あゝ、忌まわしき青春の記憶よ〜ダメ男なガノタのブルアカ転生〜   作:社会の歯車

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第十六話 大人の都合

 

「悪い事は言わない。ここらで今の仕事は降りとけ」

 

 テーブル席でラーメンを食べていたアルの正面に移動した俺は、とりあえずそう言い放った。

 

「なっ……どういう意味よ!」

「そのままの意味だよロクハチ。金は手に入ったんだろう?なら、そのまま手を引け」

「ソレを知ってるって事はぁ……やっぱり、ジェガンさんはあの銀行強盗の件は知ってたんだ?」

「奴らがお前達に会ったって話は、奴らとの合流後に聞いた部分だがな」

 

 この場合の“奴ら”とは、当然シロコのことだ。半ば押し付けるようなカタチで、奪い去った一億クレジットを便利屋たちに受け渡して“処分”したと自慢げに語っていたバカ弟子の頭を引っ叩いた事は記憶に新しい。

 

「私達が依頼をこなすのはお金の為……も、あるけど!ソレだけが全てじゃないわ!」

「実績と信用の話か?お前、今話してる相手が誰だか忘れた訳じゃないだろ」

「売れない探偵事務所のオーナーさん!」

「ひっぱたくぞメスガキ」

「こわーい!暴力は良くないと思いまーす!ね、ハルカちゃん?」

「え?ええ……っと、……ジェガンさんでも、皆さんを傷つけるなら容赦は……」

「それで爆破されるのは逆恨みもいいとこだろ」

 

 相変わらず場を引っ掻き回すムツキに思わず眉間のシワを揉む。そこそこ大事な話をしているつもりなんだがなぁ……。

 

「すべての依頼を華麗にこなす、大いに結構な目標だ」

「そうよ!私たちが目指すのは誰もが畏れ、泣く子も黙るアウトロー……」

「なら、依頼者の思惑通りに操られるってのも話が違うだろ」

 

 いつもの様にアウトロー語りを始めようとしたアルの言葉を遮って、俺はコップの水を飲み込んだ。

 

「お前達の契約相手はカイザーグループだ。違うか?」

「な、何故それを……!」

「大人の“カン”だ」

 

 ……なんだろう。俺の背中にカウンター席から冷たい視線が向けられている気がする。いや、まあ、カンでもなんでもなく、現場状況的にこの中でアビドスにちょっかいをわざわざかける勢力が一つしか思い浮かばないというだけの話なのだが。

 

「いいことを教えてやるよロクハチ」

「……何かしら」

 

 とりあえず、今は目の前のアルの説得が先だった。

 

「カイザーグループ、個人事業者への金払いはカスだぞ」

「……へ?」

「アイツら、よしんば仕事が終わってもなんだかんだと屁理屈こねて報酬金下げるからな。舐めてんだよ、俺達みたいなヤツのこと」

「う、嘘でしょ……?でも、だってちゃんと仕事の契約をしたのよ……?」

「それ、ちゃんと書面で残したか?」

「………………」

 

 アルの表情が固まり、目を泳がせながらアレやコレやと言い訳を始める。やれプライバシーの為に顔は見てないだの、仕事さえこなせれば問題はないはずだの、身元を隠した取引がアウトローだの。

 

「要は残してないんだな?」

「…………はぃ」

「じゃあ最悪仕事の取引自体消されて終わりだな」

「な……なんですってぇ!?」

 

 白目を剥いて衝撃に打ちひしがれるアルの姿はいつ見ても芸術的だと感心するところだが……。まあこういう素直な所はコイツの美徳だよなぁ……。

 

「お前が一人前のアウトローを目指すって言うんなら、お前達のことを舐め腐ってるクライアントに媚びへつらう必要は無いんじゃないか?」

「うっ……、それは、そうかも知れないけれど……」

「大体、相手がアビドス……つまり、“小鳥遊ホシノ”である事を伝えもしなかったクライアントには悪意がある。ハナっから騙す気満々だったってことに噛みつけねぇのは、ソレはそれでダサいだろ」

「“小鳥遊ホシノ”……?誰それ」

 

 ムツキが小首を傾げて俺を見る。……まあ普通調べんわな、ただの弱小高校の襲撃時に相手の情報なんて。

 

「俺達傭兵の間で悪名高い“ブラックリスト”の一人だ。下手に手出ししたらこっちが潰される」

「うっそだぁ、そんなのがあんな小さい高校にいる訳ないじゃん、ジェガンさんもいたずら好き……」

 

 俺の言葉にケラケラと笑っていたムツキは、ちらりとカヨコの方へ視線を向け、その後何も言わずに水を飲む俺の表情を再度見た。

 

「……マジ?」

「俺なら尻尾巻いて逃げるね。命あっての物種だ」

「……妙に強いなーと思ってたら、そういうことだったんだぁ」

 

 いつも笑顔を浮かべているムツキの表情に苦いものが混じる。

 “ブラックリスト”の話は、以前俺から話したことがある内容だ。その詳細までは話さなかったが、暗黙の了解で記された“手を出すべきではない特記戦力”。その名だたる面々の一角が、まさか相手方にいるとは思っていなかったのだろう。

 

「で。どうする、ロクハチ。続けるのか、辞めるのか」

「そ、それは……」

 

 俺の言葉に両手を組んで頭を悩ませるアル。まあ、実際の所“仕事を投げ出す”と言うのが“陸八魔アル”の掲げるアウトローの理想像に反する動きだというのは理解している。

 だが、あくどい大人の食い物にされる子どもの姿と言うのは、見るに忍びない。それが“カイザー”によるものだと言うなら、尚更だ。

 

「…………少し、考えさせて頂戴」

「おう、此処から先は自分で決めろ。俺は知らん」

「出た、ジェガンさんの無責任主義だ」

「無責任も何も、俺にお前達の責任を取る義理は無いだろうが」

「此処まで口を出しておいて、それは幾らなんでも無理筋なんじゃなーい?」

 

 何かを感じているのか、妙にニヤついた顔で俺を見ているムツキからは何かを言いたげな雰囲気を感じる。まあ、確かに。俺の物言いが所謂お節介に類するものであり、有り体に言えば“お節介”とは面倒見のいい人の行為だ。

 

 だが。

 

「バカが。お前たちが降りれば俺の仕事が減るだろ。そしてお前達は損から遠ざかる。一石二鳥で都合がいいだけだ」

「はいはい、そーだねー」

「それに、何度も言ってるだろ」

 

 馬耳東風と言わんばかりに俺の言葉を聞き流すムツキに対し、両手を組んでふんぞり返る。

 

「俺はただ自分の意見を好き勝手に垂れ流してるだけだ。俺の言葉に影響されて変わるなら、それはそいつが決めたこと。それは俺には関係ない」

「うわ出た」

「い、いつも思いますけど……すごい理論ですよね……」

「この物言いだけは最悪なのよね、この人」

「喚くなガキ共。立派な大人が傭兵稼業なんてしてると思うなよ」

「それは偉ぶる所じゃねぇよ、ジェガン」

 

 最後に聞こえたシバの言葉は、聞かなかったことにした。

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