仮面の玩具 作:スタレニワカ
ホテル『レバリー』前
「花火は来ないのか?」
ホテルレバリー、ひいては夢境からようやくの脱出を果たす、シリル。
だが、いつもニコニコとこちらを見つめている恐怖の象徴が居ないことに、また別の恐怖を感じた。
「はい、花火さんはまだ舞台の用意があるらしく、『また会えるよ、シ◯ジくん』と」
「……そのまま首飛ばして死んでくんねぇかな」
紳士服の上に白くて綺麗な泥一つないお気に入りのロングコートを着込み、シリルは眉をひそめる。
シリルは全く持って二度と会いたくなかった。
「舞台、ねぇ…………」
「ええ、どうかしましたか?」
数瞬の間を置いて、シリルは不愉快そうに眉を顰めて問うた。
「お前達って未来でも見えてんの?」
これが仮面の愚者とシリルの違い、
サンポは興味深そうにして言った。
「いえ、いえいえ。未来なんてとてもとても」
サンポがそうおどけた。
首飾りが少し揺らいだ。
「…………そうかよ、ならいい」
未来が見えない、その単語に元・神秘の司令として安心とも似つかない感情を押し留めて、シリルはそう言った。
シリルは口をまごつかせて、気を取り直すように口の中で呟く。
「不完全な現在に」「乾杯、ですか?」
サンポに自身のセリフを取られて実に忌々しそうに舌打ちをついた。
ふわりとカラカラ首飾りが揺れた。
自身を示す言葉すら奪われ、シリルは無言で歩き出す。
銀雪の星、ヤリーロⅥへ。
「さ、サンポオオォォォォォォォォォォオオオ!!!!く、クソ!ふざけやがって」
あたりを見て忌々しそうに叫ぶ。
銀世界にぽつんと取り残されて、無駄になるとわかっていても叫ぶ。コートは雪でびしょ濡れを通り越しカチコチに凍りかけていた。
首飾りが左右に揺れた。
「クソ!クソ!クソ!あいつらぁぁ!だから嫌いなんだ!!」
頭を掻きむしった。
「嗚呼、コートが僕のお気に入りだったのに…………」
膝をついた。流れる悔し涙は仮面に優しく受け止められて、シリルは更にブチギレ仮面を剥ごうとするが離れない。
首飾りが激しく揺れている。
「3日だぞ!?この僕を3日雪原に放置とかありえないだろ!?!?」
「ねえ、
「ああ、だろうな」
「サンポ、知り合い?」
「ええ、まあ、知り合いといいますかなんといいますか、……多分話しかけたら戦闘になるやつかと」
そう言われて、なのかと丹恒、そしてサンポの中では話しかけないことに決まった。
だがそれが逆に、開拓者の開拓魂に火をつけた!!
シリルに歩み寄り、開拓者が背中に手を置く。
「ねえ、あんた、大丈夫?……うわ、冷たッ!」
「勝手に触って、『うわ、触らなきゃよかったなぁ、……はあ』みたいな雰囲気出されても傷つくだけだよ。こっちがな!!」
サクサクと雪を踏みしめて、二人組がやってくる。
「ちょっと、この人が言う通り失礼だよ、ね、大丈夫?」
そう言ってなのかがシリルに手を差し伸べた。
「ああ、感謝す「冷たッ!!」……もうすでに君たちのことが僕は嫌いだ」
苦虫を噛み潰したかのように言った。
首飾りは360度の回転を披露している。
「すまない、うちの奴らが、……ところでどうしてこんなところで這いつくばっていたんだ?」
「………………そうだな、青い髪の胡散臭いやつに依頼されたんだが、突然、ここに放り出されたんだ、あの野郎を見なかったか?」
そして流れるように後方を見て、凍ったホルスターから古風のリボルバーをベキベキと引き抜き発砲した。
「ぎゃあ!!し、シリルさん!、当たったらどうするんですか!?仲間でしょう?私達」
シリルは一つ舌打ちをして、カチャリと撃鉄を上げた。
そして、サンポとシリルの間になのかと開拓者が入りサンポをかばう形になる。
「ちょ、ちょっと待ちなって!仲間なんでしょ?!」
「そいつが勝手に言ってるだけだ」
「依頼されたって」
「前払いでそいつの命をいただく」
「なにか理由があったのかも」
「そいつの行動に意味はない」
「も~~!あんたも同じくらい胡散臭いんだし、仲良くしたらどうなの!?」
ついに堪忍袋の緒が切れた、と言わんばかりのその言葉に、
「
シリルは膝から崩れ落ちた。
「このまま死にたい」
「それは物理的に無理だと思いますが……、それに、死んでしまったら、私袋叩きにあっちゃいますし」
「なれよ」
「ひどいですねぇ、…………では、皆様、ひとまず、シリルさんはここに置いといてベロブルグへ向かいましょう」
「え、でも」と、なのかがシリルを傷つけてしまったせいか、はたまた、置いていくことに罪悪感を抱いているのか、シリルの方を見て、サンポに何か言おうとするが、シリルは拗ねた子供のように膝を抱えて雪に沈んでる。
凍ったコートの先端が風に吹かれて少し欠ける。
「なのか」
開拓者の言葉になにか妙案があるのかと、顔を上げる。
「開拓の旅には見捨てることも大切だよ」
「何いってんの!?」
そして、一行はサンポの道案内に従い、シリルから離れるのだった。