血まみれヒーロー   作:であーね

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4/27修正 タイトルの書き方を統一


第一話 入試前 献血

 

 渡我先輩は、卒業式の直後に行方不明となった。なんの問題も起こしていなかった彼女の失踪は両親も困惑し、警察に捜索願いが出されたようだ。恐らくだが、僕を害したことで捕まらないために逃げたのではないかと思われる。僕が被害を申し出ていないから取り越し苦労なのだが……。

 

 教室で血まみれになって一人残された僕は、その後すぐ教師たちに発見された。だが、僕の体には傷一つ残っていなかった。血液にはそもそも外傷時に組織を修復する機能が備わっている。僕の『増血』は、失った血を補うだけでなく、血自体の修復力を増やすことも可能だ。流血に伴う肉体の損傷はその気になれば超高速で修復・補完してしまえる。血を流し続けるのは完全に趣味だ。

 

 警察や学校はあの日のことを「血田万利が一人で自分の個性を制御できずに暴走させ、教室を汚した」と結論づけた。僕は「過度の個性使用」として厳重注意を受け、真っ赤に汚れた教室の清掃を一人で命じられることになった。

 

 あの日彼女がいたことを示すものは僕の喉と胸に突き刺されたナイフだけになった。ナイフは大切に自室に保管してある。僕は教室を染め上げた血を拭き取りながら、決意を固めていた。

 

(待っていてください、先輩。僕が必ず、あなたを迎えに行きます)

 

 彼女を「異常」だと切り捨てるこの社会の認識を変えるには、僕自身が圧倒的な「正義」にならなければいけない。そのためにはヒーローにならなければならない。それも、ただのヒーローでは足りない。

 

 僕は、国内最高峰のヒーロー輩出校、雄英高校への入学を決意した。

 

 ここからの一年間は、まさに血の滲むような日々になるだろう。いや、僕の場合は文字通り、毎日血を流しながらの特訓だ。

 

 まずは、僕の個性『増血』について改めて整理しよう。

 

 個性『増血』。血を増やすことのできる個性。

一、体内での無尽蔵な血液生成。

二、血液が出来ることはなんでも増やせる。

三、血液の生産能力はレバーを食べることで回復できる。

 

 基本的な個性の能力は以上の三つだ。プロヒーローとして活躍するために、個性の戦闘面での応用について掘り下げていく。

 

 僕の『増血』は、戦闘面においても非常に高いポテンシャルを秘めていると思う。

 まず、傷口から血液を勢いよく放出することができる。これはプロヒーロー「ウォーターホース」が行う放水攻撃に近いだろう。決定的な違いは、あちらが手などから水を出すのに対し、僕は自分自身の体に「噴出口」となる切り傷を作る必要がある点だ。増血の個性を持たない者なら痛みが伴うのかもしれないが、僕にとってそれは快感でしかないので、実質的なデメリットはない。

 

 また、身体機能の向上の力もある。

 体内で血液を増やし、血管内の圧力を高めることで、擬似的な「血圧ポンプ」として怪力を得ることができる。また、運動によって生じる乳酸などの疲労物質を、絶えず供給される新鮮な血液で押し流し、同時に瀉血することで、スタミナを無限に維持したまま動き続けることも理論上は可能だ。

 

 デメリットもある。血圧ポンプによる怪力は、その怪力に周囲の骨や組織が耐えきれない。身体を鍛えなければ自壊しながら行動することになるだろう。スタミナも能力の供給がなければ止まってしまう。今までで一番血を流したのはあの先輩との逢瀬のひとときだ。その時も血が枯渇するような感覚はなかったが、限界がどこにあるかは分からない。それと勃起しやすい。これは肉体の構造上血を増やすと当然起きる生理現象だ。僕が頭ピンクの発情期な訳ではない。

 

 やることは決まった。個性を支える身体の強化と、個性自体の強化。時間は有限だ。身体は壊れても僕の個性なら修復はすぐだ。体を鍛えるよりも個性伸ばしに注力したほうがいいだろう。

 

 とはいえ、ただ闇雲に血を流して悦に浸っているだけでは、個性の訓練としては不十分だ。僕はあてもなく血を流し続けるオナニー中毒の中学二年生ではない。もう進級して中三になったのだ。

 そんな生産性のない快楽に耽っている暇はない。

 

 それに血というものは悪目立ちし過ぎる。――本当は先輩のためにそんな社会の認識も変えていきたいが――現実問題大量の血を出して怒られない場所というのは難しい。基本的に個性の使用はプロヒーローに限られる現状もある。

 

「……よし、今日からここを訓練場にしよう」

 

 僕が向かったのは、街の献血センターだ。

 

 将来、人助けをするヒーローになるのなら、今のうちから社会貢献をしておくべきだ。献血ならば、僕の有り余る血を正当な理由で放出でき、個性の出力訓練にもなる。おまけに、看護師さんに事務的な手つきで合法的に針を刺される快感まで得られる。まさに一石三鳥の訓練だ。

 

「あ、また君かい? 助かるよ、君の血は質も量も素晴らしいからね」

 

 本来なら献血は16歳からでないと出来ない。しかしそれは成長しきっていない子供の身体を慮っての制限だ。僕の個性では問題にならない。それが社会貢献であること、慢性的な医療現場の血液不足もあって僕はすんなりと許可された。職員から気さくな挨拶をもらい、数日後には我が物顔で過ごしていた。なんと献血後にはお菓子とジュースが出るリラックスルームまでついてくる。雄英入試の筆記試験対策は専らここで行なっていた。

 

 一日400L。これが僕が献血センターに収めている血液の量だ。ただ血液を傷口からドピュっと出すのではなく、衛生的に採血するには時間的にこれが限界なのだそうだ。量、頻度ともに常人離れしている量だが、限界の底は依然見えなかった。献血としては破格でも、放出系の個性としてみれば微々たる量だし、当然だ。戦闘への転用を考えるともう少し放出量を増やしたいところだった。

 

 それでも日課とした献血センターでの放血を続けていた日々に大きな転機が訪れた。

 

 それは、筋骨隆々とした体躯に赤いコスチュームを身に纏ったプロヒーロー、ブラドキングとの出会いだった。彼は僕と同じく血に関わる個性の持ち主だ。『操血』。彼は自分の血を自在に操り、凝固させて攻撃や拘束に用いることができるが、僕が『増血』で体外で血を操ることができないように、彼は体内で血を増やすことはできない。そのため、彼は万が一の戦闘に備え、定期的に自分の血を抜いてストックしておく必要があった。彼はそのため献血の常連で、プロヒーローとして献血のイメージプロモーションを担っている。

 

 献血センターで何度か顔を合わせ、「献血仲間」として言葉を交わすようになった彼からある時血液型を尋ねられた。

 

「君、血液型は何だ?」

 

 僕が答えると、彼は少し残念そうに首を振った。

 

「……そうか、俺とは違うな。惜しい。もし血液型が同じであれば、君から提供された血を俺の個性で操ることもできたんだが。君のその驚異的な血液量なら、今すぐにでもサイドキックとしてスカウトしていたくらいだ」

 

 その言葉は、衝撃的だった。

 

 別にブラドキングのサイドキックになりたい訳ではない。単純に頭から抜けていた。僕は自分の無尽蔵な血を、その血液の提供を、全人類の救済だと信じて疑わなかった。けれど、現実は違った。当然だ。僕の血で助けられるのは、僕と同じ血液型を持つ人間だけ。僕の血で助けられない人たちが厳然と存在するという事実を、僕は再認識させられたのだ。

 

 社会貢献なんてどうでも良いし、究極先輩が救われて、社会の一員として彼女を普通の個性の普通の人間として受け入れられる世界で幸せなキスをして結ばれればなんでも良いのだが、そのためには僕は誰の為にもなる存在である方が望ましかった。出来るだけ多くの人間が僕の血を欲してくれることは興奮するし、とりあえず先輩に献血したい。先輩の血液は何型なのか、そういえば知らない。由々しき問題だ。彼女の口からも、傷口からも僕の血液を注ぎたくてたまらないのだ。少なくとも彼女に献血が出来る血液型でありたい。

 

 僕は近くにいたブラドキングに特訓をお願いした。

 

「ブラドキングさん……僕を鍛えてください。僕は今、同じ血液型の人しか救えていない。この無尽蔵の血液で、この個性で、ヒーローとして、全員を救う……そんな存在になりたいんです」

 

「……個性は身体機能の一部だ。経験を積み、限界まで酷使することで、筋肉のように成長し、変質することがある。特に死線を潜り抜けるヒーローには、土壇場でそんな『覚醒』が起きるケースも少なくない」

 

 僕の真剣な表情に、彼は雄英高校の教師という立場上、入試を控えた僕を直接指導することはできないと告げたが、僕に「場所」を提供してくれることになった。

 

「ここでなら、どれだけ血を流しても文句は言われない。自分の限界をさらに押し広げてみろ。……雄英で会うのを楽しみにしている」

 

 そのようなことを言ったブラドキングとは数日後にまた献血センターで再会するのだが、とまれ紹介されたのは人里離れた場所にある練習場だった。水の張られていない深いプールのような施設で、液体放出・操作系のプロヒーロー用の場所だという。

 僕はそこでようやく、誰の目も気にすることなく増血の個性を使うことができた。

 

 そこからの特訓は、快楽の連続だった。

 僕は練習場で自分の腕を、脚を、何度も切り裂いた。ただ流すだけではない。体内で血圧を極限まで高め、筋肉に爆発的な負荷をかける。放出する血の速度を上げ、ウォーターホースのように鋼鉄をも断ち切る鋭い刃へと変える訓練。疲労物質を血とともに排出し、スタミナを無視して走り続ける。

 

 中学三年生になった僕は、受験勉強の合間を縫って、狂ったように血を流し続けた。オナニー猿だった。先輩の顔を思い浮かべると個性の出力が上がった。

 献血センターへの通院も続けている。ブラドキングは何をカッコつけて雄英で待っているなどと言ったのだろう?月に一回は顔を合わせていた。

 

 

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