片喰は夜に揺れる ~Fate / Berserk Requiem~   作:斑鳩古都

32 / 37
第5章 丸に十文字と七つ片喰 〜第4節 島津の退き口〜

【バーサーカー・島津四兄弟の視点】

 

 

 我らが霊基は、四騎分である。

 島津義久、義弘、歳久、家久の四名の英霊が溶けあい、混ざり合った存在だ。

 我らが四兄弟は、戦いに明け暮れていた。最初は島津家の悲願である、三州統一を目指していた筈だった。三州とは、薩摩、大隅、日向である。だが、我らが版図を広げようとするたびに多くの敵が目の前に立ちはだかっていった。最初は伊東。続いて大友。さらに龍造寺。気が付けば、三州だけでなく九州の制覇に目的がすり替わっていた。

 私たちは何のために戦った? 自国を富ませるため? 悲願を果たすため?

 それとも、ただ戦うために戦った?

 そして、何が手段で何が目的か分からなくなった頃、豊後国に上方からの軍がやってきた。

 それは総勢一万にも満たない、四国の大名家の寄せ集め。そしてそこには、――――この女が率いる軍も居た。

 七つ片喰の野武士の軍団。何やら、四国を統一したものの、太閤秀吉に屈した負け犬とのことだった。だが、その兵の面構えは死んでいなかった。

 むしろ、それを率いる将こそが、翳りを帯びていたように思う。どす黒い何かが、溢れ出んばかりにその身体の中に膨れ上がっていた。

 その汚泥で膨れ上がった水風船に針を刺せばどうなるか。単純な興味に駆られた。

 そして我らは、この風船を割ることにした。どうしてそんなことを考え付いたのか分からなかったが、そうしなくてはいけない。そんな気がした。

 そして、いつも通り、敵を蹂躙し駆逐する指示を下した。わが軍の将は、末弟の島津家久だ。軍法戦術に妙を得たりと称された家久である。いつも通り、『釣り野伏せ』を仕掛けた。

 上方軍は、あっという間に壊滅し潰走した。十河某――今回ライダーで召喚されていた気がする――という名のある武将の首も取った。

 目の前のこの女の息子の首級もあげた。

 そして見事に風船は弾け飛び、長宗我部家は転落を始めた。完璧な島津の勝利だった。だが、――――この勝ちから全てが狂い始めた。

 太閤・豊臣秀吉による九州征伐。大軍による軍事侵攻。我らはそれに屈し、かつての結束も嘘のように、バラバラになってしまった。戦によっての死別なら仕方ない。だが、我らは戦では死なず、戦後に同じ島津同士でいがみ合ってしまった。

 それは、我らに力が足りなかったから。そう言い聞かせて来た。

 力が、足らなかった。

 でも、本当は違うのかも知れない。何故なら、今回の戦いも同じだからだ。あの浜辺での戦い。我らは徹底的に敵を叩いた。セイバーとアーチャーを葬った。だが、生きながらえたランサーが、今こうして我らを追いつめている。

 このランサー・長宗我部と戦ったから、ダメになってしまったのでは無いだろうか?

 この女は、我らが手を出してはならない存在なのかも知れない。島津にとっての疫病神。目先の勝ち負けでは無く、この女に手を出すと、最終的に負けてしまう呪いにかかっているのでは?

 そんなくだらないことを考えてしまう。

 それにしてもさっきはやられてしまった。我らの霊核が一つ弾けて消えてしまった。

 対軍宝具潰しである『釣り野伏せ』は確かに発動した。だからこそ、目の前の『死生知らずの野武士なり』を消滅させた。それに全神経を集中させていた。

 だから、こんな攻撃を防ぐことは出来ない。我らに向かって突き進んできた、一人の剣士の刃を防ぐ手段など、残っていない。

 我らは、溶け合った存在。だから、霊核の数など、関係はない。関係は無いのだが。

「............貴様ら」

 胸にぽっかりと何かが抜け落ちた様な、とても不愉快な感覚が残った。

 それは『此度はバラバラになることなく、四兄弟が共に在りたい』という我らの願いとは、相容れないモノであった。

 消さなくてはならない。目の前のこの女、長宗我部元親を。そして、剣士として現れた、ランサーのマスター。いや、突如として現れたセイバー・犬塚信乃を。

 我らが我らで居るために、塵一つ残さず滅さなくてはならないのだ。

 

 

 

 

【千葉小夜子の視点】

 

 

 身体の中を熱いナニカが駆け巡る。

 それは、献血をした後のような、身体が血液を作り出すために熱を帯びるような。

 魔力だ。魔力が巡っている。

 理由は明白だ。マスターとして契約したサーヴァントが、私に蓄えられた聖晶石の力を必要としているからだ。

 私は、自身の魔力をサーヴァントへと注ぎ込むために、イメージをする。それは、石を割るということ。割ることで、果物の果汁の様に、その中からどろりとした濃厚な魔力の液体が、私の身体の中の魔力タンクを満たしていく。そして、ガソリンを車に補給するように、魔力の塊である液体はパスを通じてサーヴァントへと注ぎ込まれていく。

 あぁ、令呪が、令呪が燃えるように熱い。この熱さはとても苦しい。だって、身体の中の生命力が失われているのだ。あまり気持ちの良いものじゃない。特に私は、石と合一した特異な存在。命を削るような行為だ。

 でも、この熱さを誇らしくも思う。

 どうして? それは、この熱さは、あの馬鹿と繋がっている証だから。人という存在を辞めてまで、敵を倒すための力にこだわったアイツの、決意に満ちた顔を思い出す。アイツの背中を押すことが出来るのであれば、この命など決して惜しくはない。

「............小夜子くん、大丈夫かい?」

 気づかないうちに、隣に成田先生が立っていた。その顔は、私の体調を本気で心配していた。

「別に、ちょっと立ち眩みがしただけ」

 嘘だ。今にも倒れてしまいそう。手にした松葉杖を必死に握って、辛うじて立っているだけだ。

 そして、私が強がっていることも、この人は全てお見通しなのだろう。何も言わず、そっと手を添えて、私の腰を支えてくれた。

「僕も、一緒に戦わせてくれ」

 成田先生の拳の令呪も、輝いている。そう、例え宝具が破られたとしても、ランサーは出し惜しみすることなく、戦っているのだ。

「ええ、一緒に勝ちましょう」

 私も、無意識のうちに成田先生の腰に手を添える。それはまるで、運動会の二人三脚の様に。

 ここまで来ると、私たちにできることはない。ただ、目の前でバーサーカー・島津四兄弟と死闘を繰り広げる二名の戦士、セイバーとランサーを見守り、魔力を届けるだけ。

 この戦いが終われば、特異点と共に私たちも消え去る。でも、それがなんだ。ようは、どう生きたか、ではないのか。

 私たちは最後まで諦めない。私たちが、私たちでいられるために。この戦いに勝たねばならない。

 だから、勝って守尭。アンタの隣にいるその子のためにも。その子を支えて勝たせてあげられるのは、アンタしか居ないんだから。だから、全部の魔力持っていきなさい。私に残された仕事は、アンタの背中を押す、それだけなのだから。

 

 

 

 

【バーサーカー・島津四兄弟の視点】

 

 

 下手くそな太刀筋だった。剣の心得は少しはあるようだが、ただそれだけの未熟な剣。

 急ごしらえのサーヴァントとして顕現したばかりなのもあって、ぎこちない動きだ。だから、このセイバーを倒すなどいとも容易い。容易いはずなのだが、

「――――おのれ」

 何故か、我らは追いつめられていた。

 セイバーの繰り出す剣撃は、避けることは容易い。だが、その避けた先に、槍による強烈な刺突が繰り出されている。ランサーの大身槍による攻撃だ。

 セイバーの宝具『村雨丸』は、触れるだけで敵の強化状態を解除させる、厄介なシロモノだ。そう、触れるだけで良いのだ。

 マスターによって我らに付与されし鬼サーヴァントとしての加護は、数えきれないほどに重なっている。霊基が四つ重なっていることと、鬼・聖杯戦争に召喚され狂化を重ね掛けしたことによる何重にも及ぶステータスの強化。それらが、我ら島津四兄弟の圧倒的な力の源だ。

 だが、こ奴らはそれを、

「いくぞ、くない!」

「あぁ、守尭!」

 一枚一枚、丁寧かつ乱暴に剝ぎ取っていく。

「――――くっ!」

 また『村雨丸』が我らの腕を掠めていった。血は流れない。身体の損傷はない。だが、確実に我らに掛けられた「狂化」であり「強化」の権能は解除されていく。

 そして、少しばかり我らの動きが鈍った瞬間を狙って、ランサーの正確無比な一撃が迫る。これを避けても、また『村雨丸』が来るだけだ。ならば、ここでランサーを仕留めるべきではないだろうか。

「いくぞ鬼島津!!」

 ランサーは髪を振り乱し、全力の突きを繰り出した。現代の女子生徒が着込むその制服。それが泥にまみれることも厭わぬその必死な姿を眼に捉えた。

 それは、標的に照準を定めたそれだけのこと。それだけで、我らにとっては十分だった。

「良いのか、――――そんなに捨て身で」

 手にした十文字槍を渾身の力で振るう。そう、相手の大身槍に照準を合わせたのだ。

 ぐっ、と身を捩る。筋肉が千切れるような感覚がある。それは自身が出せる出力を超える威力。少しばかりこの身に負荷を強いた。

 そして、繰り出した渾身の一撃は、ランサーの槍を弾き、そして続けてランサーの身体を貫こうとして、

「捨て身? 勘違いしてんのか、バーサーカー」

 男の声と共に、その攻撃は弾かれた。

 セイバー・犬塚信乃が、ランサーの目の前に割り込んで、手にした『村雨丸』で我らが槍の一撃を弾いて見せたのだ。ここに来て、動きが見違えるようだった。このセイバー、誰かを守ろうとする時だけ、迷いのない動きを見せるのか。

「くないは俺が守るし、俺のことはくないが守ってくれる」

 そして、曇りなき眼が、我が眼前にあった。

「お前らだって、そうやって生きてきたんじゃないのか? なぁ島津四兄弟よ」

「............な」

 たったの一瞬。ほんの刹那の時。

 油断は無かった。だが、頭をガツンと殴られたかのような言葉。それを無視することは出来なかった。

 そして、連撃が我らを襲った。

 右からはランサー。手にした槍は、我らが腕を貫く。

 左からはセイバー。その宝刀は、我らの”鬼”を削ぎ落す。

 全く、この攻撃から逃れることは出来なかった。

 

 

 ――――に、げ

 

 

 頭の中で、声がする。

 

 

 ――――に、げて、良い

 

 

 これは自分の声の様であり、兄の様であり、弟のようであり。

 

 

 ――――逃げたって、良いんだ兄弟よ

 

 

 あぁ、そうか。我らは、いや、我は怖かったのだ。

 戦うことを求められた。日ノ本で最強であることを証明し続けなければならなかった。九州でも、朝鮮でも、そして関ヶ原でも。

 いついかなる時であっても、多くの薩摩隼人が我の背中を見ていた。いや、監視していたのだ。お前らだけは逃げてはならないと。戦わなければならないと。期待という名の鎖で雁字搦めになっていたのだ。

 だから、仲が良かった兄弟がバラバラの道を歩むことになった。逃げることを許されなかったから。

 この感覚は何だ。敵の『村雨丸』で”鬼”の皮を剝がされているからだろうか。今の我は、鬼島津ではなく、ただの島津になろうとしているのだろうか。今までは考えもしなかったことが、頭によぎる。

 我は、逃げたって良いんだ。

 死ぬためではない。自身が生き延びるため。周りを犠牲にせず、ただ自分がやりたいように。真正面に逃げ延びて良いのだ。

 では、試してみよう。

 我は、敵の攻撃を強引に払い去り、後方に大跳躍を行った。一度、間合いを切る。

「おい、鬼島津」

 耳元からマスターの声が聞こえる。

「お前、さっきから何を遊んでいるんだ? さっさと宝具でも何でも使って、アイツらを葬り去れよ」

 嗚呼、鬱陶しい。今、とても良い所なんだ。邪魔しないでほしい。

「ちょっと私は野暮用でここを離れる。少し妙な気配を感じていてな。それらを探ってくる」

 野暮用、か。妙な気配とか言ってるが、どうせ逃げる算段なのだろう。この男にとって大切な大切な聖杯を奪われるわけにはいかないだろうしな。

「良いか? 令呪を一画使ってやるから、必ず敵を葬り去れ。お前の残されし、最後の宝具を使って、な」

 良いだろう。私は、この敵達から逃げることにしか興味が無い。令呪を頂けるのであれば、どうでも良い。

「じゃあ、頼むぞバーサーカー」

 信頼など欠片も無い、薄っぺらい言葉と、令呪一画分の魔力を残して、マスター・果心居士様は姿を消した。身体中に魔力が充満していく。令呪が染み渡るようだ。

 嗚呼、もう邪魔者は居ない。自分のやりたいことをやりたいように、やるだけだ。

「ランサー、そしてセイバー」

 我は口を開く。

「最後にもう一度だけ。お願いですから、降参してください」

 嘘だ。そんなこと思ってもいない。

「あなた達は強い。だが、私の最後の宝具を打ち破ることなど出来ない」

 そうだ。二人は強い。だからこそ私は逃げる。全速力で、逃げる。

「ですから、降参してください。これは最後通告です」

 間違ってる。彼らは逃げない。必ず向かってくる。だから、わざとこんな言葉を言ってみせた。

 と、少しばかりの沈黙が起きた。予想外だった。最後通告にはムキになって即座に否定してくると思っていた。

 では我の言葉の返答に困っているのかと思えば、――――ランサーとセイバーは顔を見合わせながら優しく微笑んでいた。まるで、恋人同士の様に。

「守尭、降参するか?」

「はは、馬鹿言うなって」

「そうこなくてはな。くないちゃん的にも、逃げの選択肢は無い」

「よっしゃ行くか」

「応よ」

 何故だろう。その姿は、とても得難くて、我が望むものの様に見えた。

 あぁ、我らはどこで道を違えたのだろうか。幼き頃の様に、いつまでも和やかに微笑みながら歩む道があったのだろうか。彼らの様に。

「なるほど。あなた達は、強いのですね。いいでしょう。――――第四宝具を、解放します」

 体内に溢れる令呪の魔力を、宝具に注ぎ込む。

 私は生き延びてみせる。逃げたって良い。だからこそ、目の前の敵を完膚なきまでに叩きのめす。自身を死地に追いやるためではなく、自身が生き延びるために。

 島津の軍法に、退却の文字は無かった。それ故に関ヶ原で見せたのは『前に向かって退却する』という無謀にも思える行為。正直、活路を見出したのではない。命を捨てる場所を探した結果、たまたま生き延びただけだ。だから、豊久を始めとして、多くの仲間を失ってしまった。

 だが、今日は。今日だけは、あの日とは違った退却を。活路を見出すための”退き口”を、お見せしよう。

 目の前の奴らを倒すことで、我も何かを見つけられるのではないか、そう思えるから。

 そうして、我は宝具の名を呼ぶ。

 

 

「――――第四宝具『島津の退き口』を、お見せしましょう」 

 

 

 

宝具解放[NEW!!]

サーヴァント・バーサークバーサーカー

 

真名:島津四兄弟

(島津義久、義弘、歳久、家久)

通称:鬼島津、鬼石曼子

※四騎の英霊の霊基が合一した姿

 

 

第一宝具:日新斎いろは歌 (ルビ:じっしんさいいろはうた)

効果:自身の率いる軍勢もしくは友軍を強化する

   味方全体の攻撃力・防御力を大幅アップ

 

 

第二宝具:捨て奸 (ルビ:すてがまり)

効果:自身の命と引き換えに、必ず相手を道連れにして死ぬ

※ガッツは使用できない

※霊核が複数ある場合は、一つのみ消費する

 

 

第三宝具:釣り野伏せ (ルビ:つりのぶせ)

効果:敵の対軍宝具を無効化、消滅させる

   宝具封印を5ターン付与する

 

 

第四宝具:島津の退き口 (ルビ:しまづののきぐち) [NEW!!]

効果:関ヶ原の敵中突破の逸話の通り、最強最大の突撃でもって敵軍を蹂躙し突破する

   敵全体に超強力な防御無視攻撃を行う

 

 

 

 

第5章 第4節 了

次へ進みますか?

>はい 

 いいえ








「4つも宝具があるなんて正気か!?」と思われたかもしれませんが、色んなエピソードを盛り込むだけで4つ作れちゃうんですよね...
個人的に島津こそ戦国最強であると信じている派閥です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。