転生したスワンプマンは過去の栄光に思いを馳せるか?   作:紫 和春

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第11話 授業

 ホームルームが終わり、1限が始まるまで数分ほど時間ができる。田口先生が教室を出ると、女子生徒たちが一斉に長屋のことを取り囲んだ。

 

「記憶がないって本当!?」

「どこに住んでるの?」

「チャットアンド交換しよーよ」

 

 あらゆる方向からほぼ同時に質問が飛んできて、長屋は混乱気味になる。

 

(こ、これが美少女転校生が初日に男子たちから質問攻めされるヤツの男女逆転バージョン……!)

 

 特に同年代の女子への耐性がほとんどない長屋にとってみれば、まさに紅一点の状態。いやこの場合は黒一点と言うべきか。

 長屋が質問に答える間もなく、1限目の授業担当教員が来てしまったので、強制的にお開きとなった。一応彼女たちの根は真面目なのだ。

 1限は数学である。長屋は16歳で、このクラスは2年生なので、今は三角関数について学習しているところだ。このあたりは21世紀と変わりない。むしろ変わっている方が大問題だ。

 そして長屋にとってみれば、学習した記憶がうっすらとある。なので割と余裕であると言えるだろう。

 現在の問題は、黒須がすぐ隣にいることだ。長屋が教科書を持っていなかったため、机を合わせて一緒に見ている。

 そして長屋はちょっとだけ追い込まれていた。

 

(こんな……、女子がすぐ隣にいる状況に耐えられない……!)

 

 教科書に集中しようとしても、どうしても黒須のことをチラチラと見てしまう。

 こうして近くで見ると、黒須の顔立ちがよく分かる。長いまつげ、クリッとした瞳、頬はほんのり紅く、唇もプルンとしている。そしてサラリとした髪。それらが美しいと思える場所に配置されており、まさに整っていると言えるだろう。

 そんな長屋の視線に気がついたのか、黒須と目がバッチリ合う。長屋は反射的に視線を背ける。バクバクと心臓が鼓動し、嫌われたかもしれないという強迫観念と自己嫌悪でメンタルが落ち込んだ。

 

(俺は何をやっているんだ……。女子と関わろうなんて1000年早い……。いや、もう21世紀から1500年も経っているが……)

 

 そんなことを思っていると、また肩が叩かれる。振り向いてみると、黒須が顔を近づけて、小声で話しかけてきた。

 

「あの……、何か変なことしちゃいました……?」

 

 どうやら、長屋がチラチラ見ていたのを気にしているようだ。

 長屋はあわてて弁明する。

 

「ち、違います。その……かわいいなって思って見ていただけで……」

 

 本音を伝える長屋。

 それを聞いて、黒須は目を見開き、頬を赤らめる。

 

「そんな……私、かわいいですか……?」

 

 両手を頬に当て、照れている黒須がそのように聞く。

 

「そうですね……。一般的に可愛い部類に入るだと思います……」

「え、えへへ……」

 

 それを聞いた黒須はにへらと笑う。その表情に、長屋の心がまた跳ねた。

 すると、黒須が何か思いついたようにスマホを取り出した。

 

「こういうご縁とかもあるので、チャットアンドの交換でもどうですか……?」

 

 チャットアンドは、36世紀において覇権的なシェアを誇るチャットアプリである。

 

「いいですけど、どうやって使うんですか……?」

「じゃあ私が入れてあげます。スマホ貸してください」

 

 長屋は素直にスマホを渡す。黒須は手早くアプリをインストールさせ、アカウント作成まで済ませる。

 その上で、黒須はアドレスを交換し、フレンドになった。

 

「はい、これで大丈夫です」

「ありがとうございます……」

 

 黒須がスマホを差し出し、長屋はそれを受け取った。

 その様子を見て、黒須はニコッと笑った。

 

「二人だけの秘密、ですね」

 

 どストレートな言葉に、長屋は思わず顔を窓の方へと向けた。

 

(な、なんだこの子……! こんな優しい子が俺に優しくしてくれるなんて……!)

 

 あまりに女子への耐性がないため、長屋は混乱状態になっている。それが好意によるものとも知らずに。

 そんなこんなで長屋は、なんとか1限の数学を切り抜けた。

 そして案の定、休み時間中に女子生徒たちに絡まれる。

 

「ねぇねぇねぇ、さっき黒須さんと何話してたの?」

「なんか仲良くしてたよね~?」

「黒須さんとどういう関係?」

 

 完全なダル絡みであるが、こういう状況でも長屋は拒否することは出来ず、どのような返事をすればいいのか悩みに悩んでいた。

 

「え、えーと……」

 

 助け舟を出してもらおうと黒須の方を見るが、机に突っ伏してしまっている。完全に無関係の赤の他人を装っているようだ。

 助けが期待できない以上、ここは自力で打破するしかない。

 

(冷や汗が出る……。でもこれは俺の困難だ。俺が一人で突破するしかないんだ……!)

 

 覚悟を決めて口を開いた。その時である。

 

「ちょっと! 長屋さんが困っているでしょう! それにもうすぐ授業が始まります! 席に戻ってください!」

 

 女子生徒たちの後ろから、お怒りの言葉が飛んでくる。

 

「委員長の小言来ちゃった」

「仕方ないなー。戻ろー」

「じゃ、長屋また次の休み時間ねー」

 

 そういって女子生徒たちは自分の席に戻っていく。最後に残ったのは、委員長と言われた藍色の長髪で眼鏡をかけた女子生徒であった。

 

「全く、男子が転校してきたからって、皆テンション上がっちゃうなんて……」

 

 そういって委員長は長屋の目の前に立つ。

 

「長屋さんも、他の女子に勘違いされるような言動は謹んでください」

「あ、はい……」

 

 ちょうどその時、2限の始まるチャイムが鳴る。

 

「では、失礼します」

 

 委員長はそのまま自分の席に戻る。

 

(漫画の中でしか見ないような、マジの委員長像だ……)

 

 そんなことをぼんやりと思う長屋と、それを不思議そうに見ながら机をくっつけてくる黒須であった。

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