を身に纏って、驚いた顔をした果心居士。そして、全くの無表情のまま、黒い学生服に身を包んだサーヴァント・島津四兄弟が、眼前に立ち尽くしていた。

 周りに邪魔な屍人は存在しない。

「――――宝具、開帳」

 そして、私は言葉を紡ぐ。今ここがチャンスだ。

「今ここに馳せ参ぜよ! かつて共に戦いし仲間たちよ、我が命に従い、再び具足を身に付けよ!」

 バーサーカーとそのマスターを囲むように、空間を切り裂いて無数の孔を出現させる。相手よりも速く、仕掛けるのだ。

「一本の槍と一領の具足。汝らは、決して美しく着飾る者に非ず。しかし、その死をも恐れぬ生き様、そして戦振りこそ、我らを飾り立てる唯一無二の宝玉。吼えよ進めよ、飲んで騒げよ」

 おい、起きろ――――土佐の”いごっそう”ども。

 全身全霊の魔力を一点に集中させる。今ここで先制攻撃を叩き込む!

「宝具が四つあるのは見事。だが、宝具は同時には発動できない。鬼島津よ、貴様は今、遠く離れた駅前の屍人たちに第一宝具『日新斎いろは歌』を使用している! つまり、第二宝具『捨て奸』が使えない!!」

「くっ、小癪な真似を......!」

 果心居士が吠えた。バーサーカーが少しばかり身体を動かした。だが、もう遅い。

 地鳴りが如き、我が配下達の雄叫びが聞こえた。

「宝具『死生知らずの野武士なり』!!」

 総勢四万の一領具足達の攻撃が、バーサーカーに向けて放たれ、迫り、そして――――

 

 

「その狙いは見事。しかし、我の方が、少しばかり速い」

 

 

 バーサーカーの声が、冷酷に響いた。

「第三宝具『釣り野伏せ』を発動します」

 背筋が凍るような感覚と、頭の中で鳴り響く警告音。これはまずい。突っ込んではならない。本能が叫んでいる。

 まさかバーサーカーは、ぎりぎりのタイミングで『日新斎いろは歌』を解除し、『釣り野伏せ』に切り替えたという事なのだろうか。

「く、そ......!」

 一領具足達の攻撃の手が緩む。これはバーサーカーに誘い込まれている。このままでは、我が配下は再び無残にも全滅してしまう。

 バーサーカーは淡々と言葉を紡ぐ。

「『捨て奸』は、私の霊核を引き換えに貴女を葬るが、流石に私もこれ以上霊核を失うのはリスクが高い。ですので、貴女の宝具を無効化することを優先して『釣り野伏せ』を発動させました。じっくりとたっぷりと、貴女の配下を皆殺しにして差し上げます。ですので、どうか、どうか――――降参のほどを」

 この期に及んで、バーサーカーは降参しろと言っている。ふざけた奴だ。

「くっ、ランサー、このままでは......!」

 傍らの成田左近が叫ぶ。そう、このままでは、負けてしまう。

 嗚呼、消える。消えてしまう。我が配下達が霧散し、その軍勢が崩壊していく。

「これで、終わりだね」

 マスターである果心居士が、勝利を確信し、顔が緩んだその瞬間、――――私は口を開いた。

 

 

「――――『釣り野伏せ』を選んでくれて、ありがとう。『捨て奸』だったら、負けていた」

 

 

 私は、今までの焦りを帯びた演技を中断し、安堵の表情を浮かべた。

 そして、眼にも止まらぬ神速の攻撃が、バーサーカーの霊核を一つぶち抜いた。

 その攻撃を繰り出したのは――――

 

 

 ★

 

 

 【■■■■の独白】

 

 

 時は江戸時代の初期に遡る。

 現在の千葉県。房総半島の南部に、とある戦国大名が領地を有していた。

 その大名家は河内源氏を祖とし、鎌倉時代からの幕府に仕えた御家人の出であった。戦国時代において関東にて強大な勢力を保持し、精強な水軍衆を用いて江戸湾の制海権を握り、小田原北条氏と凌ぎを削るなど、その武名は天下に知れ渡っていた。

 だが、徳川家康によって開かれた江戸幕府にとって、関東に有力な大名が存在することは危険視されていた。首都である江戸にほど近い場所に、武勇に優れた外様大名が居ては、万が一反乱が起きた際大変なリスクを負うからである。

 そのため、その大名家は、幕府内の権力闘争に連座する形で、一方的に改易を言い渡されてしまった。当時、その大名家の当主は若く、政治的に上手く立ち回ることも叶わなかった。

 改易とは、領地没収のことだ。先祖代々有していた、千葉県南部の安房国十万石を没収されてしまった。しかし、飛び地で有していた鹿島三万石に関しては、代替えの領地が遠方ではあるが与えられることとなっていた。

 先祖代々の房総の地から遠方へ配されるのは、非常に屈辱の極みだったであろう。

 ただ、鹿島三万石の代わりに、西国で三万石が与えられるとのことで、何とか家臣たちを食わせることが出来る。そしてほとぼりが冷めた際に、また安房国に戻れれば良い。若き当主は、そんな風に気軽に考えていたのかもしれない。

 だが、西国に与えられた新たな領地で待ち受けていたのは――――罪人の如き、不遇な処遇であった。

 三万石など嘘であり、与えられたのはたったの四千石。大名と呼べる領地の規模では無かった。

 幕府の監視付きの、蟄居生活。家臣たちも霧散してしまい、僅かな家来たちを伴って細々と暮らしていた。ただ、その若き当主は暗愚では無かった。限られた財源の中から、近隣の寺社に寄進をし、戦乱で荒れ果てた社殿を修復するなど、少しでも土地の者たちを安んじようと努めた。

 だが、年を得るごとに、幕府の締め付けは厳しくなっていった。段々と領地は減らされ、閑散とした村へ移ることを強要され、さらに生活の自由は奪われていった。

 一体、その当主が何をしたというのか。あまりにも不遇な扱いに、近臣たちは悔しい日々を送っていた。いつか、この大名家を再興する。それだけを願いとして、臥薪嘗胆の日々を過ごしていた。

 そんな中、悲劇が起こった。当主が若くして、病で亡くなってしまったのだ。享年二十九歳。

 子息はおらず、その大名家の嫡流は断絶してしまった。端的に言って、滅亡である。

 そして、最後までつき従っていた、八人の忠実な家来たちは、主君に殉じて自害して果てた。

 死したのちも、共にあらんとしたのであった。

 

 

 その若き当主の名前は、里見忠義(さとみ ただよし)。

 殉死した家来たちは、後に八賢士(はっけんし)と讃えられた。

 

 

 そして、一説によると江戸時代後期に、このエピソードに着想を得たとある文豪が、大ベストセラーとなる長編小説を書き上げる。

 物書きの名は、曲亭馬琴(きょくていばきん)。

 物語の名は、『南総里見八犬伝(なんそうさとみはっけんでん)』と呼ばれる。

 仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字が刻まれた数珠の玉と、牡丹の形の痣を持つ、通称『八犬士』と呼ばれる八人の若者たち。彼らが様々な因縁に導かれ、里見家のもとに集い戦っていくという長編小説だ。

 そして、その八犬士たちは、それぞれ苗字に『犬』の文字が含まれている。

 

 

 さて、『南総里見八犬伝』には作中に、とある有名な宝刀が登場する。八犬士の一人、物語の主人公格が手にする刀だ。

 それは、抜けば刀の付け根から霧を発生させる妖刀。そして、使い手の殺気が高ぶれば水気を増し、人を斬るときに勢いよく流れ刃の鮮血を洗い落とすとされており、「邪を退け、妖を治める刀」と作中で描写されている。

 

 

 だが、この話には裏話がある。

 じつはこの宝刀、実在していたのである。

 それは里見家に代々伝わりし、隠された秘宝であり、件の里見忠義が西国に移された際も常に傍らにあったとされている。

 そして、里見忠義が死の間際、そばに仕えた近臣の一人に、その刀を託したのである。

 その近臣は、実は現地にて妻を娶っていた。そして、その妻のお腹の中には新たな命が宿っていた。

 だが、主君である里見忠義が亡くなり、その近臣は主君に殉ずることを決意する。そして、妻にその宝刀を密かに託した。

「いつか来るべき時が訪れる際、この宝刀が、邪悪なるものを退け、妖を治めることだろう。その時が来るまで、この地で代々この宝刀を守り継いでいってほしい」と。

 

 

 そして、その近臣が命を絶ったその日の夜、不思議なことが起こった。

 お産が近づいていた妻の夢の中に、美しい女性が現れたのだ。

 その女性は、犬を連れており、巫女装束に身を包んでいた。そうして、こう呟いたとされる。

「貴女のお腹の中の子に、加護があらんことを」と。

 そして朝、目覚めると、亡き夫から託された宝刀は消え失せていた。代わりにその妻が産んだ子は、不思議な力を有し、まさに「邪を退け、妖を治める」能力を有していたとされている。そうして、その能力のみが代々子孫たちに密かに受け継がれていったとされている。

 

 

 え? なんだって?

 どうしてお前がこんなことを知っているかって?

 それは、簡単な話。自分の対魔の能力で、自らにかけられた封印を解いたからさ。

 そうすることで、封じられていた『我が家に受け継がれていた、この能力に関する知識』すらも解放されたからだ。

 

 

 では、結論を語るとしよう。

 その子孫が代々守ってきた土地の名前は、伊蔵。

 そして、その妻が名乗った家の名前は、犬塚。

 亡き夫から託された、宝刀の名前は――――

 

 

 ★

 

 

「............か、は」

 バーサーカーの顔が、初めて苦痛に歪んだ。霊格は砕かれ、残るは一つとなってしまっていた。

「ば、ばか、な......」

 果心居士が、本気で動揺している。

 それもそのはず。どこかから現れた何者かによって、バーサーカー・島津四兄弟の胸に、とある刀が深々と突き刺さっていた。

 鬼島津の衣服である学生服に、じわりと染みが広がっていく。

 ただ、それは血ではない。水の雫だ。よく見ると、その突き刺さった刀身には、沢山の結露が纏わりついていた。

 そう、まるで――――急な雨にでも降られたかのように。

「ふぅ、良かった、間に合った!」

 と、私と成田左近の後方から、聴き馴染みのある快活な少女の声が聞こえた。

 振り返ると、そこには松葉杖を手にゆっくりと歩み寄る姿が見える。

 千葉小夜子だった。

「小夜子殿、遅いぞ!」

「ごめんごめん、ちょっと手間取ってさ。でも、間に合ったでしょ?」

 そういって、小夜子は得意げにその拳を掲げて見せる。

 そこには、マスターの証である令呪がキラリと輝いていた。

「あぁ、待ちくたびれたよ」

 隣で、左近が安堵の表情を浮かべている。そう、これで役者がそろったのだ。

 と、バーサーカーに動きがみられた。

「――――くっ!」

 手にした十文字槍で、自身の霊核を貫いた何者かを、渾身の力で薙ぎ払ったのだ。

 粉塵が巻き起こる。だが、払われたその何者かは、しっかりと攻撃を受け流し、十メートルほど後方に跳躍して、無事着地して見せた。

「おい、貴様。一体何者だ......!?」

 果心居士が、声を上げる。立ち昇った土煙が徐々に晴れてゆく。

 

 

「よぉ、くない。待たせたな」

 

 

 晴れてゆく煙の向こう。聞きなれた声が聞こえる。

 バーサーカーの霊核をぶち抜いた、一人の剣士。

 伊蔵城北高校の男子制服を身にまとったその姿。

「あぁ、待ちくたびれたぞ」

 私の、私の――――大切な人。

 

 

 そして、その者は、敵に向かって名乗りを上げる。

「我は、犬塚守尭の肉体を依り代として召喚されし剣士が一人」

 周囲を、霧が覆っていく。

「サーヴァント・セイバー 犬塚 信乃 戍孝(いぬづか しの もりたか)」

 そして、不敵な笑みを浮かべながら、手にした刀を上段に構えた。

「宝具・封印解除。さぁ、何もかも洗い流してしまおうか......!」

 大気の流れが変わる。とてつもない魔力が解き放たれようとしている。

 そして、その宝刀の名前を、呼んだ。

 

 

「――――宝具『村雨丸(むらさめまる)』」

 

 

 

 

 

 

 

【システムメッセージ】

新たなサーヴァントが召喚されました。

 

 

サーヴァント・セイバー[NEW!!]

 

真名:犬塚 信乃[NEW!!]

出展:南総里見八犬伝 八犬士が一人

 

宝具:村雨丸(むらさめまる)[NEW!!]

効果:刀身から出現する霧によって『邪を退け、妖を治める』

敵対象に宝具封印を付与し、強化解除を行う

 

依り代:犬塚守尭

(※デミサーヴァントの一種と推察される)

マスター:千葉小夜子

 

 

 

 

第5章 第3節 了

次へ進みますか?

>はい 

 いいえ











またもや補足

ぼやかしておりましたが、本編の伊蔵市という架空の都市は、里見氏終焉の地としても知られている鳥取県倉吉市をモデルにしています。
そして【いぬづかもりたか】という主人公の名前は、まんま犬塚信乃から持ってきていたという。というか、あの名高い『村雨丸』を使ってみたかっただけです。
さらによくよく見ると、真里谷、千葉、成田、佐野と、関東にゆかりのある苗字がメインキャラからモブまで使われていたりと、里見八犬伝や戦国大名・里見氏が作品ベースにあったりしてます。
好きな物を詰め込んでみたかったので、自己満ではありますが、大変満足しております。
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