転生したスワンプマンは過去の栄光に思いを馳せるか?   作:紫 和春

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第26話 卒アル

 卒アルを取り出してきた黒須は、テーブルにそれを広げる。

 

「なんか、恥ずかしいなぁ……」

「まぁ、そのむず痒い感じは分かるよ」

 

 中学の時の卒アルは、当然のごとく女子生徒しかいない。教師陣も女性ばかり。かろうじて体育教師だけ男性という状況だ。

 

「えーと、私が載ってるページは……、ここだね」

 

 少子化の影響なのか、個人に割り振られている記事の大きさは、一人でページの半分を占めている。その黒須の割り振りには、今よりも根暗で目に光がないような、まさに日陰者の黒須茜の姿があった。

 そのほか、栃木県への修学旅行の写真、学校行事の集合写真、日常を切り取った写真など、ごく普通の卒アルと言えるだろう。

 

「今の茜とも、ちょっと違う感じがするね」

「そうかな……。自分ではあんまり変わってるようには感じないけど」

「他人からの評価ってそういうものだからね」

 

 差し障りのない、表面をなぞった会話が続く。

 その中で、長屋は核心に迫るチャンスを伺う。

 

(詰めるとしたら……今しかない……!)

 

 長尾は意を決して口を開く。

 

「ねぇ、茜」

「なに? 陽介君」

「茜ってさ……」

 

 そこまで口にしたときに、長屋は一瞬言葉に詰まる。

 

(家庭環境を聞くと言っても、そんなダイレクトに聞いていいものだろうか?)

 

 ためらいが長屋のことを襲う。しかし、ここまで口に出してしまったのだ。もう後戻りはできない。ここからは出たまかせでもいいから、口を動かすしかない。

 

「……お母さんと仲いいの?」

「なんで?」

「なんというかさ、この間会ったときにさ、ちょっと突っ張るように見えたからさ、よくある親のすれ違いとかあるのかなぁ、と思って……」

 

 出まかせにしてはパンチが弱い。それでも最善は尽くしたと思われる。

 

「うーん、そんなことはないと思うけど……」

 

 黒須が答える。

 

「あー、でも、お母さんから彼氏作るのはよくないって言われたことがあるなー」

「よくない……?」

「なんかね、お母さんも高校生の時に彼氏いたらしいの。それで卒業したら結婚するんだって約束してたそうなんだけど、実際にはその彼氏は大学生だった年上の人と結婚して逃げちゃったみたいで。高校卒業の時に身ごもっていたのが私。それ以来、お母さんは男性のことをちょっとだけ汚らわしい目で見るようになった、ってよく聞かされてたんだ」

 

 黒須の説明を聞く限り、彼女の母親は男性嫌悪の傾向があり、彼女もそれに引きずられているようだ。

 

(親がフェミニズムに片足突っ込んでいるのは、確かに厄介だよな……)

 

 長屋がそんなことを考えていると、黒須はさらに言葉を続ける。

 

「でも私はお母さんと同じ間違いはしないよ。だって陽介君がいるから」

 

 その言葉に、長屋は何か恐怖に似た感情を覚える。今、目の前にいる黒須から発せられるどす黒い感情が、ひしひしと長屋のことを襲う。

 

「……茜、それはどういう意味だ?」

 

 長屋は声が震えそうになりながら、平常心を装って聞く。

 

「陽介君は私だけを見てくれればいいの。そうすれば、私はお母さんとは違う道を進むことができる。陽介君は、私のことが好きなんでしょ?」

 

 それは独占欲という欲求なのだろう。母親が繰り返し言い聞かせた過去の失敗を、娘である彼女は独占という方法によって解決しようとしている。長屋は思わず背筋が冷えるような思いをする。

 

「茜……それは人道的にどうなんだ?」

「どうって……問題ないんじゃない? だって好きな人とは結ばれるってよく言うでしょ?」

「確かにそうかもしれないけど……それは俺の意思や考えを無視してるんじゃないのか?」

「違うよ。陽介君は私の考えを理解してくれてるし、私も陽介君のことを分かってる。それはもう相思相愛で、一蓮托生の関係って言ってもおかしくないよ」

 

 歪んでいる。

 長屋の感想はそれに尽きる。親の趣味趣向や思想は子供に伝播すると言われているが、逆にここまで反発している親子も珍しい。そして今は、黒須のこの考えを柔和させることが必要だと長屋は考える。

 

(しかし、どうやってこの思想を柔和させるべきか……)

 

 長屋は考えるものの、こういった陰謀論の類いは否定すればするほど本人の思想は過激になっていく。つまり、ここで取るべき行動は……。

 

「茜、俺は茜のことを心配しているんだ」

「えっ……?」

「茜は今、お母さんの考えに縛られている。お母さんが言っていたよくないことの反対を行えば、すべて丸く収まると考えているかもしれない」

「……」

「でもそれじゃダメなんだ。君は反対するだけでは、お母さんの二の舞になる可能性がある」

「……そんなの、やってみないと分からないじゃん」

「そう、やってみないと分からない。なら俺と茜、二人でちょうどいいバランスを探すことが重要だと俺は思うんだ」

 

 長屋は己の考えを黒須に提示する。

 

(これでダメなら、次の手を行使するしかない……)

 

 長屋が祈っていると、黒須の目から大粒の涙が流れ出す。

 

「陽介君……私、間違ってたの……?」

「間違いは誰しもがすることだよ。大事なのは、間違っていることに気付けることと、正しい道に修正できることだ」

「陽介君……!」

 

 そういって黒須はグズグズと泣き始めた。

 

(俺の考えが通じてくれたようだ……)

 

 長屋はひとまず安堵するのだった。

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