あゝ、忌まわしき青春の記憶よ〜ダメ男なガノタのブルアカ転生〜   作:社会の歯車

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第十三話 ブラックマーケットにて:その3

 

「てっきり、アンタは止めるものだと思ってたんだがな」

「そうなの?」

「“教師”だろ」

「あーははは……。まあ、そういう意味では変かもね」

 

 シロコ達が標的とした銀行から少し離れたビルの最上階にて、俺と先生はそれぞれの支度をしながらそんな軽口を交わしていた。

 

 用意周到と言うべきか、銀行を襲うための装備として穴抜きの覆面を用意していたシロコは、それらを対策委員会の面々へ配り、偶然たまたま居合わせていただけのヒフミにはこれまた偶然たまたま俺が買い与えたたい焼きの紙袋を覆面かわりに被せることで“襲撃の際に身元を隠す”と言う鉄則をクリアした。

 

 一方。この俺ジェガンはと言えば、生憎そういった“身分を偽る”為の支度を整えておらず、“アナハイム”の名が良くも悪くも知れ渡っているブラックマーケットにおいて、大手を振った襲撃行為等に関与できる訳もない。

 “依頼であれば何でもこなす”以上、ブラックマーケット絡みの仕事も多数こなしてきた身の上だ。いくら相手が“黒”の銀行であったとしても、バックアップも無しに派手な真似は許されない。

 

 そしてそれは、“連邦生徒会”に所属している先生にとっても同じ事だ。故に俺たち大人組は、実動部隊である生徒組を支援する役回りをこなす事になった。

 そもそも俺の現在の仕事は“先生の護衛”であるのだから、彼女のそばをそうやすやすと離れられる訳もなく。ある種妥当な事の運びと言えるだろう。

 

「あー、あー。聞こえる?シロコちゃん」

『ん。感度良好……聞こえるよ、先生』

「うん、それじゃ、私は警備員の配置とかを逐次伝えるから、必要な情報は適宜確認してね」

『わかった』

「後。今回の目的はあくまでも“取引の証拠になる書類”だよ。金品その他一切の持ち出しは厳禁だからね」

()()は山程有るだろうがな」

 

 俺の余計なひと言に、先生の白い目線がこちらへ向けられた。

 

「……冗談だ」

『師匠、オヤジ臭いよ』

「余計な事言ってると背後から頭ブチ抜くぞ」

『ん。それは遠慮しようかな』

「ならとっとと支度しろ。その手の作戦は速度が命だ。なるべく見られる時間も減らせ」

『ん』

 

 シロコからの短く了承の意を込めたであろう頷きを最後に、音声通信が終了する。

 ここから先の作戦の可否は彼女達次第だ。

 

「大丈夫かなぁ……?」

「心配する程の事ないだろ。あの銀行、警備の人も練度もかなりの()()だ。シロコの敵じゃない」

 

 支援用のスナイパーライフルの具合を確かめながら、俺は心配そうに銀行を見つめる先生に声をかけた。

 返事を期待していた会話ではない。故にそのまま弾丸のチェック等をしていた俺だが――、

 

「なんだ」

 

 じっとこちらへ向けられていた先生の視線に、その意図を問う。

 

「いや……、シロコちゃんの事、信頼してるんだなって」

 

 意外に思っている素振りを隠そうともせず、彼女は俺へそう言った。

 確かに、俺はシロコの事を“弟子”と認めているわけでもないし、先生の前で師匠らしい振る舞いをした覚えもない。そんな俺がシロコの実力を評価していた……、言い換えれば、()()()()()物言いをしたことに驚いているのだろう。

 

 だが、それは違う。

 

「妥当な評価だ。正しくモノを見なけりゃ、仕事は進まない」

 

 俺は純粋な評価として、“砂狼シロコ”という少女の実力を評価している。キヴォトスに来て間もないであろう先生にとって、彼女の実力がいかに優れているのかを感じる事は無理な話だが、俺はそうではない。

 

「真っ向勝負ならアイツは俺が逆立ちしたって勝てないだろうさ」

「……師匠なのに?」

「そもそも、師匠になった覚えがないな」

 

 自慢ではないが、俺はそこそこ強い。それこそ、そこら辺をうろつくチンピラ共が十数人束になった所で――…………少し、無茶すれば……何とか、なる。

 

 だが、アレは無理だ。戦闘しながらドローンで的確な火力支援を両立できる冷静な戦術眼や、使()()()()()()()()()使()()戦いの“カン”がずば抜けている。まるで、狩りをする獣の嗅覚のような。

 

「俺は所詮“量産型(一般人)”なんだ。才能あふれる若者共とは比べるべくもないのさ」

 

 自嘲混じりの笑みを浮かべて、肩をすくめて首を振る。所詮、俺はほんの少し他人より生きるのが長いだけの凡人に過ぎない。

 彼女らは“物語の登場人物”だ、精々名前も載らない端役程度の俺には荷が重い。

 

「……それは」

「そろそろ集中しろ、……始まるぞ」

 

 何かを言いかけた先生の言葉を遮り、俺はスナイパーのスコープから現場を覗き込んだ。

 

 

 


 

 

 

 結果として、“覆面水着団(バカ弟子御一行)”の初仕事は大成功の結果を収めた。……文字通り、()()()()()()()()

 

 当初の目的である、現金の取引を書き記した集金表の確保は勿論の事――さらに、()()()()()()()の獲得までこなしたのだ。

 

「阿呆かテメェは、ターゲットの取り違えは仕事人としちゃ下の下だつったろうが」

『ん……。で、でも師匠……』

「でももクソもねェよ。コレはお前の落ち度だ。“一人前”になりたきゃそういうとこをまず無くせ」

『はい……』

「ま、まあまあ……。ほとんど押し付けられたみたいなものだったみたいだし、撤退を優先しないといけなかった戦況だったワケだから……」

「だが、ミスはミスだ」

 

 通信越しにシロコを叱りつけながら、俺は苛立ちを抑えるためにタバコに火をつけた。

 電撃作戦を目的としていた上で、誤解した……いや、誤解も何も普通“銀行強盗”つったら現金が目的になるんだが……、その分の“ズレ”をトチった銀行員が押し付けてきたと言うなら、確かにシロコだけの落ち度とは言い難い結末だ。

 だが、だからといって失敗は失敗だ。目的さえこなせればと言うのは時に取り返しのつかない結末の原因になりかねない。

 

 ――ただ、()()()()()()と言うだけのために、俺は。

 

「…………まぁ、いい。どのみち闇金だ、番号で追われてとっ捕まる事もない様なもんでもある。適当にばら撒きでもしとけば姿隠しにゃなるだろ」

『へぇ……。“持っておけ”とは言わないんだね』

 

 こちらを試すような物言いが通信機の向こうから聞こえた。それは、シロコの声ではない。

 

「なんだ、小鳥遊ホシノ。その方がお好みか?」

『まさか。こういう時、“大人”なら上手く隠して転がしたりすると思ってさ』

『ちょ、ちょっと……ホシノ先輩』

 

 嫌味な言い方だ。小鳥遊ホシノが“大人”に対して隠しきれない嫌悪感を持っていると言うのは明らかな側面であり、それが俺に向けられるという事に文句は無い。むしろ、矢鱈と信頼を寄せてくるバカ弟子よりは余程いい。

 

「一億はガキが持つにはデカすぎるだろ。その後の人生狂わせてェのかお前は」

 

 だからこそ、俺も真意を隠さず正面から言葉を伝える。

 わざわざ誤魔化す様な素振りや真似を()()()()()()は此方には無いし、そんな所で気苦労をした所で一銭の得にもなりはしない。

 どう取ろうが、どう感じようがそれは聞き手の勝手で自由で、俺の知ったことじゃない。

 

 そこに俺の義務も責任もありはしないし、コレで奴らがどうなろうと、それは()()()()()()()()()()()()()輩の責任だ。

 

『…………そうだね、オジサンもそう思うよ』

「ならとっとと処理して集金表だけもってブラックマーケット(ここ)を抜けるぞ。先生の護送はこっちでやる」

『了解、じゃあ合流ポイントは――』

 

 そうして合流ポイントの確認を最後に通信を切ると――。

 

「…………なんだよ」

 

 ――再び、先生が目を丸くしてこちらをじっと見つめていた。

 

「ジェガンさん」

 

 名前を呼ばれ、……直感的に先が読めた。これは、ニュータイプでなくてもわかるタイプのシンプルなやつだ。閃きなどは感じない。

 

 先生が口を開くと同時に、俺は用意していた答えを口にする。

 

 

 

「教職の仕事に興味は――」

「断る」

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