あゝ、忌まわしき青春の記憶よ〜ダメ男なガノタのブルアカ転生〜 作:社会の歯車
――俺とシロコが出会ったのは、大体一年ぐらい前の話だ。
去年の春過ぎ、世間は新学期で浮かれていた頃。依頼の入っていなかった俺は、懸賞金のかかった人物を確保する為に動いていた。
キヴォトスでは、公的な警察機関がかけている懸賞金の他に、一部の企業同士が合同して出資している対無法者組合みたいなものがあり、産業的に被害を出している対象に対して一定の懸賞金をかけているのだ。
それとは別に、後ろ暗い事をしている企業が独自の意図で懸賞金をかけている存在などもいるには居るが、俺は極力そういう黒い仕事をしようとは思わなかった。
今回のターゲットは、奨学金詐欺師のとあるアンドロイドの男だ。
入念な調査の末、俺はターゲットを絞り込むことに成功。後は奴の後を尾行し、拠点を突き止めるばかり。
ギターケースに忍ばせたライフルを担ぎながら、俺は静かに奴の後を追う。幸い、奴がこちらに気づいた様子はない。
ブラックマーケットの大通りを追跡し、そのまま脇道に逸れた奴の影を見失わぬよう、その後を追うと――。
「ん!見つけた!」
「あァ?……なんだ、チビすけ。俺になんか用事かよ」
ターゲットの前を塞ぐようにして、小柄な生徒が立ちはだかっていた。
イヌの様な耳を持ち、白銀の髪と、青いマフラーが特徴的なその生徒は、ターゲットへと銃口を向ける。
「お前には、しょうきんがかかってる。大人しく捕まるべき」
「ぷっ……ははっ!ハンターごっこなら他所でやりな!」
どうやら、俺と同じく奴の賞金目当ての生徒らしいが……。鬱陶しい、仕事の仕方を知らないのかあのガキは。
賞金首に真っ向から名乗り出る等、非効率極まりない行為だ。おそらく、こういう仕事に慣れていないと見るべきだろう。
「私はお前なんかにまけない」
「負けない?あぁ、怖い怖い、俺は非力な一般男性だぜ?そりゃぁ、そんなに戦い慣れてそうなお嬢ちゃんには逆立ちしたって勝てないさ」
ターゲットの言うとおりだろう。このキヴォトスでわざわざ詐欺行為に精を出す男など、取るに足らない戦闘力しか持ち得ていない筈だ。そんな事はすぐに予想がつく。……だが、
「なら――」
「だからよォ……」
ターゲットは懐から一つの筒を取り出した。
「……脱兎の如し!ってな!」
「煙幕……!?」
「火事だーッ!!」
小さい発煙筒からは考えられないほどの煙が噴き出し、それと同時に男が叫びを上げる。
当然、火事など起こっている訳では無い。だが、すぐ隣の大通りには多くの人通りがあり――、煙と音は、そこまでよく届く。
「ま、待て!」
「御免被るね!」
煙の中を走り抜け、ターゲットは混乱が広がりつつある人混みの中へ消えていった。
「……チッ」
俺は静かに舌打ちをして踵を返す。この混乱のなかで無理にやつを追えば、俺の存在がヤツに気取られる可能性もある。
追っ手が来たことで、ターゲットの警戒心も上がっていることだろう。……ムダな消耗は避けたい。そう考えた俺は、その日の追跡を断念する事にした――。
そして、ここから数日間。俺はターゲットの追跡を断念し続ける羽目となった。
予想はつくだろう。あのイヌ耳のチビガキが何度も懲りずに現れては、ターゲットに真正面からぶつかりに行くからだ。
何度奴を襲撃する機会を
元々長めに組んでいた予定だ。数日延びた程度で他の仕事に支障は出ない。だが、あまりに続くのでは、かけたコストの回収だって出来やしない。
どうしたものかと思いつつ、今日も今日とてターゲットを――。
「……ん?」
「ん!」
ふと隣を見ると、もういい加減見慣れた青いマフラーが目についた。
その生徒は今日こそはと息巻いて足を進めようとして――。
「待てクソガキ」
「ん゛ん゛っ!? 」
――俺にマフラーの端を掴まれ、無理やり引き止められた。
首が締まったのか、妙なうめき声を上げ、ビクンと身体を大きく痙攣させたその生徒は、こちらへ振り向き怨みの視線を向けてきた。
「敵……?」
「同業者だアホタレ。お前が狙ってる賞金首を俺も狙ってるんだよ」
「なら敵。お金は渡さない」
そう言って、少女はすぐさま銃口を俺へ向ける。どうやら、随分金に余裕が無いらしい。
ならば仕方がないと、俺は上着のポケットから“とあるもの”を取り出して、それを親指で弾いて少女へ渡した。
反射神経は良いらしく、少女は銃から片手を離して即座にそれを掴み取ると、怪訝そうに手中に収めた物を見る。
「……コイン?」
「“ガンコイン”。ブラックマーケットで便利な代替通貨だ。弾丸自販機でも使える。嘘だと思うなら、目の前で使ってやったっていい」
もう一枚のガンコインを指で摘んで少女へ見せて、それの価値を言葉で教える。“ガンコイン”も知らない様じゃ、やっぱりコイツは素人らしい。
「……なんでそんな物を?」
「金が欲しいんだろ?手を組もう、俺の為に働け」
「え?」
銀行強盗が札束で殴られたような顔をした少女に、俺はヘルムのバイザーを外して声をかける。
「仕事の“契約”をしよう、アガりは折半。お前を雇う分の金は――俺が出す」
「けい……やく……?」
子供を騙して金をせびる真似はしないが。俺の仕事の邪魔をする位なら、金で縛って思い通りの手駒にする。そっちの方が、よほど建設的だろう。
世間を知らぬ青いガキの相手をするのは……、あまり俺の好みでは無いが。連日見ていたコイツの腕は確かだ。後はその力の使い用。
「チビすけ。名前は?」
「ん……、チビじゃない。私には、砂狼シロコって名前がある」
「俺はジェガン。……いいか、シロコ。賞金稼ぎの素人のお前に、“大人の仕事”ってヤツを見せてやる」
「“大人の仕事”……」
教えを説く訳じゃない。
心を伝える訳でもない。
技を教える訳でもない。
体を鍛える訳でもない。
「今回は。“俺の仕事”に従ってもらうぞ」
俺の都合に、合わせてもらう。それだけだ。