あゝ、忌まわしき青春の記憶よ〜ダメ男なガノタのブルアカ転生〜   作:社会の歯車

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第十五話 大人の距離感

 

「……便利屋(ウチ)に来ない?」

 

 カヨコのその一言を、その意味を正しく飲み込むのに俺は一瞬の時間を要した。

 

「アナハイムを買収するってのか?冗談だろ」

 

 文字面で見ても、言葉で聞いても凄まじい違和感だった。

 いや、まあ。アナハイムが“アナハイム・エレクトロニクス”だとしてもワケのわからない話だし、この世界で俺がやってるアナハイムPMCだとしても、今度は規模が小さすぎて意味がわからない。

 俺の言葉を聞いて尚、カヨコは視線を何処か遠くへ向けたまま、コチラを一瞥しようともせずに話を続けた。

 

「買収だなんて、そんな仰々しい話じゃないよ」

「なら、何だって言うんだ」

「そのままの意味だけど」

 

 だから、“そのまま”が解らないのだという話だ。まるで事の要点だけをかい摘んだような曖昧な物言いに対して、俺は大きく溜息を付いた。何考えてるか解らないっていう意味では、女子高生とニュータイプは傍から見たら似たようなもんなのかもしれない。

 

「社長も喜ぶと思うよ。即戦力だし、()()()()()()()、ハードボイルドだもんね」

「別に好きでやってる訳じゃ――」

「そうでもしないとやって行けない、でしょ」

 

 まるで、俺の心を見透かしたかの様なカヨコの指摘に、言いかけた言葉は吐息となって霧散した。

 そうしてようやく、カヨコの細い切れ目の奥に隠れた紅い瞳がこちらへ向いて、「ほら」と彼女は呟いた。

 

「“怖い顔”、してるから」

「……………」

 

 そう言われて、俺は思わず頬杖をついていた腕から頭を離して、そのままその掌で己の頬を撫でた。

 俺の体温で温められた、ぬるい特殊合金の滑らかな感覚がした。

 

「……それで、そうだったとして。一体なんだって言うんだ」

 

 何が“そう”なのだろうか。その言葉が示す意味も分からずに、俺は静かにカヨコに問いかけた。

 

 ただ、俺も知らない俺の答えが知りたくて。

 

 カヨコの横顔からは、紅い瞳だけが静かに俺に向けられていて。

 

「……私はさ」

 

 彼女が――静かにこちらを向いた。

 

「私は、今結構楽しいんだよね」

 

 そう語るカヨコは穏やかな笑顔を浮かべており、凛とした彼女の声には、けれど確かな柔らかさと温かさが感じられた。

 

「社長と、みんなと一緒に仕事してさ。勿論、上手くいかないことだってあるけど……別に、そのぐらいなんてこと無いと思える」

「……そりゃ重畳(ちょうじょう)な事で」

 

 確かに、鬼方カヨコという少女は、陸八魔アルと出会った事で大きく変わったと言えるだろう。それは、陸八魔アルと出会う前のカヨコを知っているからこそ言えることではあるが、とにかくカヨコの表情は確かに柔らかくなった。

 その事実に良し悪しをあえていうなら、当然“良し”に分類される話だろう。手放しで喜んでいい事のはずだ。たとえ俺がカヨコとあまり縁の深い立場ではなくとも、知り合いが苦悩しているよりは、笑顔でいてくれる方が余程良い。

 

 ――つまりコイツは。

 

「人間、一人でいたらおかしくなっちゃうよ」

 

 ――俺に笑えと、そう言っている。

 

「…………一人で、か」

 

 その言葉に、俺の思い出が蘇る。ずっと前の、忘れたくても忘れられない、この世界に来て初めてあった嬉しかったこと――。

 

 

 

 ――“一緒に”がんばろうね。

 

 

 

 …………俺は。

 

 俺は、“間違った選択”なんてしていない。

 

「長く生きるとな、色んな事が上手くなるんだ」

「……」

「ガキのお前には想像もできないような時間を生きてるんだよ、こっちは。お前が生まれて、今に至るまで、それよりも倍長い時間だ」

 

 笑えと言うなら、笑ってやろうじゃないか。笑うのなんて、簡単な話だ。

 だってそうだろう?齢四十も超えて、未だに過去が忘れられない。ふとした時にアイツの影を思い出して、そこにすがって、子供みたいに頭を抱えて悩み出す。

 

 ――みっともなくて、嗤えてくる。これが、大人の姿かよ。

 

「大人の男を誘うなら、女の色香を学んでから出直してこい」

 

 自然と顔がニヤけている事を自覚しながら、俺は嫌味な言葉をカヨコへ向けた。

 そうだ、俺はコレでいい。卑怯で、卑屈で、臆病で。

 強がってるだけの……本当に、みっともない。

 

「…………」

 

 カヨコの視線が急激に冷え込んだ。切れ目がさらに細く、薄くなり、攻撃的な気配を漂わせる色に変わる。

 

「セクハラだよ、それ」

「ハハハハ!俺を誘うってことは、“そういう事”だぜカヨコ!俺がオッサンだって忘れたとは言わせねぇよ!」

「……はぁ、本当、最悪……」

「あんまり酷いと出禁にするぜ、ジェガン。はいよ!ラーメンお待ち!!」

 

 まるで示し合わせたかのようなタイミングで、シバがカヨコの下へラーメンを運んできた。苦笑を浮かべて俺を見るシバに対し、静かに視線を送る。

 今度一杯奢らせてくれ。アンタにはいつも世話になりっぱなしだな。なんて、そんな事を思いながら。

 

「アレ〜?カヨコっち、フラれちゃったの〜?」

 

 いつの間にかテーブル席からこちらへちょっかいを出しに来ていたムツキがカヨコの背に飛びついた。

 ラーメンに手をつける直前だったカヨコは、珍しく表情をムッとさせながら箸を持ち直す。

 

「うるさい」

「ジェガンさんも、カヨコっちのお誘い断るなんて、罪な人だなぁ〜♪」

「ガキの相手してられる程、俺は暇じゃ無いんでね」

「……アビドスに弟子がいるみたいだけど?」

「いや……アレは俺も迷惑してるんですよ……押しかけ弟子といいますか……」

「ジェガンさん、案外押しに弱いよねぇ……」

 

 いや本当に……、シロコに関して計算外というか。アレは突き放してもついてくるし、ついて来る様が危なっかしくて見ていられないと言うか……。

 

「はぁぁぁ……。早く今の仕事、終わらねぇかなぁ……」

「私達に協力してくれるならー、サクッと終わるかもよ♪」

「ソレはなしだ」

「あらら、私もフラれちゃったー。カヨコっちとおんなじだねっ!」

「もう……ラーメン食べるから静かにして……」

 

 いつの間にか重苦しかったはずの空気は軽くなっており、カヨコも俺へと向けていた視線を手元のラーメンへと向けていた。俺も、ニヤついていた筈の口元の力がいつの間にか抜けている。

 

 結局、いつもこうやって……俺は誰かに助けてもらってばかりで。一人じゃなんにもできないままで。

 

 

 

 自分のどこが“大人”なのか、わからなくなってしまいそうだった。





 カヨコさん!?なんか凄い事になってませんかカヨコさん!?

 ってなりながら書いてました。
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