あゝ、忌まわしき青春の記憶よ〜ダメ男なガノタのブルアカ転生〜 作:社会の歯車
「今回の仕事は随分手間取ってるみたいだな」
「依頼主が随分拘り強くてな」
柴関自慢のラーメンを啜りながら、俺は今の仕事の苦労をシバへと零す。まさか、数日単位で済まない仕事になるとは予想していなかったからだ。
というか、そもそも奴らが事を構えている相手が悪すぎる。最初から“奴ら”が敵なら俺はそもそもこんな仕事を受けなかったとはっきりと言い切れる程度には、だ。
“カイザーコーポレーション”。キヴォトスに大きな勢力を持つ、巨大な企業だ。
コンビニ、銀行経営、リゾート開発、軍事兵器開発……。そのビジネス分野を挙げればきりがない程で、何より彼らが厄介なのは“異常とも言える儲け至上主義”な点だ。
法律スレスレ、いや、場合によっては“明るみに出なければ違法行為すら許容する”というような過激な手段でもって勢力を伸ばす奴らは、俺達アウトロー側の人間にとっても非常に厄介な存在だ。
名目上は同財源の別企業の提携という素振りをしているが、蓋一枚とればその下に区別はない。
兵器開発部の試験兵器や、連邦非認可の兵器をPMCが運用している事など日常茶飯事だし、闇金の集金を行う実働部隊はほぼPMCだ。
PMC単独で見てもクソみたいな職場である事は間違いがない。
身元を問わない採用から始まり、労働者の経済的な不安に付け込んだ逃げることを許さない就業条件。絶対的な上下関係は軍隊として当然ではあれど、上官の殆どは
行う仕事も最低な物ばかりで、歩兵の生命など鑑みちゃいない無謀な突撃作戦も当然のように行われる。奴らからすれば、
遺族に対する手当等という福利厚生も、そもそも身寄りのない身元不明共には必要無いし、兵器の実証データの為には此方の負担等二の次だ。
金払いの良さだけは評価に値するが……、“金”によってだけ縛られた奴らが集まる職場だ。まともな人格を持つ人間は先ず存在しない。
――思い出しても気分が悪くなる。
「……はァ」
シバが離れていくのを見送ってから、思わず俺は大きくため息を吐く。シバの作るラーメンは美味いが……その高揚すらかき消す最悪の気分だった。
シロコ達アビドスの相手がカイザーである時点で、勝ち目が無い事は見え透いている。アイツらには悪いが、俺はもうこの件にまともに付き合うつもりはないし、これ以上の無茶をするなら依頼を破棄してでも身を引く選択も十分視野に含めていた。
そもそも、ここまで仕事が進んでようやく思い出してきたが――これは確か原作における“アビドス編”というやつだった筈だ。
流石に二十年以上前のゲームの話などうろ覚えだ、シロコが登場人物である事に気付いたのも出会ってから暫くしての話だったし、彼女が関係するこの話の詳細など、もうまともに思い出せない。
「あぁ、クソっ」
どうする。ここで退くべきか……?
“原作”は薄氷のうえで成り立つ物語だ、俺が下手な干渉を続ければ、妙な点からその展開が瓦解して、全世界丸ごとバッドエンドでオサラバなんて事もないとは言えない。
幸い俺は生徒ではないし、知らぬ存ぜぬを今後貫き通せばその干渉を最小限に抑えることも可能だろう。既にできてしまった縁に関しては……この際、上手いことフェードアウトしていく他にない。
ふざけるな。なんで俺がこんな目に。
嘆きとプレッシャーが苛立ちとなって俺の背中にのしかかる。
――重い。
重すぎる。
ただの一人の人間が、よくいる普通の凡人が、名前も載らない“
どうしてこんなだいそれた“世界の命運”なんてものに向き合って、突きつけられて、その重荷を背負わされなきゃならないんだ。
「あぁ、クソ。クソ……くそがよ……」
怖い。苦しい。震えが止まらない。
――思い出すのは、薄らいでいく意識。冷えていく身体、失せてゆく血の気。……どうしようもない、無への眠気。
“
「俺は…………なんで……俺が……俺、なんだよ……」
視線の先の義肢が震えていないのは、俺の小さな救いだろうか。
蚊の鳴くような小さなうめきは、誰に気づかれることもなく、小さく俺の中へと消えてゆく。
この“恐れ”には、誰にも気づかれない――。
「何してんの」
不意にかかった声に、いつの間にか項垂れていた俺は頭を持ち上げた。
振り返れば、そこにはあきれ返った表情で俺を見る一人の少女の姿。
「……カヨコ?」
「昼間からお酒でも飲んでたの?ここ、居酒屋じゃないよ」
「ちげぇよ」
「そう」
否定の言葉を聞きながら、しかし全く関心を示さないカヨコは、そのまま俺の隣の席へと腰を下ろした。
「大将さん、ラーメン一杯。普通盛りで」
「あいよ!」
手短に注文を済ませたカヨコは、そのままポケットから取り出したスマホの操作を始める。カヨコ一人で来た……とは、考えにくい。
それとなく店内を見回せば、アルたち残りの便利屋のメンバーもテーブル席に座って注文をしていた。
「……席、お前だけこっちで良いのかよ」
「別にいいんじゃない?今日はそれぞれラーメン頼む訳だし」
「そういう事じゃ……。……余計な世話か」
「そういう事だよ」
何が“そういう事”なのか、欠片も分かりはしないが、それ以上何も答える気を見せないカヨコに対し、俺はそれ以上追及することをやめた。わからんことを無理に分かる必要は無いのだ。
そのまましばらく、カヨコのテーブルにお冷が出されても尚俺達の間には沈黙が続いていた。
何のためにカヨコが俺の横に着いたのか、予想も理解もできずにしばらく待っていたが……、何か話がある様子も無いと判断して席を立とうとした時だった。
「ねぇ」
短くそう声をかけられて、俺は半ば浮かんでいた腰を再び椅子へと下ろす。
「なんだ」
話があるなら、わざわざ聞かずに店を出るほどの用事もありはしない。店もそこまで混み合っているわけでもないし、俺はカヨコの言葉に耳を傾ける事を選んだ。
そうして、右腕で頬杖を突き、彼女の横顔を眺めていると――。
「……
――予想もしていなかった誘いの言葉が、カヨコの口から飛び出した。