黄前久美子には同い年の妹がいる。ただし、不貞で生まれた腹違いの   作:小林優

1 / 7
最近響けユーフォニアム一気見したので、衝動的に書いてみたくなって書きました、設定が間違ってたらすみません。




お姉ちゃんって呼んでもいいですか?

桜舞う季節が近づく中、あたしは準備をしていた。父に会うための、そして昔送られてきた年賀状に印刷された名前と写真しか知らない、腹違いの姉たちに会うための準備を。

 

時は少し遡って12月。私が高校受験の志望校選びで悩んでいたところ、母から突然「京都に引っ越す」と告げられた。

言われるがまま、茨城から逃げるように京都へ引っ越すことになり……正直、誰も私の過去を知らない土地に行けるのは少しだけ助かった。

1月にはとりあえず自分の学力で入れそうな京都の高校に願書を出して受験した。

 

そして3月。無事に合格を決めると、中学校の卒業式を終えてすぐに京都の新居へと移り住んだ。

そこで初めて、母から衝撃の事実を告げられた。

死んだと聞かされていた父親が生きていること。毎年うちから出し、向こうからも送られてくる数少ない年賀状の相手が、私の本当の父親であること。そして、私には同い年と年上の、腹違いの姉が二人もいるということ。

私は会ってみたかった。本当の父親と、二人の姉に。

 

3月にそして合格し、京都の新居に卒業式を終えたらすぐに行った。

 

そしてそこで母のから父親は事故ではなく生きているという事を、そして毎年出して向こうからも貰っている数少ない年賀状の相手が本当の父親だと、そして腹違いの姉が2人いるという。

 

私は会って見たかった、父親と姉に。

 

 

そして今日、日曜日。さすがに平日に押し掛けるのは気が引けたので休日を選んだ。仕事終わりに『隠し子』が訪ねてくるなんて嫌だろうし、休日のほうがまだマシなはずだ。

だから今、こうやって念入りに服を選んでいる。前に着ていた服は半分くらいダメになってしまったから、母の服からも引っ張り出して、白いニットと長いプリーツスカートという着慣れない清楚な組み合わせを作った。出来る限り第一印象を良く見せたいからだ。

鏡の前に立ち、自分の姿を確認する。少し色白の肌に、綺麗に整えた茶髪のセミロングのストレートヘア。清楚な白いニットともよく合っていると思う。

鏡の前で、ニシシと笑って自撮りをし、くるりと回ってみる。

「黄前麻美子お姉ちゃんと久美子お姉ちゃん、会うの楽しみだなぁ」

 

 

少し肌寒いなか、家を出て歩く。目的地が徒歩圏内なのは偶然だろうか? お母さんは全て知っていて今のマンションを選んだのだろうか。そんなことを思いながら歩みを進める。

 

すぐ近くには平等院鳳凰堂があるらしい。さすが京都、世界遺産が沢山ある。平等院鳳凰堂も世界遺産だっけ? 十円玉の絵柄なのは知ってるけど。

 

そうこうしているうちに、目的地のマンションにたどり着いた。

……デカい。明らかにデカい。茨城の片田舎では見かけない、5階以上ある立派なマンションだ。田舎者丸出しだけど、これどうやって入るんだろ。ドアノブが無くて自動ドアだけだし、そもそも開かないし……。

 

うーんと首を捻りながらなんとなく左手を見ると、数字のキーパッドがあった。なるほど、これで部屋を呼び出してオートロックを解除してもらうのか。年賀状の住所を見ながらナンバーを入力する。多分、部屋番号を押せばいいんだよね。

入力し終わってピーンポーンと音が鳴ると、少し遅れて「はい」と声が聞こえた。どうやら繋がったらしい。

「どなた?」という女性の声。声のトーンからして、うちのお母さんと同じくらいの年代だろうかと思いつつ、自分の名前を名乗る。

 

「川治白理といいます。黄前健太郎さんはご在宅でしょうか」

 

 

入力し終わりピーンポーンと音が鳴ると少し遅れて「はい」と声が聞こえる、どうやら繋がったらしい。

 

どなた?と女性の声……これはもしかしてお母さん見たいな感じだなと思いつつ、自分の名前をだす。

 

「川治 白理といいます、黄前健太郎さんはご在宅でしょうか」

 

少しの沈黙があった。10秒くらいだろうか。

「……上がってください」

その言葉と共に、オートロックの自動扉が開いた。

私は今の沈黙の意味を考えつつも歩みを進める。少なくとも、結婚している奥さんは私のことを知っているはずだ。うちと年賀状を送り合っていたんだから、知っているに決まっている。不安を押し殺しながらマンションの廊下を進む。

 

いざ部屋の扉の前まで来ると、急に腰が引けてきた。開口一番に「帰れ、妾の子が!」なんて言われたらどうしよう。そんな最悪の想像をしながらインターホンを押す。

ピーンポーンと鳴った直後、ガチャンと扉が開いた。目の前でスタンバイしていたのだ。

そこに立っていたのは、眼鏡をかけた怖そうなおじさんだった。

 

「よく来た。入りなさい」

 

おじさんが硬い声で言う。そして靴を脱ごうとすると、すぐに奥さん――確か、明子さんが玄関に出てきた。

「久しぶりね。白理ちゃん、大きくなったわね」

はっ? とフリーズする。え、私のこと知ってるの? 『大きくなった』ってことは、つまり昔会ったことがあるってこと!?

 

「お邪魔します!」

私は慌てて元気よく、明るい声を作って靴を脱いだ。

 

そしてリビングに案内されると1人の大人の女性が座ってた、多分麻美子さんだ。

 

「お母さんえーと親戚の子?それとも久美子の友達?」

そう麻美子が呟く。

 

明子さんが半分そういう感じと言うそして、明子さんは久美子を呼び出して来た。

 

久美子さんは眠そうな顔で現れたが、見知らぬ来客の私を目にして、あからさまに「げっ」と顔を顰めた。

 

 

そして私の説明が始まった。

 

黄前健太郎が私の事を語りだす、

 

「麻美子、久美子。落ち着いて聞いてくれ」

おじさん――いや、私のお父さんである黄前健太郎は、重苦しい空気を振り払うように咳払いをした。

 

「彼女は、川治白理。……私の、娘だ、この春から高校生になる、久美子と同い年だ……」

 

ピキッ、と。

まるでガラスにヒビが入るような音が、幻聴として聞こえた気がした。

リビングの空気が、一瞬にして絶対零度にまで凍りつく。時計の秒針の音すら消え去ったかのような、圧倒的な静寂。

 

「……は?」

最初に声を出したのは麻美子さんだった。彼女の視線が、私と、そして健太郎さんを射抜くように鋭くなる。

 

「お父さんの、娘? ……ちょっと待って。この春から高校生って、久美子と完全に同い年じゃない。それってつまり」

麻美子さんの声のトーンが、一段、また一段と下がっていく。それに比例して

麻美子さんの顔に、明確な『嫌悪』が浮かび上がった。

「お母さんが久美子を妊娠してる時に、外で女作ってたってこと?」

 

「うわぁ……」

麻美子さんの言葉に続くように、隣に座っていた久美子さんが、心の底からのドン引きを声に漏らした。

彼女はサッと健太郎から身体を離し、まるで汚物でも見るような冷たい視線を実の父親に向ける。

 

「お父さん、マジで引く……。うわ、信じられない……」

「いや、その……すまない。本当に昔のことで、魔が差したというか……その、明子にも本当に申し訳ないことを……」

「魔が差したで済む問題じゃないでしょ!」

怒りを露わにする麻美子さんを窘めたのは、あろうことか一番怒っていいはずの明子さんだった。

 

「なんで今更そんな隠し子を家に上げるのよ! どういう神経してんの!? お母さんもお母さんよ、なんでそんな平気な顔してられるの!? バカじゃないの!?」

「麻美子、もういいのよ。落ち着きなさい」

 

「お父さんも反省しているし、もう済んだことよ。それに……この子には、関係のないことだから」

明子さんの声は、不倫相手の娘を前にしているとは思えないほど穏やかだった。

(……えっ?)

私は内心、激しく戸惑った。

普通、怒るよね? 追い返すよね? なんでこんなにすんなり受け入れてるの? 、明子さんの私を見る目は、どこか腫れ物に触るような、奇妙な優しさが滲んでいる気がした。

「関係ないって何よ! お母さんはこれでいいわけ!? 私はこんなの絶対に認めないから!」

「私、こんな最悪な空気の所にいたくない。もう出かける」

麻美子さんは立ち上がると、私を汚いものでも見るようにひと睨みして、バタン!と大きな音を立ててリビングから出て行ってしまった。

 

残されたリビングには、地獄のような沈黙が降りた。

健太郎さんは気まずそうに下を向き、明子さんは困ったように微笑んでいる。そして久美子さんは、とんでもないトラブルに巻き込まれたとばかりに視線を泳がせている。

 

「……実はね、久美子」

その重い空気を縫うように、明子さんが静かに口を開いた。

「あなたたち、小さい頃に一度だけ、一緒に遊んだことがあるのよ」

「「えっ?」」

私と久美子さんの声が見事に重なった。

明子さんは少しだけ目を細め、懐かしむような、それでいてどこか複雑な表情を浮かべる。

「あなたがまだ本当に小さかった頃よ。白理ちゃんのお母さんが、うちに遊びに来たことがあってね。……まあ、二人とも小さすぎたから、覚えてないわよね」

(遊んだこと……? 全然覚えてない……)

私も久美子さんも、互いに顔を見合わせて首を傾げる。

 

(ヤバい、ヤバいヤバい。空気が最悪だ)

胃の奥がギュッと締め付けられる。私は焦っていた。

 

こんなドロドロの愛憎劇をしに来たわけじゃない。私はただ、無条件で笑い合える「家族」と「繋がり」が欲しかっただけなのに。このままじゃ、私はただの『家庭を壊す不倫の子』として忌み嫌われて終わってしまう。

嫌だ。見捨てないで。

私は、胃からせり上がってくるような恐怖と情けなさを必死に飲み込み、顔の筋肉に思い切り力を入れた。中学生の時に鏡の前で何度も練習した、とびきり明るい『大丈夫な私』の笑顔を顔面に張り付ける。

 

「なんか、急に押し掛けちゃって、騒がせちゃってごめんなさい! でも、私……ずっと、姉妹っていうのに憧れてて……!」

私は、気まずそうに縮こまっている久美子さんに向かって、身を乗り出した。

「久美子……さん? は、あたしと同い年なんですよね! もしよかったら、その……『お姉ちゃん』って呼んでもいいですか!?」

 

「ええっ……」

突然矛先を向けられた久美子さんは、間の抜けた声を出し、目をパチクリとさせた。

「え、私? いや、お姉ちゃんって言われても……同学年だし……」

 

久美子さんは困り果てたように両親を見たが、二人は何も言わない。

親の不祥事でいきなり現れた同い年の隠し子。普通なら絶対に嫌だろう。でも、彼女の目は「怒り」というより「面倒くさい」という感情の色が濃かった。重すぎる空気に耐えかねて、早くこの場を丸く収めたいという葛藤が顔に書いてある。

 

「まあ……いっか。別に減るもんじゃないし。学校が一緒じゃなければ、外で会うこともないだろうし……うん、まあいい、よ」

 

妥協。諦め。事勿れ主義。

どんな理由であれ、彼女は私を拒絶しなかった。

 

「ほんと!? ありがとう、久美子お姉ちゃん!」

(よしっ……!)

私は心の中でガッツポーズをした。

別に同居するわけじゃないし、学校も別なら、たまに会う「都合のいいお姉ちゃん」として関係を築ける。久美子さんはそう計算して妥協したのだろう。

 

(高校、か……)

そういえば、あたしの通う高校ってなんて名前だっけ。京都への引っ越しが決まって、家からの距離とか自分の偏差値だけで適当に願書を出したから、正直まったく覚えていない。

でも、まあいっか。

 

 

そう、黄前久美子と私は知らないのだ。

私と久美子お姉ちゃんが4月から、同じ『北宇治高校』に通うということを。

 

私は満面の笑みで「大丈夫だ」と自分に言い聞かせた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。