雄英高校に入学して初めての戦闘訓練の日がやってきた。
各自がデザインしたヒーローコスチュームに身を包む。僕のコスチュームは、動きやすいジャンプスーツの上からポンチョを羽織ったようなものだ。ジャンプスーツは全身の至る所から即座に血の噴出口を作れるよう、要所にスリットを入れてもらった。四肢に伸びる部分はパンクロック風に切り開かれてデザインされたようだ。ポンチョは防水・防刃のもので、外からというより中から血を撒き散らさないように考えて取り入れている。ジャンプスーツには自傷用のナイフの他、救助用のファーストエイドキットを取り付けている。
更衣室で着替えを終えた僕は、峰田くんと共に女子たちのコスチュームに目を奪われていた。
「ヒーロー科最高」
僕たちがそんな話をしていると、八百万百さんから鋭い視線と苦言が飛んできた。
「……血田万利さんに峰田さん! 先ほどから何を卑猥な視線を送っていらっしゃいますの? ヒーローを志す者として、あまりに破廉恥ですわ!」
僕は動じることなく、彼女の瞳をじっと見つめて微笑んだ。
「すまない、八百万さん。僕達は純粋に感動しているだけなんだ。君のコスチュームは君の個性を最大限に活かすための機能美に溢れている。個性把握テストでもすごい汎用性だった。よければ君の個性についてじっくり教えてくれないか?」
「え……? あ、あら……そんな風に、褒めてくださるのなら……。そう、本当はわたくしの個性を活かすためにこのコスチュームもこの辺りをもうちょっと肌面積を確保して……」
「うぉおおお!!」
「はいそこまでー!」
褒められた彼女は少し頬を染めてぷりぷりと喜びながら自身の大きく開いた胸元のコスチュームをさらにめくろうとする。峰田くんが思わず雄叫びを上げたがそのまま彼女は耳郎さんに抑えられた。
心なしか女子達に距離を取られたところで峰田くんに持論を語る。前にも彼に聞かせた個性に少なからず嗜好は引っ張られるという仮説だ。八百万さんの個性は創造。創造するためには自身の身体……肌から行う必要があるようだ。であるならば、その個性を使うために肌を晒すことに忌避感は少ないのではないかという推測だ。また、想像で生み出したものは他人でも扱えそうだ。他人にも扱わせることができる。他人に自身が生み出したものを扱って欲しい。ノブレスオブリージュの精神……でもあるが、奉仕の気質でもないだろうか。つまり。
「ヤオヨロっパイを惜しげもなくご奉仕メイドプレイもござれ!?」
あんまりにも気が早い峰田くんに女子から蔑みの目が集まるが、そんなやり取りを経て、この馬鹿話で彼のみならず上鳴電気くんとも意気投合し、僕たちの奇妙な友情の輪は広がっていった。
戦闘訓練の本番。僕は葉隠透さんとペアになった。挑むのは轟焦凍くんと障子目蔵くんのペアだ。僕たちが屋内で核兵器を守るヴィラン役、あちらがそれを阻止するヒーロー役。
「血田万利くん、私、透明だからこっそり近づいて捕まえちゃうね!」
話し合いの結果、肉弾戦も遠距離攻撃もある僕が正面から立ち向かい押されながらもゆっくり後退して時間を稼ぐことにした。葉隠さんは隠密に徹してもらい戦っている背後から奇襲し、あわよくば撃破する作戦だ。
「よぉーし私も本気出しちゃうよ!」
そう言って葉隠さんは手袋とブーツを脱ぎ出した。これで一糸纏わぬ姿になった彼女は完全にどこにいるかわからなくなった。……えっちだよな…。彼女を見て、見えないが、見てえっちなことを考えないことはむしろ失礼な気がしてくるくらいだ。
訓練開始直後、建物全体が激しい冷気に包まれる。轟くんの凍結だ。一瞬にして床が凍りつき、僕の足首までが氷に閉じ込められる。驚きの展開速度で、逃げることはできなかった。
だが、そこから抜け出すことは簡単だ。ブーツの仕込針を起動させる。足先に傷を作り血液を噴射し、同時に怪力を発揮して無理やり氷を砕く。同じく足留めを食らっていた葉隠さんにも手を貸し氷から解放した。
「……あ、ありがとう血田万利くん。でも……」
氷から脱出した葉隠さんだったが、彼女の透明な体に僕の真っ赤な返り血がべったりと付着し、その輪郭が鮮明に浮かび上がってしまった。
「これじゃ透明個性の意味がないよぉー!」
非常にまずい。僕の個性と彼女の相性が悪いのもそうだが、彼女は今全裸なのだ。今は脚先が見えるだけだがこれが全身になると…
「これを」
僕はコスチュームのポンチョを葉隠さんに渡す。彼女は不思議そうにしていたが、戦闘が始まればもっと血でいっぱいになると告げるといそいそとそのポンチョを羽織った。
そこへ轟くんが現れる。僕は指先から高圧の血液を彼に向けて吹きかけた。
「……無駄だ」
轟くんが冷静に手をかざすと、僕が放った血の奔流は、そのまま彼の氷の材料として取り込まれ、巨大な赤い氷柱となって僕を襲った。
「視界を奪って撤退する!」
そう叫んだ僕は自らの体を切り血の噴出口を増やして大量の血で濁流を作る。もちろん轟くんに全て防がれる。しかし、防ぐための氷で彼の進路も塞がれる。そこにさらに血液を部屋いっぱいに詰め込めば?屋内であれば逃げ場のない血液はそこに留まり続ける。氷を溶かしても押し寄せる血液が完全に彼らの進路を止める。これを繰り返せば時間内核爆弾を守り切って勝利だ。
初めに行った大規模な凍結は行われない。恐らくパートナーの障子くんを巻き込むからだろうか。彼はこの場にはいないが、近くにはいる?このまま少しずつ後退して時間を稼ぎたいが……。いつの間にか葉隠さんの気配はない。ちゃんと撤退できただろうか。
「ちっ……埒が開かねえな。だが」
部屋を血で埋め尽くした瞬間を狙われて、僕は全身氷漬けにされた。部屋を丸ごと氷漬けにされたので、血液を噴射しても圧力の逃げ道が無く、容易には割れない。戦闘不能ではないが、復帰には時間が掛かるだろう。彼の能力とは相性が悪かった。精進あるのみだ。無線でオールマイト先生から安否確認で連絡が来たので、頑張って首だけ動かして応対する。
「OK、全く君は丈夫だな!まだ戦闘は終わっていない!続行だ!」
この後、僕は分厚い血で出来た氷の中にいたから戦闘の経過を見ていない。なんと葉隠さんは二人を相手して勝ったらしいのだが……。
ここからは聞いた話だ。彼女は僕が凍らされた部屋の奥、上階に続く部屋で潜伏していたらしい。僕を溶かさないように脇を通り抜けた轟くん、障子くんは、彼女の奇襲を受けた。奥の部屋は僕の血で膝ほどまでの高さの血が溜まっていた。身体が血に染まった彼女はそのまま、血の中に潜伏していたというのだ。隠密から轟くんを的確に確保テープを結び、捕縛。だがもう一人、障子くんがいる。索敵が得意な障子くん、一度は許した隠密も一度見つかったら見逃さないはず……。
そう、障子くんは目の前で、全裸を血で真っ赤に染め上げた葉隠さんという美貌に目を奪われてしまったのだ。普段自身が見えないものだと考える葉隠さんだ。そんなことはつゆとも考えず隙だらけの女体を曝け出し、隙だらけの障子くんも続けて確保した。
ヴィランチーム、葉隠・血田万利ペアの勝利。かくして僕たちは勝利を収め、葉隠さんのナイスバディはA組全員の知るものとなったのである。……血の氷の中にいた僕を除いて。
許せねえ轟……。
後日担任の相澤先生から講評をいただく。つまり彼も録画された葉隠さんを見ていた。
許せねえイレイザーヘッド……。
「血田万利。お前は耐久力にかまけて拘束に弱過ぎる。お前弱点多いぞ」
はい……。
「葉隠。あー……、透明化が損なわれた後も得意を活かして立ち回ったことは評価できる。ただヒーロー活動をしていく上でお前のヒーローコスチュームは問題であることが分かりました。つーかなんでそれで許可が降りてんだ……。後で開発科に行きます。放課後職員室に来なさい」
「相澤先生にも見られてるのー!?ひゃー!!恥ずかし過ぎる!!!」
「淫行教師がよぉ……!」
峰田くんも怨嗟を送るが、今回は内心他の生徒も思っている顔だった。相澤先生はスルーを決めた。許せねえよなぁ……!
生徒全員に一言ずつ講評した相澤先生は話を切り替える。学級委員長を決めるらしい。全員が口々にやりたいと叫ぶ。トップヒーローを目指す僕も当然、やりたい。
「静粛にしたまえ!」
飯田くんが投票による多数決を提案する。公平だが、僕が当選する目は薄いだろう。ここは仕掛ける。
「多数決には賛成だけど、僕からも提案したい。僕たちはこれからこの学級、引いては日本を守るヒーローになるんだ。ただ自身に投票する我だけ強くてもダメだ。僕は完全公表の上の他薦が良いと思うんだが、どうだろう?」
「俺は決まればなんでも良い」
「血田万利君……!その通りだ!俺は公正に他者に投票しようと考えていたが、皆はどうだろうか!」
クラスに反対しづらい空気が生まれている。ここだ。ここからの流れが勝負を分けるだろう。皆、出会って時間が経っておらず、それぞれのことなんて分かっていない。ここでこの提案が出来た自分か飯田くんが有力候補になる。どう切り出す?自分がこれで飯田くんを他薦したら飯田くんに票が集まる流れが恐らくできる。ならば……。
「皆、賛成してくれてありがとう。それなら僕から投票させてもらうよ。僕は緑谷くんを推薦する」
緑谷出久くん。話の流れ的にはおかしくない人選だ。委員長は我ではなく、他の人を気に掛けられる他薦が出来る人……という流れを作ったのだ。緑谷くんとあまり会話できていないが、彼はかなりのヒーローオタクで全員の個性の考察をぶつぶつたまに呟いている。他薦の意図があるし、それでいて引っ込み思案な彼には他の票が集まる心配はないだろう。この他薦はこういう人を推薦するんですよ、というデモンストレーションだ。そしてその審美眼があるのは僕だというアピール。
「……奇遇だな。それなら俺も緑谷君を推薦したいと考えていた」
「あ、あたしも……」
あれ?
「ハァッ!?なんでデクなんか推薦してんだァ!!」
「昨日の訓練ガッツだったしよ!いんじゃね?」
「俺は八百万」
「まぁ!?」
なるほど?
A組の人数について、誰かいないのか、人数が多いのか、明確に決めていません。主人公周りの描写していない部分は概ね原作通りだと考えています。尾白くんがいないわけではありません。