片喰は夜に揺れる ~Fate / Berserk Requiem~   作:斑鳩古都

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第5章 丸に十文字と七つ片喰 〜第6節 鬼から姫へ至る道〜

 私は、槍を手にした。

 

 

 ★

 

 

【セイバー・犬塚信乃の視点】

 

 

 俺は死んだのだろうか。いや、違う。この浮遊感は覚えがある。

 そうだ、東京から帰る飛行機の中、俺は夢を見ていた。遥かに広がる草原を野武士の軍団が進撃する様を。そしてその先頭には、具足を身に着けた武者が居たことを。

 今にして思えば、あれは長宗我部元親の姿だったのだろう。思えばあの時から、目を奪われていたってことだ。

「なぁ、豊後(ぶんご)よぉ」

 と、意識を周囲に向けることにする。何やら、聞き覚えのある声が聞こえた。

 ここは、何やらお城の中の様だった。お城と言っても、綺麗な漆喰と瓦で作られた時代劇に出てくるような立派な城ではなく、土と木で作られた粗末な造りの城だ。小高い山の上にポツンと作られた、砦の様にも思える。

 何となくだが、これは長宗我部家の本拠地である、土佐国・岡豊城(おこうじょう)なのではないかと察した。

「なぁなぁ、豊後ってばぁ」

 そして、聞き覚えのある凛とした声。見れば、城の中庭の様な場所で、とある少女が駄々をこねていた。

 具足を身に着け、額には鉢巻を付けている。くないこと、長宗我部元親だった。

 見た目は、伊蔵市での召喚時と全く変わらない。だが、その雰囲気が少し幼く感じた。

「なぁ、豊後よ。槍とはどうやって使うのじゃ?」

「姫......いえ、若は、槍を使ったことがないのでございますか?」

 その近くに、立派な髭を蓄えた筋骨隆々とした武人が控えていた。先ほどから豊後と呼ばれていたのは、この男の事だったのか。

「あぁ、槍な。自慢じゃないが、握ったこともない」

 がくん、と豊後と呼ばれた武人は肩を落とす。

「全く......これから初陣だと言うのに、こんなことでは長宗我部家は一体どうなるというのか......」

「おい豊後ぉ、跡継ぎを変えるなら今の内じゃぞ~。弟たちの方がお主らも気が楽じゃろうが、なぁ」

 くないは、からかうように豊後に対して語り掛けている。だが、俺には分かる。あれは、本気なのだ。跡を継ぎたくなんか、無いのだ。

「この秦泉寺豊後(じんぜんじぶんご)、若の世話を大殿から任されておりまする。此度ようやく訪れた初陣を、立派に終えて頂く必要があるというのに......嗚呼、槍の使い方も分からぬとは......」

 がっくりとしたままの豊後さん。いや、マジで何というか同情します。

「なぁ、豊後」

 今度は少し低めのトーンで、くないは喋った。

「私の世話役となったこと。後悔しておるか?」

「............いえ、若は実は立派な方と、某は信じておりまする」

 豊後は、顔を上げた。

「若は、齢二十二になられますが、未だに初陣もおぼつかない。周りからは、何と呼ばれているか聞いておられましょう?」

「姫若子(ひめわこ)、な」

 くないは、少し目を伏せた。ジワリ、と熱を感じる。よく目を凝らさないと見えないが、くないの周囲に黒い炎が立ち昇っているように見えた。これが、鬼。くないが抱く負の感情の具現化。

 豊後は、言葉を続ける。

「ですが、感じるのです。若の心の奥底には、底知れない何かが眠っていると。それを解き放てば、土佐ばかりか、四国全土も手中に収められるやもしれません」

「私が? 四国を?」

「えぇ」

「............本気?」

「いや、ちょっと冗談入っております」

「ほーん」

 と、ニヤリとくないが笑った。悪戯を思いついた童のようだった。まるで戯れに、四国でも統一してやろうか、と。

 その姿は、無邪気な姫だった。

「で、豊後よ。槍はどのようにして使うのだ?」

 傍らにあった、大身槍を手にする。くないが愛用していた鯨波だ。軽々と持ち上げる所を見ると、身体は強いのだろう。

「槍はただただ、相手の眉間を狙って突きなされ」

「ほう、眉間とな」

「左様」

 そうして、くないは心底楽しそうに笑って見せた。

「それぐらいならば、私にも出来そうだのう」

 そこで、俺の意識は途切れた。

 

 

 ★

 

 

「相手の眉間を、狙う」

 目の前で、守尭が吹き飛ばされた。あの威力をまともに受けたのだ。無事では済むまい。

「相手の眉間を、狙う」

 先ほどから、身体が熱い。嗚呼、あの馬鹿が変なことを言うからだ。そうに違いない。

「相手の眉間を、狙う」

 私の事を好きだと。なんだそれ。そりゃあ薄々分かっていたわ。だが、それ今言うことか?

「相手の眉間を、狙う」

 全く、こっちの都合なんて無視だ。まぁ、でも出会った頃は、私の方があやつを手玉に取って楽しんでいたのだった。あまりにも初心でからかっていたのだが、いつから関係性が変わってきたのだろうか。

「相手の眉間を、狙う」

 恐らく、あやつの手だ。手に触れたのが、良くなかった。何かと理由をつけて手を握っていた。人の温もりに触れたのはいつぶりだっただろうか。あそこで狂ってしまったのだと思う。

「相手の眉間を、狙う」

 むしろ、狂っていたのは今までの私であり、あやつによって正常になったのでは無いだろうか。それこそ、犬塚守尭とは里見八犬伝にて伝わる『村雨丸』と同一の存在。共に過ごすことで、私の中の邪が祓われていったのだろう。そうでなければ負け犬である長宗我部元親がこの戦いを生き抜いてこれた訳が無い。

「相手の眉間を、狙う」

 つまり、私・長宗我部元親は、彼・犬塚守尭と共に歩むことで、救われる運命にあったと言える。というか、そう言わせてくれ。

「相手の眉間を、狙う」

 あやつら、二人の真里谷健吾たちは、そこまでを見越して私と守尭を巡りあわせてくれたのだろう。感謝しなくてはならない。

「相手の眉間を、狙う」

 では、そろそろ参るとしよう。守尭が必死に作ってくれた絶好の機会だ。あやつの霊基も無事では済むまい。さっさと片付けて、駆けつけてやらねば消滅してしまうだろう。さっきの一連の行動に対して、大クレームをつけなくてはいけないから。もっと、時と場所を選べ、とな。

「相手の眉間を――――」

 手にした槍に力を込めた。初めて戦に出た時のことを思い出す。私が、鬼の殻を破り、姫として四国の覇者へと躍り出た、始まりの時を。

「――――狙って、突く」

 

 

 正気じゃない。こんな鬼神の如き将を相手に、槍一本で向かって行くなど。

 だが、その一突きは、迷いもなく、真っすぐに突き出されていた。

 そうか、これが、かつて私の踏み出した一歩。その時の思いであり、その時の迷いなき一撃。

 私は、今一度四国の覇者としての自身を取り戻すのだ。いや、違う。新たなる自分へと生まれ変わるのだ。目の前の、鬼島津を乗り越えることで。

 

 

 繰り出した渾身の一撃は、見事バーサーカーの眉間を貫いていた。

 

 

 ★

 

 

【バーサーカー・島津四兄弟の視点】

 

 

 肉が裂かれ、霊基が砕かれる。終わりの音が聞こえた。

 迷いのない綺麗で美しい刺突だった。セイバーによってかなりの力を削がれていたとはいえ、我の全身全霊を込めた攻撃だった。それを華麗にかわし、ランサーは最短距離で我が眉間を穿ち抜いたのだ。

「お見事です」

 額から、血が溢れてきた。英霊という身であっても、血というものは流れるらしい。

「あぁ」

 目の前のランサーは無表情に答えた。

「これでは、我がマスターの所には行けませんね」

「だろうな」

「沢山の者たちを喪ってきました」

「私もだ」

「勝ちも負けも沢山経験してきました」

「私もだ」

 ふと、口元が緩んだ。それは笑みだ。この世界に召喚されてから初めて、心の底から笑えたのだ。

「ですが、こんなにも清々しい負けは初めてです」

「私も、こんなにもあっけなく切ない勝ちは初めてだ」

「あっけなかったですか?」

「あぁ、もっと。もっと、そなたとは戦っていたかった」

「はは、我はこりごりです。そうですね、強いて言えば、あなたとは共に戦いたかったですね。味方として」

「は、それは御免だな。一応、息子の仇なものでね」

「それは、申し訳の無いことを」

「良い。戦国の世の習いというやつだよ島津殿」

 島津殿、とランサーは呼んでくれた。言葉の端々に、気遣いを感じられた。

 と、我の目を見ながら、ランサーは言葉を紡いだ。

「だが、良いことを思い出させてもらったよ」

「ほう、それはどういったことでしょう」

「新しい世界に一歩踏み出した時の、勇気と喜びを、かな」

「羨ましいです。英霊となりし今、そういった学びを得られるとは」

「あぁ、感謝するぞ島津殿。この一連の戦いで、私は踏まれて踏まれて踏みつぶされた」

 と、ランサーは優しく微笑んだ。

「だが、踏まれれば踏まれるほど強く立ち上がるのが、片喰草。我が家紋をとくと目に焼き付けられよ。――――片喰は、最期に華麗に夜に舞ったぞ」

「えぇ、しかと、この目に焼き付けました。美しく月夜に照らされて、踊るかのように揺れていた、と」

 そして、最期の時が近づいているのを感じた。

 身体が金色の光の粒子に包まれていく。

 この世界からの退去が始まったのだ。

「あぁ、我ら四兄弟。一人、また一人と、別れ、仲違いをし、武名と引き換えにバラバラになってしまいました」

 独り言をつぶやく。何故だろうか。何故だか、目の前の御仁にも聞いて欲しかったのだ。

「こんなことを聖杯に願うなど、我らも弱ったものです。また、みんなで仲良く笑い合える日を......望んでしまうなど......」

「あぁ、眠れ鬼島津。その願いは此度は叶わねど、いつかそうなれる日が来るだろう」

「そう、でしょうか......?」

「そうだ。私が保証しよう。まさかこんな世界で、心から幸せな気持ちになるなんて、思っていなかったのだからな」

 ランサーは頬をほんのりと朱色に染めつつ、花のように笑っていた。何となく、彼のセイバーを思い浮かべているのだと、そう感じた。

 そうか、幸せは、いついかなる時であっても掴むことが出来るのだろう。聖杯なぞに頼らずとも、縁と縁が切れぬ限り。いつか、いつの日か、叶うのだろう。

「では、さらばです長宗我部元親。また再び合間見えることがあれば、改めて薩摩島津の全てを賭けて、そなたと弓箭を競いたいものですね」

「ああ、手合わせ感謝致す島津四兄弟。できれば戦場では二度と出会いたく無いものだがな」

 

 

 

 

通知[NEW!!]:トロフィーが記録されました

「バーサークバーサーカー 島津四兄弟 敗北により脱落」

 

 

 

第5章 第6節 了

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補足です。
今回は、土佐国・岡豊城での回想シーンとなります。
初陣にあたって、槍の遣い方を教わるエピソードはどうしても入れたかったので、入れさせてもらいました。
秦泉寺豊後は、何故だかお気に入りの人物です。
(彼は、色々あって元親に逆らって殺されてしまいますが...)
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