あゝ、忌まわしき青春の記憶よ〜ダメ男なガノタのブルアカ転生〜 作:社会の歯車
第四話 師匠と弟子
「ジェガンさ〜ん……」
「何でしょう」
「その……、もうすこし……ゆっくり……」
「いえ、これでもペースはかなり遅めです。日が暮れる前の到着を目指すのであればこれでもギリギリでしょう」
「うぅ……、あ、足が……」
うめき声を上げる先生に俺は大きく溜息をついて、進めていた歩みをとめる。
「だから言ったでしょう。無謀だと」
俺と先生は現在、砂漠化により荒廃した、市街地のような場所を歩いていた。
場所はアビドス自治区。目的地はアビドス高校。なんでも、シャーレに直訴の届けが来ていたらしく。困っている生徒を助ける第一歩として、まずは実際現場を見ようというのが先生の考えだった。
しかし、土地勘もなく、他に頼れる知人もいない状況で見知らぬ場所を目指す事に一抹の不安を覚えた彼女は、とある名案を思いついた。
「いやぁ。本当に助かるよ。ジェガンさんがいなかったら生き倒れてたかもしれない」
「この辺りは砂漠化が進行し続けている影響で、まともに使える地図などありませんからね。キヴォトス人でも、ここに足を運ぶのは物好き位のものですよ」
彼女が飲み干し、空になった水袋を受け取って、俺はそれを背負ったリュックへ仕舞い込んだ。
先生の出した案と言うのは。アナハイム……要するに、俺へ案内役の依頼を出すというものだった。
依頼が届いた時には当然頭を抱えたし、理由をつけて断ることも考えたが、少なくとも“主人公”である筈の“先生”が何らかの理由で命を落とせばこの世界は……、具体的には覚えちゃいないが、まともなオチにならない筈だ。
そもそも、まともに戦闘力もない大人が一人でウロウロとして、無事でいられるほどキヴォトスの地は甘くなく。そんな描写があったかまでは覚えちゃいないが、護衛の一人や二人彼女に付いていたとして、何も不自然なことは無い。
そして何より――、連邦は金払いがいい。
世界の危機も大事なことだが、個人の主観という意味じゃ、明日の飯の種だって、鬼気迫る問題なのだ。不安定な賞金首狩りをするよりは余っ程魅力的な提案なのは、疑いようもない事実なのだから。
「ジェガンさんは大丈夫?私、そろそろ足が棒になってきたんだよね……」
「まあ、義足ですし」
「それはそうなんだけど」
俺が掘り起こしたベンチに座り、休憩をしている先生のそばで、俺はヘルムの索敵情報に目を走らせる。
さすがに狙撃されるような状況ではないし、ここで襲ってくるような輩がいるとも思えないが。護衛の仕事はしている以上、油断はしないのが俺の仕事に対するスタンスだった。
「ジェガンさん、暑くないの?」
「相応には。しかし、訓練していますので」
「何でも屋って過酷なんだね……」
「……アナハイムは一応、
「あ、そっか」
そっか。じゃねーよ。と文句の一つも言いたくなるが、さすがに雇い主にそんな悪態をつける度胸も立場も俺にあるはずもない。それに、“何でも屋”という表現も、まあ、あながち間違いでもないのだから仕方ない。
「ジェガンさんも少し休憩したら?」
「……よろしいので?」
「休憩のない仕事で、パフォーマンスが保てる人は居ないよ」
目の前の大人らしくない大人から飛び出した的を射た理屈に、俺はヘルムの下で目を丸くした。教師の仕事をしている姿は今のところ一度たりとも見ていなかったが――、そう言えばこの女は確かに“先生”だった。
「……では、お言葉に甘えて一つ」
外套の内ポケットに手を入れて、ライターとタバコの包みを取り出した。
「煙は苦手ですか?」
「私はあまり。でも、ここなら服に臭いがつくとも思えないから」
「ご配慮痛み入ります。……やはり、子供の前で漂わせるのは好ましくありませんか」
「私はね。……そっちこそ、配慮ありがとうございます」
「マナーですよ」
許可も貰えたことだしと、俺はせめての配慮で先生へと背中を向けて、ヘルムのロックを解除する。さすがに、タバコを吸うなら仕方がない。
タバコを咥えて火をつけようとした瞬間、何やら道路を走る、軽い車両の音がした。
つられて不意に顔を上げると――、その操縦者と目が合った。
「ん?」
「ん、師匠。珍しいね」
「……師匠はヤメロと言っただろ」
自転車を漕ぐ、アビドス高校の制服に身を包んだ少女。砂狼シロコは、自転車を停めて、俺の方へと手を振った。
「シロコとジェガンさんは知り合いなんだ」
「ん。そう、言うなれば、師匠と弟子の関係性」
「お前が勝手に言ってるだけだがな」
シロコと合流した俺たちは、目的地も同じということで、共にアビドス高校への道を進んでいた。
道中で自己紹介を済ませた俺達は、先生を中心に挟むようにして道を進んでいる。
「師匠はこんなふうに言うけど、私は色んな事を師匠から教わった。だから、弟子でいいはず」
「へぇ……。もしかして、ジェガンさん、家庭教師の仕事とかもやってるの?」
「違……い、ます。私が彼女へ直接的な指導をしたという事実はありませんので」
「今、“仕事モード”外れかけてた」
「黙れ、公私は分けるのが俺のポリシーなんだよ」
シロコと先生への会話を交互に行うと、どうしても口調が安定しない。が、かと言って
「“師”と仰ぐなら、この“先生”にしろ。この人は俺と違って立派な教“師”だ」
「ん。それは“生徒”と“先生”の話だと思う」
「どういう意味?」
「“先生”は生徒に丁寧にモノを教えてくれる人だと思う。それに習うのが生徒」
シロコの言葉に先生は腕を組んで「成る程」と首を縦に振る。おい、今生徒と先生の立場逆転してんぞ。
「“師匠”は“弟子”に教えない」
「……それじゃただの赤の他人じゃねぇか」
「違うよ。“弟子”は“師匠”の見せてくれた“技”を見て盗むモノ。そして、師匠は私にいろいろな“技”を見せてくれた」
「そりゃ同じ仕事に入ったからな」
「私はそれを真似た」
「その方が仕事が効率よくなるからな」
「これは師匠のおかげ」
「……ん?」
「ほら、師匠は師匠だよ」
「……テメェが勝手に仰いでるだけという事実は変わってねェだろ!!」
「ん。師匠は素直じゃないからね。大丈夫、私は分かってる」
「分かってねェからキレてんだよ!」
「あはははは!」
「笑って……!な、いで、くださいません事ォ!?」
俺たちの会話を聞いて、堪えきれなくなった様子の先生が大声をあげて笑い始めた。おかげで更に妙な話し方になり。それを聞いた先生は更に腹を抱えてその場に屈み込んだ。
「や、ヤバい……!お嬢様……!お嬢様部だった……!」
「これはっ……!そのっ!」
「師匠はこういう時こう言う。“草”」
「シロコォォ!!!!」
真顔でとんでもない事を言い出したシロコに俺は大声を出すが、彼女は涼しい顔をしたまま俺を見上げる。
そしてそのまま、サムズアップを見せつけてきた。
「師匠の言葉。ちゃんと伝わってるよ」
「そんなもん捨てちまえ!!!!」
そうしてしばらく、先生の笑いが落ち着くまでの間俺達はその場で立ち往生する羽目となり――、笑いすぎて腰を抜かした先生を、シロコが背負う事となった。