あゝ、忌まわしき青春の記憶よ〜ダメ男なガノタのブルアカ転生〜   作:社会の歯車

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第七話 看板娘

 

 アビドス高校に合流して数日。ひとまずの安全を確保する為に、襲撃をかけてきていた近辺のヘルメット団の拠点を制圧する事を最優先目標として掲げた先生達は、鮮やかな手際でそれらの目標をコンプリートした。

 ちなみに。俺は何も手を出しちゃいない。護衛の仕事は受けてはいるが、何も先生の私兵になった訳じゃない。

 シロコから依頼される事も無かったのだから、俺が手を出す理由はそこには一つもなかった。指揮を執る先生の横で、ショットガン片手に周辺を警戒していただけだ。

 その仕事ぶりを見れば、教師というよりは指揮官サマという素振りを見せていた先生だったが……。まあ、キヴォトスならそのぐらいで丁度いいのか。

 

 そうしてようやく一息をついた先生達は、アビドス高校にて、現在彼女達が抱える具体的な問題についての会議に入ったのだが――。

 

「へい、柴関ラーメン一丁!」

「ん。あんがとさん」

 

 ――俺は今、ラーメン屋にいた。

 

 目の前に出されたラーメンの麺とスープを軽くかき混ぜてから、レンゲに掬ったスープを啜る。

 

「うん、成る程。こだわってるな」

「だろう?老若男女に自慢できるのがウチのラーメンだからな」

 

 カウンターを挟んで向かいに立つイヌの獣人……、この店の店主である柴が作ったラーメンを啜りながら、俺は小さく頷いた。

 

 え?会議はどうしたって?

 

 俺には関係の無い話な上、アビドス高校に残るというのなら、シロコと交わした契約が履行中だ。護衛の任務も問題は無い。何かあれば、すぐさまシロコから一報がとんでくる手筈になっているし、連絡にはすぐに反応できる用意を常にしている。

 

 そう言うわけで、今はこうして腹ごしらえをしているという訳だ。

 

「俺がもう十か二十若ければ、毎日通っていたところだな」

「そいつは残念だ。ま、お互いもう若くはねぇからなぁ」

「懐かしいな。“狂犬のシバ”の旗はもう掲げないのか?」

「止せよ。それに、今の俺には“柴関”っつー立派な旗があるもんだ。ソイツを守るので手一杯よ」

 

 ハッハッハ、と昔話に花を咲かせる俺と店主は、十年来の知り合いだったりする。

 アビドス自治区がここまで砂漠に飲まれるよりも前の頃。そして、俺にまだ地面を踏みしめるための両足があった頃の話だ。

 

「しかし、なんでまたここに来たんだ?お前の仕事があるような場所でも無さそうなもんだが」

「アビドス高校に用事のある酔狂な輩の護衛だよ」

「アビドス高校に?……ってぇと……セリカちゃんにも会ったのか」

「セリカ?」

「おう。ウチで働いてくれてる、看板娘よ!元気ないい子でな、あの子目当てにウチに来る客だって居るんだぜ?」

「ほー。そりゃまた健気なことで」

 

 正直、名前と顔が合致しない。もとより人の名前と顔を覚えるのが得意ではない質だし、アビドス高校の面子に深入りするつもりのない俺にとって、あの五人がどこで何をしていようと興味が無かった。

 

「今日もシフトに入ってくれてるからな、そろそろ――」

 

 店主の言葉に耳を傾けながら、俺がお冷を傾けていると、店舗の扉がガラガラと音を立てて開いた。

 

「おはようございまーす」

「おお、待ってたぜ、セリカちゃん」

「はい、今日もよろしく――って!」

 

 店主共々入り口の方に視線を向けると、その来訪者と視線が合った。

 

「アンタなんでここにいるの!?」

「おう、見りゃわかるだろ。飯だ飯」

 

 成る程。この黒猫娘がセリカと言うのか。

 

 

 


 

 

 

 俺の座るカウンターに、ドカッと音を立てながら、麦茶がなみなみ注がれたコップが差し出された。

 

「食べ終わったならさっさと帰ってくんない?」

「ま、腹の調子が落ち着いたらな」

「大将!!!!食べ終わっても居座るつもりの迷惑客です!!!!」

「ハッハッハ。悪いがソイツは俺の旧友なんだ、今回ばかりは大目に見てくれよ」

「大将!?」

 

 むきー!と毛並みを逆立てて此方を威嚇するセリカを横目に、置いた拍子にこぼれた麦茶を布巾で拭いてから、俺はコップを手に取った。

 

「なるほど確かに看板娘だな」

「何がよ!!」

「だろ?」

「大将も納得しないで!!」

 

 キャンキャンと吠える姿は小型犬を想起させる。黒猫娘なのに、印象は小型犬というのも妙な話だが。

 長く伸ばしたツインテールは、彼女の賑やかな動きに合わせて上下左右に跳ねるように変化する。

 声と様子も相まって、非常に可愛らしい物だと言えるだろう。まあ、本人からしたらたまったものではないのだろうが。

 

「あー、もう!最悪……!なんでこんな事に〜〜!!」

 

 感情豊かに呻く彼女に、店内から「がんばれ~」という応援の声がかけられた。やはり、常連客からも好感を持たれているらしい。

 

 うんうんと唸っているセリカだが、あれでどうして仕事に対しては真剣で、どれだけ俺に不機嫌を露わにしていようとも、新たな客が来たならすぐさま笑顔で出迎えるのだ。

 

「あっ!いらっしゃいま――」

 

 丁度こんなふう……に?

 

「セリカちゃん、こーんなところでアルバイトしてたんだねぇ」

「わぁ〜、美味しそうな匂いがしますね♡」

「ん、師匠」

「み、皆さん、ほかのお客さんも居ますから……」

 

 新たな来客は五人組のグループ客だった。それも、俺たちのよく知る顔ぶれの、な。

 

「み、みんな!?何でここに!?」

「おじさん、セリカちゃんの事が心配でさぁ〜?……つけてきちゃった」

 

 たはー、と笑いながら言う小鳥遊ホシノに、セリカは顔を真っ赤にして固まった。知人に自分のアルバイト姿を見せるというのは、やはり恥ずかしいものなのだ。

 

「先回りしてるなんて……さすが師匠」

「偶然だ阿呆。何でもかんでもそういう風に繋げるもんじゃない」

「ん。冗談」

 

 どうにも表情の変化の薄いシロコの言葉に、俺は思わず肩を落とした。こいつのジョークは本当にわかりにくいのだ。本気でバカな事を言うことも有るだけ余計にたちが悪い。

 

「ええっと……。せっかくだから、みんなここでご飯にしよっか」

 

 入口でたむろし続けるのも良くないと判断したのか、生徒達の後に控えていた先生が、彼女達へ店の中に入るように促した。

 

「そら看板娘、五名様のご来店だ。あちらのテーブル席へ案内して差し上げろ」

「何でアンタが指図してんのよ!!」

「ハッハッハ」

「大将……!頼むからこの人なんとかしてよぉ!!」

 

 災難な事だと思いつつ、俺は口に運んだコップを傾けた。




平和だ……(なおセリカの心境は考慮しないものとする)
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