あゝ、忌まわしき青春の記憶よ〜ダメ男なガノタのブルアカ転生〜 作:社会の歯車
「それでは、定刻になりましたので。本日の定例会議を始めていきます」
ホワイトボードの前に立ち、アヤネがそう宣言した。
アビドス廃校対策委員会の委員会室には、アビドス高校の全生徒と先生が集められ、会議に参加していた。あと俺。
ちなみに、便利屋の“仕事”の内容に関しては、やはりアビドス絡みの内容だった。
大方、今までヘルメット団を適当にけしかけていた雇用主が痺れを切らして依頼先を変えたのだろう。
あの後、アビドスへ大量の傭兵を引き連れた便利屋が襲来した訳だが。傭兵程度でアビドス高校が倒せる筈はなく――、というか、殆ど小鳥遊ホシノとシロコが傭兵を蹂躙するような形で始終圧倒した上に、定時までに決着をつけられなかった便利屋の撤退。という、何ともしまらないオチだった。
シロコ、お前は爆発で舞い上がった看板を蹴って空中で加速するとかいうムーブをやめなさい。俺はそんな事見せた覚えはありません。というか「ん。使える物は使う」じゃないのよ。
言っておくと、俺は直接戦闘へは関与していない。……護衛の為に影から戦闘を見守りはしていたが、顔を出すと十中八九面倒になりそうだったからだ。カヨコは俺に気づいていた様だがな。
「結局の所。借金を返済しなくては、どうにもなりません。先日の様な大規模襲撃もそう何度も行えないでしょうし、今回は借金返済の手立てについてみんなで考えましょう!」
キュッと胸元で拳を作ったアヤネが、引き締まった表情で対策委員会メンバーを見た。
しかし――、まあ。俺からすれば、ハナっからこの会議の結論は見えているも同然だった。
総計約九億円の借金。それがアビドスの抱える最大の問題だ。
そんな額を、“一人頭たった三年間しかいない生徒達で返済する”など、できるはずが無い。
しかし同時に、俺はそれでいいとも考えていた。返済し切る必要等、彼女達には存在しない。
今を生きる彼女達にとって、“自分達が問題を解決するのだ”という覚悟と決意は素晴らしいものだ。だが、それは同時に子供特有の視野
単純に計算し、今の五人が協力して九億の借金を返済しようとするなら、一人頭一億八千万――と考えるのは、安直すぎる。
“金を稼ぐ”時に最も必要なのは人ではない。“時間”だ。
ホシノという三年、ノノミ、シロコという二年、アヤネ、セリカという一年。彼女達が……計算が面倒だな。それぞれ毎年これから十二ヶ月という期間があるとする。
そう考えた時にそれぞれに残された時間は合計百と三十二ヶ月。つまり、おおよそ一人頭“一月に七百万”の稼ぎがいる。
しかも、これは利子を考慮していない上に、コンスタントに毎月必ず稼げるとした上での仮定だ。
月収七百万。すさまじい金額だ。今すぐに学生を辞めたほうがいい。
……今の彼女達に、そんな具体的な数字の思想はありはしない。
大きすぎる金額を前に、感覚が麻痺してしまっている。
結局の所。彼女たちの主題、目的の本質は、最初から“借金の返済”では無いのだ。
“アビドス高校という母校のために懸命に動き、故郷を護ろうと尽力する”。
その行為、経験そのものに意味がある。故に、その目的へ向かう為の過程に組み込まれる様な“選択”であれば、それら選択の全てが肯定される。
何度も言うが。俺はそれを悪いとは思わない。学生らしい、素晴らしい経験だ。そこに水を差すような真似はしない。
結局、彼女達に残された結末は、“私達よく頑張ったよね”だ。だが、それでいいのだ。……彼女達にはまだ、進むべき未来と人生がある。
その人生において、理不尽な苦境にそれでも立ち向かった経験というのは間違い無く有益だからだ。
……話が長くなったな。要するに、俺は彼女達の“青春”の邪魔をする気はない。ということだけ理解してくれればいい。
“先生”が何を考えているかはしらないが、俺は口を閉ざしたまま壁に背を預け、会議の進行に耳を傾けた。
“アイドル結成”、“金運を呼ぶゲルマニウムブレスレット”、“生徒の強制編入”……。
流石は小鳥遊ホシノ。というべきか、発案の中で最も現実的だ。“生徒数が少ないのが問題”ということを端的に見抜いた発案だ。
尤も、それでも他校からの拉致という手段は……無論、彼女も本気で話している訳ではないと言うことがよく分かるのだが。
……問題が見えた上で、解決するつもりがない。諦めているのか、それとも――。
「――ん。みんな、全然ダメ。そんなのじゃアビドスを救うなんて夢のまた夢」
会議の流れをぶった切る様にして、シロコが落ち着いた声を上げた。
「シロコ先輩……、何か意見があるんですか?」
「あるよ。とっておきのプランが」
「へぇ〜。どんなのどんなの?おじさん、気になるな」
「確かに、現状でもウチの稼ぎ頭はシロコ先輩だけど……、どうするつもりなの?」
注目がシロコへと集まる。
一瞬、シロコと目が合った。
……確かに、ここまで自信満々にいわれると、俺も彼女の出した結論というものに興味がある。
安定した月収六百万。そのほぼ不可能ともいえる難題を一撃で打開するほどの発案が出るとは思えないが――
「――ん。銀行を襲う」
――一撃でモラルを破壊してきやがった。
「ぎぎぎ!?銀行!?嘘でしょシロコ先輩!」
「し、シロコちゃーん……さすがにそれは……」
「大丈夫だよ、安心して。策はあるから」
……ん?なんだ。なんでコイツ、一々俺の顔を見るんだ?
「私たちが襲うのは、何も正規の銀行じゃない。ブラックマーケットにある、非合法、非認可の銀行。……ううん、もっと言うなら、“銀行”では無い場所だよ」
そう言いながらシロコが取り出したのは、小さな紙の地図。
それは、数年前に作られた、アビドス近郊にあるとある地区のものだ。……現在、“ブラックマーケット”と呼ばれる、非合法の取引が盛んな、無法者どもたちが跳梁跋扈する地域でもある。
「ブラックマーケット第八区画、西四十五番。ここ、地図上では空き地になってるけど、数年前に銀行が建った。けど、最新の地図を見ても、そんな情報はどこにもない」
そう言いながらスマホで最新の地図を開き、地図の横に添えて比較を促す。
「た、確かに……ほかの区画は変わっていますが、この地区だけは何も変わっていませんね……」
「調べたところ、ここの銀行のバックグラウンドにある企業。“存在していない”みたい」
「つまり……丸々詐欺の銀行、って事?」
「ん。ちょっと違う。……ブラックマーケットには、非合法の資金が集まりやすい。だから、資金洗浄が必要な汚れたお金も沢山回ってるし、普通の銀行には預けられない様な金額を持っている人も沢山いる。……そんな人達の為の“銀行”が必要……だよね、師匠?」
「ん?ん、んー……。まあ、そう、だな……?」
「おそらく、この銀行は“そういう”銀行。……だから、入店審査が厳しいし、いつも過剰と思えるぐらいの警備兵が居る」
ぱさり、と写真がテーブルの上に投げられた。それを懐から出したのは当然――シロコだ。
「警備員はどれも企業ロゴをつけてない。所属を隠して仕事をしている。……これは、いざという時に足をつけないためのハズ」
「ね、ねぇ……?シロコ先輩、本当に大丈夫なの……?」
不安げにシロコの名前を呼んだセリカに、シロコはいつも通りの表情のまま――グッと、親指を立てた。
「安心して、セリカ。警備兵の装備と交代時間。巡回ルートはバッチリだよ」
「先生!!シロコ先輩が!シロコ先輩が!!」
「そんなに心配しなくてもいい」
なんでコイツはこんなに自信満々なんだ……。と、俺も思わず内心ドン引きをしていた。手際が良すぎる、というか、下調べが行き届きすぎている。本気でこの銀行を襲う為に、何ヶ月も前から準備していたのではないかという気すらしてしまう。
「だって――」
一体何がこいつにそんな――。
「――私達には、師匠がついてるから」
「は?俺?」
突然の指名に、俺は思わずマヌケな声を出す。
「――ん!!!!」
視線の先で、シロコが無邪気に笑っていた。