片喰は夜に揺れる ~Fate / Berserk Requiem~   作:斑鳩古都

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第5章 丸に十文字と七つ片喰 〜第8節 連なる星たち〜

 バーサーカーは最期は微笑んで消失した。

 何の憎しみも無いかと言われると否定は出来ない。愛する我が息子の仇たる存在だ。

 だが、刃を交えて分かることもある。やはり、彼ら島津四兄弟も我らと同じだ。

 鬼・サーヴァントとして呼ばれる素質、何かしら成し遂げることが出来ず”鬼”という負の側面を持っているということ。そして、叶えたい願いを持っているということ。

「叶うよ。いつか、必ず」

 私は、柄にもなく、消え失せた好敵手に言葉を贈った。

「............っと、守尭はどこに行ったか」

 そうだった。このままでは消えてしまう。さっきの鬼島津の宝具、もろに直撃していた。

 私は気配を探る。すでに、マスターとサーヴァントとしての関係では無いため、パスを通じて探ることは出来ない。そのため、魔力反応を探ることとなるのだが、

「......くそ、見当たらない」

 もしかしたら既に退去をしてしまったのだろうか。そんな、そんなこと、考えたくも無かった。

 まだ、何も、何も話せていないのだ。

「守尭」

 名前を呼ぶ。

「守尭......ッ!」

 だが、返事はない。

「守尭ぁ!!」

 と、突然、――――空へ落ちていく。

「な......!」

 足が地面から離れる。何もしていないのに、浮き上がる感覚。空を飛んでいるのではない。文字通り、空へ向かって落ちていく様な、重力の反転現象が起きた。

 これは、特異点の崩壊だ。世の理と自然の摂理が狂い、文字通り世界が崩壊していく。

 地も木も水も石も、大地も建物も人さえも、悉くが光の粒子になっていく。サーヴァントが消えていく様に、この世界も崩れていくのだ。

「くそ......」

 ある種幻想的な光景だ。美しいとも言えるだろう。

 だが、隣に彼が居ない。

 ただ私一人だけ、虚しく空に溶けていく。

 自分自身も徐々にだが、光の粒子を纏いつつあった。そう、消えるのだ。

 孤独に。誰にも見送られることもなければ、誰かを見送ることもなく。そしてこのまま消えてしまえば、愛する人ともう二度と会うことは無い。

 英霊は、座に還ると召喚時の記憶を失ってしまう。文字通り、この世界で起きたことを全て忘却してしまうのだ。

 この世界で出会った存在を思い出す。

 セイバー・立花道雪。

 アーチャー・佐竹義重。

 ライダー・十河存保。

 キャスター・果心居士オルタ。

 アサシン・服部正成。

 バーサーカー・島津四兄弟。

 成田左近。

 千葉小夜子。

 そして、マスターであり、剣士として共に戦った。犬塚守尭。

 全部、忘れてしまうのか。このまま、忘れてしまうのか。分かっていた。分かっていたが、それでも、

「流石に、辛いなぁ......」

 泣くまい、と思っていた。だが、一筋の雫が目尻から溢れる。今は重力が反転している。だから、こぼした涙は上へと流れ落ちていき、そして、

「わ、なに!? え、水? あ、くないじゃん! おーい」

 私の上方を滑空していた、あの馬鹿に直撃した。

 

 

 

 

「お、おおお、お前! 生きていたのか!」

「生きてちゃいけねぇのかよ、おい」

 守尭が、そこにいた。

 が、五体満足では無い。もう既に、右半身が無くなっている。恐らく『島津の退き口』をまともに食らった故だろう。右手と右足が無くなっていた。

「ほら、来いよ」

 だが、そんな中、痛みをかほども見せず、守尭は残された左手を差し出した。

 私も、必死に右手を伸ばす。空中の姿勢の制御など分からない。だが、不思議なことに強く念じれば念じるほどに、守堯とも距離が縮まっていく。

 もう少し。あと少し。そして、掴んだ。

 温かな、手のひらだった。

 ああ、やっぱりそうだ。

「――――私も、だ」

「あぁ? 何? 何か言った?」

 しまった。口に出してしまっていた。何だろう、顔が火照るのを感じる。

「何だお前、耳まで真っ赤にして」

「やかましい!」

 失敗だ。完全に言うタイミングを逸してしまった。私も好きだ、と。

 今言わなければ後悔する。そうだ、こういうのは、男から言うとかと聞いたぞ。ほら、守尭よ。お前から言うのだ。今言えば、私もそれに乗っかるだけで済むのだ。ほら。

「って、もう既に言われてるんだった!! くないちゃん超うっかり!」

「はぁ!? お前何言ってるの? ちょっと、風が強くて聞こえないんだが」

「もういい! 何でもないわ!」

 なんだこのたわけは。”むーど”も何も無いではないか!

 もう、許さん。言ってやらんからな。こんな可愛いくないちゃんからの愛の告白を聞けないだなんて、この男はなんと哀れなのだ!!

「そう言えばくない、さっきカルデアのサーヴァントに会ったよ」

「え、カルデアって壊滅してたんじゃなかったのか?」

「俺も同じことを聞いたよ。時間が無いとかで詳しくは教えてもらえなかったけど、カルデアが壊滅した日に、一部の人たちは何とか脱出をしたみたいだ」

「............その中に、真里谷健吾は......?」

「居ない、そうだ」

 少し、守尭の顔が曇った。これで、彼の魔術師が生存している可能性は潰えてしまった。

「でも、良いんだ。あいつの願いは叶ったんだから」

「ということは、果心居士は?」

「あぁ、カルデアから派遣されたサーヴァントが倒したらしい。全く、良いところ持っていくよなカルデアってのはさ」

 守尭は安堵の表情を浮かべる。そうだ、勝ったのだ。私たちは、絶望的な状況から大逆転したのだ。

「そう言えば、カルデアのサーヴァント、軍服に身を包んだ何だか高慢な感じの少女だったんだけど、くないに伝言だそうだ」

 伝言? 一体何なんだろう。

「えーっとな、『長宗我部元親、誠にあっぱれなり。鳥なき島の蝙蝠と呼んだこと、撤回しよう』ってさ」

「............多分だけど、それ織田信長だ」

「えええええ、日本史最大の英雄があんなちんちくりんのロリなの!?」

「お前それ聞こえてたら鋸引きの刑だぞ」

 ノコギリって何......と守堯は顔が固まっている。どんな処刑方法かは教えないでおいてあげよう。

「とにかく、カルデアによって聖杯は無事回収。この特異点は消滅。目的は達成されたわけだ」

「そして、私たちは消える、と」

「............あぁ」

 少しばかり寂しそうな顔を守堯は浮かべた。

 死ぬのは怖く無い。むしろ一度死んだ身だ。ただ、この出会いが無くなることが惜しいだけだ。

「なぁ、守尭」

「なんだ、くない」

 私は、言うべきか言わないべきか悩んだ。そして、

 

 

「私と出会ってくれて、ありがとう」

 

 

 自らの欲望を果たすのではなく、この出会いに感謝することとした。

 何か言い返そうとする守尭。だが、その口は動くことは無かった。

 私が、とっておきの手段で、封じたからだ。

 何秒経ったことだろう。肌と肌が触れ合うよりも、温かく優しかった。

 そして、名残惜しく離れた。

「お、ま、」

 守尭は何かを言おうとした。わなわなと唇が震えているのを見ると、びっくりして腰を抜かしていると見える。

 だが、

「だーめ」

 言わせてやらないのだ。もう一度、唇で口を塞ぐ。そうして、言葉を奪う。

 言葉にしてしまうと、本当に終わってしまう気がして。また、聖杯の導きで出会えるんじゃないかって。その時のために言葉は取っておく。だから、今は口を塞ぐのだ。とってもズルい方法で。

 私と守堯は、重なり合いながら、言葉を交わすことなく、共に空へと落ちていく。

 世界は光の粒子に包まれて、何もかも空を駆けていた。その様は、さながら大勢の星たちがどこか次の目的地を目指している様で。

 

 

 私たちは、流れ星。連なる星たち。

 またいずれ、天の導きにより出会う。そう信じて飛び続けて、空に溶けて消えた。

 

 

 

 

【システムメッセージ】

定礎復元されました

特異点は消滅し、歴史は正しく修正されました

 

 

以上を持って、Fate / Berserk Requiemは終了となります

ご愛読頂きありがとうございました

 

 

 

 

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これにて『Fate / Berserk Requiem』おしまいです。
このパートを執筆している時は、名古屋ギター女子部さんの「連星」という曲を聞きながら書いていました。
とても素敵な曲なので、良かったら聞いてみてください。
(ラストシーンのインスピレーションを頂いています)

そして、もうちょっとだけ続くんじゃよ...
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