あゝ、忌まわしき青春の記憶よ〜ダメ男なガノタのブルアカ転生〜 作:社会の歯車
「それで!
「羨ましいとも思わんくせに、よくも言う」
「そりゃ言うぜ!この新学期に春が来たのは四十を超えたおっさんと来たもんだ!それも、テメェみたいな青春ロス拗らせたロリコン野郎に、オトナの女とはな!」
「テメェ……、ブチ転がされてぇか」
「おいおい止せよ、これでも俺は、親しい友に新たな出会いがあったことを祝福してんだぜ?」
酒がずいぶん回っているのか、上機嫌でゲラゲラ笑うGMⅢは、席をわざわざ引きずって俺の肩に手を回す。
「いい加減、お前も前に進めるだろ」
「………………テメェ」
「湿気てんだよ。お前は。いつまでも昔の女を引きずってんの、ダサいぜ」
この酔っぱらいが何を言っているのか。わからぬ程のバカではない。……いや、わかっているんだ。自分でも。
どれだけ虚勢を張ろうとも、大人になったつもりでも。俺は何も――。
「…………チッ」
「オイ」
「帰る」
支払いの手間ぐらいはコイツに払わせようと、俺は自らの代金をテーブルへと叩き残して席を立つ。
忘れるどころか、掘り起こされた記憶に苛立ちを隠せないまま、俺は酒場を後にした。
「……ガキかよ、俺は」
情けない。まるで、癇癪を起こして拗ねてる赤子だ。みっともないと、自分の幼さが嫌になる。
時間ばかりが経過して、俺は何も変わっちゃいない。
いや。生き汚さと、セコい知識と経験が、俺の質の悪さを加速させているという意味では、悪化していく一方だ。
「クソ……。最悪だ」
自分の機嫌も、自分で取れない。
本当に。本当に――、泣きそうになる。
「…………」
苛立ちと、自己嫌悪と、波立つ自分の脆い心に憎悪を向けて。けれど、震えること無く正確に動く機械の四肢を操って、俺は自宅へ帰り着く。
ヘルムだけを外して、着替えるでもなく、そのままベランダへと出て、俺は上着の内ポケットからタバコとライターを取り出した。
咥えて、火を付け、煙を吸って、吐き出した。
空へと散って消えていく、タバコの煙に目を向けて、俺は努めて思考をとめる。
仕事をしている方が、今より余程、楽だった。
だからだろうか、ふと、仕事で使う携帯端末を取り出して、ここ数日の仕事の予定を確認しようと目を向けた。
「……ん?」
自分の事に気を取られ、どうやら新着メールに気付かなかったらしい。
ちょうど、仕事に逃げたいと思っていた俺にとっては渡りに船だ。そう考えて、差出人のアドレスに目を通す。
「……連邦?」
特徴的なドメインは、差出人が連邦生徒会に連なる組織に属している事を示していた。だが、俺は個人の
何か妙だと思いながら、メールのウィルススキャンだけ済ませて、その内容に目を通す。
「………………」
文面に目を通し。どうしてと、頭を抱えずにいた自分を褒めてやろう。そうでもしないと気が狂いそうだった。
何せ、今回の依頼主は――。
「――なんでシャーレの依頼がウチに来るんだ」
名刺を渡したあの瞬間が、俺の脳裏に蘇る。……自業自得だった。
「来てくれてありがとう!ジェガンさん!」
「……まあ、依頼でしたので」
翌朝、依頼の通りにシャーレへと訪れた俺を出迎えたのは、皺くちゃなシャツと、よれたネクタイに、ボサボサの頭の“先生”だった。
小柄とも、大柄とも取れない背丈で、幼いと言うほどでもない筈の彼女の姿が、やけに幼く見えてしまった。
「失礼ですが、もう少々身なりに気を配るべきでは?教師たるもの、生徒の模範たる姿を見せるべきと思いますが」
「あははは……。それはわかってるんだけど。さすがに昨日の今日で疲れちゃったから、そのまま寝て起きて……。その、“大人”同士ならいいかなぁ。と」
「成る程」
舐められているのか。信頼されているのか。微妙な塩梅だった。
「とにかく、後は実際見てもらってからで……。一日、お願いします」
“先生”の許可の元、俺が通されたシャーレの一室には、凄まじい量の段ボールが積まれていた。
一言許可を取って中身を覗いてみれば、凄まじい量の書類や資料、それらのまとめられたバインダー等々……。
「どうにかパソコンの準備は出来たんだけど……さすがにこれは一人でやるのは無理かなーって」
「引っ越し業者でも手配すれば良かったのでは無いですか?連邦のコネなら安全な業者も容易に見つけられるでしょう」
「いやぁ……。その……ね?名刺にも“何でもやります”って書いてあったし……。顔を知ってると、頼みやすいと言いますか……」
「………………」
視線をこちらに合わせようとせず、かわりに自分の人差し指同士を合わせて離しを繰り返す大人に、俺は大きくため息をついた。
ちなみに、戦闘でない依頼であったため、ヘルムは今日は被っていない。蒸れるんだよな、アレ。
とりあえず。昨日の今日で風呂すら入らずそのまま寝付いたと、自慢にもならないことを豪語していたダメな大人を風呂へと追いやってから、俺は荷物の片付けを始めた。
独立した直後はこんな些細な仕事も山程していたなぁ。等と、現実逃避に思考を割いて仕事を黙々と進めていると――。
「先生ー?……いらっしゃいますかー?…………言われた通り。勝手に入ってきちゃったけど……。セキュリティとか大丈夫なの、コレ……?」
突然開いた自動ドアの向こうから、一人の少女の声が聞こえてきた。
「先生なら今は――」
かがんで荷解きをしていた俺は、探し人の行方を答えてやろうと膝を伸ばして入り口へと振り返り――。
「「あ」」
見覚えのあるその少女と視線が合った。
「アナタは……アナハイムの」
「……君は、昨日の」
ミレニアム、セミナーの制服を着たその青い髪の少女を見て、俺は少し言葉が詰まる。
こんな年にもなって、些細なことで動揺している自分を、どこかで自分が嗤っていた。
「先生に用か?なら、あの人は今席を外している」
「そうなんですね。ありがとうございます。……所で。あなたはここで何を……?たしか、
「アナハイムの事業は市民密着型でね。引っ越しの荷解きから浮気調査、迷子の猫探しまで幅広いのさ」
「そんな売れない探偵事務所みたいな」
苦笑を浮かべてこちらを見ている少女に対し、肩をすくめておどけてみせる。
「仕事を選べる様な、立派な大人じゃ無いんでね」
誤魔化しばかりが上手くなったと。そう感じた。
「……大変そうなんですね」
「まあ、学がないとこうなるのさ。君はこんな大人になるんじゃないぞ」
「ご忠告、痛み入ります。……仕事、手伝いましょうか?」
「君が?」
「ええ。どのみち先生が戻るまで手持ち無沙汰ですし……、ただ待っているというのも……」
「そうか。……助かるよ」
そう言って、少女は荷物を避けて俺のそばへと近寄ると、隣の荷物へ手を付けた。
そうしてしばらく、互いに言葉を交わすでもなく黙々と作業を進めていたが、不意に少女が口を開いた。
「あの」
「ん?」
「……自己紹介、してませんでしたよね」
「あぁ。そういえばそうか」
騒動の際、一方的に先生の前で名乗っていた手前、自己紹介をしていないという感覚が薄かったが、言われてみれば俺は彼女の名前を知らないままだった。
「早瀬ユウカです。……ジェガンさん、でしたよね」
“ユウカ”という名前を聞いて、俺の身体が一瞬強張る。……なんで、今更ついて回るのかと、そんな事を思わずにはいられなかった。
「ああ。改めて名乗る必要は無いみたいだな」
「特徴的な名前ですよね。ジェガンさんって」
「客に覚えてもらうなら、語呂はいいに越したことはないからな」
全くガンダム様々だ。素人が考えるより余程いい。
「……その。ジェガンさん」
「どうかしたのか?」
「一つ、気になってることがありまして」
「ん?」
早瀬は、少し遠慮がちにこちらの様子を窺っていた。一体、彼女が何を気になっているのか、皆目見当もつかないが、俺はそのまま次の言葉を待つことにした。
「アナハイムって……、昔、ウチの学校となにか仕事をしたりとか、しました?」
「…………どうしてそう思う?」
「え?いえ……、その。お体の義手とか、ウチでも人気がありそうと言うか。あまり外で見かけない完成度と言うか……。その、気の所為だったらいいんですけど」
確かに、早瀬の通っているであろう学校、“ミレニアム・サイエンススクール”において、俺の義手義足は専門分野の一角足りうる。早瀬の推理も、あながち的外れと言うわけではなかった。
だが。
「生憎。アナハイムはPMCとは銘打っちゃいるが、従業員は事務も実務も含めて俺一人の個人経営だ。ミレニアムみたいな大口顧客の仕事なんて受けられないさ」
「そう……、ですか」
「ああ、そうだろう」
実際。今のミレニアムがアナハイムへと何かを依頼すると言うのなら、もっと安価で確実な交渉先には事欠かないだろう。
たった一人の売れない探偵事務所もどきに仕事を頼むには、今のミレニアムは大きすぎるのだ。
「すみません、何か変な事を聞いちゃって」
「かまわんさ。個人だからこそ、何かと気楽に出来ることもある。例えば――」
そうして何か例でも上げてやろうかと思った瞬間、再び部屋の扉が開いた。
「おまたせ。ジェガンさん、ここから私も――って、アレ?ユウカ?」
頭からホカホカと湯気を立たせつつ、少しはマシな身なりになった、シャツ姿の大人が顔を出す。
「先生!……お風呂、上がりなんですか?」
不意に現れた目的の人物に、早瀬の注意は俺から離れ、“先生”へと向けられた。
「いやぁ……、昨日あの後寝落ちちゃって……」
「全く……。そんな調子じゃあ――」
アレヤコレやと小言を始めた早瀬に対し、先生である筈の彼女は肩身を小さくする他無い様で。
なんだかその光景は、俺を懐かしい気分にするのだった。
先生の見た目は皆様のイメージした好みの容姿でお楽しみください。
草臥れたおっさんと美女の組み合わせ……、いいよな……。