片喰は夜に揺れる ~Fate / Berserk Requiem~   作:斑鳩古都

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第1章 公饗に檜扇 〜第3節 我が名は伯耆守〜

 妙な夢を見た。

 人間の、亡骸だろうか。多くの人たちが、死んでいた。

 槍で突かれ、弓矢で射抜かれ、刀で喉を掻き切られ、銃弾で顔を潰された、亡骸たち。

 鎧や具足を思い思いに身に付けた、武者たちが野に伏せっている。あるものは絶命し、あるものは少しばかり息の根があるのだろう、助けてくれ、死にたくない、という言葉を紡ぐ者もいる。

 死体を啄むために、大勢の鴉(カラス)が集まってきた。これは、当時においては自然なことなのだろう。醜く、反吐が出そうになるが、これこそが食物連鎖であり弱肉強食なのだ。

「おぉ......」

 そこに、煌びやかな鎧を纏った騎馬武者の青年が現れる。その旗印には、扇が描かれている。雅な扇が、雛祭りで出されるようなお公家さんが使うお盆の上に飾ってある。はて、私はこの模様を見た覚えがある。どこで見たことがあっただろうか。

「おぉ............」

 その武者は嘆きの言葉を発し続けている。自らが泥に塗れることも厭わず、馬から降りると亡骸たちに駆け寄って行く。

「寄るな! 寄るな鴉(カラス)ども!」

 黒々と光る死者を啄む鴉たちを追い払うと、虫の息の男を抱え上げる。

「と、の......」

「もうよい! 喋らなくて良い!」

 武者は、泣いているのか。声が震えている。大切な仲間なのであろう。今にも命が尽きようとしているその姿に我慢がならないといった様子だ。

「奴らは、尋常ではない強さですぞ......早くお引きなされ......」

「そなたらを置いて逃げられようか! 我は、我は最後まで戦うぞ!」

「はは、そんなことでは、義父上さまには、遠く及びませぬな......ご、ほ、」

 死に際の男は、血を吐く。もう長くはないのだろう。

「な、今はそんなことを言っている場合では」

「強く、なりなされ」

 男は、武者に対して精一杯微笑む。

「我らはここで散りますが、殿は、もっと、強くなりなされ。あのお方を継げるのは、」

 そして、

「との、だけ、なのですから......」

 男は命を終えた。

 絶叫。咆哮。目の前で仲間の死を見届けた武者姿の青年は、感情を抑えることができない。

「お......のれ......許さぬ」

 涙を我慢することなく、遠くを睨みつける。その遥か遠くの前方には、大勢の人の群れが見えた。私は感覚的に察した。あの人の群れに、この青年の仲間たちは蹂躙され、殺戮されたのだと。

 なぜ? どうして? この人たちは命を落とさなければいけなかったのか。

 私は、夢だと気がついていながら、気がつけば涙を流していた。

 そして、あの痛みが我が身を襲う。骨が軋み、関節がねじ切れそうになる、あの痛みだ。

 あぁ、この痛みがするということは目覚めのサインだ。そうして私は苦しみの朝を迎える。

 嫌だ、目を覚ましたくない。嫌だ、痛いのは嫌だ。そんな、思考を遮るように、目の前の武者の青年は怨嗟の咆哮を上げる。

「ゆるさん...ゆるさんぞ......!」

 そして、私が夢から覚めるその瞬間、その武者はその憎しみの相手の名前を呼んだ。

「殺してやる、殺してやるからな............くない」

 くない、と。

 

 

 ★

 

 

 目が覚めた時は、いつも痛みに苛まれる。だが、今日は少し控えめに感じた。

「変な夢を見たから、かな......」

 私、千葉小夜子は、ゆっくりと目を覚ました。全身を貫く痛みは相変わらずだが、今日はそこまでひどくはない。普段が10段階中の7〜8ぐらいだとすれば、今日は3〜4程度だ。まぁ、多分普通の人は3〜4もあれば体調不良で1日寝込んでしまうと思うのだけれど。

「なんだか、痛みに強くなっちゃったな......」

 ぽつりと呟く。それにしても変な夢だった。あれは、戦国時代、だろうか。歴史研究会なんかに入っているから、今までもそういった夢を見ることはあったけど、今日の夢はどうにもリアルだった。

 なんだか、あの武者の青年に会ったことがあるような。そんな気がした。

「まぁ、なんでもいいけどね」

 そういえば、今日はあの馬鹿と一緒に調べ物をする約束をしていたことを思い出す。どうせなら昼飯でも食おうと、誘われていたのを思い出したのだ。あいつと一緒にご飯なんて食べるのは、小学生の時以来だろうか。

 なんて憂鬱だ。なんで、アイツなんかの頼み事を承諾してしまったのだろうか。歴史的な調べ物だって言ってたな。まぁ、正直歴史研究会へのモチベーションは無いに等しい。あの人が居なくなってしまったのなら、私が居る意味なんて無い。それでも、必死に頼み込んでくるアイツの姿を見ていたら、まぁ協力してやってもいいかなとつい承諾してしまった。

 そして、どうしても今日調べたい、と言われてしまったら、体調が悪くても付き合ってあげるのが腐れ縁というもの。

「健吾の......お葬式があるんだもんね」

 そう、今晩はお通夜。そして、明日はお葬式だ。基本的には家族葬で行うとのことだが、健吾のお父さんから連絡があって、私とアイツは式への参加を認めてもらった。

 アイツは、言った。健吾の葬式までに、はっきりさせたいことがあるんだ、と。

 何か、健吾に関係することなのだろうか、それとも、

「あの人、のこと......?」

 胸がざわつく。アイツがあの人の事に気がついている? いや、そんなことは無いだろう。健吾があの人とすり替わっていたことに気がつくわけがない。あれは、あの人は、私だけの存在だ。

 と、枕元にあったスマートフォンを手にする。えっ、もう10時? しまった、これは思ったより寝坊してしまったようだ。待ち合わせまで1時間半切っている。

「支度しなきゃ......」

 よいしょっと、私はベッドから立ちあがろうとして、

「?」

 ドロリとした感触がお腹周りからした。恐る恐るパジャマに触れる。

 ぬちゃり、と音がした。

「え」

 血だ。大量の血が、私のパジャマをどす黒く染めていた。

 遠くから、パトカーのサイレンが聞こえた気がした。

 

 

 ★

 

 

 俺は、伊蔵市の玄関口である、伊蔵駅前にやってきていた。

「やっぱり、駅前といっても閑散としてるなぁ」

 人口が10万人とは言っても、平成の大合併で大きくなった街だ。中心市街とは言っても、人口密度は多くない。基本的な移動手段は車が多くなるし、電車を使うとしても、特急列車を使用する出張のサラリーマンや観光に来る物好きだけだ。

 とはいえ、高速道路沿いのインター付近にできたショッピングモールはとても混んでおり、とても行く気にはならない。何故なら、今日は市立図書館を中心に小夜子と調べ物をする日だ。図書館はショッピングモールには無いし、小夜子は自転車を持っていない。

「あいつ、高校入ってから、駅前のタワーマンションに引っ越したんだよなぁ」

 ちらっと、見上げる。そう、ちょうど駅前のロータリーの向かい側に、この街には似つかわしく無い、タワーマンションが立っている。駅前の再開発で建てられたこのマンション。小夜子の親父さんは法律事務所を営んでおり、だいぶ稼いでいるらしい。だから小さい時から色んな習い事をやっていたのだろう。まぁ、ピアノやヴァイオリンは長続きせず、俺たち男子と一緒にサッカーやらバスケットやら、はたまた俺に巻き込まれて剣道なんかもやっていたわけだが。

「ほうほう、これが、駅というやつか!」

 そして、俺は今とても問題を抱えている。

「くないちゃん、伊蔵の駅前に推参なのである!」

 ランサーが今日は霊体化してくれない。

「なぁ、なんで、君は俺の言うことを聞いてくれないのかな?」

「それはお酒を買ってくれると言っていた貴殿が、言うことを守ってくれなかったからじゃないのかな?」

「なんでさも当然に酒を要求している?」

「サーヴァントとマスターは一心同体! 私は、マスターのために命をかけて戦うし、マスターは私のために酒を準備する義務があーる」

 なんか、こいつ酒のことしか考えてないのではないか? あれか? 聖杯へ願うことって、プールいっぱいの酒とかそういうやつなのか?

「うーん、惜しい! というか、そういう願いにするという選択肢のもあるのか」

「いや、思考を読むな! 参考にするな! てか惜しいってなによ!?」

 ため息が漏れる。こいつ、最初の大角寺の時は強かったけど、本当に強いんだろうか。

「というか、頼むから霊体化してくれよ。この後、小夜子と会うんだよ。お前のこと何て言えばいいんだよ〜」

「むしろ、小夜子殿がいるからこそ、私がいるのだが」

 こいつ何を言ってやがる。

「いいか? ここまで来たら、必ず私は、私の正体を明らかにしたい。そのためには、貴殿の友人と面識を深める必要があると考える」

「なっ......」

 昨日、こいつ一般人を巻き込むなって言ってなかったか?

「違う。巻き込むのではない。利用させてもらう。そして、守るのだ」

「まも、る?」

「忘れたのか。真里谷健吾に成りすましていた魔術師と、小夜子殿は、同じ”さぁくる”の一門なのだろう?」

「あ、」

 そうだ。小夜子は、色んな場所で偽健吾と一緒に居たはずだ。

「そして、昨日貴殿も見たはずだ。小夜子殿の、瞳。おかしくなかったか?」

 確かに。感情を昂らせた時に、赤く光った気がした。それは、あの夜の敵、ライダーの様に。

「確信はないが、彼女には何か魔術的な波動を感じた」

「それって、昨日の結城さんのように...」

「いや、あの警官とは違う。安心していい。小夜子殿はちゃんと生きておるよ」

 ほっと、一息。よかった、小夜子は死者ではない。

 というか、よく考えると、今後は街中の人たちを操られた死者ではないかと疑ってかからなければいけないということか。非常に難儀だ。

「ということで私と小夜子殿は面識があった方が、今後何かとやりやすい。そして、小夜子殿は歴史について詳しいのだろう? 私の正体についての調べ物にも協力してもらいやすくなるし、一石二鳥というやつだな! くないちゃん頭いいだろう?」

「あーはいはい、そうですね」

 俺は可能な限り感情を殺しつつ、

「こんな時までセーラー服じゃなければ、ね」

 マジレスをしたのであった。

「? せーらーふくはダメなのか?」

「ぶっちゃけ、コスプレにしか見えないし、いたいけな少女を俺が連れ回してるみたいだからヤダ」

 こすぷれ、こすぷれとはなんだーと、ランサーはブツブツ言いながら自分の格好をまじまじと見ている。こらこらスカートをひらひらさせるのはやめなさい。

 正直、この辺は中学校や高校もそんなに多くないし、街の人は制服をみれば、やれどこ中だ、やれどこ高だと、一目でわかるのだ。

 今時古風なセーラー服を着ている学校はこの学区には存在しない。

 なので、とても目立つ。

「ほーい、そこのお嬢さーん」

 そう、こうやってさっきから小夜子を待っている間、結構な頻度で話しかけられるんだ。

「ほいほーい、お嬢さんてば、もしもーし」

 物珍しいのだろうか、この街にもナンパみたいなものがあったのか。俺は声をかけてくる主を見ることなく、手でしっしとジェスチャーする。失せろ、と。

「あらー無視かなぁ? ちょっとお話聞きたいだけなんだけどなぁ〜」

 なんだよしつこいなぁ、というか小夜子遅いな。時間もう過ぎてるんだけど。

「お、なんだ。くないちゃんこと、私に何か用か?」

 って、ランサーさん!? 知らない人には付いていっちゃダメですからね!

 と、俺は声の主の方に振り返ると、そこにはガタイの大きな中年の男性が立っていた。

 世界的に有名なスポーツブランドの白いジャージ上下に身を包み、足には何故か不釣り合いな下駄を履いている。

 両手にはじゃらりと大粒の数珠をアクセサリーのようにつけており、よく見ると首周りにもネックレスの様に数珠が二重に巻き付いている。顎には立派な髭を蓄えて、頭は短く刈り揃えられており、修行僧のような様相だ。

 瞳は大きく、鼻も口も、なんなら顔も大きい。身長もデカいなんてもんじゃない、2メートル近くあるのではないかと思われる。高さだけでない、ジャージの上からでも分かる、筋骨隆々とした肉体の大きさ。まるでプロレスラーみたいな見た目の中年男性がそこには立っていた。

 それに何より、目を引くのは、そんなにガタイが良いのに、怪我でもしているのだろうか。松葉杖を左手に持っている。左の足が悪いのだろうか。

「お、少年。無視するのはやめてくれたのかな」

 全然嫌味無く、大男は俺とランサーに微笑みかける。急に話しかける行為が怪しまれ無視されるということをわかっている様子だ。じゃあそんな怪しいことしなければいいのに、と思うが。

「うんうん、嬉しいのう。拙僧のお願いは、この紙を受け取って欲しいのよ」

 拙僧、と来た。この人僧侶か何かか? 僧侶系レスラーなのか? リングネームはマスク・ド・ブッダ? いや、すみませんランサーさん睨みつけないで! 真面目に対応するから心を読まないで!

「えーっと、その、紙ってなんですか?」

「おぉ! 左様左様! 現代では、世に知らしめたい物がある時にはな、ビラ配りなるものをすると我が主から聞いておってな」

 わがあるじ? 何やら嫌な予感がすると思っていると、僧侶系レスラーさん(仮)は、ある紙切れを手渡してきた。

 そこに書かれていたのは、

 

 

 『サーヴァント・セイバー

  参らせ戸次伯耆守』

 

 

「守尭!!」

 その刹那、俺の身体はライダーに担がれて、後方に飛んだ。一瞬にして、僧侶系レスラーとの間合いを取った。その距離、およそ4メートル。

「お主ら、サーヴァントと、マスターじゃろ?」

 俺は知っている。4メートル程度の間合いは、安全マージンとは言えない。そう、サーヴァントと呼ばれる存在に対しては。

「街中で、やる気か貴様」

 ランサーはドスの効いた声で、目の前の男を威嚇する。

「いやぁ、拙僧はただ、ビラを配っているだけでな?」

「たわけ、自らをサーヴァントと触れ回る阿呆がどこにいる」

 カッカ、と目の前の男は笑う。

「ここにおるではないか」

 そうして、男、いやサーヴァントは笑顔を崩さない。

「サーヴァント・セイバー。我が名は戸次伯耆守鑑連(べつき・ほうきのかみ・あきつら)。またの名をーー」

 一息ついて、名乗る。

 

 

「立花道雪(たちばなどうせつ)と申す」

 

 

 と、急に周囲の空気が凍えた。

 これは一体なんだ。背筋が凍えるなんてものではない。背骨がキンキンに冷え切っていく。身体の自由が効かなくなる。

「なんてことはない、人払いの結界よ。我が主の計らいでな、一般人を巻き込まないと言う優しさよ」

 あぁ、とセイバーと名乗った男は空を見上げる。久々に晴れた春の訪れを感じる青空。その空に向かって、

「さて、そなたのクラスはなんじゃろな。一つ、殺し合いと行こうか、お嬢さん」

 開戦を告げる言葉を放った。

 血生臭い、聖杯戦争。

 昼下がりの駅前にて、開戦の狼煙が上がる。

 

 

 ★

 

 

真名解放[NEW!!]

サーヴァント・バーサークセイバー

 

真名:立花道雪

通称:鬼道雪

宝具:???

 

マテリアルに記録されました

引き続き、物語をお楽しみください

 

 

 

第1章 第3節 了

次へ進みますか?

>はい 

 いいえ




ひとまず、セイバー真名解放です。
鬼道雪、気に入ってます...!
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