転生したスワンプマンは過去の栄光に思いを馳せるか?   作:紫 和春

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第13話 案内

 昼食を特別委員会室で食べた長屋は、男子会の3人と別れて教室に戻る。

 教室に戻ると、長屋のことに気がついた女子生徒たちがキャアキャアとざわめき出す。

 

(女子にモテる男子って、こういう気分なんだなぁ……)

 

 黄色い声が響く中、そんなことを考える長屋。正直複雑な気分になる。

 

(自分の実力で自分を変えた訳じゃなく、環境の変化で黄色い声援が起きている。悪い気分じゃないけど、なんか彼女たちにやらせている感が否めないなぁ……)

 

 どこか居心地の悪さを感じる長屋。一つため息を吐きながら、自分の席についた。

 弁当を片付けていると、スマホに通知が来たことを知らせるバイブレーションがする。長屋はスマホを取り出して通知を確認する。チャットアンドにメッセージが飛んできていた。

 

『呼び出し大丈夫でした?』

 

 黒須からのメッセージである。

 隣を見てみると、黒須は顔を前に向け、視線だけこちらをチラチラ見ていた。まだ長屋と直接話すのが恥ずかしいのだろう。

 長屋はチャットアンドで返事をする。

 

『大丈夫です。男子会の呼び出しでした』

 

 ひどく単調な返信だが、今の長屋ではこれが限界であった。

 隣を見てみると、黒須がさらに返信をするべくメッセージを書いていた。すぐにメッセージが飛んでくる。

 

『それならよかったです』

 

 その直後に、サムズアップしたイノシシのスタンプが送られてきた。

 黒須を見ると、満足したのかニコニコしながらスマホをしまった。彼女なりに心配してくれたのだろう。

 

(なんだか、温かい気分になるな……)

 

 長屋は少しだけ嬉しい気分になるのだった。

 昼休みが終わり、5限、6限を受ける。こうして一日が終わり、帰りのホームルームになる。

 

「……では今日のホームルームを終わりにします。気をつけて帰ってください」

 

 田口先生がタブレットを持って、教壇から離れる。教室から出るとき、思い出したように長屋と黒須の方を見る。

 

「じゃあ黒須さん、長屋君の校内案内をよろしくね」

「はっ、はい」

 

 田口先生が教室を去り、生徒たちは帰宅したり、部活に向かう。

 長屋もバッグを持って席を立つ。

 

「それじゃあ黒須さん、案内お願いします」

「はっ、はい」

 

 そう言って黒須と共に教室を出る。

 ここまで長屋は平穏を装っているが、内心はかなり緊張していた。

 

(うぉあああ! 同年代の女子と二人きりになるなんて……! いや俺から声をかけたから当然のことなんだけど、ナチュラルに女子のこと誘っちゃってどうすんだこれ!)

 

 もはや引くに引けない状態に自ら追い込んでしまった長屋。悔やんでも悔やみきれないとはこのことだろう。

 心の中で葛藤していると、黒須が足を止める。

 

「こっ、ここが音楽室で、その隣が美術室で……」

 

 たどたどしく教室を紹介する黒須。どうも心ここにあらずといった感じだ。

 どうやら、焦っているのは長屋だけではないらしい。 長屋は少しだけ緊張がほぐれたような気がした。

 

(しかし、俺だけ緊張がほぐれても仕方がないな……。黒須さんの緊張もほぐさなければ……)

 

 そんな考えが長屋の中でフツフツと沸き上がる。

 

(うーん、どうしたものかなぁ……)

 

 黒須の説明を流し聞きしながら、長屋と黒須は2階から1階へと降りていく。

 その踊り場に差し掛かったときだった。清掃の後だったのか、踊り場が微妙に濡れていた。長屋はそれに気が付いて慎重に歩いていたが、黒須がそれに気づかずに下の階段へと降りようとする。

 その時悲劇が発生した。平時でも滑りやすい材質で出来ている床が濡れているのだ。変に重心を動かせば、あっという間に足元が滑る。そしてその状況を黒須が作ってしまった。

 足を滑らせ、真っすぐ階段の下へと吸い込まれていく。

 

「危ないッ!」

 

 長屋は反射的に手を伸ばし、黒須が肩にかけていたバッグを掴む。

 その瞬間、長屋も少しだけ床の上を滑るが、上手く重心を後方に動かして踏ん張る。

 

「ぐっ……!」

 

 二人の重心が踊り場の方に動いたのを感じた長屋は、そのまま一本釣りをするように黒須のバッグを引き込んだ。

 そして二人して踊り場の方へと倒れこむ。長屋は背中に床のひんやりした冷たさを感じる。

 

「いっててて……、黒須さん、大丈……」

 

 長屋が黒須の安否を確認しようと、体を起き上がらせようとした。

 だが、そうはならなかった。長屋の目の前に黒須の顔があったからだ。どうやら、倒れこんだ時に黒須が長屋に覆いかぶさるようになったらしい。そのため、二人の顔は文字通り目と鼻の先にあった。

 その状況を飲み込むのに、双方数秒ほど時間を要する。そしてお互い顔が真っ赤になった。

 

「ご、ごめんっ!」

 

 長屋はそのままズザザザと後ずさりする。

 

「い、いやワザとじゃないんですこれは不可抗力というか、黒須さんの身の安全を優先した結果こうなってしまっただけで、何も卑しい気持ちがあるとかではないんですがその……」

 

 ここまで一呼吸で一気に捲し立てる長屋。しかし一方の黒須は、顔を右手で隠しているばかりで、長屋のことを見ていなかった。

 

「く、黒須さん……?」

「ご、ごめんなさい、長屋君……」

 

 そういって黒須は、顔を隠していた右手をどかし、長屋のことを見る。その顔は、ものすごく赤くなっていた。

 

「助けてもらったのに、なんだか胸がドキドキしている私がいるんです……。緊張でも、恐怖でもない……、私の知らない感情……」

(な、なんだこれ? 何か変なスイッチでも入ったか……?)

 

 黒須の言葉に、長屋は何が起きているのか考える。だが、考える必要もなく、一つの仮説が頭をよぎっていた。

 

(もしかすると、これは……)

 

 長屋の思考そっちのけで、黒須は言葉を続ける。

 

「その……、長屋君……。ううん、陽介君……」

 

 黒須は少しずつ、長屋のほうへと近づいていく。

 

「私……、陽介君のこと……、好きになっちゃったみたい……」

 

 突然の告白が発生し、それを祝福するかのように夕陽が踊り場に差し込んだ。

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