転生したスワンプマンは過去の栄光に思いを馳せるか?   作:紫 和春

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第24話 誘惑

「先生もああ言ってたしさ、幽霊部員でもいいから文芸部に入っちゃいなよ」

 

 悪魔のささやきのように誘惑する高崎。長屋もその通りにしないと、後々田口先生からの仕打ちを受けるかもしれないと考える。

 

「内申点とか減らされると困るじゃん? まあ、うちは高校卒業したら就職しちゃうけどねー」

「高卒で就職する……んですか?」

「あ、タメ口でいいよー。うち1年だし」

「えっ!?」

 

 長屋と黒須は驚く。その言動や雰囲気は、まるで3年生のようなものだったからだ。

 

「うちら同じ部員っしょ? そもそも敬語で話すような仲じゃないじゃん」

「そ、そうかもしれないけど……」

「じゃ、そういうことだから、以後よろしくねヨウ君」

「ヨ、ヨウ君?」

「そ、陽介のヨウ君」

 

 しょっぱなから人との距離の詰め方がえぐい高崎。長屋の隣で、黒須が猫の威嚇のようにシャーっと鋭い視線を送っている。

 

(ギャルってこんな急接近してくるものなのか? いや、陽キャ属性であることを考えればその通りなのかもしれんが……)

 

 とにかく、高崎の言う通りではあるのは確かだ。それに、このまま帰宅してもすることはない。ゲームも、漫画も、テレビもないのだから当然である。ならばここで小説を読んでいたほうが有意義だろう。そう考えた長屋は、ソファの後ろにある本棚に接近する。

 

「ここにある本は自由に読んでいい……んだよね?」

「そだよー」

 

 長屋は一応、高崎に確認を取る。そんな高崎は、ソファでダラダラしながら小説を読んでいた。

 長屋は視線を本棚に戻し、背表紙の題名をざっと見る。その中で、SFと思われる本を発見する。手に取って裏表紙を見た。簡単なあらすじが書いてある。

 

(これは面白そうだ……)

 

 あらすじを読んで内容を把握した長屋。隣では一緒にくっついてきた黒髪が本棚を見上げていた。

 

「何か読む?」

「うーん……私、小説ってそんなに読んだことないから……。いつも漫画だし」

「そっか。小説は小説で面白いところもあるし、読んでほしいところではあるけど、強制はできないから」

 

 そう言って長屋は、取り出した本を手にして、学生用の椅子に座る。黒髪はその隣にあった椅子に座った。

 

「ヨウ君、ソファじゃなくていいの?」

「いや、ソファは高崎さんが占領してるでしょ……」

「えー? ぜんぜん退くしー」

 

 高崎は座る位置を変えて、端に寄る。そして高崎は、すぐ隣の場所をトントンと叩く。

 

「ほら、並んで座ろ?」

 

 その様子を見て、黒須はついに我慢の限界に達した。

 

「高崎さん! 陽介君には私という彼女がいるんですよ!? なんで誘惑するんですか!?」

 

 長屋は、初めて黒髪が声を荒げる場面に遭遇し、割と驚いた。

 そんな黒須の疑問に、高崎は笑顔で答える。

 

「うちさー、そんなに頭よくないからさー。この学校に入ったのは男子と仲良くなって彼女にしてもらうためなんだよねー。それで妊娠でもすれば、給付金がいっぱい入ってくるし。もし男の子を妊娠すれば、さらにお金が入ってくるっしょ? そうすれば少なくとも子供が成人するまでは安泰だからさ。うちにはそれしかできないんだよね」

 

 自虐と冷笑が混ざったような、ひねくれた考えを吐露した高崎。あまりにも正直な考えに、長屋と黒須は言葉が出てこなかった。

 

「ねぇ、ヨウ君。うち、二番目でもいいの。だからさ、彼女にしてくれない?」

 

 高崎は本を置き、ソファから立ち上がる。そして一歩、また一歩と長屋の方へと近づく。

 それに危機感を感じた黒須が、こちらも立ち上がって長屋の前に立ち塞がる。

 

「高崎さん! あなた最初からそれが目的だったの!?」

「うーん、そーだね。そうなるのかも。やっぱ良くなかったよね」

 

 高崎は接近するのを止め、その場で顔を俯かせる。

 

「うち、本を読むことしか出来ないからさ……。普通の人生ってのが分からないんだよねー……」

 

 高崎の顔から、キラリと光るものが一滴二滴と落ちる。涙だ。

 

「昔で言う泥棒猫って役なんだろうなって……、うちは普通の生活が出来ないんだろうなって……、心のどこかで思ってた……」

 

 ポタポタと滴る涙は、あふれる一方である。

 

「ごめん……、ごめんなさい……。うち、酷いことしちゃった……」

 

 手で涙をぬぐう高崎。そしてそのまま部室の扉へと歩き出す。

 

「うち、今日はもう帰るね。部実の鍵はここにあるから、帰る時に鍵閉めて田口先生に返してね」

 

 そういって高崎は部室を出ていった。立ち塞がっていた黒須は呆然と立ち尽くしていた。

 その一方で長屋は高崎の後を追いかけようとしたが、自分は彼女の何者でもないのではと思ってしまった。

 

(今の俺は、高崎さんのなんなんだろうか? 知り合い以上友達未満、といったところか。追いかける義理も道理もない、のはないんだが……。果たしてそれでいいのだろうか……)

 

 そんなことをグルグルと考えていると、黒須がこちらを向いて長屋のことを抱きしめた。

 

「陽介君、陽介君は心配しなくていいよ。私が守ってあげる……」

「お、おう……」

 

 ちょっと湿った感覚を感じたが、長屋は何も感じなかったことにした。

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