あゝ、忌まわしき青春の記憶よ〜ダメ男なガノタのブルアカ転生〜   作:社会の歯車

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第二話 アナハイムのジェガン

 

「よぉ。ジェガン、随分うかない顔じゃぁないですか。なんか面倒ごとでもあったのかよ」

 

 俺が一人、酒場のテーブル席で酒を静かに傾けていると、旧式のアンドロイドが一機、気さくな調子で肩に手を回してきた。

 

「何の用だ、GMⅢ(ジムスリー)

「なんだも何も、珍しい顔見かけたから酒の肴にしようってだけの話だよ。そうカッカすんなって」

 

 彼の名前は“GMⅢ(ジムスリー)”。正式名称は異なるのだが……、俺が過去に揶揄したその名を気に入ったらしく、今もこうして名前として使っている。

 俺とこいつの関係性を一言で言い表すのであれば、元同僚の、仕事仲間だ。

 

 当然といった様子で俺の向かいの席に腰を下ろしたGMⅢは、そのまま片手に持ったジョッキを傾ける。

 

「今日は一体何の用でこんなところに来てんだ?」

「気分じゃない」

「そりゃそーだろ。お前が酒を飲むのは、決まって一緒に飲み込みたいことがある時だけだ」

「……」

「違うか?」

 

 無駄に長い付き合いだ。黙っていても、こちらの思うところは筒抜けらしい。

 こいつに酒の肴をタダでやるというのは些か不服ではあるが――。

 

「シャーレだよ」

「しゃーれ?なんでまた実験器具で悩んでんだ」

「違う。連邦絡みだ」

「連邦?」

 

 

 

 ――今日の朝。俺が仕事に出かけ、D.U.外郭部での仕事を行っていた時の話だ。

 

 

 

 目の前で繰り広げられる光景と、依頼主から聞いた情報の合致が、忘れていた俺の記憶を掘り起こした。

 

 四人の生徒たちが、無数の不良生徒と、装甲車を相手に大立ち回りを披露し。その後方では一人の大人が構える。

 その構図、それはまさしく、俺の知っていた“ブルーアーカイブ”の展開そのものだった。

 

 さて、だからと言って――俺はどうすることも、何もできない。

 

 正直、二十年前の記憶。それも、転生以降一度たりともプレイはおろか作品の要素にすら触れていない――いや、まあ。世界観は同じだったが。――コンテンツの話など、正確に覚えていろというのがどだい無理な話なのだ。ガンダムはふとした時に思い出すので忘れなかったが。

 大枠ですらあやふやな展開筋に、もしも俺という不確定要素が干渉し、原作の流れが歪んでしまえばどうなるか。想像もつかない話となる。確かに思い出したのは――この世界は、“ろくでもない”ということだ。

 

 具体的な経緯はなに一つだって覚えちゃいないが、一歩間違えれば世界が終ってしまうだとか、そんな綱渡りをしているような作品だった……はずだ。

 

 となれば、俺はすぐさまその場を退散するべきだろう。かかわらなければ、大きく流れが歪むことはない。そういうものと相場が決まっている。

 だから俺は、様子を眺めてはいたものの、手を出すつもりはない。……はずだった。

 

「――あれは、セミナーの制服……?」

 

 ふと、先生を守る四人の生徒のうちの一人の姿が目に付いた。その少女は、俺の見覚えのある、黒いスーツ調の制服を身にまとっている。

 それは、ミレニアム・サイエンススクールの生徒会に当たる組織、“セミナー”の制服のはずだ。

 

 

 

 ――頭のなかで。少女が、俺の“名前”を呼んだ。

 

 

 

 俺の腕が、意思をくみ取り動き出していた。

 

 セミナーの少女を後方から狙う、狙撃を構えるヘルメット団に、少女は気づいていなかった。

 

 サブウェポンのスナイパーライフルを即座に展開し、狙撃体制を作る。クイックエイムを、照準補正システムがサポートし、俺の構えは一秒足らずで完了する。

 

 そこまでして、ようやく俺は俺自身がが今何をしているか、理解が及んだ。が、指の動きは――止まらない。

 

 狙撃、発砲音。正確無比な、“対戦車ライフル”の一撃が、ヘルメット団の頭蓋へと突き刺さった。

 

「誰ッ⁉」

 

 俺の“名前”を呼んだ少女の声とは違う、警戒心がむき出しの声が聞こえたことで、俺は自らの選択ミスを恨むのだった。

 強いて文句を言うならば――義手が敏感すぎたんだ。

 


 

「自分は、アナハイムPMCのジェガンと申します。突然の戦闘介入、謝罪申し上げます」

 

 不良生徒率いる装甲車を撃破した一行は、シャーレのビルへと入っていく“先生”を見送り、その戻りを待っていた。

 私も彼女たちと共に“先生”の帰還を待ち――向けられる視線はむず痒かったが――、まずは謝罪と弁明をする事とした。

 

「ううん。全然大丈夫。奇襲を受ける前に撃破してくれた訳だし」

 

 そう言って、“彼女”は私に右手を差し出した。

 

「支援、感謝します。ジェガンさん」

「……」

 

 “先生”と呼ばれているのは、目の前の女性だった。もとより、ブルーアーカイブ原作中で“先生”の性別が明かされることは無かった為、女性とて問題は無いのだが……些か面を食らったのは事実だ。

 ……差し出された右手は、おそらく握手を求めてのものだろう。だが、俺はそれには応えられない。

 

「失敬。私の右手は機械化された義手でありますので、握手は遠慮させていただきます。誤作動で握りつぶしてしまうような事故は避けたい」

「義手……?アンドロイドが義手、ですか?」

「いえ、私は――」

 

 ゲヘナの校章をつけた、クリーム色の髪を持つメガネの少女が怪訝そうにこちらを見て、そこでようやく一つの事実に思い至った。

 

「……大変失礼しました。“仮面”をつけたままと言うのは、礼節に欠いておりますね」

「仮面、ですか?」

 

 俺の戦闘用フルフェイスヘルメットは、右目の義眼と頚椎の接続ユニットを通してリンクしており、その視界は言ってしまえば超高性能VRモニターのようなものになっている。視界に映るインジケーターも、最早景色の一部となってしまっている俺にとって、その光景は素顔でいるのとそう変わらない感覚になってしまうのだ。

 しかし、この“仮面”をつけての挨拶は――、バナージ・リンクスにだって叱られてしまうだろう。だからといって全裸になるつもりはないのだが。

 

 右顎の下あたりにあるセンサーに触れ、メットのロックを解除してから、覆いかぶさるマスクを右手で掴んで持ち上げる。

 

「お、男の人……!?」

 

 アンドロイドとほぼ相違ない、黒い一枚のモニターのようなバイザーの下から現れた、俺の顔を見て先生がその表情を驚愕に染めた。

 

「キヴォトスでは珍しいでしょうな」

「う、うん……。ここに来てから、貴方のような人は見なかったし」

「まあ、そういう土地柄なのです」

 

 ――単に、神秘も持たない普通の人間は、男だろうと女だろうと生き残れない。そして、神秘を保持する生徒は全て女子。だから、結果として男が殆どいないというだけの話なのだが。

 なら俺がなぜ生きてるか?と言われれば……。悪運が、強かっただけだ。

 

「じゃあ、せめて左手で……」

「そちらも義手です」

「えっ」

「でなければ、“対戦車ライフル(あんなもの)”は、生身の人でおいそれと仕えるものではありませんよ」

「……その」

「お気になさらず。これもまあ、私の仕事の都合ですので」

 

 どうしたものか、と頭をひねる“先生”に、私は思わず苦笑を零す。

 懐かしさすら覚える純粋さと、善性だ。少なくとも、今の俺には持ち得ない。生徒という存在を導くに足る器の一端が垣間見える。

 とは言え、このまま頭を悩ませ続けられ、わけもわからぬ提案をされても困る。そう考えた俺は、左腿部に備えられた収容部を展開し、そこにから射出された紙片を一枚、左手で掴み取った。

 

「こちら、私の名刺になります。何か御用があれば今後ともご贔屓に――」

 

 お為ごかしなセリフを言いつつ、アナハイムの名刺を連邦の先生に渡す。ずいぶん阿漕な話だと内心自嘲しながらも両手でそれを差し出そうとした時。

 

「……か」

「か?」

 

 彼女の俺――厳密には、俺の義手義足――をみる目が、ひときわ輝いた。

 

「――かっこいい……!」

 

 は?

 

「コホン。えー、本日の支援、独立連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの責任者である私から正式に謝礼申し上げます」

「は、はぁ」

 

 こちらへ向ける視線が、まるで“新しいおもちゃを見つけた子供達”のように輝いたはずの“先生”は、打って変わって大人然とした言葉遣いで俺の名刺を受け取り。

 

「是非、今後とも、よろしく、お願いします」

 

 明らかに、何か別の思惑が込められた視線で、俺を見上げていた。

 

 ――やらかしたか?

 

 少なくとも、ろくでもない話になりそうな予感がした。

 

 

 

 

 

「……アナ、ハイム?」

 

 

 

 

 そんな大人のやりとりの影で、セミナーの少女は、怪訝そうに呟いた。





 書きながら連邦生徒会を“連邦”って略すたびに笑ってました。
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