あゝ、忌まわしき青春の記憶よ〜ダメ男なガノタのブルアカ転生〜   作:社会の歯車

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一年前:砂狼シロコと 後編

 

 その日はいつになく清々しい気分だった。

 

 鬱陶しく纏わりついてくる、ケツの青いガキのツラを見ずに済んでいるし、“仕事”のミーティングだって、思いの外スムーズに進んだ。

 今度の市場は、かのお嬢様学校。“トリニティ総合学園”だ。

 手広くやってきた奨学金詐欺だが、今度のヤマは文字通りにケタが違う。

 ようやく手にしたツテに、これまで汗水流して働いた俺の苦労も報われるってもんだ!

 

 鼻歌交じりに夕方の街を歩き、俺は隠れ家へと向かう。

 可能な限り、人けの多い道を選んで、紛れるように、隠れるように。手慣れたルートを組み合わせ――。

 

「ん!見つけた!」

「……はぁ」

 

 最後の最後に、どうにも俺はツいてないらしい。

 

 

 


 

 

 

 ――五度だ。

 

 俺は五度、シロコに男を差し向けた。

 

 鼻歌交じりに、上機嫌に街を闊歩する男に。俺は狙いを定めて、“砂狼シロコ”という猟犬を放つ。

 

 いずれも深追いはさせない。“名乗りを上げさせる”だけだ。

 

 一度目はヤツはそれを“運が悪い”と思うだろう。

 二度目は今日はヤケにしつこいと、そう感じるだろう。

 三度目にはウンザリすると、そう呟くだろう。

 

 

 

 ――そうだろうな。俺ならそう、考える。

 

 

 

 “素人の少女”が、誰かに従っているかなど、欠片も予想はしないだろう。

 

「お前にとって、“砂狼シロコ”は敵じゃない。既に何度も撒いた相手と、愚かな子供と侮るだろう」

 

 だから、背後の俺に――気づかない。

 

「――ビンゴ」

 

 シロコを差し向けた五度の“アテ”のうち、三度の遭遇と。ここ数日のシロコから逃げる奴の方角に、俺は一つの法則性を見つけ出す。

 

「聞こえるか、シロコ」

『ん。聞こえるよ。……いい加減、さすがに走り回って疲れてきたんだけど……』

「その甲斐はあった。羊はまんまと檻に入っていたよ」

『どういう意味?』

「牧羊犬の扱い方が、俺は案外上手いって話だ」

『……良くわからないけど、わかった』

「回収の車を向かわせる。合流地点で待て」

『ん』

 

 通信を切り、俺は観測ポイントを後にする。

 

 ――仕上げの時間だ。

 

 

 


 

 

 

 ――その“大人”に出会ったのは、偶然だった。

 

 ホシノと、ノノミの為に、少しでもお金が欲しくて始めた仕事は、どれもイマイチ上手くいかない。

 けれど、とにかく、お金が必要だったから。私はとにかくまっすぐ走り続けてた。

 

 けれど、チャンスはいつも目の前から遠のいていく。

 

 この引き金が引けるなら、銃を向けて競うなら、私は絶対負けないと。けれど、私は一度も定める狙いを捉えることすらできなくて。

 

「バカなっ!?お前みたいなクソガキが、どうやってここを!?」

 

 彼の戦い方は、卑怯なんだと言うことは分かる。

 効率がいい、と言う程優れているとも思わない。

 

「……」

「クソっ!こうなったら……!」

 

 追い詰められた“羊”が、群れへと声をかける。

 “私一人”を、取り囲む。

 

『当たりたくなきゃ、動くなよ』

 

 あの人がくれたインカムから、冷たい声が聞こえた。

 

 瞬間、群れの一人が弾け飛ぶ。

 

「狙撃……っ!?お前、仲間が――」

 

 すさまじい炸裂音と、鉛が鉄を抉り、穿ち、粉砕する騒音が連続で響く。

 その中央に居る私の事なんて、これっぽっちも気にしない、けれど、“動かなければ当たらない”弾丸が、あっという間に羊に纏わりつくものを刈り取った。

 

『メインディッシュはくれてやる』

 

 面倒事を押し付けているだけなんだろう。だって、そのほうが“弾薬費”を使わなくて済む。

 この大人は――“そういう”大人だと。そう感じた。

 

「ん」

 

 私は小さく相槌を返して。目の前の羊に狙いを定めて喰らいつく。

 

 少しだけ――、狩りの仕方を覚えた気がした。

 

 

 


 

 

 

 結局。その時の報奨金は七と三で山分け。当然七が俺だが……弾薬費やらシロコへ払う報酬を差っ引けば、殆どイーブンとなっていた。

 

 狙撃にビビったのか、ターゲットを捉えて以降、妙に大人しくなっていたシロコに分け前と報酬を渡して俺達は解散となり。奇妙な契約関係は終わりを告げた――、筈だった。

 

 

 

 舞台は、現在へ戻る。

 

「その後も師匠の技を覚えようと思って、なるべく師匠が狙いそうな賞金首を狙うようにしたんだ」

「どうりでどこかしこでもお前を見ると思ったよ……!」

「ん。弟子は師匠に付いていくもの、でしょ」

 

 俺との想い出――しかもかなり美化されているように思うヤツだ――を語っていたシロコは、ふふん。と鼻を鳴らす。

 アビドス高校の会議室で、突然俺の自慢(?)話を始めたこの自称バカ弟子に、俺はひどい頭痛を覚えていた。

 当時、『半年足らずで五度も同じ仕事に就くとは珍しい』だなんて腑抜けていたのは俺自身だった様だ……!

 

「それで?銀行強盗を教えたのも……アナタなのかな?」

「まて、誤解だ小鳥遊ホシノ。俺はそんな事はしちゃいない」

 

 視線だけで人を殺せそうな殺気をにじませた小鳥遊ホシノに対し、俺は首を振りながら両手を前に出す。

 冗談じゃない、こんな冤罪で殺されでもしたら、俺は何のためにこれまで生きてきたのか分からなくなってしまう。

 

「ん。師匠は銀行強盗をしてた訳じゃないよ?」

「ほら――!」

「ただ、詐欺紛いの偽装銀行に逃げ込んだ賞金首を捕らえるついでに銀行に襲撃をかけただけで」

「それはぁ……!違うじゃないですかぁ……っ!!!!」

 

 シロコの言葉に俺は膝から崩れ落ちる。

 確かに、俺は過去の案件の一つで、シロコと共に偽装銀行を解体する仕事にあたったことがある。

 かなりデカいヤマだったので、GMIIIやロウも巻き込んだ大掛かりなミッションになってしまったのだが――そんな事は今となっては過ぎた話だ。

 

「……ねぇ、シロコちゃん?シロコちゃんが妙に汚い戦い方するのって、もしかして――」

 

 ホシノの問いに、シロコは渾身のドヤ顔のまま、サムズアップをする。

 

「ん。師匠は必ず生きて帰ってくる主義。その為には手段は選ばない」

「言い方ってものがあるだろォ!?」

 

 生き汚い自覚もある、死に損ないと揶揄もされる、くだらない悪運だって俺にはある。

 

 だが、だがだ!

 

「実直に物を言い過ぎだシロコ!」

「でも、師匠が言ってたことだよ?」

「これが若さか……!」

 

 こちらを慮るという素振りも見せない。だが、そこにあるのは純粋な……、というか、純粋すぎるんだよお前は!!

 

 心に生まれた無念から、ダン!と強く床を叩く。

 

 そんな俺の肩に、優しく誰かの手が添えられた。

 

「……わかるよ」

 

 なんとも言えない、憐れみの混じった視線をこちらへ向ける先生の姿が、そこにはあった。

 

 

 

 認めたくないものだな……!俺のなかに残る幼稚さというものを――ッ!!

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