オデュッセウスの物語   作:キルケーは魔女

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ギリシアの英雄

オデュッセウスという男は、およそ英雄らしからぬ男であった。

アキレウスのように戦場に於ける武勇もなければ、アガメムノンのような王者の威風もない。

彼はただ、イタカという豊かな小島を継承した「領主」であり、何よりもギリシア一の策士と名高い弁舌と計算の立つ理知的で思慮深い男であった。

しかし自ら撒いた平穏の種が、自らを戦地へ縛り付ける枷になるとはさしものオデュッセウスも想像の埒外であったに違いない。

 

思慮深いからといって人間,万事事が上手くいくはずもないのである。

 

 

彼の栄光と苦難の物語の旅路を彩るトロイア戦争。

神々による神々の為の人災が幕を開けた。

 

終焉までに10年もの長き月日を要したトロイア戦争の引き金は、実に傲慢にして後先を顧みぬ神々の都合から始まっていた。

 

 

 

というのもこの騒動の原因

 

 

 

それは「最も美しい女神に」と刻まれた黄金の林檎を巡る三人の女神達の諍いにおいて愛の女神アフロディーテの提案に端を発する。

 

仲裁を頼まれた人間であるパリスは、対価として「絶世の美女として名高いヘレネ」を約束したアフロディーテを勝者に選んだのである。

 

当然,絶世の美女ヘレネは問答無用でトロイアの王子パリスに連れ去られたのである。

 

 

しかし,そこに一つの誓いがあった。

かつて彼女が結婚する前、ギリシャ中の有力な王や英雄たちは彼女に求婚していた。

しかし選ばれる男は一人。

当然、選ばれなかった者たちが暴動を起こす可能性があった。

 

そこで、当時求婚者の一人であったオデュッセウスは、後の混乱を防ぐためにある提案をしたのである。

 

「誰が選ばれても、その結婚を全員で祝福し、もし夫から彼女を奪う者が現れたら、全員で協力して取り戻す」

この誓いを全員に立てさせたのである。

これにより、無事にメネラオスが夫として選ばれ、ギリシアの平和は護られた,かに見えた。

 

しかしパリスが人妻ヘレネを誘拐したのである。

人妻を攫うなど,当然ながら許されざる行いである。

メネラオスは激怒した。必ず、かの厚顔無恥の愚物を除かなければならぬと決意した。

メネラオスには神々の都合がわからぬ。

メネラオスは、スパルタの王である。

政を取り仕切り、スパルタを良く治め,ゼウスの娘,ヘレネを迎えて暮して来た。

けれども名誉に対しては、人一倍に敏感であった。

メネラオスはスパルタから各地に使者を出し、野を越え山越え、海を渡り,ギリシア各地へ参戦を要求していった。

その使者は再三に渡りイカタの市にまでやって来た。

 

 

彼がトロイア戦争に駆り出された経緯はかくの如き理由であった。

当時、彼は妻を愛し,生まれたばかりの息子を慈しむ、ごく当たり前の男であった。

当時,オデュッセウスは「一度出征すれば帰還まで20年かかる」という予言を知らされていた。

その為に使者が来た際に「狂ったふり」をして徴兵を逃れ幾度も使者を追い返したが,その態度にスパルタ王メネラオスは痺れを切らした。

そしてオデュッセウスの元に稀代の天才パラメデスを使者とする使いがやって来る。

オデュッセウスは狂人を装っていたが、パラメデスが赤ん坊を耕作中の鋤の前に放り出すと、あえなく父親の顔に戻ってしまった。

このとき、彼の「平穏な領主生活」という構想は、歴史の激流によって木っ端微塵に砕かれたのである。

 

 

メネラオスの兄にしてトロイア戦争におけるギリシア軍総大将であるミュケナイ王アガメムノンの招集により、ギリシアのすべての王国、島々から黒い船が集まり、トロイアの城市を征服し、美姫ヘレネを取り戻すために出航していった。

 

 

かくしてオデュッセウスを始め,数多の英傑の参戦し, 「ギリシア」において歴史に刻まれた大戦争。

 

トロイア戦争の幕が開けたのであった。

 

 

そして10年の時を経て,

 

後の歴史にはこう刻まれることとなる。

 

トロイア戦役,不落の堅都トロイア,木馬の計にて陥落す。

 

 

 

 

こうして史に名を残すこととなるオデュッセウスだが,彼は不朽の栄光と共にその傲慢さをも掴み取っていた。

 

トロイア戦争の終結後、ギリシア軍のアイアスがアテナの神殿で不敬な行為をしたにもかかわらず、オデュッセウスが彼を止めなかったこと、また戦後の傲慢さにアテナは激憤した。

 

というのも木馬という知略そのものが知恵の神アテナの助けを得たものであったが、その成功に溺れ,「神への敬意」と「神への謝意」を忘れた残虐な振る舞いと傲慢さが、神の逆鱗に触れたのである。

 

 

 

オデュッセウスが、船団の本隊から自分の十二隻の船を分離させると、その瞬間を待っていたかのように、南東の風が吹いてきて、彼らはトラキアの岸辺へと運ばれていった。流れついた海岸の近くには、丘と海のあいだに造られたイスマルスの城市があった。

 

ところで、トラキアは戦争が続いているあいだ、トロイアの同盟国であった。

 

そしてオデュッセウスの配下の者たちは、トラキアとは,依然として戦っているような気でいた。

 

 

 

 

 

 

 若く、滾る戦意を抑えもしていなかったオデュッセウス。

 

 この時の思い出をオデュッセウスが振り返ったなら、きっとそれは苦難に満ち、ひどく荒々しく、血に塗れ、けれども確かに輝いていたと回顧するだろう。

 

 

 ギリシア神話に名高き英雄の生涯、その生涯において春は過ぎ去りその鮮烈な夏が訪れようとしていた。




英雄オデュッセウスの直剣

美しい銀色の装飾が施された長剣。
狡智の知将、寡兵にて堅都を陥す。
かくして人の子、伝説とならん。
比類なき知恵 比類なき栄誉 詩人は謳う。
彼こそは、並び立つ者なき名将。
神々よ,ご照覧あれ
数知れぬ戦いと勝利,我,伝説とならん。
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