片喰は夜に揺れる ~Fate / Berserk Requiem~   作:斑鳩古都

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第1章の一区切りです。
ランサーの真名も明らかに!
どうぞご覧ください。(今回から18:00投稿にしました)


第1章 公饗に檜扇 〜第6節 真名開放〜

 俺は、成田先生からの共闘の申し入れについて、とりあえず話を聞いてみるという決断を下した。成田先生は「折角なので、うちの医院で話しませんか?」と言ってくれたのだが、その前に電話を一本入れさせてくれとお願いした。

 相手は、小夜子だ。

 待ち合わせの時間になっても連絡1つ寄越さないのは流石におかしいと思い、電話をかけた。しかし、小夜子は電話にも出ず、メッセージも既読にならなかった。

 小夜子のことは気にはなったが、それ以上に俺の隣にいる少女――ランサーの様子が気がかりだった。

 セイバーからの攻撃で身体を酷使したのかも知れないが、何も言わず座り込んだまま動こうとしない。何やら考え込んでいるのだろう。先ほども「とりあえず、共闘の申し出。話だけ聞こうと思うけど、どう?」と尋ねたが、「任せる」の一言のみだ。

 俺をからかいながら無邪気に笑う持ち前の明るさは、今は一切見られない。

 とりあえず、成田先生から「そろそろ駅前から退散したい」と申し出があったので、俺とランサーは一緒に移動することとした。

 ひとまず、小夜子には「連絡待ってるよ」とだけメッセージを送っておいた。

 

 

 今にして思えば無理やりにでも、家に押しかけるべきだった。

 まだ、この時ならば、間に合ったはずだったのに。

 

 

 ★

 

 

 成田整形外科クリニックは、伊蔵駅前の繁華街からは少々離れた場所にある。

 逆に言えば、俺が住む里見町からは近い場所にあり、医院の目の前にバス停があることから、足を痛めた俺が通院するのにはピッタリな立地だった。

 ばあちゃんに軽トラで送り迎えしてもらうこともできたが、何だか申し訳なくって、自分の力で通える病院を選んだのだ。

 成田整形外科は割と新しく、二年ぐらい前に建てられており、院長の成田先生と事務員のお姉さんの二名で回している小さな病院だ。

「二年前、か」

 俺は、医院の待合室のソファーに腰かけながら、独り言を呟いた。今日は休診のため、事務員のお姉さんも、患者さんも、俺たち以外には誰も居ない。

 今にして思えば、色々と繋がってくる。友人・真里谷健吾が入れ替わっていたのも、ちょうど二年前。成田整形外科がこの街に出来たのも、二年前。そして俺の記憶が正しければ、成田先生はこの街の出身では無い。つまり、聖杯戦争のために、わざわざ二年前からこの街で準備を行っていたとしか考えられなかった。

「犬塚くん。お茶か、コーヒーでもどうだい?」

 そんな、警戒すべき魔術師のアジトに潜り込んでいるというのに、このアジトの主である成田左近は、この俺とランサーに一切警戒することなく話しかけてくる。

「そこのお嬢さんもいかが?」

「......お茶を、頂こうか」

 成田先生のにっこりとした笑顔に、少々へそをまげていたランサーも少しずつ緩み始めていた。

「あ、じゃあ自分もお茶で」

「若いのに、渋い趣味だね。あぁ、そう言えば犬塚くんは、お団子とかの和菓子が好きだったよね」

 この人、なんでそんなこと知ってるんだ。

「職業柄ね、施術の最中には色んなことを患者さんと話すんだよ。日頃の何気ない会話から、その人がどういった生活を普段送っているのかを推測するんだ。どういったお仕事をされていて、普段から運動をしている人なのか。日頃の動きでどういった箇所に負担がかかりやすいのか、食生活が乱れていないか、とね」

 成田さんは、少し離れた給湯室から俺たちに向かって語り掛ける。カチャカチャと聞こえるのは湯呑を準備しているのだろう。

「だから、僕は、患者の言葉を聞き洩らさない。一言一句、ね」

 そうして暖かいお茶をお盆に載せて、成田さんは俺たちの元へやってくる。

「突然だけど、本題に入りたい。僕からの提案は二つ」

 そうして、俺たちに湯呑を配る。少しお湯を冷ましてから入れたのだろう。熱すぎて手で持てないなどという悲劇は起こらない。配慮の行き届いた、非常にちょうどいい温度のお茶だ。

「一つは、僕たちと一緒に、ライダーを倒して欲しい」

 ライダー。それは、一昨日俺が殺されかかった相手のことだ。

 馬に跨った、月代の侍。真名は分からないが、非常に好戦的で、相手を殺すことを厭わない。

 そして、ランサーのことを宿敵と呼んだ。ランサーにとっては覚えが無いとのことだが。

「僕とセイバーは、一回だけライダーとは手合わせをしていてね。非常に手ごわい相手だった。しかも、その時は狂化していてね。真っ黒なケダモノと手合わせしたのだけれども、決着がつかなくて取り逃がしてしまった。姿形を見ることもできなかったので、正体を掴むための手がかりも無い」

 成田さんはゆっくりと待合室のソファーに腰をかける。

「ただね、早くライダーを止めないといけないって思っているんだ。犬塚くんは、気が付いているかな? 奴は、この街の人たちを無差別に殺して回っているんだ」

「殺し......まさか」

 俺は昨日顔を合わせた、刑事さん――結城さんのことを思い出していた。ランサー曰く、あの人は既に死んでいたという。死んでいるのに、わざと生かされているのだ。

「そう、屍人(しびと)と言う。死んだ人間を使い魔として使役するというとんでもない非道な魔術の犠牲者だ。それが今、伊蔵市で爆発的に増えている。少なくとも、人間を殺して回っているのはライダーだ」

 その背後には屍人を増やそうと企む別の誰かが居るようだけどね、と成田さんは付け加える。

「なので、セイバーとも話をしたんだけど、僕たちはまずライダーを排除したいと思っている。僕も、うちの患者さんに危害を加えられるのは嫌だし、君だって周りの大切な人を守りたいだろう?」

 それは同意だ。俺は、隣にいるランサーの顔色を伺う。ランサーも俺の顔を見て、こくりと頷く。

「決まりかな。まずは一つ目はいいとして、二つ目だ」

 成田さんは少し表情を硬くして、言う。

「聖杯を僕に預けてくれると約束してくれるのなら、僕は君たちが強くなる手助けをしたいと思う」

 それは、つまり――負けを認めろ、ということか。

「言いたくは無いけれど、君たちはこのままでは勝てない。少なくとも、僕とセイバーにすら、ね」

「............まぁ、それは尤も、だな」

 これまで口を閉ざしていたランサーが、重たい口を開いた。

「君たちは、自分たちの力を使いこなせていない。そうだろ?」

「まぁ、隠すことでもないというか、もうバレてると思うんで言っちゃいますけど、ぶっちゃけそうです」

 ランサーの代わりに、ここはマスターの俺が答える。

「俺は、このふざけた戦いを止められるなら、それでいい。万能の願望器だっけ? 聖杯に願えば何でも願い事が叶うっていうなら、俺はこの戦いを止めることを願う。でも、それじゃ順序は逆だし、別に成田先生の願いが至極真っ当なものなら、別に叶えてくれたっていい。ただ」

「ただ?」

 成田先生は、優しく問う。

「少し時間が欲しいです。俺は、一人で戦っているわけじゃない」

 そうして、俺はランサーを見つめた。ランサーは少し項垂れたままだ。

「あ、あと、先生が聖杯を託すに値しないと俺が判断したその時には、申し訳ないですが一緒に戦うことは出来ません。いくら、先生とセイバーが俺たちより強くても――」

 俺は、ランサーの手を握る。あっ、という声がランサーから漏れ出る。

「――負けっぱなしでいられるほど、俺とこいつは、やわじゃないっすよ」

「なるほど。君たちは、思ったよりも、強いのかもしれないね」

 いいでしょう、と成田先生は手を叩いて立ち上がる。

「それでは、少し御二人で考えてみてください。私は30分ほど散歩でもしてくるとしましょう」

 成田先生はそのまま、医院の入り口から外へと向かう。

「では、良き作戦会議を」

 

 

 ★

 

 

「ああああ! あのクソ忍者ぜってぇゆるさん」

 アーチャーはブツブツと文句を垂れ流している。

 そのマスター・真里谷健吾――を騙る者――は、無表情のまま、じっと黙っている。

 あの後二人は、アサシンとの死闘を繰り広げたが、どうにも決着がつかず、アサシンの方から「これにて御免」と逃げ出したのだ。アーチャーは追撃を進言したが、健吾が撤退することを決めたのだ。

 だいぶ、魔力を消耗していたのもあり、二人は交戦を終えた後、英気を養うためにある場所へと赴いていた。

 それは、伊蔵市の郊外にある天然温泉が湧く入浴施設だ。どうしてもイライラが収まらないアーチャーと、少し考えを整理したい健吾の利害の一致により、急に裸の付き合いをすることになった。

 アーチャーは律儀にもお金を払って施設を利用することを主張したので、所謂一般利用客としてお風呂に入っている。そのお金はマスター・健吾の財布からなのだが。

 二人は、男湯の露天風呂にゆっくりと浸かっていた。他には人は居ない。

「アイツおっかしいよなぁ、マスター。俺の知ってる所謂アサシンとは違うっていうか。アイツの身のこなし、どう考えてもランサークラスで召喚されたとしか思えない、槍捌きっていうか」

 アーチャーは、片手でパシャリと自らの肩にかけ湯をしながら、語る。

「この俺が一刀両断出来ないって、アイツ相当強いぞ?」

「あぁ、強いな」

 ぼそりと、健吾は呟く。

「そして、俺は弱い」

 アーチャーは、息を呑む。そして、自らの言動を恥じた。

「......すまねぇマスター。ちょっとばかし自分の事ばかり考えすぎちまったようだ。マスターも、なんつーかアレだよな。ちょっと辛いよな」

「いや、謝るのはこちらだよアーチャー。目的の為には手段を選ばないつもりだったけど、少し動揺している」

 健吾は視線を落としたまま呟く。

「この名を借りるにあたっての約束事があってね。それをいきなり破ってしまったみたいだ」

 あーあ、と健吾は半ばヤケクソ気味に笑って見せる。

「まーさか、千葉小夜子がマスターだったなんて。全く、この二年の準備は何だったんだか」

「......仕方ねぇよ。俺だって全く気が付かなかったんだ。俺もここ一ヶ月ほどマスターにくっついて色々見させてもらったけど、魔術の痕跡なんて一切見せなかったぜ、あのお嬢ちゃん?」

「自分の十八番でやり返されるなんて、溜まったもんじゃないね」

 健吾は、遠くの景色を見やる。今日は綺麗な青空だ。だが、この空の青さが妙に恨めしい。

「自分の魔術の得意分野は、偽装と洗脳だ。古来からの言い方を借りると、幻術や妖術と呼ばれる類のものだよ。自身やその他特定の対象を偽り、相手に異なる認識を植え付け、騙し通す。この俺が逆に騙されるってことは」

「つまり、相手の方が一枚上手の、幻術使いってことか?」

 健吾は、頷く。

「前にも言ったよな、アーチャー。小夜子は、俺の幻術が効かなかった。アイツは、俺が成り代わっているということに気が付いたまま、この二年を過ごしていたんだ。俺に気付かれないように、精一杯取り繕っていたけども、俺が分からないわけがない」

「あぁ、聞いたよ。でもギクシャクすることなく、それなりに上手くやれてたんだろ? お嬢ちゃんがアンタに気を使ってたというか、まぁ、何というか」

 アーチャーは少し言葉を濁す。アーチャーは気が付いていた。千葉小夜子という少女の、真里谷健吾への想いを。

「大丈夫だよアーチャー。この俺が気が付かないわけないだろ? まぁ、色んな感情を抜きにして言うと、素直に嬉しかったよ」

 そんな資格なんてないけど、と小さく呟く。

「小夜子には生まれ持っての、魔術耐性があるんだと思う。何度か、試してみたんだけど、彼女にだけは俺の魔術は通じなかった。だからこそ、相手に利用されることはないと思い込んでいたんだけど、詰めが甘かったみたいだ」

「つまり、相手の実力は、マスターよりも上ってことかい?」

「悔しいけど、そういうことだね。だから愚痴ったんだよ。俺は弱いってね」

 アーチャーは健吾の肩に手を置く。その表情からは心配の念が読み取れる。

「なぁ、アーチャー。裸同士でそういう気遣いはちょっとヤバい絵に見えるんだが」

「あ? そう思う? 大丈夫、俺戦国の生まれだからそっちも行けるから!」

 そういえば男色は、戦国武将の嗜みだったなぁと健吾はぼんやりと思い出す。

「そういう冗談は置いといてだな。なぁ、マスター。そろそろ教えてくれてもいいんじゃねぇの?」

「教えるって何を?」

 アーチャーは健吾の肩から手を離した。

「アンタ、二年も前から今回の黒幕を追い続けているんだろ? 相手の正体、知ってんだろ?」

「......まぁ、それは追々話そうか」

「あぁ! まーたそうやってはぐらかす! もういいもんね! おじさん神輿買うから! 風呂あがったら注文するから!」

「お前......」

 またクレジットカードの支払いが増えそうだと、健吾はため息を吐いた。

 しかし、気が付けば頭の中がすっきりしていた。自責の念は少し軽くなったように思う。小夜子はマスターだが、敵に操られているに過ぎない。小夜子を殺す必要は無い。相手のサーヴァントを倒せばそれだけで済むはずだ。

 真里谷健吾の信条は、目的の為には手段を選ばないこと。であれば、その目的が1つ増えただけに過ぎない。非常にシンプルだ。

「そろそろ上がるぞアーチャー。多分今夜、ライダーと雌雄を決することになる」

「おうよ! ってマスター、アサシンはいいのか?」

「あぁ、アイツか。多分また出てくると思うんだけど、問題ないと思う」

 健吾は、よいしょと湯船から立ち上がる。そして、湯船につかったままのアーチャーを見下ろしながら言った。

「俺、アサシンの正体、分かっちゃったし」

 

 

 ★

 

 

「で、どうする気だ守尭。セイバーのマスター、成田だったか? 奴の要求を飲むのか?」

 成田先生が去った後、待合室にてランサーが俺に問いかける。

 その表情は、何とも言い難い。辛そうでもあり、落ち着いてもいる。

 先ほどの戦闘の疲労や傷はまだ癒えていないのか、少し苦しそうだ。そして、セイバーに圧倒的な力の差を見せられたことについて、落ち込んでも居るだろう。でも、少しは状況を飲み込めたようだ。

 そう、俺たちは未熟だ。

 方や魔術の魔の字も知らぬ素人マスター。方や自らの正体も知らぬサーヴァント。

 目を背けていたが、今の状態では勝てるものも勝てやしない。

「正直言うぞ、ランサー」

「そこはくないちゃんと呼んで欲しい」

「えぇ......今ここで言う?」

「だって、呼んでくれたじゃないか」

 俺は息をのむ。そういえば、さっきの戦闘で呼んだ気がする。ごく自然に。

「私は、守尭の考えが手に取るように分かる。だから、さっきどうする気だ、と問い掛けたが、守尭が決めたことなら従う。その代わり――」

 ランサー、いや、くないは俺の顔をまっすぐ見つめる。

「今の私には、この”くない”という名前しかない。だから、せめて名前で呼んで欲しい」

 潤んだ瞳が、俺に訴えかける。

 そりゃそうだ。自分の正体が全く分かっていないことに、誰よりも焦りを覚えているのは、くない本人なのだ。アイデンティティとして自分を保つために、たった1つでも自身を定義するものを、確からしくしたい。そういう思いを、どうして俺は気が付いてやれなかった。

 名前で呼んで欲しい、だって相棒なんだから。そう、シンプルな話だったのだ。

「分かったよ、くない」

 俺は、ランサー改めくないに語り掛ける。

「もう分かってると思うけど、俺は成田先生を騙すからな」

 ハッキリと宣言した。くないの表情は変わらない。

「聖杯は俺が貰う。というか、誰も信用なんて出来ない。一応、成田先生には従うフリを見せるけど、成田先生がどういう願いを持っているのか分かったもんじゃないから。見極めたいっていうのは本音だ」

 だから、と俺は言葉を区切る。

「俺と、お前で、どういう風に聖杯を使うのかを、考えて決めたいと思っている」

 くないは、しっかりと頷く。

「お前、聖杯への願いも思い出せないんだろ?」

「あぁ、それは面目ない」

「じゃあ、一緒に探そうぜ。お前の願い」

 俺はハッキリと伝える。

「俺の願いは、この戦いを止めたい。その上で、お前の願いを叶えてやりたい。そこは二人で考えようぜ」

「守尭」

 くないは、少し顔を伏せる。その口元が動いた気がした。俺の気のせいで無ければ、ありがとう、と動いたように見えた。

「よし、そうと決まれば同盟を組むとしよう。聖杯は渡さないけど、まぁ、そこら辺は戦いを止めてからゆっくり考えようぜ。その時に俺たちとセイバーがまた一騎打ちすればいいんだから」

「守尭、貴殿は結構無茶なことを言うな」

 くないは笑う。

「だが、そこが面白い」

「おうよ。その為にも色々と教わらないとな」

「誰が何を教わるって?」

 と、急に野太い声が現れる。

「うわぁ!」

「そこまで驚かんでも。ほら、立花道雪だよ~」

 急に2メートルの大男が、病院の入り口から松葉杖を付きながら入ってきた。その姿は先ほどのジャージ姿に、エプロンをかけており、可愛らしい麦わら帽子も被っている。なんで英霊っていうのはこうもコスチュームチェンジが好きなんだ。

「あ、さっきの話、拙僧全部聞いちゃったから」

「え、あ、はい」

 まさかいきなり聞かれるとは。少し声が大きすぎただろうか。

「まぁでも、拙僧はそなた達の考えで良いと思うがな」

 と、セイバーは、思っても無いことを言う。

「うちのマスターも、まぁ無欲な男でな。あぁは言ってはいるが、聖杯への願いは、自分の私利私欲のためではない。他人のために使いたいと思っている男よ」

 そしてセイバーはその大きな親指で外を指し示す。

「どうだ、ちょっくら付き合わんか?」

 

 

 ★

 

 

「牛の乳っていうのは美味いもんだな」

「そうか、戦国時代には飲む文化って無かったんだっけか」

 健吾とアーチャーは、入浴施設の休憩室にて、瓶牛乳を味わっていた。

「まぁ、地域によっては食べたりもするんだけどな。俺はそこまで馴染みが無いのよ」

「確か、アーチャーの所の茨城つながりで言うと、江戸時代末期の水戸藩主、徳川斉昭公なんかは滋養強壮のために牛乳を好んで飲んでいたとか何とか」

「ほほぉー、徳川殿のご子息か。やっぱり目の付け所が違うねぇ」

 そういって、アーチャーはごくごくと牛乳を飲んでいる。

「それにしたって、どうして風呂上りには牛の乳なんだマスター」

「それは、アーチャーが生きていた時代からは随分後なんだけど、かれこれ80年ぐらい前に、世界を巻き込んだ大きな戦争があってね、その戦いで負けてしまったのよ。代わりと言っちゃあなんだけど、戦後この国は急激に経済成長を遂げるんだよ」

「あぁ、世界大戦、だっけか。2回もあったなんてすごいよな。俺も出たかった」

「あんまりそういう不穏なことを言うな。結構デリケートな話なんだぞ」

 そういうもんか? とアーチャーは首をかしげている。戦いが常だった時代に生きていたのだ。戦争を忌み嫌う現代日本の考え方は理解が出来ないのかもしれない。

「で、戦後の成長期において、とあるブームが起きる。それは、銭湯と家電製品、特に冷蔵庫だ」

 健吾は、飲みかけの牛乳瓶をアーチャーに掲げる。

「牛乳というのは、腐りやすい。なので、継続して冷やしておくことが出来る冷蔵庫をアピールするのに恰好な製品なんだよ。あの牛乳がいつでも手軽に飲めるって言うのに、世の中の人はときめいたわけ」

「確かに、氷室が各家庭にあるっていうのは夢だよなぁ」

「そそ。だから、みんなの社交場である銭湯には冷蔵庫でキンキンに冷えた牛乳が置かれるようになったというわけ。どちらも、最先端だったからってこと」

「流石、歴史研究会だけあって、語り口調が分かりやすいことよ。ちなみに、歴史好きはマスターそのものの趣味?」

「あぁ、これは真里谷健吾としてというより、”俺”そのものの趣向だと思ってくれて構わないよ。過去を知ることが、好きなんだ」

「左様か。為になったぞマスター。そして、もっとこの現代が好きになった」

 牛乳を飲み干し、ニヤリと笑うアーチャー。お代わりしてもいいかな、という視線を健吾に送るが、それは華麗にスルーされる。

「そんで、マスターよ。聞きたいのは、アサシンの正体についてだ」

「あぁ、そっちの話? というか、アサシンはアーチャーのこと知ってる風だったぞ。自力で思いつかないのか?」

「いやー、俺も色んな人との繋がりはあったけどもよ、何せ文通が多くってな。直接相まみえる機会なんてそうそう無いもんで」

 まぁ、俺、有名人だし? とアーチャーはおどけて見せる。

「まぁ、アーチャーもぶっちゃけマイナーよ? 知ってるの俺みたいな歴史ヲタクだけよ」

「えぇ!? そりゃないぜマスター」

 割とガチ目にショックを受けているアーチャー。それを見て健吾は意地悪に笑う。

「じゃあヒントだ。アサシンの真名だけど、実はめちゃくちゃ有名」

「んな!? あのクソ忍者に負けるってありえねぇ! マスターもっとヒントを! ヒントをくれよ!」

 むきになる金髪アロハシャツの男。これは非常に滑稽だと、笑いをこらえ切れない健吾。

 じゃあ、と健吾はアーチャーに対して追加でヒントを与える。

「じゃあヒント。さっき水戸藩の話したろ」

「おう、徳川殿のご子息だろ」

「徳川がらみってことでさ。なぁアーチャー、信康事件って、知ってる?」

 

 

 ★

 

 

 俺とくないの2人は、セイバーに連れられて、医院の裏手にやってきた。

 そこには、こじんまりとした4平方メートルほどの花壇が、美しく彩られていた。

「まぁ、そこに座りんさいな」

 よく見ると、有名なキャンプグッズ系ブランドの折り畳みチェアが、2脚広げてあった。俺とくないはセイバーに促されるままに腰かけた。

 よいしょ、という言葉と共に、セイバーは俺たちに背を向けて、どっかと地面に座り込む。土でジャージが汚れてしまうのも厭わない。

「土の匂いが、好きでね」

 セイバーは軍手を身に着けると、草むしりを始めた。

「今は”がーでにんぐ”と言うらしいが、実は拙僧この見た目に反して花を育てるのが好きでな」

 セイバーは、立花だけに、とくだらない冗談を言っては笑う。

「......鬼道雪が花を愛でるなど、聞いたことがないぞ」

 くないが恐る恐る口を開く。こいつ、セイバーに少々ビビっているみたいだ。いつもの生意気な様子を知っているだけに、ちょっと面白い。

「じゃあ、どう聞いたことがあるのかな?」

 くないは、ハッとした表所を浮かべた。

「知っているかご両人。この聖杯戦争は、通常の聖杯戦争とは違うようでな。その名も、鬼・聖杯戦争と呼ぶ」

 鬼。その言葉に、ざわりとした不快感を感じた。

「具体的には、日本の16世紀から17世紀初頭の戦国時代と呼ばれる、限られた時代に生きた英霊のみを召喚して行う魔術儀式だ。そして、この聖杯戦争で召喚されるサーヴァントにはさらなる共通点がある。それは、皆が皆、鬼と呼ばれる異名を持つことだ。拙僧で言えば、鬼道雪、とな」

「それは、つまり――」

「――そうよ、ランサー。お前さんも、鬼なのだよ」

 セイバー・立花道雪はハッキリと言った。

「そして、鬼道雪の名を聞いたことがある。それはつまり、拙僧と生きた時代が被っているということに他ならない。そなた、記憶が無いのだろう? だが、心の奥底では分かっておるのよ。言葉の端々から、溢れ出ておるのよ。自分が、どういった存在なのか、その正体を」

「私が......鬼?」

 ランサーは、言葉を噛みしめている。

「拙僧には、そなたのような可愛らしい女子と刃を交えた記憶は無い。なので、毛利や竜造寺といった北九州にて戦った者とも違うだろう。ましてや、島津とも」

 島津、という言葉にだけ、凄みがあった。俺は、立花道雪には詳しくは無いが、恐らく島津家とは因縁があるのだろう。

 と、

「し、まづ......」

 くないの様子がおかしい。手が、震えている。顔色が悪い。

「大丈夫か、くない」

「あ、あぁ、大丈夫だ。何でもない」

 島津、ともう一度小さく口ずさんだ。どうしてだろう、くないが怯えている。もしかしたらくないの真名に繋がるヒントなのに、俺は目の前のおびえるようなくないの姿を見て、これ以上深堀りしたくは無かった。

 俺は話題を変えることにする。

「そういえば、セイバー。聞きたいんだけども」

「おう、良いぞ。何でも聞いて下され」

 ニコニコと草をむしり続けるセイバー。本当に、土いじりが好きなんだろう。それを見守りながら、俺はセイバーへ疑問を投げかけた。

「あの、黒くなるやつ。あれは一体何なんだ?」

「あぁ、あれは狂化スキルよ。その名も、”鬼神招来”。鬼の名を持つサーヴァントだけが有する能力で、簡単に言ってしまうと」

 セイバーは草むしりの手を止めて俺たちに向かって振り返る。

「バーサーカーになれるのよ」

 バーサーカー。狂戦士。その名の通り、戦うこと相手を屠ることにのみ特化したクラスだ。その特徴は狂化。正常な判断力が失われ、会話をすることも困難となるが、そういった理性と引き換えに限界まで魔力を引き出し、ただ敵を倒すための装置と化す。

 ゲームの説明を借りると、全クラスに有利となる代わりに、全クラスからの攻撃が弱点にもなる。諸刃の剣のクラスだ。

「差し詰め、この鬼道雪は、バーサークセイバーという所だな。うちのマスターが言うておったわ。本当は狂化などさせたくは無いが、この能力を使いこなさなければ、敵に勝つことはできない、と」

 つまり、とセイバーは言葉を区切る。

「ランサー。そなたも、鬼となり、戦わなければ生き残れない」

 その表情は、真剣そのものだった。

「まぁ、まずは自分を見つめなおすことよな。自身の正体のヒントはそこかしこに散らばっておる。まずは、そのへなちょこな種子島を捨てて、自身の本当の武器を探す所からかの」

「へなちょこ......」

 うわ、くないさんてば口を尖らせてる。そんなに自分の戦闘スタイルを否定されるのが悔しいのか。

「ランサーというクラスには必ず意味がある。そこをよく考えることだな。まぁ! 拙僧はそなたの正体など全く分からんのだが!」

 ガハハ、と豪快に笑うセイバー。

「せめてなぁ、ライダーの正体でも先に知りたいところなのだがな」

 そのセイバーの言葉に、くないと俺は反応する。

「私はちゃんと見ていないからな。召喚された時には既に真っ黒の化け物だったし。守尭がちゃーんと観察しておかないからだぞ」

「くない、そう言うなよ。俺、殺されかかったんだからな」

「あの男、最後に私のことを宿敵だとかどうとか言っておったな。そんなにくないちゃんの事が可愛かったかのう」

 いや、そういうんじゃないだろ。でも、よく考えれば、ライダーの正体が分かれば、くないの正体も分かるんじゃないのか。

 俺はよくよく、ライダーの姿格好を思い出してみる。

「そうだなぁ。ライダーは文字通り馬に乗っててさ」

 ん?、とセイバーは言葉を漏らす。

「馬とな、ランサーのマスターよ」

「あぁ、そう、馬。そんで月代っていうの? 頭を綺麗に反り上げててさぁ」

「月代......」

「結構綺麗な柄の服着てるのよね。なんつーか、扇? みたいな家紋だったけど」

「扇......おいランサーのマスターよ」

「何だいセイバー」

「お主ら、狂化していない状態のライダーと会ったのか?」

「え、そりゃ会った、けど......もしかして」

「そう。拙僧たちは、真っ黒の狂化した状態のライダーしか会ってない。お前さんどうしてそれを早く言わんのよ!」

 急にセイバーは語気を荒げる。いや、めちゃくちゃ怖いんだが。

「あーマスター聞こえるか? ランサーのマスターが、我々に情報を秘匿しておった。すぐ裏庭に来られたし」

 空中に向かってボソボソと呟く。どんなカラクリか知らないが、これで意思疎通できるなんて羨ましい。とか言ってる場合か! 本当にごめんなさい!

「で、朗報だ、お主らよ。さっきの月代と扇の家紋でだいたい分かった」

 よっと、言いながら、セイバーは指を使って地面をなぞる。

「ちなみに、家紋というのはコレで間違いないか?」

 これは、絵か。それも、扇の。

「ま、間違いない......」

 何だセイバーって、絵が描けるのか。立花道雪ってそういう逸話あるのかも。

「――――!」

 そして、俺の隣で覗き込むくないは、言葉を失っていた。

「見覚えがあるんじゃな? ランサーよ」

 ランサーは答えない。いや、既視感があるだけで、答えられないのだろう。

「教えてやろう。この家紋は、”公饗(くぎょう)に檜扇(ひおうぎ)”と言う。将軍足利義晴公や義輝公を京より追い払い、室町幕府の中枢を牛耳った梟雄・三好長慶(みよしながよし)に連なる一族。讃岐国・十河(そごう)家の家紋として知られている」

 十河。その言葉に、くないの小さな身体が震える。

「そして、十河の名で、鬼と名のついた武将がたった1人存在する」

 セイバーは、まっすぐと俺たちを見つめながら言う。

「鬼十河と呼ばれし猛将。その名は、十河一存(そごうかずまさ)」

 だが、とセイバーは語気を強める。

「鬼十河殿と、事を構えた女子など聞いたことも無い。だが、聖杯に呼ばれた際に、知識として与えられたものが謎を解く鍵かもしれん。サーヴァントはな、本人に近しい存在が、本人として召喚され得る事例があるらしい。例えば、葛飾北斎と言う有名な浮世絵師がいるそうだが、とある世界においてはその娘が北斎なる御仁として召喚されたことがあるそうな」

 ごくり、と唾を飲み込む。流れ込んでくる情報を必死に整理して聞く。

「つまり、鬼十河殿として召喚されたその青年は、実は鬼十河殿ではなく、それに近しい存在であるという推論が出来るのではないか、と拙僧は考えるわけ」

「ということは......」

「そう、例えば義理の息子、とかな」

 義理の、息子?

「なぁ、ランサーよ。お主、気が付いているのではないか?」

「............あぁ」

 くないは、躊躇いながらも、肯定した。

 その顔は、とてつもなく恐ろしいものも一緒に思い出してしまったかのように、青ざめていた。

「お主”くない”と呼ばれていたのう。よく考えられた渾名だ。なぁ、ランサーよ。お主と拙僧は戦場にて直接面識は無かったが、主家たる大友家が世話をかけたようだの」

 そうして、セイバーは告げた。

「宮内少輔(くないしょうゆう)と、お呼びすれば良いかの? それとも――姫若子(ひめわこ)か?」

 その瞬間、疾風怒濤の衝撃がセイバーに襲い掛かった。

 見やると、くないは――――一瞬にしてその手に大きな槍を手にしており、その槍の切っ先はセイバーの首根っこギリギリで寸止めされていた。

「道雪公、今なんと?」

「おー怖い怖い。やっぱり、お主の正体はあ奴じゃったか」

 おどけて見せるセイバー。わざと、くないを焚きつけたようにも見える。

 そもそもなんだって。姫若子? それは一体何の異名なんだ。

「おっかしいのう、拙僧が伝え聞くに、お主は長身でガタイの良い大男では無かったかのう」

「それは......息子の方だ」

 あぁなるほど、とセイバーは合点がいったようだ。

「先ほどは申し訳ない。お主の眼が死んでおってな、見ちゃおれなんだ。姫などと言って大変失礼した。のう、――土佐の鬼若子(おにわこ)」

 鬼。確かに、セイバーはそう言った。その言葉に身体をこわばらせる、くない。そして、セイバーの口より、俺のサーヴァント・ランサーの真名が告げられた。

 

 

 

「――――長宗我部 元親(ちょうそかべ もとちか)殿よ」

 

 

 

 ★

 

 

真名解放(仮)[NEW!!]

サーヴァント・バーサークライダー

 

真名:十河一存?

通称:鬼十河

宝具:???

※この情報は不完全です

※引き続きストーリーを進めることで明らかになります

 

 

 

真名解放[NEW!!]

サーヴァント・バーサークランサー

 

真名:長宗我部元親

通称:鬼若子 / 姫若子

宝具:???

 

マテリアルに記録されました

引き続き、物語をお楽しみください

 

 

 

第1章 第6節 了

 

本節にて第1章は完結となります。

次へ進みますか?

>はい 

 いいえ

 

 

 

【F/BR マテリアル】

★鬼・聖杯戦争 サーヴァント霊基&登場人物一覧★

 

 バーサーク・セイバー 立花道雪(鬼道雪)【NEW!!】

 セイバーのマスター  成田左近【NEW!!】

 

 バーサーク・アーチャー 金髪アロハシャツの男

 ※キーワード:常陸国(茨城県)、常陸介、八文字【NEW!!】

 アーチャーのマスター  真里谷健吾

 

 バーサーク・ランサー 長宗我部元親(鬼若子 / 姫若子)【NEW!!】

 ランサーのマスター  犬塚守尭

 

 バーサーク・ライダー 月代に扇の家紋の侍

 ※キーワード:義理の息子、公饗に檜扇【NEW!!】

 ライダーのマスター  千葉小夜子【NEW!!】

 

 バーサーク・キャスター ???

 キャスターのマスター  ???

 

 バーサーク・アサシン コスプレ忍者野郎

 ※キーワード:槍使い、信康事件【NEW!!】

 アサシンのマスター  ???

 

 バーサーク・バーサーカー ???

 バーサーカーのマスター  ???

 

 and more…?

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